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第三十七話 変わりゆくリベリオン

あれから、さらに二カ月が過ぎた。


俺は執務室で、日々積み上げられていく大量の報告書に目を通していた。


机の上には、未処理と既読の書類が山のように分けられている。



(この地に来て、もうすぐ半年か……)



ふと、そんなことを思う。


日本では、そろそろ師走。


街が慌ただしさを増し、どこか落ち着かない空気に包まれている頃だろう。


だが、このセレンディバー島に四季はない。


一年を通して穏やかな気候が続く――それは恵まれているはずなのに、どこか味気なさも感じていた。


この二カ月は、目が回るほど忙しかった。


まず着手したのは、サブクラス保持者の洗い出しだった。


この二カ月、俺はひたすら領民たちのステータスを確認し続けた。


サブクラスを持つ者を探し出し、その情報を記録する。


そして同時に、この世界の“仕様”を整理していく。


目に見えないルールを言語化し、体系としてまとめる。


それは地味だが、確実にこの領地の未来を左右する作業だった。


それ以外の戦略については、デンス、アスラー、ミスラが中心となって進めている。


俺は上がってくる報告に目を通し、必要とあらば現場へ足を運ぶ。


そしてこの期間、カイから戦闘訓練も受けていた。


自分でも意外だったが、俺には“大槍”が合うらしい。


あのとき――俺の腹を貫いた武器と、同じ種類のそれだ。


皮肉な話だが、その感触は妙にしっくりきていた。


領地も着実に発展している。


研究所に工房。


街の南側を除けば、防壁もほぼ完成した。


領主邸の増築については、デンスから待ったがかかった。


理由は明確だ。


――俺たちの目標は、第二層の攻略。


その達成後、拠点を第二層へ移すという案が提示されたのだ。


現在、二層の領主達は四方を敵に囲まれている。


だが俺が第二層を制圧すれば、南は既に支配下にある以上、警戒すべきは三方向のみとなる。


もちろん危険は伴う。


だが人口、資源、輸送効率――


どれを取っても、それを上回るだけの利があった。


そして、その作業の中で大きな発見があった。


領地の発展に伴い、サブクラス持ちへ新たなステータスポイントが付与されたのだ。


その割り振りの最中――セシルが“タクティカルクラス”へと転職を果たした。


鍵となったのは、『EXPエクスペリエンス』。


これまで唯一、感情の昂りでは上昇しなかった数値。


だがそれは、その名の通り“経験”を意味していたのだ。


この発見により、最初のポイントを温存していたミスラとカイも、相次いで転職を果たした。


一方で、既にポイントを振ってしまっていたリリィとジェイクは――



「……なんでよ……」



「それ……きっついっすよ……」



などと、露骨に肩を落としていたのが印象的だった。


リリィに至っては本気で落ち込んでいた。


もっとも、リリィに関しては既にタクティカルクラス――


“シャドウストーカー”なのだが。


……それでも納得はいかないらしい。


そして、そのリリィに関してもう一つ。


未だに、あの“リベンジャーウェポン”を解除する術は見つかっていない。


今のところ身体への異常はない。


だが――放置していい問題ではないのは明らかだった。



(早く、なんとかしてやらないとな……)



思考を切り替える。


なお、タクティカルクラスが増えたことでの恩恵だが――


本人たち曰く、『特に変わらない』とのことだった。


理由は単純。


クラスが上がったからといって、ステータス自体が変化するわけではない。


それに見合う装備――つまり、より高グレードの武器や防具が必要になる。


だが、現状のリベリオンには、その技術も資源も足りていなかった。


報告書の半分ほどを読み終えた、そのとき。


――コンコン。


執務室の扉が、軽くノックされた。


ゆっくりと扉が開き、リリィが顔を覗かせる。



「……なるほど。ノックを覚えたわけだな」



「うるさいな、このバカ陛下!」



即座に飛んでくる悪態。


だが、その調子がいつも通りで、少しだけ気が緩む。



「それで、なんの用だ?」



「リオデルカ様が到着したわよ」



「ああ、そうか」



二カ月に一回開かれることとなった、戦略会議。


その為にリオデルカはアレースに足を運んできた。


今日は、俺への挨拶のあと元・北の村の領民たちと、久々に顔を合わせる予定だったはずだ。



「わかった。行こう」



手にしていた報告書を、途中とわかるよう机に置く。


そしてリリィの後に続き、執務室を後にした。


階段を降りると、玄関ホールには既に人影があった。


リオデルカ。


フォージ。


ゴラン。


そして――もう一人。


見覚えのない、小柄な少女が立っていた。


メイド服に身を包み、どこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。



(リリィと同い年くらいか……?)



「久しぶりだな、陛下」



「お久しぶりです」



互いに笑みを交わす。


そのとき、俺の視線が少女へ向いていることに気づいたのだろう。


リオデルカが小さく頷いた。



「紹介しよう」



少女が、一歩前へと押し出される。


びくり、と肩が震えた。



「新たに見つかったサブクラス保持者だ。名は――アリア・ノーランド」



「アリア……ノーランド、です……」



もじもじと指先を絡めながら、小さな声で名乗る。



「……よろしく」



短く返すと、リオデルカが隣に歩み寄った。



「本来なら、このような子を戦場に立たせたくはないのだがな……」



「……そう、ですね」



その言葉の重さは、痛いほど理解できた。


だが――現実は、それを許さない。



「さて、お前たちも疲れておるだろう。今日は各自、しっかり休め」



リオデルカがそう告げると、一行はほっとしたように息をついた。



「陛下、すまんが――この者たちを頼む」



軽く頭を下げるリオデルカに、俺は頷く。



「もちろんです」



視線で合図を送ると、シェリーが静かに前へ出る。



「こちらへどうぞ」



柔らかな声に導かれ、一行はその場を後にした。



「ワシも今日は久々に羽を伸ばさせてもらうとするか!」



豪快な笑い声を残し、リオデルカもまた外へと向かう。


その背中を見送りながら、俺は思う。



(……本当に、衰えを知らない人だな)



あの活力。あの存在感。


思わず苦笑が漏れた。


――そして。


新たに加わった、小さな戦力。


アリア・ノーランド。



(サブクラスのリスト更新しておかないとなぁ)



そう思いながら、俺は踵を返した。


玄関ホールを抜け、静まり始めた廊下を歩く。


つい先ほどまでの賑やかな空気が嘘のように、領主邸の中は落ち着きを取り戻していた。


遠くで、シェリーが誰かを案内する声がかすかに聞こえる。


新しく来た者たちも、すぐにこの空気に馴染んでいくのだろう。


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