眼帯少女の1日(夜)
17時、夕食の準備に入る。ロイスとマルコ、そして白刃の3人が担当する。朝食を作った有栖たちはできるまでの間、自由時間となる。シルヴァーノとアルドは自室で過ごし、ルークと有栖は食堂にいた。
「手伝わなくてもいいのでしょうか。」
いつも誰かを手伝っている有栖にとって、何もしない時間はかえって落ち着かないようだ。それを察したルークが静かに諭す。
「全員で話し合って決めたことだ。あまり気にせず、ゆっくりすればいい。」
そう言うと片手にグラスを持ち、ブランデーを飲みながら本を読む。束の間の自由を楽しむ彼をみて、有栖はこれ以上考えないことにした。キッチンでは3人がそれぞれの得意料理を作っている。
マルコはパスタにかけるトマトソースを作っている。オリーブオイルでニンニクと玉ねぎを最初に炒め、そこに皮剥きしたトマトを加えて煮込む。トマトのうま味と酸味が調和した、旨いソースだ。ただし、たまに分量を間違える時がある。
「マルコ、お前ニンニク何個入れた?」
「えっと1、2…5つかな。」
「それは入れ過ぎ。」
隣ではロイスが肉を焼きながら呆れ顔を見せる。彼は猟師であり、山に行っては鳥や鹿、猪などを仕留めてくる。解体も自分で行うため、いつも新鮮な肉が手に入るのだ。今日は猪のステーキだ。
「ルーク、焼き方はどうする?」
「ミディアム。」
「有栖は?」
「私はウェルダンで。」
「了解。シルヴァーノとアルドはいつも通りだな。白刃は?」
「…レアで。」
「あいよ!マルコ、お前は?」
「程々のレアで。」
「…程々のレアって何?」
ボソッと呟く白刃はサラダに使う野菜を切っている。彼の作るサラダは栄養バランスも良く、食卓に彩りを与える。かつては肉中心だったが、今や1番の人気メニューになっている。
「今日はいつもより量が多いな。」
「…白蘭から頼まれた。」
「彼女がどうして?」
「…肌荒れしているから、だと。」
「肌荒れ…。」
ちょうどその時、白蘭が帰宅した。彼女は今『青藍学園』に通い、学生生活を送っている。
「ただいま~。」
「「「「お帰り。」」」」
「お帰りなさい、白蘭ちゃん。」
「有栖お姉様~~!」
帰宅して早々、有栖に抱き着く白蘭。病院の件以来、彼女は有栖を姉のように慕っている。
「遅かったな、何かあったのか?」
「ちょっと面倒くさいチンピラに絡まれて・・・。」
「なに?」
彼女の発言に白刃の雰囲気が変わった。
「どこにいる?相手の数は?痛い目にあわせてやる。」
普段の彼からは想像できない、荒い語気と早口で妹に尋ねる。対して白蘭は、そんな兄の状態に慣れている様だ。落ち着いた口調でただ一言。
「大丈夫、もうやったから。」
「・・・ならいい。」
それだけで白刃はいつもの調子に戻った。
(今さらっと恐ろしいことを言ったような・・・)
そう思ったが、有栖は聞かなかったことにした。
「とりあえず着替えてこい。もうすぐできる。」
「分かった。」
兄に言われて白蘭は自分の部屋へ行った。入れ替わりで今度はクリスが帰ってきた。
「ただいま・・・。」
「おかえり・・・どうした、その顔?」
彼の姿にルークは目を見開いた。服がボロボロに破れ、右目の周辺は青紫色に腫れ、額からは血が出ていた。まるで強盗に襲われたかのような悲惨な姿になっていた。
「今日診た患者が暴れてな。落ち着かせるのに苦労したよ。」
「それはご苦労なことだ。もうすぐ夕食だが、どうする?」
「俺はシャワーを浴びる。先に食べていてくれ。」
「分かった。」
そう言うとクリスはバスルームへと向かった。それからしばらくして、夕食の準備ができた。
「よしできたぞ!有栖、アルドとシルヴァーノ、それから白蘭を呼んできてくれ。」
「は、はい。」
ロイスに言われて有栖は向かった。彼女に呼ばれて皆が食堂に集まり、タイミングよくクリスもシャワーから戻って来た。そして全員が席に着き、賑やかな夕食が始まった。
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1日でやること全てを終え、有栖は1人自室にいた。彼女は寝る前に毎日していることがある。日記だ。
「今日はマルコさんのお店で手伝いをして、それから白刃さんと一緒に掃除して…。」
その日にあったことを振り返り、記入する。中断していた時もあったがルーク達と出会ってから余裕ができ、つける様になったのだ。
「こんな生活ができるなんてね。」
彼等と出会ってから比較的平穏な生活を送れるようになった有栖。それ故か、彼女自身にも変化が訪れた。
「もう信じてもいいのかな…。」
出会う前の日々を振り返り、ふと姿見に写る今の自分に目を移す。傷の治りが早くなり、髪も肌も綺麗になった。何よりも、表情が柔らかくなった。以前より笑うことも増えてきた。
「まだ安心はできないけど、そろそろ私も覚悟を決めないと。」
ブラッカーズのメンバーとして、1人の人間として生きること。少しずつだが彼女の中で希望が芽生えてきたのだ。人生をリベンジする希望が。
「とりあえず、今日はもう寝よう。」
日記を書き終え、ベッドに入る。明日も平穏に過ごせることを願い、目をつぶるのだった。




