第十七話 暗殺者
「昨日のあんたの顔、ほんと傑作だったわね」
「……もういいだろ、その話は」
「姿勢を指摘されただけであそこまでダメージ受ける? 普通」
ミスラは腹を抱えて笑っている。
乾いた風の中、その笑い声だけがやけに軽やかに響いていた。
俺たちは今、リベリオン北の村からの帰路についていた。
リオデルカと高台で話を終えたあと、俺たちは彼を交えて今後の方針を詰めた。
その内容が、まだ頭の中でくすぶっている。
提示された案は二つ。
一つは、各領地の村を放棄し、領民を中心――領主邸のある村へ集約すること。
そしてもう一つが、サブクラス保持者の選定と確保。
「つまり、サブクラスの成長はステータス依存ってことか?」
俺は笑い続けるミスラを横目に、デンスへ視線を向けた。
「はい。ステータスの成長に応じて、より上位のクラスへ移行するようです」
デンスは歩調を崩さず、淡々と続ける。
「ですが、そのステータスの上げ方が不明でした。それが――」
「領主の“感情”、か」
口に出した瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。
「その通りです。もちろん、それだけではないのでしょうが」
「サブクラスは、カイ殿のように最初から持つ者もいれば、生活や戦闘の中で発現する者もいるようです。
ただし条件は不明のようですが」
――すべて、リオデルカからの情報だった。
「……あの人、なんでそんなことまで知ってるんだよ」
半ば呆れ気味に言うと、デンスは肩をすくめる。
「これも王族のみが知る情報、というやつか?」
「どうかしらね」
ミスラが軽く受け流す。
クラスが生活の役割だとすれば、サブクラスは戦闘の役割。
系統によって武器が決まる。
ソルジャーなら剣。
ランサーなら槍。
アーチャーは弓。
シーフは短剣。
ファイターは拳。
それがラインクラス――いわゆる一次職。
さらにその上にタクティカルクラス、ストラテジークラスと続くらしい。
サブクラスが発現すれば、対応する武器以外は扱えなくなる。
(……ほんと、ゲームみたいだな)
「とにかく、戻ったらサブクラス持ちの選別だな?」
「はい。発現の確認には、陛下の“目”が必要ですので」
「分かった」
「各村への通達と説明は我々が担当します」
「東の村は任せてね!」
ミスラが胸を張る。
その明るさに、少しだけ気が緩みそうになる。
「でも、なんでわざわざ領民を集めるんだ?」
「理由は単純です」
デンスは即答した。
「人口が少ない以上、分散は非効率です。
加えて、食料は初期支給が半年分。
今後を見据えれば、集中管理が最適かと」
「……なるほど」
「それに――我々は現在、“戦時中”です」
その一言で、空気がわずかに引き締まる。
「防衛拠点としても、今の村を活用するのが最も合理的です」
「分かった。そっちは任せる」
「承知しました」
ちょうどその時、前方で二人の騎士が魔物を倒し終えたところだった。
鈍い音を立てて倒れるそれを横目に、デンスが歩み寄る。
「そういえば、素材も回収しろって言ってたな」
「ええ。この個体も解体します」
短く答え、慣れた手つきで刃を入れる。
魔物はドロップしない。
解体して素材を得る。
妙に現実寄りな仕様が、逆にこの世界の歪さを際立たせていた。
(素材を鍛冶師に回して、装備を作る……か)
中途半端に“現実的”な仕様に、苦笑が漏れそうになる。
「なあミスラ。お前のサブクラスも最初からか?」
「そうよ?」
俺は目を細め、彼女のステータスを確認する。
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ミスラ・シルフィード 農民 ランサー(ラインクラス)
STR 2 VIT 2 DEX 1 AGI 2 INT 1 EXP 1
ドゥーム・デュアルランス ノングレード
効果なし
プレートレザーアーマー ノングレード
効果なし
プレートレザースカート ノングレード
効果なし
プレートレザーグローブ ノングレード
効果なし
プレートレザーブーツ ノングレード
効果なし
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(……やっぱり装備はノングレードか)
「なら、まずはその武器装備からだな」
「あら、優しいじゃない」
ミスラが楽しそうに笑う。
そうこうしているうちに解体も終わり、俺たちは再び歩き出した。
やがて、領主邸のある村が見えてくる。
煙が上がり、人の気配が感じられる。
その光景に、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
「――陛下じゃねぇか」
聞き慣れた声がした。
「カイか」
そこには、カイと二人の騎士。
「見回り帰りだ。そっちは?」
「……まあ、収穫はあった」
「顔見りゃ分かる」
カイがニヤリと笑う。
「結構ダメ出しされてたけどね」
「うるせぇ」
「ははっ!」
豪快な笑いが響く。
つい数日前までは考えられなかった、穏やかな空気。
だが――
それは唐突に途切れた。
「……ん?」
最初に気づいたのはカイだった。
その視線の先。
村の入り口、石垣の上に、小さな影が腰を下ろしている。
黒いローブ。
深く被られたフード。
「……子供?」
ミスラが呟く。
どこか、場違いな静けさをまとっていた。
「おい、どうした?」
カイが子供に声をかける。
返事はない。
風だけが、ローブの裾を揺らしていた。
俺たちは距離を詰める。
すると、その影はゆっくりと立ち上がり、こちらを向く。
「……あなたが、領主様ですね?」
静かな少女の声だった。
「ああ、そうだが――」
答えかけた、その瞬間。
彼女はローブの中から両手を差し出した。
淡い光が、そこに灯る。
「……っ!」
見覚えのある光。
サブクラス武器の具現化。
やがて光が収束し、形を成す。
それは一対の短剣。
だが。
(なんだ、あれは……)
武器そのものを型取るように濃い紫のもやに覆われ、
その外側を鮮やかな紫の光が渦のように取り巻いている。
禍々しく、それでいて――美しい。
ただ、本能は、危険を告げていた。
俺はとっさに“目”を使う。
(……!?)
思考が止まる。
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リリィ・オルテリア 薬師 シャドウストーカー(タクティカルクラス)
STR 11 VIT 6 DEX 13 AGI 16 INT 4 EXP 6
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(タクティカルクラス……!?
ラインクラスのさらに上だと……!?)
だが何より、その名だ。
「リリィ……」
俺は周りには聞こえないであろう小さな声で呟いた。
目の前にいる少女は静かに口を開いた。
そして――
「あなたを、殺します」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
明日から、やっと物語が動き出す気がします。
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