第十二話 ステータス
本日も3話投稿です。
よろしくお願いします。
「俺が言えることは、一つだけだ」
張りつめた空気が、ぴんと肌に刺さる。
誰一人として身じろぎすらしない中、俺の声だけが玉座の間に響いた。
「どうやら――俺の感情いかんで、この地に住む人々のステータスが上がるらしい」
静寂。
その言葉の意味を、全員がすぐには理解できなかったのだろう。
「……ステータスが?」
最初に口を開いたのはデンスだった。
低く、慎重な声。
「あぁ……俺が皆のステータスを見れるってことは、知っているよな?」
「はい」
短い返答。
しかしその瞳には、ただの確認以上の意味が宿っている。
「俺が来た時、皆のステータスはすべて1だった」
「……」
重苦しい沈黙が落ちる。
あの無力さを、全員が思い出しているのかもしれない。
「だが、あれから色々あって……例えば、今のカイのステータスは――」
俺はゆっくりと目を細める。
視界の奥、左目の奥に浮かび上がる“それ”を捉える。
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カイ・レイモンド 騎士 ソルジャー
STR 3 VIT 3 DEX 1 AGI 2 INT 1 EXP 1
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見えたままを、そのまま口にする。
「ふむ……」
デンスが顎に手を当てる。
「感情というのは……?」
一拍、間を置く。
あの夜のことを思い出す。
――血の匂い。
――悲鳴。
――そして、焼けるような怒り。
「襲撃の夜……怒りの感情が振り切れた。その時、左目にメッセージが現れた」
「『領民のSTRが+1されます』とな」
「STR……筋力ですな」
デンスは静かに頷いた。
「なるほど……だからあの夜、騎士たちが突如として力を増したのですか」
「あぁ。それだけじゃない」
俺は続ける。
「カイの持つサブクラス装備にも、同じように能力を底上げする恩恵があるらしい」
「ほう……」
わずかに興味を帯びた声。
「それと……ミリィを失って……俺はこの三日間、悲しみと憎しみが振り切れていた」
空気が、僅かに冷える。
誰も口を挟まない。
「そうしたら、VITとAGIが上がっていた」
淡々と告げたはずの言葉が、やけに重く響いた。
「……納得しました。領民全員に恩恵があるのですね。だから、襲撃後の修繕スピードと建築スピードが上がった」
「そうみたいだな」
短く答えながら、俺は自分の拳を見つめる。
――俺の感情ひとつで、誰かが強くなる。
それは希望か、それとも――。
話がひと段落したところで、俺は前から気になっていたことを口にした。
「そういえば、十四番領地はどうなっているんだ?」
「そちらのルールブックにも記載されておりますが……奪った領地には1か月の猶予が与えられるようです」
「猶予?」
「はい。1か月以内に陛下が新領主となったことを宣言すると、領民はリベリオンの領民となります」
「宣言……それをしなければ?」
一瞬の間。
「ルールブックには書かれていませんが、領民は全員死亡するのでは?」
「……は?」
思わず声が漏れた。
「もしくは、他の領地が所有権を主張できるようになるのかもしれません」
曖昧な返事だった。
玉座の間に緊張が走る。
「いずれにせよ、現在、領民の生殺与奪は陛下の手にある、ということです」
「……そうか……」
喉の奥が、ひどく乾く。
だが――迷っている時間はない。
「ならば、すぐに宣言とやらをしよう!」
「お待ちください」
即座に、デンスが制止した。
「?」
「宣言自体は簡単です。十四番領地の村々にある掲示板へ張り出し、その領地の領主の椅子に刻まれた名を、陛下の名前に書き替えればいいだけですから」
「では何が問題なんだ?」
「宣言した場合……その地を陛下の代わりに治める“代官”が必要になります」
「代官……」
――なるほど。
領民を救うには、ただ名前を掲げるだけでは足りない。
統治する“誰か”が必要になる。
「はい。しかし今のリベリオンに、そのような人的余裕はありません」
「……」
言葉が出ない。
――また、人の命を背負うのか。
顔が自然と険しくなる。
「そのような顔をなされるな」
デンスの声が、柔らかく響いた。
「私に、心当たりがございます」
「心当たりが?」
「はい。各地を偵察させておりまして……それで、うってつけの人物を発見いたしました」
「……!」
胸の奥に、わずかな光が差す。
「ただ……その方を味方に引き入れるには、陛下自ら交渉に赴かれるのがよろしいかと」
「……」
小さく息を吐く。
そして――
「……わかった。明日にでも、すぐに向かおう」
決断の言葉は、思った以上に静かだった。
玉座の間には、いつの間にか夕焼けが差し込んでいた。
赤く染まる光が、長く影を引いている。
まるで、この先の道を示すかのように。
翌日。
俺たちはリベリオンを北へと進んでいた。
メンバーは、俺、デンス、カイの部下である騎士が二人――そして。
「それで? なぜ君までいる?」
隣を無邪気に歩く少女に、半ば呆れながら問いかける。
「あら? 単純なことよ?」
ミスラは、いたずらにくすりと笑った。
「遠くない未来に王妃になる私が、夫に同行するのは当然でしょう?」
「……またその話か」
軽くため息をつく。
だが――この女が持つ情報は無視できない。
各国の王族しか知り得ない知識。
それは確かに魅力だった。
道中、何度か“魔物”に襲われた。
獣に似て非なる存在。
濁った殺気をまとった異形。
だが――
「はっ!」
騎士の一閃で、一体が沈む。
続けて、もう一体も。
さらに道中。
ランサーのサブクラス持ちだと明かしたミスラが、槍を一振りするだけで、残りの魔物もあっけなく崩れ落ちた。
――弱い。
(初期村の雑魚モンスターってところか)
一撃、あるいは二撃。
あまりにあっさりと倒されていくそれらを見て、そんなことを考えていた。
やがて、俺は話題を変える。
「デンス。これから会いに行く人物……どんな人なんだ?」
デンスは一瞬だけ間を置き、静かに口を開いた。
「そうですね……名は――リオデルカ・アストロガルドと申します」
その瞬間。
「――!!」
俺以外の全員の目が見開かれた。
空気が一変する。
「リオデルカ様って……まさか、“賢王”様ですか!?」
騎士の一人が、思わず声を上げる。
「えぇ。その賢王様です」
デンスは、淡々と頷いた。
「アストロガルド帝国建国以来、最も偉大な王と呼ばれた方ですよ!?」
騎士の興奮は隠しきれない。
「そう……あの方もこの島に来ていたのね……」
ミスラが小さく呟く。
「えぇ……幸か不幸か、この領地内に」
風が吹き抜ける。
――賢王。
その名が意味するものを、まだ俺は知らない。
だが確実に――
この出会いが、何かを大きく動かす。
そんな予感だけは、はっきりと胸にあった。




