毒をもって毒に抗う②
キングコブラ
コブラ科キングコブラ属
全長3〜4m。インド東部、カンボジア、タイ、ネパール等に生息。
世界最大の毒蛇。神経毒。毒自体は強くないが体が大きいため、毒の量が多く、現地では一咬みで象を殺すといわれている。一咬みで最大7mlの毒を注入し、これは大人20人分の致死量にあたる。
主食は別の蛇。
ガストーネがゴルビーに勝利したその頃、エルモと燈蓋は未だ死闘を繰り広げていた。燈蓋のサーベル『コーラルスネーク』は猛毒の剣だ。噛まれれば相手は5分と待たずに死ぬ。その気になれば短時間で勝負をつけることができるが、燈蓋は知っている。エルモの武器の恐ろしさを。
(奴の攻撃を受ければこっちが喰われる。油断はできない。)
燈蓋は手堅く地道に進んだ。警戒を強め、素早い剣捌きで攻める。エルモも身を守るために応戦する。しかし段々と後ろに押され、遂には部屋の隅に追い詰められた。
(よし!狭い空間であの大きさの武器は使えまい!)
とどめの一撃を与えようとサーベルを突き刺す燈蓋。だがエルモに刺さることはなかった。予想外なことが起こったのだ。
「何!?」
エルモは剣を天井に刺すとその場でジャンプし、柄を握ってぶら下がる。更に燈蓋のサーベルを足で挟み、動きを止めたのだ。
「くっ!は、離せ!」
突然のことに戸惑う燈蓋。一方でエルモは燈蓋と一緒に剣を引き寄せ、後ろに倒すと柄から手を離して飛び降りた。必然的にエルモと燈蓋の場所が入れ替わる。立場的には燈蓋の方が不利である。しかし彼の顔には笑みがあった。
「流石だな。こんな芸当ができるとは。だがエルモ!貴様は武器を失った!お前に勝ち目はないぞ!」
そう言うと、燈蓋は天井に刺さったエルモの剣を引き抜き、手に持った。二刀流で戦うつもりだ。
「貴様の剣が持つ毒は俺のより強い!貴様は俺の手によって、自らの毒で倒れるのだ!」
声を高らかに上げ、勝利を確信する。そして両手に持った剣でエルモに斬りかかる。ところが。
「あ、あれ?」
何故か燈蓋の動きが止まった。否、動けなくなったのだ。まるで、強力な毒にやられたかのように。
「な、何で?」
「お前、俺に言ってたな。価値を分かっていないって。確かにその通りだ。俺は自分の作った剣が名剣だったことを知らなかったからな。」
「つ、作っただと?」
「そうだ。俺の剣は一から作ったものだ。刃に含まれている毒は自分で調合した。当然、名前も自分でつけた。有名な鍛治職人が作ったものでも、ましてや名のある剣豪が使っていたものでもない。素人が見様見真似でそれらしく作り、ただのギャングが使っている両刃の剣だ。外見だけは拘っているが、まさか名剣と評されていたとはな。」
「嘘、だろ…。」
「残念ながら本当だ。俺は強力かつ頑丈さを武器に求める。前者はさっき俺がとった行動で分かるだろう。後者は切れ味もそうだが、俺が調合した毒の効果もある。今、お前が味わっているのがそれだ。」
「俺は…斬られて…いない…はずだ…。」
「ああ。お前は斬られていない。刃から滲み出た毒が柄を伝い、お前の手に触れたのさ。」
「な…に…!」
痺れる体を動かしながら燈蓋は自分の手を見る。確かに汗ではない、何かの液体で濡れていた。
「貴様は…何故…平気だ…?!」
意識が朦朧としてきた中、最後の力を振り絞ってエルモに尋ねる。エルモは燈蓋の前で屈み、じっと見た。
「毒蛇が自分の毒で死ぬことはない。少しずつ体に打って耐性を手に入れた。それと安心しろ。毒とはいえ、致死性ではない。体が痺れるだけだ。まぁ、量が多いから意識を失うかもな。」
「くそっ…!王は…取れなかったか!」
そう言い残して燈蓋は気を失った。エルモは燈蓋の状態を確認すると、自分の剣を拾い、鞘に納めた。ちょうどその時、ガストーネがやってきた。
「終わったか、エルモ?」
「ああ、何とかな。」
「燈蓋は?死んだのか?」
「いや、気を失っただけだ。毒性は弱いから死ぬことはないが、大量に打てば戦闘不能にできる。」
「質の不足を量で補う、か。『キングコブラ』の名前をつけた理由がやっと理解できたぜ。」
「できるだけ争いは避けたいからな。毒は身を守るためであり、攻撃のためではない。まぁ、状況によるがな。」
「なるほど。流石だな、エルモ。」
そしてガストーネとエルモは部屋を後にした。こうして、毒蛇同士の戦いは幕を閉じたのだった。




