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第一話 ようこそーーアイランドゲームへ

窓の外では豪雨が降り注ぎ、雷鳴が空気を裂くように轟いていた。


そのたびに、中世の城を思わせる薄暗い部屋の灯りが不規則に揺れる。


だが、そんなものはどうでもよかった。


俺の視界には、ただ一つの光景しか映っていなかった。


目の前で繰り広げられている地獄。


よく知る男が、まだあどけなさの残るメイドの少女を押さえつけていた。


メイドの優しかった笑顔は消え失せ、苦痛と恐怖、そして絶望だけがその顔を支配している。


男は醜悪な笑みを浮かべながら、獣のように嗤った。



「はっはっはっ!! たまんねぇなぁ!!」



そして俺を見る。


勝ち誇ったような目で。



「くっ……!」



体を起こそうとする。


だが動かない。


二人がかりで押さえつけられた身体は、自分のものではないみたいだった。



(動け……)



動け。


動け。


動け――!



「やめとけやめとけ、アサヒ」



男は愉快そうに笑う。



「今さら力なんて出るわけねぇだろ?」



俺の叫びなど存在しないかのように、男はさらに動きを激しくした。


少女の声にならない苦痛が響く。


俺は歯が砕けそうなほど強く噛み締めた。



「自分でも驚いてんだよ」



男が笑う。



「人のモン奪うのってよ……クセになるんだよなぁ!!」



狂ったような高笑い。


少女の嗚咽。


そして俺の無力感。


その全てが混ざり合う。



「この世界は最高だ!」



男は両手を広げる。



「この世界に来れて俺は最高だ!!」



その瞬間。


俺の中で何かが壊れた。


いや――


何かが生まれた。


復讐という名の感情が。






――二週間前



「聞いてくれよ! 俺、今週末にJJJのライブ行くんだぜ!」



「マジかよ!?」



「どこでやるんだよ!」



「東京!」



「いいなぁぁぁ!!」



昼休みの教室。


クラスの中心グループが騒がしく盛り上がっている。


俺はそんな喧騒を無視して、本に視線を落としていた。



(相変わらずうるさいな)



ここは田舎の公立高校。


二年A組。


特別なことなんて何もない、ごく普通のクラスだ。


そして俺――アサヒ タイシもまた、ごく普通の生徒だった。


少なくとも、この時までは。


ふと隣を見る。


カワナミサクラ。


静かな黒髪の女子生徒。


彼女もまた本を読んでいた。


成績優秀。


無口。


必要以上に人へ干渉しない。


席替えで隣になってから、妙に居心地が良かった。



「タイシ君、今日の日直だよね?」



声をかけてきたのはコガユイカだった。


誰にでも優しく、誰からも好かれる人気者。



「先生が次の授業のプリント取りに来てって言ってたよ」



「ありがとう」



栞を挟み、立ち上がる。


その時だった。



『◎△$♪×¥●&%#?!』



「っ!?」



頭の奥に何かが直接流れ込んできた。


思わず振り返る。



「ん? どうしたの?」



コガさんが首を傾げる。



「今……何か聞こえなかった?」



「え?」



不思議そうな顔。


周囲を見る。


誰も反応していない。



(気のせいか……?)



だが妙だった。


耳で聞いたというより――


脳に直接響いたような感覚だったからだ。



「アサヒ君……大丈夫?」



今度はカワナミさんが声をかけてくる。


少し驚いた。


席替えから半月。


彼女と話した回数は片手で数えられるほどだったからだ。



「大丈夫。気のせいだと思う」



そう言って俺は教室を出た。


しかし――


それが全ての始まりだった。


職員室でプリントを受け取り、教室へ戻る。


そして扉を開いた瞬間。


俺は足を止めた。


クラス全員がこちらを見ていた。


誰一人言葉を発さない。


静寂。


異様なほどの静寂。



「なんだ……アサヒかよ」



誰かが吐き捨てる。


その瞬間、教室が息を吹き返した。



「タイシ君!」



コガさんが駆け寄ってくる。


その表情は青ざめていた。



「さっき何か聞こえたって言ってたよね?」



「え?」



「私も聞こえたの」



彼女は震える声で言った。



「私たち、みんな」



教室中の顔に恐怖が浮かんでいた。



「気のせいよ!」



女子生徒が叫ぶ。



「そうだ! 気のせいだ!」



誰かが同調する。


その声は瞬く間に広がった。


まるで自分たちに言い聞かせるように。


その時だった。



『退屈なんだ。少し遊びに付き合って』



再び声が響いた。


今度は全員に。



「なに!?」



「いやあああ!!」



悲鳴。


混乱。


恐怖。


教室がパニックになる。


そして次の瞬間。


窓の外から、世界を塗り潰すほどの光が降り注いだ。


やがて光が消える。



「ようこそお越しくださいました。我らが主様」



聞き慣れない男の声。


ゆっくり目を開く。


そこは見知らぬ広間だった。


目の前には四人の男女。


全員が片膝をつき、頭を垂れている。


一人が顔を上げた。



「ようこそ、セレンディバー島第十五領地へ」



そして静かに微笑む。



「ようこそ――アイランドゲームへ」



その瞬間。


俺たちは、もう元の世界には戻れない。


静かに、そして確実に。


運命の歯車は動き始めていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


数週間はまとめて投稿を予定しております。


まだ第一話ではありますが、面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。


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