表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/143

第百三十四話 続く会議

気づけば陽はだいぶ傾き、窓の外には鮮やかなオレンジ色の夕景が広がっていた。


ガンツとケインから通貨発行についての報告を受け、続いてデンスからミドル・リングの建設計画について説明され――。


ずいぶんと長い時間を、このエリュシオン城の会議室で過ごしている。


長時間座りっぱなしという状況は、まだ十八歳の俺の腰にも、なかなか堪えるものがあった。



「さて、市場の運営に関する規則についてですが……」



デンスは、そんな俺を気にすることもなく話を続けていく。



「まずは、発行した通貨を領内へ流通させる方法です」



壁に貼られたミドル・リング建設計画の大きな資料を剥がしながら、デンスが言う。



「本来であれば、最初は領民全員へ平等に配るのが望ましいところです」



「一律給付っていうやつだな」



俺は知識をひけらかすかのように、物知り顔で言う。



「いちりつきゅうふ? なによ、それ」



「あ、いや……悪い。デンス、続けてくれ」



ミスラの指摘に、俺はすぐさまデンスへ話の続きを促す。


実際、説明しろと言われても、それほど詳しい知識があるわけではない。



「はい。均等配布についてですが、現状では領民一人ひとりへ正確に行き渡らせられるほど、管理体制が整っておりません」



「うん……」



「そこで、こちらの方法で通貨を流通させようと考えております」



そう言うと、デンスは俺達にミドル・リング建設計画とは別の紙を配り始めた。


その紙を受け取り、俺は視線を落とす。


一番上には、こう書かれていた。



---



●通貨の初期流通について



発行した通貨は、以下の方式で領内へ流通させるものとする。



①各ギルドへ発注する公共事業の賃金支払い



②商人ギルドを通じた、リベリオンによる民間物資の購入



※エリュシオン以外の領地においても、各ギルドの支店を設け、同一の方法を取る。



※通貨発行後、二か月間を移行期間とし、食料などの徴収及び配布は段階的に廃止するものとする。



※税の導入は、通貨発行から二か月後に実施し、以降は通貨でのみ支払うものとする。



---



(税……)



聞き慣れた言葉だった。


だが、どこか懐かしくも感じる。



「発行から二か月後に税を導入するのは、少し早いんじゃありませんの?」



リンウェルが首を傾げながら、デンスに尋ねた。



「いえ、そんなことはありません。


 むしろ、通貨発行後は、現状の物々交換を中心とした社会から、


 早急に通貨取引を中心とした社会へ移行させる必要があります」



「通貨そのものの価値を確立するためですね」



イリスが言う。



「その通りです」



デンスが頷きながら答える。



「すまん。どういうことだ?」



「いいですか。通貨発行後も物々交換の文化がそのまま残ってしまうと、領民は手持ちの品を交換し、


 必要最低限の物資さえ手に入れば、それでよくなってしまいます」



「うん」



「そうなれば、通貨を必要としない者が増え、通貨の価値が下がります。


 ここまではわかりますね?」



「ああ。物々交換だけで生計を立てられる人には、通貨が必要なくなるからな」



「はい。通貨の価値が下がる。つまり、通貨に対する信用が失われるということです」



デンスは、俺達の顔を順番に見回す。



「そうなれば税収も減少し、兵士や役人への給料も支払えなくなります。


 そして最終的には、通貨の発行元である国そのものが信用を失うことになります」



「ああ、なるほど」



俺はそこで、ようやく早期に税制を導入する意味を理解した。



「ですので、なるべく早く税制を導入し、『税は通貨でしか受け取らない』と定めます。


 そうすることで、領民は納税のためにも通貨を必要とし、自然と通貨を使った取引が広がっていきます」



「そうすると、領民は必死に通貨を得ようとするわけね」



ミスラが言う。



「その通りです」



デンスが答える。



「うん、理解した。よし、これでいこう」



俺は経済というものを、ほとんど知らなかった。


だからこそ、一つずつ仕組みを知っていくことが、少し楽しくもなっていた。



「承知しました。では、続いてはその税制についてです」



デンスは一つ頷くと、次の議題へと移った。



「こちらに関しては、まだ確定したことは申し上げられませんが、“クラス”別に税額を定めようと考えております」



「クラス別?」



「はい。例えば農民であれば、現在国が管理している農地を分割して譲渡したうえで、一人につき銅貨五枚を税として徴収する、といった形ですね」



「なるほど」



「もっとも、これは収入や収穫量を正確に把握できるようになるまでの、暫定的な制度です。


 同じ農民であっても、得られる利益が同じとは限りませんから」



「たしかにな」



「具体的な金額に関しては、現在ケイン殿と話し合っている最中ですので、近日中には陛下へご報告できるかと思います」



「となると、領民のクラスを把握することが大切ね」



ミスラが腕を組みながら言う。



「はい。もっとも、リベリオンでは初期段階から継続的に把握しておりましたので、今後はその管理を厳重にするだけで済みますが」



「なるほどな」



「エリュシオン以外の領地にも、既に『領民の戸籍を早急に作成し、厳重に管理するように』と通達を出しております」



相変わらずの手際の良さだった。



「でも、クラスチェンジはどうするんだ? 今までは自由にやらせていただろう?」



俺はデンスへ疑問を投げかける。


クラスチェンジ。


サブクラスとは違い、この島にいる住民なら誰もが持っているもの。


そしてそれは、リリィが『薬師』から『メイド』へ変更したように、比較的容易に行えるものだった。



「それに関しましても、今後は職業ギルドを通さないクラスチェンジを、法的に認めないようにしようと考えております」



「法として定めるんですのね」



リンウェルが後押しする。



「その通りです」



「反発は起きないかな?」



俺は、“法”という言葉に敏感になり、尋ねた。



「現状、クラスが持つ職業の知識は、クラスチェンジをしたところで新たに得られるものではありません。


 特別、何かが劇的に変わるわけではないのです」



「たしかに」



「そのため、クラスチェンジを望む者自体、それほど多くはないかと思われます」



「なるほど」



「重要なのは、税の安いクラスへ名目上だけ変更することを防ぐことです。


 そのため、職業ギルドを通じて登録と実態を管理させます」



「つまり、実際に従事している職業と、登録しているクラスを一致させるということね」



「はい。税逃れを目的とした、名目だけのクラスチェンジを防ぐためです」



俺は少し俯き、考える。


これまで自由だったものへ、新たな制限を加える。


必要なことだと理解はできるが、簡単に決断していいことでもない。


それでも、これから国として統治していくためには、避けては通れないのだろう。



「うん。わかった。それでいってみよう」



俺がそう言うと、デンスは黙って頷いた。



「それでは最後に、ミドル・リングの各店舗についてです」



(やっと……最後)



待ちに待った言葉だった。



「各店舗そのものは商人ギルド……ひいては、国が管理します」



「商人へ売却するわけではないのですね」



イリスが言う。



「ええ。売却してしまうと、店舗が機能するまでに時間がかかりますし、何か問題が起きた際に、国が介入しづらくなります」



「他の領地はどうするんだ? ミドル・リングみたいなものを作るのか?」



「はい。もちろん、これほど大規模なものではありませんが、“商店街”のような区域を設け、国が管理します」



「その建設も公共事業として行い、賃金を通貨で支払うわけね」



「はい。そして、これらの店舗は運営を許可制とし、国へ店舗使用料を支払ってもらう予定です」



デンスは資料へ視線を落とす。



「さらに、売り上げに応じた営業税についても、将来的には導入を検討しております」



ここまでくると、俺にもその意味がわかった。



「運営の許可を出すのは、商人ギルドか?」



「はい。名目上はそうなります。


 ただし、ギルドは全て国の管理下にありますので、実質的には国が管理することになります」



「なるほど。国の運営に携わる人材を、もっと集めなくてはならないな」



気づけば、俺は腕を組んで考え込んでいた。



「慎重にね」



ミスラが優しく言う。


その意味は、『国の運営に携わる人間は、誰でもいいわけではない』ということだろう。



「そこで、殿下にお願いがあります」



「私に?」



「はい」



デンスはミスラのほうへ体を向けていた。



「こちらは、国家運営及び経済活動に必要となる役職の一覧です」



そう言うと、デンスは別の一枚の紙をミスラへ差し出した。



「……」



「この役職に適した人材を探し、面談を行ったうえで採用していただきたいのです。“セシル”殿と共に」



(セシル?)



「……なるほどね」



ミスラは紙へ視線を落とし、しばらく考え込む。



「まあ、私はタイシがいいなら構わないわよ」



そう言って、ミスラが俺を見る。



「うん。俺は構わない……というか、ミスラの人望なら適任だと思う。だから、俺からも頼むよ。ただ……」



その言葉に、ミスラはどこか誇らしげな表情を浮かべる。



「ただ?」



デンスが聞いてくる。



「なんでセシルなんだ?」



俺のその問いに、会議室には久しぶりの沈黙が流れた。



「あなた、知らないのね」



「え?」



「セシルの人を見る目は、凄まじいわよ?」



ミスラのその言葉に、会議室の面々が例外なく一斉に頷く。



「えええ……」



まさかの伏兵だった。


俺の中では、普段から静かに干し肉をかじっている印象の強いセシルが、これほど皆から信頼されているとは思わなかった。



「……セシル、か」



俺の呟きに、会議室にいる全員が、示し合わせたかのようにもう一度頷く。


どうやら、彼女のことを一番知らなかったのは、俺らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ