賭け
圓龍「死闘だった。」
「大丈夫かな…。」
「何がだ?」
聞こえない声でつぶやいたはずがマルコに拾われてしまい、有栖は思わず声を詰まらせる。
「あっ、えっと…その…何でもありません。」
「…。」
何でもない、そう言う有栖の表情に不安が表れているのをマルコは見逃さなかった。彼だけではない。アルドもクリスもそして白刃も、彼女が何を心配しているのか理解している。しばらくの沈黙が続いた後、白刃が口を開く。
「…戻るか?」
「えっ?」
白刃が提案すると、アルドとクリスも同意した。
「このまま何もせずに帰るのも癪だからな。」
「あいつらの手当も必要だろう。あれだけの敵を相手にして無傷ではあるまい。」
クリスとアルドの意見を聞いてマルコは頷き、戻ることにした。有栖は申し訳なく感じ、下を向いた。彼女の気持ちを察したマルコが優しく声をかける。
「君の気持はよく分かる。だけど申し訳ないと感じなくていい。俺達は家族だ。家族の誰かが困っているのなら、それを助けるのは当然だ。そう思わないか?」
「家族…。」
その言葉を久しく聞いた有栖は、自分の胸に何か熱くこみあげてくるものを感じた。気付けば目からうっすらと涙が溢れていた。有栖は涙をぬぐうと息をつき、強い眼差しでマルコ達を見る。彼女の表情から不安は消え、決心がついたようだ。
「落ち着いた様だな。よし、戻るぞ!」
「「「「了解!」」」」
マルコを先頭に全員が引き返した。有栖は心の中で圓龍の無事を祈った。すると再び白刃が有栖に言った。
「…圓龍は、強い。」
「えっ?」
「簡単にやられる奴ではない…。あの者の強さはルークと同等、もしくはそれ以上だ…。」
「それ以上?」
「ああ。下手をすれば、負けるのはルークのほうかもしれない・・・。」
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白刃の言うことは正しかった。実際、攻めているのは圓龍だった。ルークは防戦一方で手も足も出せないでいたのだ。
「おらおらおらっ!」
「くっ!」
両腕を盾にして何とかダメージを防ぐ。だがいつまで保てるかは分からない。このまま何もしなければ負ける可能性もある。それだけは避けたい。
(長期戦では奴の方が有利か。)
ならば一撃で相手を倒すのみ。幸いルークはその手のやり方が得意である。冷静に相手の動きを観察し、見極める。攻撃と攻撃の間にある隙をとらえ、手薄な部分に渾身の一撃を入れれば倒せる。
(よしっ!)
ルークは気づいた。圓龍は前方に集中し過ぎるあまり、側方への意識が薄れている。そのことに気付いていない今こそ、好機である。
「ふんっ!」
「何っ!?」
突然防御を解き、圓龍の視界からルークが消えた。正確には左に避けただけだが素早すぎて追いつかなかったのだ。ルークは距離を詰め、圓龍を押し倒す。攻めに集中し、防御を怠った圓龍は背中から倒れてしまった。衝撃が脊椎から全体に伝わる。
「ぐわっ!」
そこにルークの追撃が加わる。倒れたところに彼の強烈な蹴りが圓龍の腹部に入ったのだ。内臓が圧迫され、苦悶の表情になる。
「ぐううっ!」
苦しむ圓龍を見てルークはとどめを刺そうと近づく。しかし、それがまずかった。
「やりやがったな!」
「何っ?!」
圓龍はすぐに動いたのだ。彼はルークの足を掴むと倒れた体勢から飛び起き、彼の背後に回る。そのまま腕を首に回して絞めあげた。薄れゆく意識に危機を感じたルークは圓龍の顔に手をやり、目を突こうとした。思わず拘束を解く圓龍。ルークは素早く距離を取り、身構える。
(仕方ない、一か八かだ。)
覚悟を決めたルークはふう、と息をつくと右のポケットから葉棒を、左のポケットからライターを取り出し、葉棒を口に咥えて火を付けた。一息吸って吐くと、白い煙がベールの様に空中を舞い、やがて消えていった。
「こんな時に一服とはね。」
「これが最後になるかもしれないからな。」
そう言うとルークは吸いかけの葉棒をケースにしまい、まっすぐに圓龍を見据える。その凍て刺すような目付きに圓龍は一瞬圧倒された。
(何か仕掛けてくるな。)
ただならぬルークの気迫に圓龍も構える。しばしの沈黙が二人の間に流れる。そして…。
「行くぞ!」
「来い!」
ルークが圓龍に向って真っすぐ走り出した。対する圓龍は防御の構えをとる。いつの間にか攻守の立場が逆転し、ルークが攻める側になっていた。ただ、ルークは先に攻められていたことで体力が限界である。恐らく、これが最後の一撃になるだろう。
「特攻か!?」
「そう思うか?」
互いの距離が1mのところでルークは軽くジャンプすると体をターンさせ、回し蹴りを入れる。圓龍はそれを左手で受け止めようとするがルークの力が強く、体勢を崩してしまった。
「やべっ!」
「終わりだ!」
着地と同時に圓龍の腹部へパンチを入れる。圓龍は後ろに飛ばされ、部屋の中にある柱に叩きつけられた。そのまま、彼は動かなくなった。
「終わった…。」
そう一言つぶやき、その場に座り込む。圓龍は倒したが戦いに勝ったとは言えない。最初の方で攻撃を受け続けた腕は、先ほどのパンチで最後の力を振り絞り、力が入らなくなっていた。体の方もボロボロで動くこともできない。もし今、敵の増援が来れば、負けるのは自分だろう。
(ここまでだな…。)
葉棒を口に咥え、火を点けようとするも手が震えてなかなか点かない。ようやく点いたが葉棒は口から落ちて床に転がり、火は消えた。
「はぁ…。」
ルークはため息を吐くと背中から倒れ、天井を仰いだ。そして静かに目を閉じ、深い眠りについたのだった。




