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第四十話 七番領地からの使者

執務室の椅子に腰を下ろした俺の視線の先――応接室には、四つの人影があった。


差し込む陽光はまだ高く、昼下がりの柔らかな明るさが室内を満たしている。



「さて、喫緊の課題である、食料だが……」



俺の言葉に、リオデルカと、その向かいに座るデンスが応じる。



「はい。来月には初期食料分が底をつきます。


 すぐにではありませんが、徐々に自給率が消費を下回っていくでしょう」



静かだが、重い現実だった。



「二層の七番、八番領地に動きはないの?」



デンスの隣で、ミスラが問いを投げる。


「はい。


 もともと仕掛けてきたのは七番領地ですが……


 ここ一カ月、まるで何か策を巡らせているかのように、動きが止まっています」



言葉が途切れ、執務室に沈黙が落ちた。


窓の外では、どこか遠くで兵たちの訓練の声が微かに響いている。



「情報が少ないまま、攻略目標を決める必要がある……か……」



リオデルカが低く呟く。


自然と、視線が俺に集まった。



(俺は……)



胸の奥で、答えはすでに固まっている。



(俺の心は……決まってる)



大きく息を吸い込む。



「俺は――」



コンコンッ


言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。


執務室の扉が、控えめに叩かれる。



「……どうぞ」



入ってきたのはシェリーだった。


一度、会話を止め、視線が彼女へと向く。



「失礼します。会議中なのは承知しておりますが、火急の用件にてご報告がございます」



丁寧だが、わずかに緊張を含んだ声音。



「火急?」



部屋の空気が一変する。



「はい。七番領地から、使者を名乗る者が来ております」



「!?」






玉座の間。


高い窓から差し込む光は、すでに傾き始めていた。


白かった光は、わずかに橙を帯び、長い影を床へと落としている。



「お初にお目にかかります。領主……陛下」



俺の前で、ひとりの女が膝をつき、深く頭を垂れる。


赤みがかった長い髪が、さらりと床へ流れた。



「私は、イリス・カーグランドと申します」



「……アサヒ・タイシだ」



短く、名だけを返す。


----------------------------------------

イリス・カーグランド 騎士 グラディエーター(タクティカルクラス)

STR 10 VIT 10 DEX 2 AGI 2 INT 2 EXP 3


バスターソード ライングレード

STR+1


ガーディアンブレストプレート タクティカルグレード

VIT+3 STR+1


ガーディアンブレストゲートル タクティカルグレード

VIT+3 STR+1


忠誠のグローブ タクティカルグレード

STR+1

効果:状態異常を無効化する


忠誠のブーツ タクティカルグレード

INT+1

効果:状態異常攻撃を受けた際、全能力値を+3する

----------------------------------------



(強い……それに……)



視線が装備へと向く。


忠誠のグローブ、忠誠のブーツ。



(“状態異常”対策……完全にリリィを意識しているな……)



「俺は……アンソニー・エクスと言います」



隣の男もまた、膝をついたまま名乗った。


----------------------------------------

アンソニー・エクス 騎士 ドラグーン(タクティカルクラス)

STR 12 VIT 10 DEX 5 AGI 6 INT 3 EXP 3


タイフォンスピアー タクティカルグレード

STR+3 DEX+2


シルーレザーシャツ タクティカルグレード

STR+2 AGI+2


シルーレザーゲートル タクティカルグレード

VIT+2 DEX+2


シルーレザーグローブ タクティカルグレード

VIT+2 AGI+2


シルーレザーブーツ タクティカルグレード

INT+2 STR+2

----------------------------------------



(こっちも……高いな……)



タクティカル装備の恩恵――それがはっきりと見て取れる。


背後に控える兵たちは、サブクラスを持たない一般兵のようだった。



「久しいな。イリス」



不意に、隣からリオデルカの声。



「……ご無沙汰しております……陛下……いえ、リオデルカ様」



彼女は顔を上げる。


その表情には、かすかな苦しみが滲んでいた。



「ご存知なんですか!?」



思わず問いかける。



「ああ。三年前、ワシが王位を退く際、現国王――息子に騎士として推挙した者だ」



「!」



「まさか、この島に来ているとは思わなんだがな」



「……その節は、お世話になりました」



短い再会の言葉。


だがリオデルカは、それを断ち切るように本題へと移る。



「それより……今日は何用だ?このタイミングで参ったのだ、思惑があるのだろう」



(俺は喋りすぎるな……)



デンスとリオデルカの言葉が、頭の中で反芻される。



(俺の言葉が、そのまま国の総意になる……)



「はい……」



一拍。


静寂。


そして――



「我々の領主、アサヒナ・カエデ様は、リベリオン国との同盟をお望みです」



――!?


俺は動揺し、空気が、張り詰めるのを感じた。


しばしの沈黙が部屋を包む。


その沈黙を破り、リオデルカが問う。



「ほう……して、目的は?」



「同盟した暁には……共に八番領地を攻略できれば、と」



――!?



(八番領地を……!?なぜだ……)



胸がざわつく。


だが、顔には出さない。



「陛下、発言よろしいでしょうか?」



デンスが静かに聞く。



「ああ」



視線をイリスに据えたまま、短く答える。



「イリス殿。“ともに”攻略とは、どういう意図か」



「防衛のため…貴領が八番領地攻略中の防衛のための同盟なら理解できます。


 しかし、共同攻略となれば――その後の領有問題が発生するはずです」



その通りだ。


この世界では、領地は分割できない。そう“ルールブック”に記載されていた。



(確実に禍根が残る……)



「我が主は……攻略後の領地について、所有権を放棄するとのことです」



その言葉に、デンスの目が見開かれ、リオデルカは細く目をすがめる。



「加えて、貴領で不足するであろう食料についても、支援するとのことです」



(食料まで……!?)



「ほう……破格だな」



低く、リオデルカが呟いた。


また、静寂があたりを包む。



「陛下、いかがいたしますか?……陛下?」



「あ、ああ……」



デンスの声。



(合図だな)



頭の中が混乱していた俺は、デンスの声に我に返り、自分の“役目”を果たすため、


決めていた通りの言葉を口にする。



「この場で即答はできない。しばし検討の時間をもらう。その間、貴殿らの滞在を許可する」



わずかにぎこちない声音。



「……かしこまりました」



使者の一行が頭を下げる。



「滞在場所は――」



「滞在場所の用意は必要ないわよね?」



ミスラが被せる。



「はい…お気づき…でしたか…」



イリスが、表情を変えずに言う。



「えぇ。」



(ミスラが言ってた、孤児院の近くで何者かが出入りした跡のある家…こいつらか……)



「悪いけど、監視はつけるわよ。孤児院の近くですもの」



「承知いたしました」



イリスは淡々と応じる。


そして――ゆっくりと顔を上げ、俺を見る。


いつの間にか、窓の外は夕暮れの色を帯び始めていた。


差し込む光は赤く、玉座の間を長い影で満たしている。



「最後に――」



静かに、しかしはっきりとした声でイリスが言葉を発する。



「我が主より“友誼の証”として、献上の品をお持ち致しました。


 どうか御身の御前にて、お納めいただければ、この上なき誉れにございます」



その言葉とともに、彼女が振り返る。


重い扉が開かれた。


夕陽を背に――


カイ、セシル、ジェイクが姿を現す。


それぞれの手には、大きな荷。



「これは……?」



思わず身を乗り出す。



「タクティカルグレードの装備を作成するための素材にございます」



その一言で――


胸を満たしていた警戒も、疑念も。


一瞬で、別の感情に塗り替えられた。



(……これはーー)



気づけば、俺の目は。


夕陽よりも強く、輝いていた。


食料問題。


同盟問題。


八番領地。


そんなものは、一瞬だけ頭から吹き飛んでいた。


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