第二話 アイランドゲーム
「ようこそ、アイランドゲームへ」
その声は澄んでいて、どこか耳に残る不思議な心地よさを持っていた。
「アイランドゲーム? それより、あんた達は誰なんだ!?」
思っていた以上に声が荒れていた。
自分でも分かる。
完全に冷静じゃない。
喉が乾いているのが分かる。
「これは失礼致しました。
私はデンス・クローム。
クラスは宰相です。
主様の政務・軍務全般の補佐を致します」
見上げていた顔を下げ、男は答える。
あどけなさを残しながらも、その目だけは妙に鋭い。
まるでこちらを値踏みするような光を宿していた。
整った顔立ちが、余計に只者ではない雰囲気を際立たせている。
「私はアスラー・ダンヒルでございます。
クラスは執事。
サブクラスも保有しておりまして、そちらはソルジャーになります。
屋敷の管理などを中心に、時には主様の盾となりましょう」
口と顎に白い髭を蓄えた老人が静かに言った。
「私はミリィ・オルテリアと申します!
クラスはメイドで、サブクラスは持っていません!
どうぞよろしくお願い致します!!」
美しい金色の髪を後ろで一つに結んだ少女が言う。
緊張しているのか少し声が上ずっている。
だが、そのぎこちなさを含めても思わず目を引かれる笑顔だった。
「よ、よろしく……」
思わず返事をしてしまう。
(メイド服……コスプレ?)
だが彼女は、その一言を聞いただけでさらに嬉しそうな顔を見せた。
「コ、コホンッ……」
軽く咳払いをし、最後の一人へ視線を向ける。
「…………」
何も言わない。
(なんだこいつ……一番ヤバそうなのに、何も喋らないのかよ)
「彼はカイ・レイモンド。ご覧の通り騎士でございます」
見かねたのか、デンスが代わりに紹介した。
ここへ来てから初めて、俺は少しだけ冷静さを取り戻していた。
四人――正確には三人――の落ち着いた態度が、パニックになっていた頭をわずかに落ち着かせていたのだ。
「そ、それでここは何なんですか? それに執事やメイドって何の冗談ですか?」
聞きたいことは山ほどある。
だが何から聞けばいいのかも分からない。
結局、口から出たのはその二つだった。
アスラーとミリィが顔を見合わせる。
「そうですね……まずは少し、外の景色でも見てみませんか?」
そう微笑みながら、デンスが立ち上がる。
そして左手を光の差し込む方向へ向けた。
そこには大きなアーチ状の開口部があった。
その先にはバルコニーらしきものが見える。
さらにその向こうには、眩しいほどの光が広がっていた。
デンスが歩き出す。
俺は自然とその後に続いた。
背後からはアスラーとミリィも付いてくる。
やがてアーチを抜けると――
そこには見慣れたようで、決して見慣れてはいない光景が広がっていた。
自分が生まれ育った田舎にどこか似ている。
だが決定的に違う。
簡素な石造りの家々。
藁を載せただけの屋根。
現代日本とはかけ離れた景色だった。
「ッ!!」
声にならない声が漏れる。
「ここはセレンディバー島。
まぁ、私達は単に『この島』と呼んでおりますが、その十五番領地になります」
デンスが遠くを見ながら言った。
「え? セレンディバー……? 十五番?」
「はい。一から説明しますと、ここは主様のいた世界――地球の日本という国ではありません」
地球?
日本?
こいつは……何を言っているんだ?
「この世界は……そうですね。
我々の世界には名前がありません。
ですが説明の都合上、仮にセレンと呼ぶことにしましょう」
俺の反応など意に介さず、デンスは話を続ける。
「このセレンには巨大な大陸があり、そこにいくつもの国が存在します」
「そしてその大陸には、霧に覆われた巨大な湖があります」
「その湖の中心に存在するのが、このセレンディバー島でございます」
意味が分からない。
だが、冗談を言っている空気ではなかった。
「そして、この島で不定期に開催されるのが――アイランドゲームになります」
アイランドゲーム?
「ルールはただ一つ」
デンスがこちらを振り返る。
「手段は問いません」
「この島を百年以内に統一すること」
「それが、生きてこの島を出る唯一の方法だと――言われています」
生きて出る?
言われている?
不穏な言葉ばかりが頭に残る。
「もうお分かりでしょうが、主様方は別の世界からこのセレンへ渡ってきた、ゲームの主役達なのです」
違う。
こいつは冗談を言っている顔じゃない。
むしろ、あまりにも真剣すぎる。
「主様……方?」
思わず聞き返す。
「はい。主様方は、この島をその人数で分けられた領地を所有しております」
「そして、その領地を武力で、あるいは策略で奪い取りながら統一を目指していただきます」
「そのお手伝いを、我々が致します」
その言葉を聞き終えた瞬間――
情報量の多さに、意識が遠のいていくのを感じた。
足元が崩れるような感覚。
視界がぐにゃりと歪む。
音が遠ざかっていく。
そして――
意識は闇に落ちた。




