誘拐
「油断した。」
香坂有栖
その頃、有栖は夕食の買い物を終え、帰り道にある公園のベンチで休憩していた。公園には有栖以外誰もおらず、静かな時が流れていた。
「…。」
有栖がブラッカーズに入ってからちょうど1ヶ月が過ぎた。有栖にとって今の生活は、これまでにないほど安全でゆったりとしていた。稀に危険なこともあるが、仲間になる以前の生活と比べれば随分マシだった。故に有栖は迷っていた。彼等を信頼していいのか、と。
「信じたいのは信じたいけど…。」
ルーク達には良くしてもらっている。彼等が良い人であることも感じている。だが、彼等と出会う前に受けてきた仕打ちを思い出すと、なかなか心を赦す気になれなかった。ましてや、彼等はストリートギャングである。いつ牙を向けるか分からない。
「でもこのままじゃ、駄目だよね…。」
そう言うと、有栖はベンチから立ち上がった。公園に風が吹く。少しずつであるが、有栖の気持ちに変化が表れていた。
その時だった。
ガバッ!
「!?」
突然背後から何者かが拘束し、顔に白い布を当てた。有栖は抵抗する間もなく、視界が朧げになっていき、やがて意識を手放した。有栖を気絶させたのは、頭からつま先まで全身黒色の服で統一した2人の男達であった。男達は気絶した有栖をクルマに乗せ、そのままどこかに連れ去った。有栖が座っていたベンチには、彼女のつけていた眼帯が置き去りになっていた。
こうして、有栖は連れ去られた。しかし連れ去った男達は気付いていなかった。偶然にもこの一部始終を目撃した者がいたのだった。
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その日、マルコの部下である『ガストーネ・ベネデッティ』と『エルモ・ガルヴァーニ』は久々にネグルへ戻って来ていた。
「久々だなぁ、エルモ。相変わらず、ここは賑やかだ。」
「ああ、何も変わっていなくてホッとした。とはいえ、争いは未だにあるみたいだが…。」
「それでもルークのおかげでだいぶ良くなったよ。アイツは凄いなぁ。着々と力をつけ、仲間を増やしている。そういえば最近また仲間が増えたらしいな。」
「確か白刃という男とその妹白蘭、そして香坂有栖……おい、アレ。」
「どうした?」
ガストーネはエルモの指差す方を見た。2人が見たのは、何者かに連れ去られようとしている有栖だった。
「おいおい。昼間から堂々と拉致かよ。」
「一体、何だろうな?」
「分からないが、とりあえず写真に撮っておこうぜ。」
そう言うとガストーネは持っているカメラで彼等を撮影し、更に彼等が乗った車も収めた。有栖を連れ去った2人は、ガストーネとエルモの存在に気付くことなく、そのまま走り去っていった。
「よし、とりあえず証拠は手に入れた。あとは戻って…ん?」
ふと、ガストーネは木陰に隠れていた少女に気付いた。少女は2人に気付き、身構える。
「大丈夫だ、怖がらなくていい。それより、さっきの見たか?」
「は、はい。」
「お嬢ちゃん、この写真を持って、ルークという男に渡してくれないか?彼は蝙蝠の巣という廃屋にいる。」
「ルークさんに?」
「知っているのか?なら良かった。俺はガストーネ・ベネデッティ。こっちはエルモ・ガルヴァーニ。名前を言ったら納得してくれるはずだ。お願いできるか?」
「はい!分かりました!」
「頼んだぞ。」
ガストーネから写真を渡された少女、白蘭は踵を返し、急いでルークのところへ向かった。
「で、俺達はどうする、ガスト?」
「お前はどうする、エルモ?」
「答えた方がいいか?」
「俺は大丈夫だ。お前は?」
「俺も大丈夫だ。」
「「なら行くか。奴等を追いに。」」




