第十八話 リベンジャー
おはようございます。
今週も引き続きよろしくお願いします。
今週までは3話づつ投稿予定です。
「あなたを……殺します」
少女の声は、驚くほど静かだった。
だがその一言は、場の空気を凍らせるには十分だった。
短い期間ながらも鍛え抜かれた騎士たちが、反射的に武器を抜く。
金属が擦れる音が連鎖し、俺の前に重なり合うようにして壁を成した。
「……」
フードを深く被った少女の表情は見えない。
だが――視線だけは、はっきりと感じる。
冷たい。
感情を削ぎ落としたような、底の見えない眼差し。
少女は、その場で軽く跳ねた。
一度、二度。
そして――
“消えた”。
「……は?」
誰も、瞬きをした覚えはない。
それでも、確かにそこにいた存在が、跡形もなく消失していた。
次の瞬間。
「ぐはっ――!」
鈍く、湿った音。
振り向いた時には、騎士の一人が地面に叩きつけられていた。
石畳に背中を打ちつけ、呼吸すらままならず、痙攣している。
「ま……待て……!」
喉が焼けるようだった。
絞り出した声は、あまりにも弱々しい。
少女は、止まらない。
騎士たちが一斉に踏み込み、刃が閃く。
だが――
当たらない。
紙一重で躱す。
滑るように、すり抜けるように。
そして。
カン、と乾いた音。
騎士の剣が、弾かれる。
禍々しい短剣が、まるで意志を持つかのように武器だけを正確に叩き落としていく。
体勢を崩した騎士の懐へ、迷いなく踏み込む。
打撃。
肘、膝、踵。
一撃で、確実に意識を刈り取る。
「くっ……!」
「なんなの……あれ……!」
わずか数秒。
それだけで、前衛は壊滅していた。
残ったのは、カイとミスラ。
そして、戦う術を持たない、俺とデンス。
カイは歯を食いしばり、ナイトシールドを構える。
ミスラは槍を握り直し、呼吸を整えた。
少女は一度、距離を取る。
「リリィ・オルテリア」
その名が、場に落ちた。
胸がざわついた。
聞き覚えがある。
忘れるはずがない。
ミリィが最後まで気にかけていた妹の名前だった。
(オルテリア……ミリィの妹……それに……あの武器……)
視界の端に浮かぶ文字。
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オディウム・デュアルダガー リベンジャーグレード
STR+10 VIT+5 DEX+12 AGI+15 INT+3 EXP+5
所有者の憎しみによって具現化し、やがて飲み込む。
所有者を強制的に使用可能の領域まで引き上げる
切り付けた相手の体力を徐々に奪う
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無意識に、唇を噛んでいた。
「どいてください」
静かな声。
「無理だな……」
カイが、短く返す。
「……そうですか」
感情が、ない。
ただの確認のように呟くと、彼女は短剣を構えた。
次の瞬間。
地面が弾けた。
一直線の突進。
空気が裂ける。
カイは反応する。
盾を叩きつけるように前へ出した。
――激突。
鈍い衝撃音と共に、カイの身体が後方へ押し込まれる。
足が石畳を削り、火花が散る。
その瞬間。
ふわり、と。
フードがめくれた。
現れたのは、あまりにも――幼い顔。
金色の髪。
後ろで一つに結ばれたそれが、揺れる。
だが、その目には。
光が、ない。
どこにでもいそうな少女。
当たり前だが――ミリィに似ている。
だが、その瞳に宿るものは優しさではなかった。
怒り。
憎しみ。
それだけが、少女を動かしているように見えた。
そう思った瞬間。
「がはっ!」
カイの身体が、横へと弾き飛ばされた。
盾ではない。
突きでもない。
背後に回り込み、脇腹へ叩き込まれた蹴り。
石垣に叩きつけられ、鈍い音が響く。
普通ならあり得ない。
華奢な少女の蹴りで、大柄な騎士が吹き飛ばされるなど。
だが、この世界では現実だった。
ステータスという絶対的な力の差が、それを可能にしている。
その現実が、嫌でも理解できた。
今度は背を向けたままのリリィへ、ミスラが踏み込む。
槍が唸りを上げる。
だが。
「――っ!?」
気づいた時には、遅い。
背後。
いつの間にか、そこにいる。
カイと同じように。
無駄のない一撃。
「くっ……!」
ミスラの身体が沈み、膝をつく。
リリィなりの加減か、完全には落とさない。
だが、戦闘不能には十分だった。
静寂。
立っている者は、もうほとんどいない。
リリィは、ゆっくりと首を鳴らし。
そして。
こちらを見た。
その目は――
憎しみ。
ただ、それだけでできていた。
(そなたの目には、憎しみと怒りしか宿っておらぬ)
リオデルカの言葉が、脳裏をよぎる。
(俺も……あんな目を……しているのか……)
リリィが、こちらへ向き直る。
「……」
声をかけようとした。
だが。
彼女は、すでに動いていた。
低く沈み込み。
一直線。
喉元へ。
短剣を。
死が、迫る。
「やめてー!」
「陛下!!」
ミスラが叫び、デンスが駆け出した。
遠い。
すべてが、遠い。
そしてなぜか――彼女の短剣が遅く見える。
だが、身体は動かない。
ただ、見ている。
迫り来る刃。
禍々しい光を放つその切っ先を。
――終わる。
そう思った、その瞬間。
ぴたり、と寸前で刃が止まった。
震えている。
刃が、ではない。
リリィの肩が、震えている。
「どうして……」
か細い声。
俯いたまま、呟く。
「どうして……どうして……どうしてどうしてどうして!!」
顔が、上がる。
その目に。
光が、滲んでいた。
「ッ……!」
涙。
はっきりと、零れ落ちる。
「お姉ちゃんを助けてくれなかったの!!!」
絶叫が、空気を引き裂いた。




