毒をもって毒に抗う
ハララカ
クサリヘビ科ヤジリハブ属。別名ジャララカ、ハララカアメリカハブ。
全長1~1.5m。最大1.6m。ブラジル南部〜アルゼンチン北部にかけて生息。
毒は出血毒。非常に強く、噛まれると点状出血や水疱、あざ。最悪低血圧やアナフィラキシーショック、壊死を起こす。また毒量が多く、後遺症に苦しむ可能性が高い。
一方で毒はカプトプリルという高血圧や心不全の治療薬の材料にもなる。
かつてこの世界には『トランス王国』という国が存在した。小さな国であったが肥沃な土地と豊富な地下資源のおかげで繁栄し、約700年もの間、独立を保つことができていた。しかし5年前、ある2人の男たちによって国は消滅した。現在、その場所に人は住んでおらず、城や街は廃墟と化し、草や苔に覆われている。もはや栄えていた頃の面影はなく、長く続いた歴史は自然の中に消えてしまっている。
「その2人の男というのが…。」
「ああ。ガストーネとエルモだ。」
「どうしてそんなことを…。」
有栖が驚いた表情で尋ねると、クリスが首を横に振った。
「分からない。その時の俺はまだブラッカーズに入っていなかったから詳しいことは…。」
「子供だ。子供が原因だ。」
クリス達が振り返ると、マルコが立っていた。彼の後ろにはアルドも控えている。
「アルド!無事だったか?」
「ああ、問題ない。例の物も手に入れた。これで全て解決する。」
(例の物?)
何のことか尋ねようとした有栖だったが、その前に白刃が口を開いた。
「…それで?子供が原因とは何だ?」
「…5年前、仕事でトランス王国を訪れたガストーネとエルモはある光景を目にした。武器を持った憲兵が、ストリートチルドレンに難癖つけて暴力を振るっているのをな。」
マルコがリーフスティックに火を付けながら淡々と話す。有栖達はその場に座り、黙って耳を傾ける。
「あの2人もかつてはストリート育ちだ。何か思うところがあったのだろう。とにかく2人は憲兵に止める様に言った。この時2人は武器を使っていない。あくまで穏便に対処するつもりだった。だが相手の憲兵は全く応じず、それどころか標的を2人に変えた。武器を使って脅せば屈すると思ったのだろう。まぁ、結果はその逆だったがな。」
「…屈するどころかその憲兵を返り討ちにしたのだな?」
白刃が言うと、マルコは首を縦に振った。
「その後、憲兵が仲間を呼んで2人を取り囲んだ。何でも、一個分隊近くの人数が来たらしい。だが誰も捕らえることは出来ず、全員倒された。その後、ガストーネとエルモはその場を離れ、身を隠した。報告を受けた国王は、面子を保つ為に血眼になって探したらしい。当然だよな。たった2人の男達に分隊が壊滅したのだから。」
「それで2人は捕まったのですか?」
「いや、捕まらなかった。憲兵と遭遇することはあったがその度に憲兵を全員倒していたからな。」
「マジかよ…。」
クリスが驚きの言葉を漏らすと、マルコに代わりアルドが話を続ける。
「元々トランス王国は評判の悪い国だった。国王とその一族による絶対王政で、国民は半ば奴隷の様に酷使されていた。逆らえば憲兵に捕まって問答無用で牢獄行き、もしくは国外追放、最悪処刑だ。そんな扱いを受けていた国民が、たった2人で国家権力に刃向かうのを見たらどう思う?応援するよな?2人は国民に匿われながら仕事を終えるまで国に滞在した。憲兵を倒しながら、な。」
「一体、何の仕事を?」
「内部調査だ。戦争で使われる武器の製造がトランス王国で行われていることを聞いた『大迫仁』が、うちの大将に調査を依頼したんだ。それでガストーネとエルモを派遣した。まさか憲兵に売られた喧嘩を買うとは思っていなかったが。」
「その後はどうなったのですか?」
有栖が尋ねると、マルコが2本目のリーフスティックに火を付けながら再び続きを話した。
「最初こそ憲兵達も捕まえようとやる気になっていた。だがなかなか見つからないし、見つけても強すぎて捕まらない。戦っては全員倒される、それを何度も繰り返せば動員できる兵士の数も減り、士気も下がる。しかも当時のトランス王国は他国と戦争中で兵の殆どを前線に送っていたから、国内に残っていた兵士の数は微々たるものだった。やがて誰も捕まえる気がなくなり、士気は更に下がった。すると、憲兵達の中にも国に対する不信感が生まれた。」
「それで2人は?」
今度はクリスが尋ねる。
「警備が手薄になった城の中に潜入し、目的の武器製造の調査を行った。結局、証拠は見つからなかったが代わりに国民から奪った財や徴収した税金を蓄え、私服を肥やしていたことが分かった。もちろん、国民もその事実を知った。結果、国民の不満が爆発して革命が起こり、国王とその一族は処刑された。国民は、嫌な記憶がある土地に住み続けるのを嫌い、1人、また1人と別の土地に移動した。その中にはネグルに移動した者もいる。最終的に誰もいなくなり、国は消滅した、というわけだ。」
「…前線で戦っていた兵士達は…?」
次に白刃が尋ねる。
「国がなくなったことを聞いて混乱が起こり、結局戦争に負けた。殆どが敵の捕虜になったらしい。」
「…そうか。」
「その後、国を出た2人は危険人物として世界中から指名手配された。直接国王を殺した訳ではないが、火種を作った張本人だったからな。ルークは2人に隠れる様に指示し、5年の間、2人は行方をくらましていた。そして今回、偶然帰ってきたのだろう。更に強くなってな。」
「何故それほど強いのですか?」
最後に有栖が尋ねる。
「1つは闘争心が強いからだ。別に戦いを好んでいるわけじゃないが、戦うと決めたら相手を倒すことに集中し、それ以外は何も考えなくなる。すると動きや思考に迷いが無くなり、更に感覚が研ぎ澄まされて迅速かつ的確な攻撃を行う。そして、その動きを支える為の身体能力と武器を、2人は持っている。」
「武器、ですか?」
「ああ。とても恐ろしい武器をな。」
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その頃、ガストーネとゴルビーは互角の戦いを繰り広げていた。ゴルビーは積極的に攻撃を仕掛けるが、ガストーネには全く効いていない。避けられるか、またはガストーネのダガーナイフで受け止められている。一方、ガストーネからは全く攻撃をしてこない。ゴルビーは一旦距離を取り、息を整えることにした。
(何故だ?何故攻撃してこない?戦力では奴の方が上だ。その気になればすぐに終わらせられるはず。)
ゴルビーは、攻撃が当たらないことよりもガストーネが攻撃してこないことに疑問を感じた。逃げもせず、しかし反撃する気配もない。一体、何を企んでいるのか。ゴルビーは不安を覚えていた。
その不安は的中した。突然、ゴルビーの頭に痛みが走ったのだ。
「うっ!な、何だ!?頭が!!」
「ようやく効いたか。」
「貴様、一体何を…!?」
「毒を盛ったのさ。出血毒だから効くのが遅くなったが。」
「ど、ど、毒だと…!?い、いつの間に…?!」
「触れただろ?ナイフの刃で。」
「…ま、まさか?」
ゴルビーはガストーネとの戦いを思い出した。ガストーネはゴルビーの攻撃を全て避けるか、若しくは自分のダガーナイフで受け止めていた。刃と刃がぶつかり合った時、ガストーネのダガーナイフに付いている毒がゴルビーのダガーナイフに流れ、そのまま肌に触れていた。更にぶつかった衝撃で毒が飛び散ったのも原因だった。
「俺の武器は刃に触れると毒が出る仕組みになっている。正に毒牙だ。おかげで切らなくても相手に致命傷を与えられる。これが俺の戦い方だ。いや、『ハララカ』の力だな。」
そう言うと、ガストーネは自分のダガーナイフ『ハララカ』をゴルビーに見せる。刃から毒が滲み出ている。
「何故……お前は…効いていない…?」
今にも倒れそうな苦悶の表情を見せるゴルビー。彼の問いにガストーネはこう答える。
「毒蛇が自分の毒にやられることはない。俺はこの毒について隅まで調べて研究した。おかげで死なない程度まで毒を薄めることに成功。血清も作った。とはいえ、激痛はあるけどな。」
「く、くそ…!」
「流石は副ヘッドだ。武器に頼る俺と違って実力はホンモノだ。だが俺達も負けるわけにはいかない。これまでも、これからもな。」
ガストーネはゴルビーに言い残した後、踵を返してドアに向かった。ゴルビーは、意識が切れる直前まで立ち去るガストーネから目を離さなかった。
「次は…絶対に…勝つ!」
最後にリベンジを誓うと、そのまま気を失った。その声はガストーネにも聞こえていた。
(俺も強くならないとな。)
危機感を心に留め、ガストーネはエルモのいる方へ向かった。




