実は格好良かったらしい。
マッテオの過去の話になります。シリアスです。
読まなくても次の話を読めるようにはしていますが、マッテオに興味があれば見てください。
ここでは簡単に書いていますが、必要になればまた追加で書きたいと思います。
マッテオの過去
「ねえ、マッテオはずっと料理人ってわけじゃないよね?すごく体に筋肉ついてるし。」
カオリは昼食中にハアハア息を荒げるマッテオに声をかけた。
「んん!?カオリ様はわ、わ、わわわわわたくしめに興味が!!興味がおありで!?!?!?!?」
ハアハアするだけでニヤついていた顔が、ついに興奮からか赤くなり始める。
今日はジュードはいない。変態と罵って蹴り飛ばしてくれる人間、いや。突っ込みを入れる存在がいない。
カオリはもう慣れた様で、そのテンションでも普通に話しかける。
「え?うん。だって距離の取り方とかがジュードに似ているというか何というか。副業で護衛としてたのかなって。」
カオリの言葉でマッテオの表情が消える。
「あ、言いたくないならいいんだけどね。ほら、今ジュードがいないでしょ?リカルドも頼もしいけれど、何かあった時に経験があるならマッテオが先輩として暫く護衛も兼ねてくれないかなって思って。」
まずいことを聞いたかと思って気まずそうに両手を振って笑った。
「・・・カオリ様は、鋭い観察眼をお持ちですね。確かに私は護衛騎士として働いていた事はございます。
ですが、護衛は私が忠誠を誓った人間のみと決めておりますので。」
マッテオは苦笑を浮かべてカオリから目をそらした。
「マッテオが嫌ならそれでいいよ。んー、じゃあマッテオとはお友達かな。」
カオリは、マッテオが結構好いてくれていると思っていた事もあって相当傷ついた。自意識過剰だったのかと嘲笑気味に答えた。
「そうですね。私の話を聞いて、それでも私を騎士として見ていただけるのであれば、私は調理人兼護衛としてカオリ様にお仕えしましょう。」
興奮して鼻血を出している姿しか見ていなかったカオリは、初めて自分より先に部屋を出る時の静かで寂しい横顔を、黙って見ていた。
そばにいたリカルドも黙ってカオリを部屋に案内した。
そして数時間後、マッテオは白いコック服ではなく騎士服を身にまとって部屋にやってきた。
コック服の時と違った雰囲気、それはジュードの時には感じ得なかった威厳、威圧、気品を感じさせる。
あぁ、やはりマッテオは騎士だったのかと納得できる姿でもあった。
「聞き苦しいでしょうが、聞いていただけますか?」
遠い思い出を思い出すようにゆらりとその瞳が揺らいだ。
ここの料理人であるマッテオは、智栄の伯爵と言われているグラヌス家の三男として産まれた。グラヌス家は騎士の中でも知略に優れ、肉体も華奢で忠誠的な顔つきをしていることが多い中、マッテオだけは違った。
母親の血、武力に秀でていた母親の血が何よりも色濃く出ていたからだ。それでも頭が悪かったわけではない。ちゃんと父親の血も受け継いでいた。
だが、その頭の良さはあくまでも一般的な人間と比べればの話であり、グラヌス家からすれば何もできない落ちこぼれもいいところだった。
それが故に家の中での立場は誰よりも弱かった。華奢で美少年と言われるグラヌス家の中で誰よりも筋力があった。誰よりも大きい身長、逞しい体、兄たち程とは言わないにせよ優れた頭脳、それらはグラヌス家でさえなければ、太鼓判を押せるほど素晴らしいと言えた。
けれど、その才を認めてくれる存在は母以外いなかった。
マッテオの母は武術に秀でてる男爵家で、正妻ではない。そして正妻の子供はどの子もグラヌス家には恥じない素晴らしい知能を持っていた。
正妻の家は男爵の一つ上の爵位、子爵家の長女。
それもあってマッテオの母は、マッテオを産んだことも相まって疎まれる要因となってしまった。
「なぜそんなことがわからない。」
「その歳にもなってこの程度の問題もわからないのか、」
「貴様は本当に武しかできないな。脳みそすら筋肉でできているわけではあるまいな?」
「・・・貴様なぞに知力は求めておらん。分を弁えよ。」
「やはり低俗な男爵家の子供。天と地ほどの差がありますわね。」
マッテオは家でずっとこのような言葉を聞いて育ってきた。
時には笑われ、時には苛立ち、殺意にも似た感情を向けられながら幼少期を過ごした。
マッテオが唯一楽しみにしていたことと言えば、母親との武道の稽古。その時ばかりは、愛情を感じながら叱られ、そしてそれが出来た時、誰よりも褒めてもらえるからだ。
自分のせいで母親が疎まれている事もわかっていた。だからこそ、武力だけでも極めればいつかは認めてくれると信じて。
母親はその原因が自分の流れる血であることを十分に、悲しいほど理解していた。
だからこそ、この家では認めてもらえないことをわかっていたからこそ、母親はマッテオに対して何度も言い聞かせてきた。
「いいかマッテオ、貴様の能力はこの家族の為である必要はない。それは母である私も同様だ。
武を極め、出来る事なら知識を蓄えよ。そして、己の得意とすることを一つとせず、いくつも極めておけ。
そして騎士となり、仕えられる人間にだけ、認められればいい。国に仕えるのなら、陛下にその忠誠を示し、やがては生まれてくるであろう殿下に忠誠を捧げよ。」
母親は、マッテオが父や兄に暴言を吐かれて傷つくたびに心を鬼にして言い聞かせていた。
側室とはいえ、旦那の味方でいなければならない母親は、いつかはマッテオを裏切ることになるかもしれない可能性をわかっていた。
マッテオは、賢い。兄や父親程とはいかずとも賢かった。母親の言わんとすることも分かっていた。
実の母親でさえ、捨てられる可能性がある事が分かっていた。
母親が自分がいるせいでずっと苦しい。愛していると眼差しが語り抱えているけれど、ただの一度もそれを言葉にしてくれたことはない。
わかっていたけれど、悲しかった。
愛されてはいけない。僕はそういう存在。
けれど、僕が愛する分には、いいんだ。
忠誠という言葉は都合よく愛情と置き換え、彼は歪んでいった。愛せる者こそが忠誠を誓えるものだと思っていた。
マッテオ7歳、貴族の通う学園で考えた。騎士として何が出来ればいい。何をできればいい。
考えて考えた。いついかなる時でも役に立てる者こそが傍にお仕えできる。
まずは毒物を学んだ。まず殺すとすれば食事だから。そして食事を学んだ。もし毒を盛られたのなら、新しい食事がいる。その時に作れなければ飢えて死んでしまう。
それから我が一族が得意とする知略を頭に叩き込んだ。
いつか敵対してもいいように、そのくせ等を勉強した。
知略に勝てる力が必要、武力がそれを上回れば問題ない。
自分の体がどんどん成長し、逞しくなっていくたびに罵られながらも力を付け続けた。
兄だから、父だから、母だから、それは負ける理由にはならない。
齢13になるころにはマッテオに勝てる人間は殆どいないく、武においては、王宮騎士の騎士長と互角、時にはギリギリ勝ててしまうほど強い。
そして強さだけでなく、勝負事の知略もできる。特筆すべきは観察眼、第六感だ。相手の悪意や殺意には敏感で、1対1では。知略をもってしても勝てない。
優秀過ぎたマッテオは卒業を待たずに13歳で王宮護衛騎士に選ばれる。
それからグラヌスという名を名乗ることが少なくなった。武に秀でた智栄の伯爵家と言われる人間が、儚き智将とも言われるグラヌス伯爵とは似ても似つかない見た目をしていたことで、
グラヌス一家が彼をどのような扱いをするかは容易に想像できたからだ。
そして彼がコツコツと信頼を築いていき、17歳になった時、結婚の話が持ち上がった。
その相手は同じ伯爵家、ではなく公爵家の人間だった。
マッテオは婿入りするのだと思って数か月の交際をもって結婚するはずだった。
だが、公爵家のご令嬢は事もあろうに新たに生まれたグラヌス家の四男の幼い子供に心惹かれたのだ。
通常は14~16の間で婚姻と結婚を済ませるのだが、マッテオはその名と見た目のせいで相手が見つからない。
ようやくマッテオ様がいい、と言ってくれる令嬢が現れたのにもかかわらず、自分が5つも年上で、弟の方が年が近かったという理由で弟の方に惹かれてしまったのだ。
会うたびに赤くなる顔が程よい血色になるのにそう時間はかからなかった。その婚姻がなくなることも同様に。
そしてマッテオ20歳。完全に行き遅れとなってしまう。
マッテオもまた、誰かと添い遂げることを望むことさえなくなっていた。
そんなある日、事件が起きる。
護衛補佐としてまだ幼い10歳のリュカの護衛につくこととなった。
専属ではないが、こうして誰かに仕えるのは初めてだったことで少し緊張していたのもあった。
小さく華奢でとても綺麗な顔をしていた可愛らしいリュカは、国王陛下や第一王子であるユーゴとは似ていない。あの圧倒的な王の威厳を感じなかったからだ。
そこにほんの少し親近感を持っていた。
リュカは、初めて見る顔のマッテオに駆け寄るとにこりと笑った。
「とても頼もしそうですね。僕も貴方の様に強くなれるように応援してくださいね。」
花の咲く笑顔とはこのことだろう。小さな花弁がきらきらと輝いているように見えた。
ドキリ、大きく心臓が跳ねる。お仕えする。お仕えする。私は、この人を。
何度も何度も自分の心に言い聞かせていた。
あの胸の高鳴りはいまだに覚えている。鮮明にその表情も何もかもが思い出せるほどに。
「リュカ殿下、こちらをお召し上がるのはおやめください。」
その日の夕方、食事に毒が混入されていた。
マッテオは嬉しそうに食べようとスプーンを持ったリュカに優しく声を抱えた。
リュカが不思議そうに首を傾げている。
マッテオは無礼であることを承知でリュカのスープを一口食べる。
「おい!!これは王族が召し上がる御前だぞ!!無礼であると思わないのか!!」
マッテオは分かっていながらその味を確かめる。
それは微妙な味の変化。確かに味が変だったのだ。王族に出すものは全て味が洗練されている。
このようなボヤケた変な匂いがするものを出すわけがない。
そこまで考えて勉強して覚えた毒の本を思い出した、
大人には害はない。だが、子供がそれを食べ続ければ確実に体が弱っていくと記載された独走があったはず。
味には大して変化はないが、香りが少し変わる。微妙にしか変化しないので子供が弱ってからでないとわからない代物だった。
それに気が付いたのはマッテオ一人。他の者はマッテオを取り押さえている。
王は威圧しながらこちらを射殺さんと見つめる。
「マッテオ、君が、今、何をしたか、わかっているのかい?」
王の口調は優しい。口調とは裏腹に顔つきは険しい。
「恐れながら、リュカ殿下の食事に毒が混じっている様子。もし、この料理がその様な匂いがするものであるなら、僭越ながら申し上げますが、王宮で務めるには荷が重いかと。」
嘘は言っていない。マッテオは王のその圧にも負けじと見つめる。
王はさらにマッテオに殺気を込める。
「確信があるのかい?君は我々が口を付けた、それをわかってて言っているのかい?」
マッテオは王妃やリュカが青ざめているその様子を確認しながら再度王へ目を向ける。
「これは大人には害はありません。それゆえに食しても問題ないかと存じます。ユーゴ殿下も同じく召し上がる前でしたのでリュカ殿下の護衛補佐として、お声を掛けさせていただきました。」
マッテオは抑えていたその男を振り払いユーゴの皿のスープも同じく一口食べる。同様の香りが下に残る。
マッテオの行動に顔色を青ざめ冷や汗をかいている一人のメイドを見つけた。
王の視線は鋭い。マッテオは再度抑え込まれながらその青ざめたメイドをちらりと見て王に合図を出す。
王はそのメイドを見て、マッテオの言わんとすることを察した。
「・・・君の処分は追って伝えよう。あの部屋に入れておいてくれないか。」
マッテオは王の指示で薄暗い独房へ追いやられる。
ここで殺されるとしても、マッテオは受け入れる気でいた。
これであのメイド、もしくは毒殺という選択がしづらくなっただろうと思ったからだ。
気が付かなかったらあれを食し続けて王族が絶える。
これが自分なりの忠誠だ。死なせない。
数時間、経っただろうか。コツコツと薄暗い独房から足音が聞こえてくる。
蝋燭の光が淡くマッテオに近づいてくるのが分かる。
「起きているようだね。こんな場ですまないが、詳しく話を聞かせてもらえるかな。」
現れたのは、優しく笑いかけている王本人だった。
「へ、陛下。このような場に護衛もなく現れるのは些か問題が、」
王が誰よりもこの場に警戒していること、そして足跡が一つで近くに誰の気配もない事にマッテオは気が付いて苦言を呈す。
「君は優秀だね、私が一人で来たなんてよくわかったね。普通なら護衛の存在が見えなくても警戒するものではないのかい?」
王はマッテオに嬉しそうに話す。
「・・・もし護衛が一人でもついているのなら、陛下がその様に警戒する理由がございますまい。貴方様はずっと張り詰めたように警戒している。そしてそれを悟られまいとしている。
私は耳もいい、人が近くにいるのならすぐに分かります。」
王は声を押し殺して笑っている。
「くっくっく、これほど正確にわかっているとは。グラヌス家のグラヌス家の落ちこぼれと聞いていたが、とても優秀だね。
まあいい。本題に入るけれど、毒が入っている、大人には無害というのはどういうことか、教えてくれるかい?
君が目で私に命令したあのメイドは君に頼まれたと言っているよ。いやあ、自分よりも身分の下の者に目で合図をされるなんて初めてでなんだか新鮮な気持ちになったよ。」
嫌だったのか、とも思ったが王はふるふる肩を震わせて笑っている。マッテオとしてはあのメイドが怪しいぞと教えただけだったのだが、王はそれを捕らえろと命令したと勘違いしたのだという。
「大変申し訳ございませんでした。」
深々と頭をさげる。けれど王は優雅に笑うだけで一言もういいと告げた。
そして食事に含まれていたその毒の詳細を話す。
あの薬草の香りと混入されていたスープとでは香りがかき消され、味を壊していたとも伝えた。
誰が怪しいと思うか、と王はマッテオに問いかけた。
メイドからはマッテオが犯人であると聞いていたため、王がなぜこのような事を聞くのか分からなかった。
だが、マッテオは誰か、なんとなくわかっていた。あくまで勘の域を出ていない。
「それは__」
王はマッテオの答えを聞いて満足そうにうなずいた。
「君は、素直だね。嘘をつかない。警戒する必要が無くていい。
・・・・数日前から、ユーゴが体調を崩していた。何を食べても元気になる様子もない。
これで理由がはっきりした。君はお礼をしつくしても足りないくらいだ。
君を補佐からリュカの専属の護衛騎士長として任命する。
この信頼を裏切らない働きを期待する。今晩だけ、ここにいてくれると助かる。」
ひらりとマントとなびかせて頼もしい背中を見せながら去っていった。
王は私を試したのだろうか。
マッテオは何故王があのような行動をとったのか分からなかった。
翌日、王の護衛騎士がやってきて王の間へ案内される。
そこで大々的にマッテオがリュカの専属の護衛騎士であることを宣言された。
それから5年あまり仕えていた。
リュカもマッテオという護衛に依存しきっていた。時には頼もしい兄として、師として、警戒すらする必要もない護衛として尽くし続けていた。
だが、そんな日々も続かない。
リュカを護衛している物の中に、その忠誠を裏切るものが増え始めた。
その者たちを次々と首にし、辞めずに付きまとおうとしたものは切り殺す。ということを繰り返した。
リュカが王子であるということを利用しようとしてる者たちはすぐにわかった。
誰とつながってるかもすぐに分かる。
その度に葬ってきたが、ある一人の騎士を同じく粛清した日、その騎士がリュカの護衛ではなくユーゴの護衛である事を知る。
マッテオが仕えるのはリュカであり、ユーゴではない。マッテオがユーゴを粛正対象と見なすのは当然とも言えた。
そしてユーゴを始末しようと部屋に乗り込んで事情を聴きとろうと剣を突き立てた時、グラヌスの一つ上の兄がマッテオを取り押さえた。
「陛下のご子息であらせられるユーゴ殿下に剣を向けるとは不敬である!!反逆罪としてこの場で始末してくれる!!我が弟とはいえ見逃すことなどできぬ!!覚悟せよ!!」
マッテオは頭が真っ白になった。だが、瞬間にわかってしまった。これは兄の策略なのだと。
マッテオが盲目的にリュカを守ろうとしていることは分かっていた。
それを逆に利用して自分を始末しようと画策していたのだと。
マッテオは後ずさった。
そのとき、ユーゴは違和感を覚える。ここで自分を殺すなら、誰が現れようと剣に力が入るはず。最初の彼の目は殺すというより、威圧的であっただけだからだ。
彼が自分よりも弟を大事にしてくれていることは知っていた。であるなら、この行動はリュカが関係しているに違いない。
ユーゴはここで彼を処分すれば弟であるリュカに何かしらの嫌疑が掛かると考えた。
「やめよ。ここは私の部屋だ。この部屋を血を付ける事は許さん。」
それから、流れるように転落していった。
数か月にわたる拷問、何も話す気にはなれなかった。数々の同僚からの裏切り。拷問しているのは自分の身内。
口が裂けても言えない。いうわけにはいかない。
それから、リュカの護衛を外される。
それだけでなく、グラヌス家の恥であるとグラヌス家の家名を取られる。二度とその名を名乗ることは許されなくなった。
そして騎士としても働くことを許されず、そのほかにできた料理人として誰もいない屋敷に追いやられた。
王家を殺めようとした罪にしては軽い。殺してしまおうという声さえ上がったが、今までの貢献が認められ、それだけは免れた。
忠誠を誓い続けていたリュカは、必死に表情を隠していた。だが、涙だけは隠せていない。
(あぁ。リュカ様、表情を隠すにはまだまだでございますね。ですが、ご成長されて、何よりでございます。)
皆に背を向け、部屋を出るときに聞こえた。
「どうして、裏切ったの、マッテオ。」
小さな小さなその声はひどくマッテオの心を締め付けた。
そこでカオリが聖女としてその屋敷に来るまで、誰も食することのない食事を作り続けた。作っては捨て、作っては捨て。
食べる人間がいない日々でも八頭まず作り続けた。
半年以上、どんな拷問よりもつらい日々だった。
この屋敷で美味しいと食事をしてくれる。食事の場が賑やかで、幸せそうに笑ってくれる。
その空間を作り出してくれた彼女には感謝してもし切れない。どれほどの喜びを伝えても暖かく包み込んでくれる彼女に対し、嫌な気持ち一つないのも事実だ。
けれど、マッテオにとっての守る、護衛とは、その対象に害なすもの全て、なのだ。それはこの王であって同じ。心を許したであろうリカルドやジュード、師匠である半端者であっても、カオリを守ると決めたのなら、敵意、悪意、殺意、全てから守る。
マッテオが思う忠誠はそうなのだ。
ここまで話し終えてマッテオはカオリの表情を見た。
気持ち悪いと思っただろうか。
不安な面持ちのまま見上げたカオリの目からは小さなしずくが浮かんでいた。
カオリは必死に涙を堪える。泣いてたまるものか。歯を食いしばる。
「じゃあ。マッテオが忠誠を誓わなくたっていいや。私はマッテオがいいんだ。ご飯も、この屋敷にいるのも。
今のマッテオも格好いいよ。私は今のマッテオも、いつものマッテオも好きだよ。もし、マッテオがここに居たいのに追い出されそうなら守ってあげるから。それだけは信じて。」
一つ一つ言葉が漏れるたびに声が震えていた。
涙が頬を伝い零れ落ちる量は増えていた。
だが、それよりもマッテオが驚いたのは、カオリの発言、守ってあげるだった。
護衛は守るもの。だが、それが逆であることはまずない。
リュカの時もそうだったのだ。守ってくださいとは言われたが、守ってやるとは言われたことはない。
リュカは15の時、既に目の前にいる聖女よりもずっと大きく頼もしい姿をしていた。それでも守らなければならない尊い存在なのだ。
このような小さな手で、細い腕で、一回りも体格の違う自分をどう守るというのか。
嬉しいを通り越しておかしく感じた。
「ふ、っははははは!!!!私を、守って、いただけるので?」
あぁ、おかしい。こんなに笑ったことなどあっただろうか。そう感じるほどに今は心地がいい気持ちでいっぱいだった。
「な、なによ、できるよ。聖女様はすごいの、師匠だっているし、強くなるもん。」
マッテオから視線を恥ずかしそうに逸らす。
その姿もまたおかしい。
じんわりと広がるこの感情は一体何なのだろうか。
忠誠を誓うなど、騎士を名乗ることを許されないはずの私がしてもいいのだろうか。
いや、もう騎士ではない。守る忠誠などいらない。
私が、この人を、この方を、お守りしたいのだ。
それでいいじゃないか。
「ンマッデオ・・・・僕は、僕は君が好きだからね!!僕も味方だよ!!」
リカルドも号泣しながらマッテオに抱き付いた。
マッテオにとってはそこまで泣くほどの過去ではないと思っていたので、リカルドの行動には苦笑しか浮かべられない。
(あぁ、平和だ。平和だなあ。この平和も私がいる限りは、壊れてしまうのだろうか。それだけが不安だな。)
自分の為に涙を流す人がまだいることに喜びをかみしめていた。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
マッテオ、案外まともな奴なんだよって言いたかっただけなんです。それだけなんです。
というわけでマッテオ、26歳です。
誤字などありましたらすみません。




