第百二十四話 守りたいもの
優雅かつ妖艶。
目の前のシェリーには、そんな言葉がよく似合っていた。
彼女が纏う軽装は――いや、纏うというには露出が多すぎる気もする。
その鎧からは、これまでに感じたことのない異質な気配が漂っていた。
強いて言えば、ミスラがドラコニックウエポンを装備した際に現れる鎧に近いだろうか。
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シェリー・セスク
クラス:メイド
サブクラス:ローグ(タクティカルクラス)
武器:オディウム・ダガー +1(リベンジャーグレード)
STR+10 VIT+4 DEX+14 AGI+17 INT+5 EXP+6
効果:所有者の憎しみによって具現化し、やがて飲み込む。
所有者を強制的に使用可能な領域まで引き上げる。
自身の存在を完全不可視化することができ、ステータスを隠蔽することができる。
☆オディウムと一体化することが可能
ステータス
STR 13 VIT 7 DEX 16 AGI 19 INT 7 EXP 8
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「シェリー殿……その姿は……?」
イリスは驚愕に染まった顔で、シェリーに尋ねた。
「何って……」
シェリーは異形の姿のまま、イリスへ向き直る。
「あの領主がやったことと同じですよ?」
そう言って、首を傾げた。
その時だった――
ガタンッ!
少し離れた場所に立つシェリーを見ていた俺の背後で、突然、大きな音がした。
振り返ると、そこには俺達が浮かべる驚きとは明らかに異なる表情をしたリリィがいた。
顔色は青ざめ、肩は小刻みに震えている。
それはまるで、無力な子供が抗いようのない存在を前に、絶望しているかのような表情だった。
「リリィ!」
リリィの隣にいたミスラは、その表情を見るや否や、彼女の頭を自分の胸へ抱き寄せた。
「ちょっと! シェリー! あなた!!」
ミスラの大きな声が部屋中に響き渡る。
「これは失礼いたしました。少々、配慮が足りませんでしたね」
しかし、当のシェリーはそう言いながらも、どこか飄々としていた。
「それで? リリィ……声とやらは聞こえますか? 息苦しさは感じますか?」
シェリーはリリィへ問いかける。
「だから、あなたね!」
ミスラが再びシェリーへ言葉を発しようとした、その時だった。
「……しないよ。息も苦しくない。ただ……あの時を思い出して、怖かっただけ……」
リリィはミスラに抱き締められながら、その腕の隙間からシェリーへ視線を向ける。
「そうですか……」
そう言うと、シェリーは再び手から禍々しいオーラを放つ。
そのオーラが、シェリーの身体を優しく包み込んでいく。
そして、その中から再び現れた彼女は、いつものメイド服を纏っていた。
「少なくとも、私がこの姿になっただけでは、連動も共鳴もしないようですね」
シェリーはメイド服を整えながら、静かに言う。
「ああ……まあ、そうみたいだが……シェリー」
俺が口を開く。
「リリィは病み上がりだ。あまり心に負担をかけるようなことを、何の前触れもなくするのはやめてくれ」
俺は呆れ気味にそう言った。
「申し訳ありませんでした」
シェリーは姿勢を正し、素直に頭を下げた。
「それと、その装備については少し調べなくちゃならない。協力してくれるか?」
シェリーは顔を上げると、首を傾げる。
「問題ありませんよ。私がサブクラス持ちであることは、城内では周知の事実ですし……それに」
「それに?」
「陛下がお調べくださるのでしょう?」
シェリーは笑顔になる。
「え?」
「私の……身体の隅々まで」
そう言うと、なぜか頬を赤らめるシェリー。
「いやいや……」
俺は慌てて首を横に振る。
「あなたは……」
ミスラは呆れたように額を押さえた。
「はは……」
イリスは乾いた笑いを漏らしていた。
その後、リリィの部屋でしばらく他愛もない話をした俺達は、それぞれの仕事のため、部屋を後にすることにした。
シェリーが先に部屋を出て、続いてイリスも廊下へ向かう。
俺とミスラも二人の後に続こうとした、その時だった。
「タイシ」
リリィがふいに俺を呼び止める。
「どうした?」
「お願いがあるの」
リリィは俯きながら言う。
「ん?」
「私、動けるようになったら……」
「ああ」
「お姉ちゃんのお墓に行きたい」
「……」
リリィは真っすぐ俺を見て言う。
その瞳には、今にも零れ落ちそうなほどの涙が浮かんでいた。
「分かった。俺も行く。予定は調整しておくから、お前はたくさん寝て、早く回復しろよ」
俺は笑顔でそう答える。
すると、リリィの表情が少しだけ明るくなった。
「うん! 分かった!」
リリィは元気よく返事をすると、素直に布団へ潜り込んだ。
俺とミスラは、そんなリリィの姿を笑顔で見届けると、ゆっくりと部屋を出た。
城内の廊下は昼前ということもあり、メイド達が慌ただしく行き交っていた。
その中を、俺とミスラは並んで歩く。
「当たり前だけど、ああやって見ると普通の女の子なのよね」
「そうだな」
「なんとかしてあげないとね……」
「ああ」
(必ず、なんとかしてやらないとな……)
そんなミスラとの何気ないやり取りに、俺はリリィを救うという思いを一層強くする。
「そうそう」
ミスラが不意に声を上げた。
「ん?」
「ミリィさんの墓参りには、私もついて行くから」
「お、おう」
「あら? ご不満?」
「いや……そうじゃないが」
「向こうにいる子供達の様子も見ておきたいしね」
「そうか……じゃあ、皆で行こう」
俺がそう言うと、ミスラは笑顔になり、俺の手に自分の手を重ねてきた。
その温もりは、不思議と張り詰めていた心を少しだけ軽くしてくれる。
俺は少し照れながらも、その手を振り払うことはしなかった。
窓から差し込む昼の陽光が、長い廊下を柔らかく照らしている。
廊下を行き交う人々の姿。
遠くから聞こえてくる、誰かの笑い声。
戦いの傷跡は、まだ残っている。
それでも、この城には確かに日常が戻り始めていた。
俺は隣を歩くミスラの横顔を見て、小さく息を吐く。
守りたいものがある。
帰るべき場所がある。
だからこそ――前へ進まなければならない。
そんな決意を胸に、俺達は並んで廊下を歩いていった。




