ドロー
「……う、んっ。」
戦いが終わってしばらく後、圓龍が意識を取り戻した。傷だらけの体に鞭を打って何とか体を起こし、辺りを見る。既にルークの姿はなく、代わりに白色の大きな箱が置かれていた。その上には、1枚の手紙が置かれていた。
「何だ、これ…?」
警戒しながら恐る恐る箱を開ける。中に入っていたのは大量の金塊だった。その眩い輝きに圓龍は圧倒され、息を呑んだ。
「どうしてこんなものが…いったい誰が?」
ふと、手紙の存在を思い出した。圓龍は添えられた手紙を開き、内容を読んだ。
『圓龍、お前に置き土産だ。これはお前らのアジトから見つけたものだ。以前、直義から金塊が眠っているという情報をもらい、試しに調査したんだ。まさか本当にあるとは思っていなかったがな。とにかく、この金塊はお前達のものだ。これを使ってエフタルを復興するんだ。俺達ブラッカーズも協力する。だから、有栖を攫う様なことはするなよ。じゃあな。』
ルーク・レインラント
「…あいつ。」
手紙を読み終え、金塊に目を向ける。ふと、顔に手をあてると口角が上がっている。それに気づいた途端、自然と笑い声が出てきた。
「……ふふっ、ははははは!」
戦いに負けた圓龍だったが、不思議と悔しさを感じていなかった。むしろ清々しい気持ちで、前向きに未来を考えられる様になっていた。
(この土産物は有り難く受け取ろう。いずれ必ず返す。この恩も、そしてリベンジも!)
決意を新たに、圓龍はエフタルの再興に向けて再び歩み始めるのだった。
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一方、有栖を救出したブラッカーズはベドウィン地区に戻り、無事に蝙蝠の巣へ帰ることができた。
「痛っ!」
「沁みたか?」
「大丈夫だ。気にせず続けてくれ。」
ルークは今、クリスの治療を受けている。圓龍との激しい勝負で顔は傷や痣だらけのになっていた。いつもならアルドや白刃が手伝ってくれるが2人はいない。仕事場である銭湯の様子を見に行っているのだ。ロイスとマルコも直義に報告するため、今はいない。その代わりにガストーネとエルモが手伝ってくれている。
「悪りぃな、2人とも。ネグルに帰って早々巻き込んでしまって。」
「いいよ。俺達から首を突っ込んだわけだし。仲間を救えたから問題ない。」
「まぁ、あの子…有栖から逃げられた時は焦ったけどな。」
2人はそう言いながら傷口に薬を塗り、包帯を巻く。実に手際がいい。
「帰ってきたら紹介する予定だったのだが、まさか先に出会うとはな。しかもこれがきっかけでRAIDとの問題も解決した。偶然か、それとも彼女が導いた幸運か。」
「どちらかというと不運だ。」
しみじみと言うルークにクリスがつっこむ。治療はあと少しで終わりそうだ。
「そういえば有栖は?」
「2階のベランダにいる。風に当たりたいと。」
クリスが答え、ルークはそうか、と納得した。
「あの子、何で仲間になったんだ?マルコさんから拾ったと聞いたが…。」
「その通りだ。ある取引を襲撃した時にその場にいた。左目もその時に失った。」
「じゃあ、あの目は義眼か?」
「いや。あれは恐らく、副産物だ。」
「どういうことだ?」
「実はな…。」
エルモの疑問にクリスは答える。有栖に起きたある変化について。
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「疲れた…。」
そう溜め息を吐きながら、有栖は1人ベランダにいた。冷たくも心地よい風が彼女の体と心を癒し、気持ちを楽にさせてくれる。楽になったことで色々と考える余裕ができた。有栖は外の景色を眺めながら今日のことを振り返る。
「圓龍さん、大丈夫かしら。」
考えるのはやはり圓龍のことだった。危険に巻き込んだ張本人ではあるが、彼女の思いや覚悟を知れば恨みもない。
「同じ女性としても彼女は尊敬できる。」
初めて会った時から気づき、疑問に思っていた。なぜ男のふりをするのか、と。彼女の答えはこうだった。
『RAIDもそうだけど、ストリートギャングは基本的に男社会だ。そんな中で女性がリーダーであるためには強くなければならない。自分を男と認識すれば強くなれる、そう思って男のふりをしていたんだ。でも、自分を偽ったところで本質は変わらないよね。だから今日限りでやめるよ。これからは本来の自分で生きていくよ。』
「自分をしっかり持っている。私にもできるかしら…。」
何にせよ、RAIDとの争いは終わった。これをきっかけに両チームが和解し、ネグルが平穏無事になれば良いのだが。そんなことを考える自分に驚く有栖だった。
「ここにいたのか。」
「シルヴァーノさん。」
声を掛けられ、振り向くとシルヴァーノが立っていた。彼は有栖の顔を見ると、心配した表情で尋ねた。
「左目は大丈夫か?」
「…ええ。今のところは。」
そう答えると有栖は左目の眼帯を外し、シルヴァーノに見せた。月明かりに照らされたのは、青く輝く瞳だった。
「これは一体?」
「クリスが言うには、君の能力らしい。」
「私の?」
「君の知らない潜在的な能力があの日開花した。具体的にどういう能力かは分からないが、そのおかげで君の左目は再生した。もっとも、元の目とは違うようだが。」
「……。」
「何が見える?」
「…色が、見えます。」
「色?」
「シルヴァーノさんの周りに灰色のもやがかかっています。」
「俺の周りに灰色のもやが…。他の奴もそう見えたか?」
「はい。違う色ですが、同じ様なもやがかかっています。」
「なるほど、了解した。クリスに報告しておこう。彼がいいと言うまで眼帯は付けていてくれ。」
「はい。」
シルヴァーノは踵を返してその場を後にした。一人残った有栖は眼帯を付けなおし、再び外の景色に目をやる。
「これからどうなるのかしら…。」
変わりゆく自分と周囲の日々に不安を持ちつつも、いい流れに変化していると心の中で願う有栖だった。




