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第十四話 火竜ヴォルガス

火竜ヴォルガス。


その名は、子供でさえも震え上がる禁忌の響きを持つ。


この世界に君臨する“四竜”――


それは、神の創造か、それとも世界の歪みが生み落とした災いか。


誰も知らない。


だが一つだけ、確かなことがある。


それは――“人の手に負える存在ではない”ということ。


鉄をも溶かす業火。


空気すら燃やし尽くす灼熱。


吐き出される炎は、ただの熱ではない。


それは“概念”そのものを焼き尽くす。


逃げ場はない。


防ぐ術もない。


ただ、在るだけで周囲を地獄へと変える。


気まぐれに空を裂き、気まぐれに地を焼き、


不特定の町を蹂躙する。


理由もなく。意味もなく。


――ただ、そこにあったから壊した。


そんな理不尽の象徴。


天災にして、災厄。


それが――火竜ヴォルガス。


その名は、今なお世界中で恐怖と共に語られている。






「昔は私もね……神を信じてたわ」



背中越しに聞こえるミスラの声は、どこか遠くを見ているようだった。



「朝も夜も、食事の前も……ちゃんと手を組んで、お祈りしてたのよ」



軽く笑うような声音。


だが、その奥にあるものは――空虚だ。



「寝る前にはね、今日あったことを報告して……“ありがとうございます”って、感謝も伝えてた」



――普通の少女だ。


王族とか関係なく、ただの。


そう思った。



「私ね……年の近い兄がいたの」



少しだけ、声が柔らかくなる。



「王族の子なんて言っても、ほとんどが腹違い。……とくに私なんて、父が気まぐれで手を付けたメイドの子よ」



淡々とした言葉。


だが――その裏に積み重なった時間が、重く滲む。



「ずっと……居場所なんてなかったわ。どこにいても、余計な存在だった」



……何も言えない。


ただ、黙って聞くことしかできない。



「でもね……兄さんだけは違った」



ほんの少し、息が緩む気配。



「正室の子で、将来を約束された人だったのに……私に、すごく優しくしてくれたの」



その言葉に、確かな温度が宿る。



「二年前ね。視察って名目で、お城を抜け出して……海沿いの町に連れ出してくれたの」



ゆっくりと語られる光景。



「楽しかったわ……」



ぽつりと落ちる。



「お城の中しか知らなかった私には、全部が新鮮で……」



少し間が空く。



「景色がね……まるで、一枚のキャンバスに描かれた絵みたいだった」



その一言で、どれだけその時間が大切だったかが分かる。


――だが。



「でもね……」



声が、静かに沈む。



「楽しい時間は、長くは続かなかった」



背中越しに、空気が変わるのが分かる。



「その町を――“この島を出ることのないはず”だった火竜が襲ったの」



思わず、息が詰まる。


化け物が、現実としてその場にいたという事実。



「兄さんはね……将来、国を背負って立つ者として……駐在していた騎士団と一緒に戦ったわ」



誇らしさと、痛みが混ざった声。



「……でも、駄目だった」



短い一言。


それだけで、すべてが分かる。



「どれだけ奮闘しても……勝てなかった」



指先が、布をわずかに掴む気配。



「体が……ズタズタになって……それでも、最後まで立ってた」



――想像するだけで、胸が軋む。



「最後にね……神に祈ってたわ」



静かに。


ゆっくりと。



「“どうか妹だけは助けてください”って」



……。


言葉が、出ない。



「その時……アイツ……どうしたと思う?」



一瞬、間が空く。



「――笑ったのよ」



声が変わる。



「大声で……馬鹿にするみたいに……!」



押し殺していたものが、一気に溢れ出す。



「人が死ぬ瞬間に! 祈ってるその姿を見て!」



拳が、ぎゅっと握られる音がした気がした。



「楽しそうに!!笑ってたのよ!!」



怒り。


憎しみ。


そして――絶望。


すべてが混ざった叫び。



「その時、思ったの」



すっと、声が落ちる。



「……あぁ、神なんていないんだって」



冷たい結論。



「もし本当にいるなら……あんなものを、放っておくはずがない」



その言葉には、もう揺らぎはなかった。



「その時、胸の奥で誓ったの」



静かに。


けれど決して揺らぐことなく。



「いつか必ず――あの火竜を、この手で殺すって」



「だから決めたの」



ゆっくりと、振り返らないまま言う。



「このゲームに参加するって」



――参加?


その言葉だけが、妙に耳に残った。



「ここに来れば……あの邪竜を」



静かに、だが確実に。



「この手で、殺せるから」



その一言には、狂気にも似た確信が宿っていた。


俺は、その違和感を胸の奥へしまい込みながら、黙って彼女の話を聞いていた。


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明日も、引き続きよろしくお願いいたします。

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