私はちゃんと聖女であったらしい。
長らく更新せず申し訳ありませんでした。
朝起きると、白い虎のヒスイのドアップがあった。
「うわあ!!」
驚いて声が出てしまう。ヒスイはそんなことどうでもいいようにこちらを見つめる。
「ねえ、何か食べるものないの、ミィは人間の食事に興味ある。にゃあ。」
昨日よりもクリアに聞こえる声に少し違和感を覚えながら顔面間近のヒスイをどかして頭をなでる。
「朝食はあるし、好き嫌いとか無ければ一緒に食べよっか。あ、ネコ科って食べれない物とかあると思うんだけど、そういうのは食べれるの?」
ヒスイは私の手にすり寄ってゴロゴロと喉を鳴らす。
「人の食べ物で食べられないとすれば、黒く染まったものくらいだよ。ルナは黒いけど、染まったわけじゃないからね、本人気にしてるから、ゆっちゃダメだよ。にゃあ。」
相変わらず取ってつけたような語尾は変わらない。
三毛猫のコハクもベッドの上に上り、私のそばに来る。
「人間の食事ですって??人間なんて下等で醜く汚らわしいものだけれど、食事だけは褒められる唯一の長所よね!精霊に施しだなんてその人間も光栄に思うのね!」
そう言ってそっぽを向いているが、尻尾がゆらりと楽しそうに揺れている。なんだかんだで彼女も楽しみなんだろうなあと思った。
「そうなのよねぇ。人間って色々と細かいじゃない?私たちって結構大雑把だから、味とかそんなものにこだわらなくても、そもそも食事すらとらない存在だもの。どっちかというとお酒よねえ。」
ルナはうっとりとした顔でやわらかな肉球を自分の頬に添えた。
「・・・朝からお酒飲むのは、ちょっと・・・。」
そういうとくすっと笑った。
「やあね、酔っぱらうなんて思ってるの?人間の尺度で勝手に決めちゃ、ダメよ?」
「酔わないの?」
「うふふふふ。」
ルナは笑うだけで酔わないとは言わなかった。
・・・本当にお酒に酔わないんだろうか。ちょっと疑って見つめる。
「・・・酔わない、わよ。精霊だもの。」
そういうルナは私と目が合わない。そろりと顔をそらしている。
凄く怪しい。
じっとルナを見つめていると、コンコンとドアをたたく音が聞こえた。
「失礼します。朝の紅茶をお持ちしました。その後に朝食となりますので、私は一度席を外しますので、リカルドを付けます。」
そう言っていつものように紅茶を入れる。ルナも飲みたいというので残り2匹の分もまとめて入れてくれた。
見た目が猫だからだろうか、それともこの世界にも猫舌なんて言葉があるのかわからないけれど、少しぬるい紅茶を出していたのを見るとなんだかおかしく思えた。
それからリカルドが着替えさせてくれて朝食に向かう。なんだかリカルドの様子がおかしい。なんだか息苦しい様に見えるから。
「リカルド、体調が悪いんじゃないの?」
私がそう聞いたらにこりと笑うだけで何も言わなかった。
「さあ行きますよん。実はもうししょーが待ってるんです!!全く、僕だって早くご飯食べたい!!」
そう言いながら、先ほどの質問がなかった様にエスコートしてくれた。
食堂につくと、やはりリリイちゃんは椅子に座りソワソワと動きながら待っていた。
「全く、遅いぞこの戯けめ!!我を待たせるとは何事か!!師である我は食事を所望ぞ!!早う席に着くのじゃ!マッテオの料理が食べれぬではないか!!」
彼女の知恵を借り、精霊を召喚した。それは私が弟子になった証明でもあった。
ジュードが何といおうが、彼女によって精霊という力を得られた以上は彼女が師匠で間違いはない。
私はリリイちゃんの様子に和みながら席に着いた。
後ろからついてきていた3匹は子供用の高い椅子にそれぞれ座った。
彼らの色を象徴するように白、赤、黒の椅子だった。
いつ用意したんだろうと不意にマッテオを見ると、こちらに親指を立て褒めて欲しそうにじっとこちらを見ていた。
「・・・マッテオ、ありがとう。椅子もだけど、毎日のご飯、すごくおいしいよ。」
お礼を言うとマッテオから粗い呼吸音が聞こえる。何事かと見つめ続けると、ジュードとリカルドが料理を運んでくる。
その途中、ぶふっ!!と悶えるように鼻血を吹いて倒れた。
「え、えええええ!?!?」
「あぁ、カオリ様、あやつはもう手遅れです。何をしても何を言ってもおかしくなる。無闇に言葉を交わさぬことをお勧めします。」
普段は無表情で言いも悪いも分からないジュードが心底嫌そうなオーラを放ちながらそう言っている。
よほどマッテオが苦手らしいことが分かる。
「あははははは!!!マッテオ最高!!鼻血吹いて倒れるって!!あははははは!!!」
リカルドは嬉しそうにお腹を押さえながら笑っている。仕舞いには涙をぬぐっていた。
床が赤く染まっていく中、ここの住人はスルースキルが高すぎてこの状況ですら呑気にマッテオの料理に舌鼓をうっている。
視界に入るせいで気になって仕方がない私の視界をジュードが遮った。
それだけでは決して気にならなくなるわけではないが、彼の気持ちを無下にするまいとぎこちない動きで食を進める。
マッテオが復活したのは私が食事を終えて立ち去る時だった、一言「ごちそうさま。」と告げれば、拳銃で撃たれたように胸元を抑え、「ありが、」とお礼を言う前にジュードに蹴り倒された。
「全く汚らわしい。そのような気色悪い目でカオリ様を見るな。」
「んっふふ。ジュードってば、マッテオが羨ましくてたまらないんだもんねぇ。あれだけ感情を表に出せるなんて、ジュードにはできない事だもん。だからマッテオにあんな態度取ってるんですよ?ジュードかぁわぁいぃいぃ!!」
ジュードに抱き付いて頬をつつくリカルドにジュードは無表情で見ていた。
「余計なことを話すな。」
「はぁーい。」
今の会話に違和感を感じていたけどジュードの様子を見て触れてはいけないのだろうと思った。
リカルドも、返事をしながら私の方に来てエスコートを続けてくれる。
部屋につくと、ソファまで案内してリカルドはすぐに部屋を出た。
リリイちゃん達もソファに座ってくつろぐ。
「まあ、完成形とは程遠いものの、不思議とここは癒される空間だのう。我はここにいると心が落ち着く。」
柔らかなソファに寝転がりながら嬉しそうに笑った。すぐにこの部屋から去ろうとするリカルドとは正反対の反応で思わずリリイちゃんに聞いてみる。
「聖域、でしたっけ?それで人が気分悪くなったりすることってあるのですか?」
リリイちゃんはきょとんとした顔でこちらを見て、つまらなそうな顔で仰向けになった。
「聖域だぞ?人の狂気、悪意、瘴気を浄化する。そしてここは癒しの力の方が強い。そうじゃの、言ってしまえばここは、長く居れば傷などは治っていくし疲労なども感じることはない。瘴気に中てられた者で、長い事瘴気に染まったもの以外なら、すぐに、とはいかぬがしばらくすればそれも浄化できる。そんな部屋になった感じかの。
そんな人間にとって得しかないこの部屋で気分が悪くなるものなどいるわけない。お主は阿呆か?」
深いため息を付きながら説明してくれた。得しかないこの部屋、なのにリカルドは居づらそうにしている。
けれどその時は深く考えてなどいなかった。
だって、これ以上考えてしまえば、たどり着いてはいけない答えにたどり着いてしまいそうな気がしたから。
「そう、ですか。良かった。私未だに自分が聖女なんて自覚もないし、恐らく誰も思ってもないし、そんな聖域とかすごいものをこの部屋に施してるなんて、実感が無かったから。
もしかしたら、苦しめてしまう人もいるんじゃないかって心配だったんです。」
私が思っていた思いが少しだけ零れ落ちた。
「貴様は本当に阿呆だな。馬鹿者が・・・。この聖域は貴様がやったのだ。誰が疑おうがこの事実は変わらん。変わりようがない。であるならば、それこそが貴様がその存在たる証明だろう。
いくらここに瘴気が漂うことが無いとはいえ、聖域を作った本人が気を揉めば、同様に濁る。
その心の揺らぎが伝わったのやもしれんな。もしそういったものがいたのだとすれば、だがな。」
リリイちゃんの言葉は、幼い子供の高い声だったけれど、今は何よりも大人びて聞こえた。
私の思っていた不安が消えた。
あぁ。そうか、私がそう思っていたからこの聖域が澱んだだけだった。しっかりしないと、みんながここにいるのが辛くなってしまう。
一呼吸つけば、不思議と心が軽くなった。
心のモヤモヤがすうっと消えた。
ジュードと目が合うと、頭を下げた。
恐らくそれが誰のことなのかわかっていたのだろう。
ジュードは話が終わったのがわかると、リリイちゃんが寝転がるソファを見下ろした。
「貴様のおかげでこの空間がどういったものかは理解した。説明に関しては礼を言う。
・・・・そしてしばらくはここに来るな。数日しか来ていないのだ。暫く来ないことくらいできるだろう。」
ジュードが唐突にリリイちゃんにそう告げた。リリイちゃんは驚いて起き上がり、ジュードを黙って見つめる。
「貴様を認めていないわけではない。それはあくまでもこの屋敷の者達のみの話だ。ここは王が管理する場。半端者が出入りし続けていることはもう王にばれている。他の者の監視も増えつつある。
エルティアには追って説明しておくから、貴様が来るのはとりあえず今日までだ。」
どういう事かとジュードを見つめると、ジュードに目を逸らされた。
「・・・・カオリ様、私はしばらく来るな、と言っただけです。二度とここに来るなとは言っていません。
毎日通っているその様子を私以外にもみられています。
瘴気を招き入れる聖女、などとカオリ様が言われれば、カオリ様の立場が危うい。
一週間に一度程度の頻度にしろと言っているのです。見つからぬように気を配りながら。
私がいる時はそれを見過ごすと言っているのだ。ここ一週間ほどは私が忙しい、恐らく他の者が様子を見に来るだろう。私が普通にカオリ様に仕えられる時を待て。」
ジュードは私からリリイちゃんに視線を移す。
リリイちゃんは安心していながらも、寂しそうにうつむいた。
「そうか。そう、か。なぜ我は半端なのだろうな。半端者でも、瘴気に中てられぬように魔導を極めたというのに。それだけで我はダメなのだな。」
「違うよ、ししょー。」
リカルドの声がする。振り向けば後ろに笑顔でいた。
「まあカオリ様は勿論、この国の人間じゃないししょーは知らないからあまり言えないんだけれど、半端者でも、唯一人間と同じように耐性があると証明することは、できないわけではないんだよ。」
リカルドはひらひらと手を振っている。
「ならば、」
「駄目だよ。」
リカルドが即座に否定する。その声は、今まで聞いた中で一番冷たい声だった。
けれど、その後はにこりと笑って説明してくれた。
「半端者が瘴気に中てられて狂わない、その証明をどうやってすると思う?人でも狂う瘴気の中に一晩、長くて一週間閉じ込める。
そして、それでも狂わなかったもの、正気だったものだけが、普通の人間として扱われる。
・・・そんなのほんの一握り。この程度で凹み傷ついているようなら耐えられるわけもない。
ジュードは君にそれを受けて欲しくないからそう言ってるんだよ。」
リカルドは笑っているけれど、確かに怒ってた。
その怒りを隠すことなく笑っていた。
その矛先は明らかにリリイちゃん。事情を把握してるリカルドからすれば、リリイちゃんの態度はジュードの気持ちそのものを無碍にしているようにも感じるからだ。
「リカルド、ありがとう。説明してくれて助かった。私だけではなく、ジュードは師匠のこともちゃんと考えているのね。本当はリカルドの説明が無くてもわからないといけないんだけれど、私はこの世界で魔法のこと以外知らない。
やっぱりどっちもいてくれると頼もしいかな。」
私は笑った。リカルドは目を見開いて2,3瞬きをすると、表情を崩しぼそりと何かつぶやいた。
「ってことでぇ~、ししょー、わかってもらいたかにゃ?かにゃあ??」
未だに下を向いているリリイちゃんの頭をツンツンと突いた後、優しくなでた。
すると、撫でられた頭が小さく盾に動いた。
「ジュード、良かった。いくら雑に扱われても、嫌われていないのならそれでいい。それが、嬉しい。」
私とリカルドはほほえましそうに笑ったが、ジュードは違った。
「なんだ、よくわからん奴め。好きも嫌いもあるか。それなのに雑に扱われていいなど、貴様はマッテオと同じタイプの人間か?あのテンションについていけるくらいだ。変態が2人など、カオリ様に悪影響なのだがな。」
表情を変えないまま深くため息をこぼす。
「あはははははっ!!!ジュードはバカだ!あっははははは!!」
「なんだと!?雑に扱われて嬉しいなど、そんなわけあるか!!二度と我をいつものように拘束するでないぞ!!」
「それは約束しかねる。私はいかなる存在からもカオリ様を守るのが役目だ。」
「我をまだ警戒すると申すかこの戯けめぇええええ!!」
「人を見かけで判断してはならないと教わったのでな。」
これにはさすがの私も笑ってしまう。
その後リリイちゃんは笑われたと涙ながらに帰っていくのでした。
「カオリ様、言っておりませんでしたが、明日、リュカ殿下がこちらに来られるとの事です。」
ジュードは出て行った窓を締めながらそう言った。
「え、どうして??」
最初にいた時以来一度も見たことのなかった第二王子のリュカ様。彼はこの屋敷に案内してから一度もこちらに来たことがない。
先ほどの話も含めると、恐らくリリイちゃんのことがあったからだろうと思ってはいるが。
それでも先ほどジュードは説明不足過ぎることはわかっている。ちゃんと理由を確認する。
「リュカ殿下の心理はわかりかねますので、理由は何か、と聞かれれば分かりませんが。可能性としては先ほど帰った阿呆の件、後は頻繁に来ている騎士達があの屋敷は騎士をメイドとして扱うしきたりがあると思われているのでそれか、はたまた騎士たちが庭で重傷を負って帰ってくるのでそれが原因か。
私が考えられる内容としてはそれくらいでしょうか。」
こてりと首を傾げて他に何があっただろうかと思っているのだろうが、今聞いてはいけない内容を聞いた気がした。リカルドはしれっとこの部屋から出ていて姿は見えない。
「ジュード、一ついいかな。」
私はひきつる顔でジュードに聞く。
「庭で騎士が重傷ってどういう事かな?」
ジュードはきっぱりと言い放つ。
「あぁ、それはエルティアがやりました。」
「エルティアああああああああああああ!!!!」
顔を真っ青にして叫んだ。これは反逆的な認識をされても仕方ない。だってこの国を守るべきはずの存在の騎士を重傷って・・・。
エルティアに早急に確認しなければ!!
エルティアは私の叫びが聞こえたのか。扉のドアを開けて入ってきた。
「おんやぁ。えれぇ、でっかい声で呼んじょったけれども、儂、そぉんな熱烈に呼ばれること、なぁんかしましたけねぇ?
それともぉ、あれですけぇ?儂にそない会いたなったですけぇ??」
少し恥じらいながらこちらをちらりと見ては視線をそらしている。
ラブレターで呼び出した相手に告白する女子みたいな反応しているが、内容が内容なため、全然微笑ましさを感じない。
それどころか、騎士を重傷になるほど痛めつけているのにそんなピュアな反応でこっちは恐怖ですよ。
エルティアは見た目はすごくかわいい。けど今はそのかわいさが逆に怖く感じている。
「え、エルティア?あの、さ。ここの騎士が、庭で重傷を負ってこの屋敷を出てるって聞いたんだけれど、本当?」
ジュードは信頼している。けれど、それにエルティアが関わっていることは信じ切れていない。信じたい気持ちで確認する。
「あぁ、それはホントのことですなぁ。勿論儂が成敗しちょるのですよぉ。儂が育てた儂の子供たちをこんなものと言い、持っちょる剣でスパンとやるんですぅ。いくら騎士でもぉ、儂はこの庭をだぁーいじにだぁ、いじにしちょるのでねぇ。どれほど大事かを教えてやらんとわからんと、思って教えたんですよぉ。」
へへへ、と照れながら話しているが、内容は全く笑えない。どうして庭の花の為に、とは思ってしまったけれど、彼にとってはそれほど大事なものなのだろう。
「・・・ジュード、これを一応王へ報告してくれる?あの庭は私が頼んで綺麗にしてもらってる、それを乱すものは殺してでも食い止めろと言われたと。
エルティアは殺すなんてことをせずに私の言いつけを守ったって。
聖女様曰く、庭は私の世界では神聖なもの、神を冒涜するようなものだった。だからそのように命令した。私は何も知らなかったと言っていたと。
あとエルティアの庭には極力触らないように注意してもらって、エルティアは遠ざけるだけにとどめてくれると嬉しいかな。」
私はそう言ってエルティアにもお願いした。
「・・・なして、なして儂を庇うんですぅ?カオリ様に雇われんでも、儂は勝手にここに居付きますしぃ。
それじゃあ、まるで聖女の名で我儘を通している悪女にしか見えませんよぉ?」
エルティアは不思議そうにこちらを見ていた。
まあ私の中で半分はエルティアのことを庇うためと言えば聞こえはいいが、聖女と言う割に私の扱いは引きこもっている分にはいいけれど、
状況も何も把握していない不安な状態で放置されているのは、私自身苛立っている。
彼らはここの住人であり、人権そのものは一番上の立場である王が握っている。
彼らを処分するのは簡単だろう。その権利は王にある。
聖女様というのなら、ある程度のことは許されるのでしょう?私はそれを利用する。
何も聞いていないものはどうしようもない。こんな暴挙が許されるはずがないと思うなら、さっさとこの世界で生きていくための知識を与えるか、私の世界に帰すのか、その選択を迫っているだけ。
聖女じゃないならとっとと返せ。ただそれだけ。
それをどう説明するか悩みながらも、エルティアにはなんとか説明する。
「んー、エルティアのためってわけじゃないんだけど、なんだかそれでエルティアがなんかされるの嫌だなってだけなんだよ。
私、最初に水をやり終えた後の庭を見た時、すごく感動したもの。ただの植物って言ってしまえばそれまでだけど、エルティアのおっとりとした性格を引き継いだみたいな心が和む空間は、あってもいいと思う。
ちょっと悪く言われるくらい、どうってことないよ。どうせ向こうは何か特別なことをしでかさない限りは放っておくだろうし。
っていう建前兼半分本音で、もう半分は、ここまで我儘言う奴なんていらないでしょう?早急に返しません?っていう嫌がらせ?」
けれど今回の場合は、どうにも上手くはいかなかったのか、接触があるらしいのだけれど。王子を送らず私の今後について決めて欲しいのだけれども。
「ばっかねぇ。だからといってあんたが悪者になる必要なんてないじゃない。植物から出ている清らかな空気は人を和ませるでしょうね。精霊だってああいう美しい場がある事に嬉しいとは思ったけれど。
にしても、あんた、被害妄想激しすぎるんじゃないの?」
ルナはそういうと、私の顔をその柔らかな肉球で挟んだ。
「確かに、話だけ聞けば聖女として優遇されておきながら、優遇の仕方に不満って。食事もあって寝どこもある。何も知らなくたって生きていける。何も不便してないと思うのだけれど?にゃあ。」
ヒスイも応戦してきた。自分でも理不尽な怒りだとわかっていたので、そこをつかれるとすごく心が痛んだ。
「おっしゃる通りです。」
素直に認めるしかない。うぐぅ、これでは私がだだをこねているようではないですか。そう思っだけれど、その通りなので尚更落ち込んだ。
「では、精霊の皆様は「貴方がたは清らかな存在であらせられる。どうぞこの屋敷にてお過ごしください。お付きの者もご用意しますゆえ。」そう言われて、いつの間にか償還され、本来の目的とは違うことは明らかであるのに返されることなく他の精霊を呼び出して同じようなセリフを吐き、その後の扱いが雲泥の差であった時、納得されるのですか?」
ジュードはルナを優しく抱き上げた後にそっと机の上に置いた。
その質問にはコハクが答える。
「バカね!!私たちは聖霊よ!?契約するでもないのに呼ぶなんておこがましいにも程があるわ!!なんで帰らせないのよ!!」
「それは、貴女も精霊であるから、ただそれだけです。もう一人の精霊の方には勿論本来の目的通りに呼んだわけで、その上精霊様ですから。精霊であるだけの者よりも扱いに差があって当然では?それよりも寝る場もあり、嗜好品の食事もある。何か問題が?」
そう言えば3匹とも沈黙した。
「そ、そんな仮説とこの女と何の関係があるというのよ!!」
コハクはジュードに詰め寄った。
「おっほん!!」
扉の外から大きな咳払いが聞こえる。
リカルドだ。
扉を開けて、中に入らないようにしながらニコニコと笑っていた。
「聖女様ってね、この国にとっては、世界の秩序というか、世界の崩壊を防ぐための希望の光なの。
でね、そんな聖女様が今回は2人召喚された。聖女様って異界の地より召喚するんだ。つまり、この世界の常識が通じない。
その中で、浄化の力を持つものが必要なんです!!でもカオリ様はその条件に見合わない。王様たちは、困ったようにカオリ様をこの屋敷に案内し、監視を付けた。
もしかしたら、異界の地より召喚されたもの。聖女としての役割以外になにかあるのかも?利用すれば、この国は栄えるのではないか?
けれど、下手に常識を学び、外での生活に慣れてしまっては聖女様がここにいる理由がなくなってしまうー。なんせ無理やり呼び出した張本人たちだもの。
恩を売ってここに残らせないとー。魔法など脅威になりうるものはだめだー、教養も勿論駄目だー。
それが今のカオリ様の現状です。」
リカルドは笑っていたけれど、私はちょっと辛かった。
リカルドが騎士でもないのにこれほどまでに詳しいのか、と思ったけれど、ここにはよく騎士達が来て騎士姿のリカルドともジュードとも会話している。
それよりも思ってたより私の立場が無かった事に少なからずショックだった。
でも少しのショック程度で済んだのは、今の立場を理解してくれているリカルドとジュードの存在が大きい。
でも初めて知った、私にあえてこの国の常識を教えていなかったなんて。
それくらい教えても問題はないと思うのだけれど、私を利用できないかとここに置いているとも言っていた。
聖女とは違う利用価値がないか監視をさせ、生活に不自由をさせないことで恩を売っている、リカルドの話をまとめるとそんな感じか。
一刻も早くこの国から出たくなってしまった。
「・・・二人ともありがとう。他の人から見たらそう見えるのかってわかっただけでも十分な収穫です。ちょっと知らされていない事実を目の当たりにして悲しい気持ちにはなったけど、二人が私の状況を理解してくれているってだけでなんか救われた。」
力なく笑う私に、一瞬ジュードの眉間にしわが寄った。そしてジュードがあまり良くない感情になったからだろうか、リカルドに青筋が浮かんでいる。顔は勿論漫勉の笑みだ。
背筋も凍る冷笑に固まっていると、
「ぶへっ!!」
ルナが爪を立てずに猫パンチを私の右頬にかましてきた。
その勢いてぽふんとソファに仰向けになる。
「あんた、・・・精霊がどうして人間と契約しなくなったか、異界から来たなら知らないでしょうね。
私たちは意図的に人間に姿を見せていないのよ。
人間は、私たちを、魔法強化剤程度にしか思っていなかったからよ!!
今のあんたが、同じ人間のあんたが、私たちと同じく利用されるためだけに、こんなところにいるなんて・・・。
良いわ、我が主の人間としての権利、取り戻してあげるわ。あいにく私人を呪う縛るに関しては得意なの。」
主と認めてくれた、そこは嬉しいと感じた。何か、確かに見逃してはならない物を聞いた気がしたけれど。黒いオーラが出ているんだけど!我が聖域!今こそ仕事するべきでは!?
「あ、それいいね、ミィは賛成。君には浄化という珍しい属性があったし、浄化を持つ人間って人を利用とか考えにくい性格だから契約したけれど、間接的にミィまで利用されそうって事でしょ。
それはだめだよ、ダメ。ミィも参戦するよ。
この家以外の建物を全部凍らせればいい。。」
「ば、バッカじゃないの!!低俗な人間でもマシな方のあんたが、あんたよりもずっとずっと低俗な奴らに利用されるためだけにいるなんて!!そんなの契約した私たちまで馬鹿にされるじゃない!!凍らせるなんてそんな醜い人間の死骸を残すなんて駄目よ!!
私が姿かたちも残らないように燃やしてあげるわよ!!!もうばか!!」
ヒスイは膝の上から伝わるほどひんやりとしているし、語尾のにゃあが抜けてるし、コハクに至っては毛を逆立てながら、近くに火花が飛んでいるので非常に危ない。
「ま、まあ落ち着きましょうぜお三方。私なんてまだいい方ですよ。もう一人の聖女様は、救う必要のない自分がいた世界とは異なる世界を救うべく呼ばれ、私以上に利用されているのだから。ね?」
精霊の発言が過激すぎてついていけない。精霊の力って安易に借りてはならないものなんだなぁと彼らの会話を聞いてそう実感した。
「それなら問題ないんじゃない?浄化の力が強いその女、世界を救うことで頭がいっぱいになってる。色んな人に囲まれ、幸せそうに過ごしているよ。
「あの人は、多分私のせいで連れてこられたみたい。だからあの人には何も知らないまま幸せに過ごして欲しいな。こうして難しい魔法の勉強とか、お茶会とかパーティとか、向こうでは行くことなんてないだろうから。もし帰った時に余計な知識を覚えていたらこまるでしょう?」そう言って笑ってる。
幸せな頭してる。にゃあ。」
何故ヒスイがそれを知っているのか。精霊だからだろうね!!
精霊ってすごいなあ!!
あ、リカルドついに表情が無くなった。ジュードと区別がつきにくくなった。ナニコレ、すごく怖い。
「何その女。私そういう自分だけの世界で生きてる女ってキライ。自己犠牲が美徳って思ってる女も大っ嫌い。」
あぁ、どんどんもう一人の聖女様の評価が下がっていく・・・。
まあ確かに、余計なお世話である事は認める。
おかげで何もつかめないまま不安と不満が募っていったのだ。
恐らくこの言葉だけを聞いて実行すれば、私は何の情報もなく彼女の言う帰るまで幸せに過ごせる環境を作っていたのだとしか言いようがない。
精霊3匹は何を言っても聖女に対する印象は変わらなかった。
理由を聞けば、
自己犠牲精神の強い奴は、契約する精霊にもそれを押し付ける傾向があるらしい。決まって「一緒に世界を守りましょう。」や「私に力を貸してください、何かを守るために。」そう言って精霊と契約を結ぶので、精霊の負担がかなり大きくなるとの事。
なんとも容赦ない評価に私が死んだ後も何か言われるんじゃないかと怖くなった。
そしてジュードとリカルドがどちらも黙ったまま、リカルドは扉越しに無表情で不機嫌なオーラを、ジュードはティーポットをパキっと音を鳴らしながら無表情で給仕台の取っ手を握りつぶしていた。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
まだ文はつたないながらも、少しずつ更新できればと思います。




