監禁
香坂有栖
「驚きました。まさかあの人だったなんて。」
有栖が拐われてから2時間後の午後6時。蝙蝠の巣にある食堂にブラッカーズのメンバーが揃っていた。
「…。」
「…ということがありました。」
「…分かった。ありがとう、白藍。」
ルークは白蘭から事の詳細を聞き終えると彼女に礼を言い、白蘭は戻っていった。
「…。」
ルークは無言で葉棒を取り出し、火を付けた。それを口に持っていき、大きく吸い、そして吐いた。
知らない人からみればいつものルークと変わらない。しかし、彼の心は煮えたぎるマグマの如き怒りで満たされ、今にも爆発しそうになっている。ルークと付き合いの長いロイス、マルコ、シルヴァーノ、アルド、クリスはそれを感じ取っていた。故にいつもの様な軽いノリはなく、ただひたすらに黙り続けていた。白蘭は周りの様子から状況を察知し、少し離れたところから見守っている。と、ちょうどそこに…。
「…戻った。」
RAIDのアジトを探し出す為に潜入していた白刃が戻ってきた。白刃は部屋に入った瞬間、張り詰めた空気を感じ取った。
「…何かあったのか?」
「有栖が拐われた。」
「…何だと?」
「RAIDの奴らだ。俺達に宣戦布告してきた。」
そう言うと、ルークは机から1枚の手紙を取り出し、白刃に渡した。白刃が手紙を開くと、周りにいたロイス達が近づいた。
「この手紙は一体?」
ロイスが尋ねると、ルークはゆっくりと説明した。
「2時間前のことだ。外を歩いていたら子供から渡された。簡潔に言うと、ネグルから立ち去れ、さもなくば仲間に危害が及ぶ、という内容だった。たまにある脅迫の手紙だと思い、あまり気にしていなかった。だが2時間後、白蘭からの報告を聞いて奴らが本気であることが分かった。」
「何を見たんだ、白蘭?」
「有栖お姉様が拐われたのです。私、何も出来ずに…!」
「俺達に知らせてくれた。何も出来なかったわけじゃない。自分を責めなくていい。」
「はい、ありがとうございます…。」
白蘭を慰めたルークは再び白刃の方を見る。
「場所は分かったか?」
「…ネグルの北『エフタル』にある港の倉庫だ。見知った顔ばかり集まっている。」
「そうか…。」
ルークは葉棒を一口吸って息を吐いた。そして…。
「行くぞ。」
短く、一言で皆に命令した。その言葉にロイス達は…。
「「「「「「おう!」」」」」」
と呼応した。そして、すぐ準備に取り掛かった。準備中、マルコがシルヴァーノに言った。
「シルヴァーノ、お前は残って白蘭を守れ。俺達が留守の間にここを占拠する可能性があるからな。」
「御意。」
シルヴァーノが了解してすぐ、ルーク達は準備を終え白刃の案内で敵のアジトに向かった。留守を任された白蘭とシルヴァーノが皆を見送る。玄関でマルコがシルヴァーノに…。
「一応、直義にもこのことを伝えておけ。何もないと思うが、念のためだ。」
「分かりました。」
「皆さんどうかご無事で!」
白蘭が皆の無事なら祈る。ルーク達は白蘭に親指を立てて答える。こうして、ブラッカーズと謎のギャングRAIDの戦いが始まったのだった。
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「…んっ。」
ルーク達が出発して1時間後、有栖が目を覚ました。拉致された時、顔に当てられた布には麻酔薬が染み込んでいた。それを嗅いだことで麻酔が効き、意識を失ってしまったのだ。まだ完全に抜けていないが、何とか立てるようだ。
「あれ、ここは一体?」
有栖が周囲を見渡すこと、そこは何かの部屋だった。床は黒く、壁は灰色で、天井は豆電球が2つ付いていた。更に山積みのダンボールやメッシュのボックス、木の机、そして何かの部品が散財していた。
「えっと、確か私、誰かに拐われて…。」
有栖は過去の記憶を辿り、何故ここにいるのかを思い出す。しかし、麻酔で眠っていたため、覚えているわけがなかった。ふと、顔に手をやると、ある違和感に気付いた。
「あれ、眼帯がない?!」
そう、有栖は眼帯を付けていなかったのである。あの時、有栖は眼帯を外そうとしていた。しかし何者かが有栖を眠らせ、拐った時、彼女の眼帯に相手の手が当たり、そのまま外れてしまったのだ。と、その時。
「彼女はまだ眠っているのかい?」
突然、ドアの向こうから声が聞こえ、何者かが部屋に入ろうとしていた。有栖は慌てて寝たフリをした。
ギィィィ…
ドアの開く音が聞こえ、ゆっくりと近づいてくる。有栖は目を閉じていたが、耳と振動で分かっていた。同時に、相手から敵意を感じないことも。
(何だろう?警戒…いや、これは…興味?)
有栖は何者かが自分に興味を持っていると感じた。実際、相手は何もしてこず、ただジッと見ているだけだった。
(!?)
突然、有栖の頬にそっと手が触れた。そして、一言呟いた。
「綺麗な人だ。」
一瞬、ピクリとしたが、相手には気づかれなかった様である。それよりも、自分の顔を見て綺麗と言う相手の顔を、有栖は見たくなった。
(一体、誰なのかしら?)
有栖は気づかれない様にそっと目を開けた。ちょうど視線が自分の方を向いていないため、気づかれることはなかった。
(…え?)
有栖は驚いた。何故なら、謎の人物とは一度、会っているからである。




