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第四十一話 リベリオンからの返答

窓の外は、すっかり暗くなっていた。


藍色に沈んだ空には、わずかに星が瞬き始めている。



「七番領地は何を考えているんでしょうか…」



俺は、目の前に座るリオデルカに問いかける。



「…」



「…リオさん?」



しかしリオデルカは、どこかうわの空で、手に持つカップの中をじっと見つめていた。


揺れる液面に映る光が、彼の瞳をかすかに揺らしている。



「ん?あ、いや…すまん!なにかな?」



「あ、いや、七番領地の目的はなにかな…と…」



「あぁ…まぁ色々考えられるが、今はデンス達が情報を纏めてくるのを待つしかなかろう。」



そう言うと、リオデルカは再び視線を落とす。


どこか遠くを見ているような、そんな気配を漂わせながら。



「あの…リオさん…?」



「ん?なんだ?」



「その…イリスさんは…どんな方なんですか?」



俺は知っていた。


さきほど玉座の間に入った時――


イリスの姿を見た瞬間、リオデルカの目がわずかに見開かれたことを。


普段、何事にも動じない彼が、確かに動揺を見せたことを。



「……」



しばしの沈黙の後、リオデルカは静かに語り始めた。



「あやつはな…ワシが貧民街の視察に行った際に見つけたのだ。」



(貧民街…)



「見つけた時は、痩せ細り、死にかけておってな…それでも必死に立とうとしておった」



「……」



「まぁなんだろうか…何かを感じたのかもしれんが、ワシは放っておけなんだ。」



「飯を食わせてな、貧民街の教会に預けた。」



「それ以降…まぁ当然だが、会うことはなかった」



リオデルカは一度、言葉を区切る。


その横顔には、わずかな懐かしさが滲んでいた。



「だがな、ワシの退位が決まり…それが公になる前に行われた剣術の御前試合に、あやつが現れた。」



「心底驚いたわ。ほんの子供の頃にしか会っておらんからな…」



「だが、見違えるほど立派な女性になっておった。腕前もな。」



「御前試合で優勝したあやつは、ワシに満面の笑みでこう言った。」



「『あなたに…あなたに仕えるためにここまで来ました』、とな。」



その時の光景を思い出したのか、リオデルカの目がわずかに細まる。



「その笑顔は、今でも覚えている。」



「だが…ワシは退位する身だった。」



「そのことを伝えた時、あやつは…心の底から悲しんでおったよ。」



「……それで、退位されるときに、騎士に推薦を?」



「あぁ…彼女の努力に報いてやりたったんだろうな…」



「本来のあやつは…あんな血の気のない顔をするようなやつではなかった。」



「ワシが退位してから三年…何があったのかは分からん。この島に来てから変わったのかもしれんしな…」



コンコンッ


まるで、その話の終わりを見計らったかのように、扉が叩かれる。



(デンス達が終わったのか…)



俺はそう思い、



「どうぞ」



と声をかけた。



「失礼します」



だが、入ってきたのはシェリーだった。



「シェリーさん?」



「陛下…そしてリオデルカ様に、お客様がお越しです。」



「客?こんな時間に?」



「はい。」



そう言うと、シェリーは扉を大きく開いた。



「あなたは…!?」



俺とリオデルカは、同時に目を見開いた。






ーー翌日。


炉の中で赤く熾る炎が唸りを上げ、打ち据えられる鉄の音が重く響き渡る。


煤に覆われた壁には無数の武具が並び、熱気と金属の匂いが空気を満たしていた。


屈強な鍛冶師が汗を滴らせながら槌を振るい、その一打ごとに火花が星のように散る。



「それで…できそうか?」



俺は、鍛冶師の一人に問いかける。



「ええ。素材に触れた瞬間、タクティカルグレードを含む新しいレシピが思い浮かびました。」



初期鍛冶師の恩恵――素材に触れるだけで、その用途が理解できるらしい。



「なるほど。この素材は本物だったか。」



「はい。ちなみに、作れるのは重装備関連になりますね。」



鍛冶師は、紙に装備名を書き連ねていく。



「重装備…」



俺は少し考え、



「わかった。まずはカイの装備を新調してくれ」



「承知しました。」



その返事を聞き、俺は鍛冶屋の外へ出た。


外では、舗装された道を人々が行き交い、あちこちで笑い声が聞こえている。



(この街も、活気が出てきたな)



五カ月前ーー


笑っている者など、ほとんどいなかった。


だが今は違う。



(さて、あとは…)



俺は、この後に控える使者との会談に思いを馳せた。


夕陽の名残が街の石畳を淡く照らし、行き交う人々の影が長く伸びている。


露店から漂う香ばしい匂いと笑い声が混ざり合い、街は穏やかな活気に包まれていた。






玉座の間は静まり返っていた。


誰もが、俺の言葉を待っている。


俺は玉座に座り、その左右にはリオデルカとデンス。


両端にはカイやジェイクらインペリアルガード。


そして正面にはーー


イリスと、アンソニーと名乗る男。



「同盟を受ける」



その言葉は、静寂の中に重く響いた。



「…ありがとうございます。」



イリスは表情を崩さず頭を下げる。

アンソニーもそれに続いた。



「ただし……」



「?」



二人が顔を上げる。



「受ける前にアサヒナさんに直接会いたい。」



「!?」



目を見開く二人。



「会談をセッティングしてくれ。」



「……」



イリスはわずかに動揺を見せたが、すぐに思考に沈む。



「では…」



しばらくして、静かに口を開く。



「互いの領地の境界線に会談場所を設ける、というのはいかがでしょうか?」



「いや…」



俺はその提案を否定した。



「その必要はない。」



「?」



ミスラが訝しげにこちらを見る。



「俺たちが、七番領地に行く。」



ーー!!


使者二人の表情が一変する。


明らかな動揺。


昼下がりの陽光が高窓から差し込み、赤い絨毯の上に長い光の帯を落としている。


静まり返った空気の中、その光だけがゆっくりと揺れ、張り詰めた緊張を際立たせていた。


誰も――その提案を予想してはいなかった。


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