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第14巻:如月令嬢は『電波の虚飾を信じない』  作者: アリス・リゼル


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第3話『対談』 ~section 1:権威の密室と、視界の隅の銀の匙~

 月見坂放送局のスタジオで二日間にわたって繰り広げられた、ドキュメンタリー撮影とクイズ番組の収録。

 それは、テレビ局という『虚飾』を前提とした巨大なシステムが、たった一人の十六歳の少女が持つ『物理的真実』の前に為す術もなく崩壊し、そして強引に再構築されるという、奇跡と絶望が入り混じった嵐のような時間であった。

 エイジング加工された偽物の網は白日の下に晒され、プラスチックの茶器は秒殺され、最後には市長の万年筆から、名もなき秘書の血の滲むような情動が暴き出された。

 如月コンツェルンの臨時嘱託員として、解答者席のデスクの下で必死にカンペを書き殴り、番組の完全崩壊を食い止め続けた僕の精神力は、すでに限界の底を突き破って未知の領域へと突入している。胃薬の消費量は過去最高を記録し、昨夜はベッドに入っても、ディレクターの悲鳴が耳の奥でこだましてまともに眠ることができなかった。


 そして今日。特番収録の三日目にして、最終日。

 僕たちは月見坂市の中心部にそびえ立つ、街のランドマークとも言える最高級ホテル『ホテル・セレーネ月見坂』の最上階、特別VIPサロンに足を踏み入れていた。

 ここは、月見坂市の要人たちが密談や重要な会合を行うために用意された、限られた者しか入ることのできない絶対的な聖域だ。以前、コンツェルンの三十周年記念パーティーの際にも訪れたことがあるが、何度来てもその重厚な空気には圧倒される。


「いいか、朔くん。……今日だけは、今日という日だけは、絶対に、何があっても、お嬢様を暴走させるなよ」


 僕の隣で、月見坂放送の敏腕ディレクターである泊宗一氏が、血走った目で僕の肩をガシリと掴み、呪詛のように低い声で囁いた。彼の顔には深い隈が刻まれ、高級スーツの着こなしもどこか精彩を欠いている。この数日間で、彼がどれほどのプレッシャーと戦ってきたかが痛いほど伝わってくる姿だった。


「分かってますよ。でも、如月さんを僕がコントロールできると思っている時点で、ディレクターの状況認識は甘すぎます。あの方は、自分の見たい真実しか見ないんですから」


「それでもだ! 今日の収録は、昨日までのバラエティとは次元が違うんだ!」


泊氏は悲痛な叫びを押し殺しながら、目の前に広がる重厚なサロンを指差した。


 ホテルの特別VIPサロンは、テレビ局の安っぽいスタジオセットなどではない。

 床には足音が一切響かない最高級のペルシャ絨毯が敷き詰められ、壁面には天井まで届く巨大なマホガニー製の書棚が備え付けられている。書棚には、革張りの重厚な洋書や、歴史的な文献がズラリと並んでいた。

 部屋の中央には、黒革の特注シングルソファが三脚と、クリスタルガラスのローテーブル。照明は、窓から差し込む自然光を模した暖色系の柔らかいスポットライトが、三つの座席を神々しく照らし出すように調整されている。

 どこからどう見ても、世界の命運を握るトップたちが語り合うのに相応しい、息を呑むほど完璧で美しい空間だった。


「今日のメイン企画は、『スマートシティ三十周年の歩みと未来』と題した、月見坂市のトップ三人による重厚な『鼎談(ていだん)』だ。……いいか、出演するのは、如月コンツェルン創業者一族のトップである如月弦十郎会長。そして、現在のコンツェルンを牽引する如月彰社長。さらに、月見坂市の現職市長、南雲(なぐも)四之助(しのすけ)氏だ。この街のインフラ、経済、そして政治の頂点に立つ三巨頭が一堂に会するんだぞ!」


 泊氏の言葉に、僕もゴクリと生唾を飲み込んだ。

 そう、今日の収録には、クイズ番組のようなおちゃらけた空気は一切存在しない。用意された台本も、バラエティ特有の笑いをとるためのものではなく、月見坂市の歴史と理念を市民に真摯に語りかけるための、極めて真面目で、社会的意義の重いものだ。


「この対談こそが、今回の特番の『良心』であり、絶対的な『背骨』なんだ。ここがブレれば、特番そのものの価値が消滅する。だからお嬢様には、対談が終わるまで、カメラの画角に絶対に入らない死角で、ただ静かに見学していてもらう。……頼んだぞ、朔くん。君は彼女の隣から一歩も離れるな。もし彼女が動こうとしたら、羽交い締めにしてでも止めろ」


 無茶苦茶な指示だったが、僕も今日ばかりは全力で如月さんを引き留める覚悟を決めていた。


 やがて、ホテルの廊下がにわかに騒がしくなり、数名のSPに先導されて、本日の主役である三人の男たちがサロンへと姿を現した。


 如月コンツェルン会長、如月弦十郎さん。八十歳を超えているとは思えないほど真っ直ぐに伸びた背筋と、白髪をオールバックに撫で付けたその姿は、歩く歴史そのもののような威容を誇っていた。鋭い眼光は、一瞥しただけで相手の力量を測り切るような凄みがある。

 その隣を歩くのは、如月コンツェルン社長であり、瑠璃さんの父親でもある如月彰さん。仕立ての良い濃紺のスーツを完璧に着こなし、理知的で穏やかな笑みを浮かべているが、その奥には巨大企業を牽引する冷徹な計算が隠されていることを僕は知っている。

 そして最後に、恰幅の良い身体に銀縁の眼鏡をかけた、月見坂市の現職市長、南雲四之助さん。昨日、その愛用の万年筆から秘書の苦労を暴かれた張本人であるが、今日は公の顔として、堂々たる政治家のオーラを纏っていた。


 この三人がサロンに入ってきた瞬間、室内の気圧がグンと下がったような錯覚を覚えた。

 テレビの演出など入り込む隙もない、本物の権力者たちが持つ『絶対的な質量』。スタッフたちは誰も言葉を発することができず、ただ緊張の面持ちで三人が黒革のソファに腰を下ろすのを見守っていた。


「おはようございます、会長、社長、南雲市長。本日はお忙しい中、誠にありがとうございます」


 泊氏が、額に冷や汗を浮かべながら深々と頭を下げた。


「うむ。月見坂の三十周年を総括する大切な番組だ。我々も、市民に直接言葉を届ける良い機会だと思っている。よろしく頼むよ」


 弦十郎会長が、低く、腹の底に響くような声で応じる。

 その言葉だけで、現場の空気がピリッと引き締まった。泊氏が「は、はいっ! 全力で撮影させていただきます!」と裏返った声で答える。


「それでは、そろそろ始めさせていただきますね」


 張り詰めた空気を和らげるように、明るく透き通った声が響いた。

 本日の進行役を務めるのは、月見坂放送局の看板アナウンサー、田中(たなか)有希(ゆき)さんだ。

 二十九歳という年齢でありながら、小柄でどこか幼さを残す可愛らしいビジュアルを持ち、老若男女問わず絶大な人気を誇る女子アナである。有名大学を首席で卒業したという極めて知的な頭脳を持ちながら、時折見せる『ドジっ子』な一面が、お茶の間の心を掴んで離さない。

 今日も彼女は、手元の進行用バインダーを落としそうになって「あっ、すみません!」と照れ笑いを浮かべ、その愛嬌で三巨頭の緊張感すらも見事に中和してみせた。


 僕は、カメラの画角から完全に外れたサロンの隅、重厚なカーテンの陰に立って、そのやり取りを見守っていた。

 そして僕のすぐ隣には、この厳粛な空気の中で、唯一、欠伸を噛み殺している令嬢が立っていた。


 如月瑠璃である。


 今日の如月さんは、ホテルでの対談というフォーマルな場に合わせてか、あるいは単なる彼女の美意識の赴くままか、深紅と漆黒を基調とした、極めて豪奢なヴィクトリアン調のロングドレスに身を包んでいた。

 上質な深紅のベルベット生地は、照明の光を吸い込むようにしっとりとした艶を放ち、コルセットでタイトに締め上げられた細い腰から、幾重にも重ねられた漆黒のレースのスカートが床に向かって優雅に広がっている。首元には、彼女の白い肌を際立たせる黒いレースのチョーカー。背中まで届く艶やかな黒髪は、ハーフアップに結われ、真紅のリボンで飾られていた。

 百四十七センチという小柄な体躯でありながら、その完成された美しさと、周囲の大人たちを歯牙にもかけない冷徹な威厳は、ある意味で三巨頭にも引けを取らない存在感を放っていた。


「退屈な空間じゃ。権力者たちが集まり、あらかじめ用意された美辞麗句を並べ立てるだけの儀式。このようなものの撮影に、なぜわしが立ち会わねばならぬのじゃ」


 如月さんが、不機嫌そうに小さな声で呟いた。


「我慢してくださいよ、如月さん。今日は特番の背骨なんです。おじい様やお父様が立派に話しているんですから、家族として静かに見守るのも大事な仕事ですよ」


「じいじや父が、この月見坂をクリーンに治めてきたことは、わしも知っておる。コンツェルンの経営に裏取引や不正などないこともな。だからこそ、わざわざ電波に乗せて語るほどの裏の真実など存在せぬ。真実が完全に表に出ているものを観察したところで、知的好奇心は全く刺激されぬ」


 如月さんはアメジストの瞳を細め、ソファに座る三人から興味を失ったように視線を外した。

 どうやら、三人の対談内容そのものに突っ込みを入れる気はないらしい。僕は心の中で安堵の息を吐き、これなら無事に撮影が終わるかもしれないと希望を抱いた。


『さあ、本番五秒前! 4、3、2……キュー!』


 フロアディレクターの静かな合図と共に、三台のカメラの赤いランプが点灯した。

 重厚な対談が、静かに幕を開ける。


「月見坂市が、次世代型スマートシティとしての基本区画設定を完了し、都市機能の全面的なネットワーク統合を宣言してから、今年で三十年を迎えます。弦十郎会長。この三十年という月日を、どのように振り返られますか」


 進行役の田中アナウンサーの淀みない問いかけに、弦十郎会長がゆっくりと頷いた。


「一言で言えば、泥臭い信頼の構築であったな。スマートシティと聞けば、すべてがコンピューターとデータで自動化された、冷たい都市を想像するかもしれん。だが、我々如月コンツェルンが目指したのは、あくまで『人間のための街』だ。インフラの効率化は、市民の安全と豊かな時間を生み出すための手段に過ぎない。その理念を曲げず、決して不正な利益を追わず、透明性を貫いてきたからこそ、市民の皆様からの信頼を得ることができたのだと思っている」


 弦十郎会長の言葉には、一切の淀みも、嘘もなかった。

 如月コンツェルンは、事実としてクリーンな企業である。裏取引や談合といった古き悪しき不正義とは無縁であり、その清廉潔白な経営努力こそが、月見坂市の繁栄の礎となっているのだ。


「会長の仰る通りです」


 南雲市長が、深く頷きながら言葉を引き継いだ。


「行政の立場からも、如月コンツェルンが提供する莫大なデータとインフラ技術には、常に助けられてきました。しかし、データはあくまでデータです。最終的に街を動かすのは、人と人との繋がりであり、思いやりです。我々はこれからも、テクノロジーの影に隠れがちな『名もなき市民の声』を大切に拾い上げ、より良い街づくりに邁進していく所存です」


 南雲市長の言葉の端々に、昨日のクイズ番組の『万年筆』の鑑定で暴かれた「名もなき秘書への感謝」のようなものが微かに滲んでいるように感じられたのは、僕の気のせいだろうか。


 対談は、完璧な進行を見せていた。

 三人の言葉には重みがあり、未来への展望があり、そして何より、テレビ的な安っぽい演出を必要としない『本物の言葉の力』があった。

 サブコントロールルームにいる泊ディレクターも、おそらく今頃はインカムの向こうで感動の涙を流し、ガッツポーズを決めていることだろう。このままいけば、特番の『良心』は完璧な形で映像に収められる。

 僕はカーテンの陰で、ホッと胸を撫で下ろした。


 だが。

 僕の隣に立つ深紅のドレスの少女の視線は、三人の権力者ではなく、彼らの背後に広がる『重厚なマホガニーの書棚』の一点に、完全に釘付けになっていたのだ。


「……」


 如月さんのアメジストの瞳が、剣呑な光を帯びて細められる。

 彼女は腕を組み、不機嫌そうに唇を尖らせていた。


「如月さん……? どうしたんですか。対談は完璧に進んでますよ」


 僕が小声で尋ねると、如月さんは僕を睨みつけ、そして、忌々しげに吐き捨てた。


「じいじたちの言葉に嘘はない。あの三人の会話は極めて論理的じゃ。だが……あの三人を囲むこの『空間の設え』が、あまりにも無神経で、吐き気を催すほどに不自然じゃ」


「不自然? ホテルの備品の話ですか? テレビ局のセットじゃなくて、ここはホテル・セレーネ月見坂の本物のVIPサロンですよ」


「お主は本当に、表面の色合いしか見えぬようじゃな、サクタロウ。テレビ局の人間が、映像の見栄えを良くするためだけに、この神聖なサロンの調度品を勝手に『再配置』したことが分からぬか。……あのマホガニーの書棚の三段目、右端を見るがよい」


 如月さんが、白く細い指先で、カメラのフレームの奥に位置する書棚の一角を指し示した。

 僕も目を凝らして、その場所を見る。

 そこには、革張りの分厚い洋書が数冊並べられ、その手前に、黒いベルベットが張られた小さなスタンドが置かれていた。そして、そのスタンドの上に、一本の『銀の匙』が、アンティークの装飾品のように美しく立てかけられて飾られていた。


「銀のスプーン……ですよね? ヨーロッパの貴族の書斎っぽくて、映像のアクセントとしてはオシャレな配置じゃないですか。美術さんが気を利かせて置いたんでしょう」


「オシャレ、じゃと?」


 如月さんの声の温度が、さらに数度下がった。


「モノのルーツを無視した、ただの見栄えだけの虚飾。あれを『オシャレ』と称して知的な書斎の背景に置くなど、美術スタッフの教養の無さを自らひけらかしているようなものじゃ」


 如月さんは、ドレスの隠しポケットから、静かに『純白の手袋』を取り出した。

 マズい。彼女のこの動きは、完全に『鑑定』に入る合図だ。

 だが、今は本番中だ。月見坂市のトップ三人が真面目な対談をしている真っ最中である。ここで彼女がカメラの前に飛び出せば、番組は完全に終わる。


「ちょ、待ってください如月さん! あれはただの背景です! 対談の邪魔をしちゃダメです! 泊ディレクターが月見坂湾に身を投げちゃいますから!」


 僕が必死に彼女の腕を掴もうとしたが、如月さんは冷ややかに鼻を鳴らした。


「安心せよ。わしはあの下等なカメラの画角に入るつもりなど毛頭ない。お主らが勝手に回している電波の撮影など、どうでもよいことじゃ。わしはただ、あの不自然な銀の匙のルーツを解き明かすだけのこと」


 如月さんはそう言うと、カーテンの陰から、カメラの死角となるギリギリのラインを縫うようにして、音もなくスリップ移動を開始した。

 彼女の目指す先は、対談をしている三人の背後、カメラには映らないが、三人の視界の端には確実に入る位置――マホガニーの書棚の真横だった。


「ちょっ……如月さん!?」


 僕の制止も虚しく、如月さんは書棚の真横、カメラのフレームからわずか数センチ外れた『完全なる死角』に陣取った。

 映像としては、彼女の姿は一切映っていない。対談の進行には、物理的な影響は何一つないはずだった。

 しかし。


 カチャリ。


 如月さんが、ドレスの腰から重厚な銀の『懐中時計』を取り出し、蓋を開けた。

 静寂に包まれたVIPサロンに、機械式時計の規則正しい秒針の音が、微かに、しかし確かな存在感を持って響き始めたのだ。


 チッ、チッ、チッ、チッ……。


 如月さんは純白の手袋をはめた両手を胸の前で組み、目を閉じ、完全に『調律』の儀式に入った。

 その異様すぎる気配。

 カメラには映っていない。だが、黒革のソファに座り、真面目な顔で『未来の都市構想』について語っていた弦十郎会長、彰社長、南雲市長の三人の視界の端には、突如として『白手袋をはめ、懐中時計の音を鳴らしながら、殺気にも似た強烈なオーラで銀の匙を睨みつける十六歳の少女』の姿が、鮮明に飛び込んできたのだ。


「えー、次世代の通信インフラにおいては、量子暗号を用いた……」


 彰社長の言葉が、フッと途切れた。

 彼の視線が、一瞬だけ、カメラの横に立つ娘の姿へと引き寄せられる。


「しゃ、社長? 量子暗号を用いた、何でしょうか?」


 田中アナウンサーが不思議そうに首を傾げる。彼女の位置からは、機材の影になって瑠璃さんの姿は見えていない。


「あ、ああ、いや。用いた、その……堅牢なセキュリティ網を構築し、市民のプライバシーを、その……」


 冷静沈着なはずの彰社長の額に、タラリと一筋の冷や汗が流れた。

 無理もない。娘が『モノのルーツを暴く』時のあの完全没入状態を、彼は家族としてよく知っている。しかも、なぜかカメラに映らないギリギリの位置で、ホテル備品の銀の匙を獲物を狙う鷹のような目つきで凝視しているのだ。気になって気になって、対談どころではない。


「そ、そうですな! プライバシーの保護は行政としても急務でありまして……」


 南雲市長も、彰社長の視線を追って瑠璃さんの姿に気づき、動揺を隠しきれずに声が上ずった。

 彼にとって、如月瑠璃は『自分の愛用の万年筆から、秘書の苦労を公共の電波で暴き立てた恐るべき少女』である。そんな彼女が、今度は自分の背後で、純白の手袋と銀のルーペを構えながら何かを鑑定しようとしているのだ。生きた心地がしないだろう。


「うむ。情報の透明性こそが、信頼の……」


 百戦錬磨の弦十郎会長でさえ、孫娘の放つ異様なプレッシャーに、微かに眉をひそめていた。

 カメラのフレーム内では、三人の権力者が真面目な顔で対談を続けている。

 しかし、フレームの外では、一人の少女が放つ『真実への執着』という名のサイレントな圧力が、彼らの精神をゴリゴリと削り取っていた。


「……さて。調律は完了じゃ」


 如月さんは、三人の冷や汗など全く意に介することなく、ゆっくりと目を開いた。

 そして、銀のルーペを右目に当て、カメラの画角の境界線ギリギリから身を乗り出すようにして、スタンドに飾られた『銀の匙』の表面を嘗め回すように観察し始めた。

 撮影の映像には影響はない。だが、三巨頭の精神力は、すでに風前の灯火となっていた。

 僕はカーテンの陰で、この奇妙で絶望的な『フレーム外の真実暴き』が、対談を崩壊させる前に終わってくれることを、ただひたすらに祈るしかなかった。



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