どうやら師匠ができたらしい。
朝日が眩しいそんな爽やかな朝を迎えるのはもう何回目だろうか。
というのは半分冗談で、屋敷の人紹介から1週間がたった。
その大半は読書という名の魔法の勉強だった。
魔法を使った事ない私だけど、何故か魔法の書だけは先に全て読まされた。
魔法を使いたいとジュードにお願いすると、場所と念のための教師を用意するのでそれまで勉強して時間をつぶすことになった。
その間に何回か国王様の専属騎士が何度か屋敷に来てここの本を持っていこうとしていたけれど、ジュードさんが何やら書類を出して追い払っていた。
何かを聞いても教えてはくれなかったけれど、深く聞こうとすると、殆ど表情が変わらないのにその時だけ爽やかに笑ってとても怖かったので聞くのをあきらめた。
リカルドは私が勉強してる時に暇そうに私のベッドでゴロゴロしたり、それをジュードに怒られたりしているけれど、私の側からは決して離れなかった。
ジュードがいる時には時々いなくなったりしているけれど、ジュードが席を外しているときは絶対私の側にいた。
勿論リカルドは騎士の格好をし続けているしジュードもメイドの格好をし続けている。
そのせいで、国王様の騎士が去る時に毎回こいつ頭大丈夫か??みたいな目で見られる。
本人の趣味です!!とは言いたくても言えず、私は笑顔で見送るしかできない。
1週間しか経っていないけれど、あれからリュカ様はこの屋敷に一度も来ていない。
まあ、本来教育すべきはもう一人の聖女様だ。私よりも優先されるのは仕方がないか。と諦めている。
勿論この屋敷で1週間、ごはんも凄く美味しいし、ジュードもリカルドもメイドとしてはとても優秀だし、エルティアも毎日綺麗な庭を保ってくれている。
期待なんてされなくたって、ここで過ごせるだけで実は結構楽しんでいる。
先生が見つかったとジュードから連絡が入ったその日、急な訪問者が現れた。
その人突然私の部屋をノック無しで入ってきた。
その瞬間にリカルドとジュードに取り押さえられてしまったけれど。
「なんじゃなんじゃ!!貴様らは!!!この我を魔法を極めし魔導士だと知っての狼藉か!!このたわけ共がぁあああ!!」
取り押さえられてバタバタと暴れるその人は、自分を魔導士だと言った。魔導士には見えない幼女がいた。
水色の髪に赤い瞳、ぷっくりとしたほっぺたに黒いローブを身に着けている。
年齢的に5歳くらいにしか見えない女の子。どう見ても迷子にしか見えない。
「えっと、ジュード、この子が私に魔法を教えてくれる人・・・?」
念のためにジュードに確認する。というか可哀想だからどいてあげて。
私の願いも虚しく、ジュードもリカルドも拘束を解こうとはしない。
「いえ、この子供ではありません。私がお願いしているのはもう一人の聖女様を教える予定の魔法帝です。
彼はこの国随一の魔法使いです。彼に敵う魔法使いはこの国には存在しません。
聖女様は礼儀作法等を学ばれているので、魔法帝にもう一人の聖女様が魔法を学ぶ前にお時間をいただけるよう、お願いしていたのです。」
きつい視線はずっと少女に注がれ、怖いのか、涙目になり始めていた。
「ま、まあまあ。とりあえず、放してあげて。」
何を目的としてここに入ってきたのかはわからないから警戒するのはわかるけれど、とりあえず可愛い幼女を泣かせ続けているのは良心が酷く痛むので放してもらった。
リカルドとジュードは幼女から離れて私の側に並んだ。
ぐすんぐすんと涙を拭き、鼻水をすすりながら床に座っている幼女に私は怖がらせないようにある程度距離を取りながらしゃがみ込む。
「えっと、魔法を極めた魔導士様がなぜこのような所に?」
私は幼女から話を聞くことにした。幼女は涙を拭きながら答えてくれた。
「わ、我はこの庭を見た。す、凄く綺麗じゃったから、その庭に居るものに話を聞いた。そ、そしたらここの者が魔法を学ばんとしているのに、その師が現れず困っていると言っていた。
な、なら我が、我が力になろうと、した、だけじゃのにぃ・・・。」
後半になっていくにつれて涙の粒は大きく、こらえきれず床を少しずつ濡らしていく。
どうしたものかと側にいる2人を見ると、リカルドが部屋を出た。
ジュードは表情を変えずその幼女を見ていた。
「えー、と、そうなんですか。部屋がたくさんあったと思うんですけど、どうしてここがわかったのですか?」
まずは情報収集よね。本当に魔導士なのかそうでないのか、今の私にはそれを判断する材料がない。
「そ、そんなん魔力の流れを見れば、ここに3人おることくらいわかるに決まっておるわ・・・。しかも貴様じゃろう?その魔法を習いたいと申しておるのは。」
小さい手で私を指さした。少しは涙が止まってきた。
「す、すごいですね。でもどうして私だと分かったのですか?」
すごい、のワードで少し口元が笑った。
「ふ、ふん。そんなもの貴様の魔力を見ればわかる!貴様、その歳でまだ魔力を使ったことがないだろう?
そして不思議な魔力の質をしているな、これほど清らかな魔力は初めてぞ。
ほれ、貴様を見るだけで貴様の状態がわかるのだぞ??ここは我に師事を任せてみよ。
そ、そして、その。」
もじもじとしだした幼女の反応を見て察した。何か下心があるなこの子。顔が恋する乙女だ。誰?マッテオ?ジュード?
まあマッテオは黙っていれば、がっちりとしたその体に年上好きにはたまらない格好いいイケてる親父みたいなその顔だし、ジュードはちょっと女装癖?メイド癖?がある以外はちょっと天然入っているけれどいい物件だ。さらりとした赤い髪をしているし、10人見たら10人が顔を見るだけでときめきを覚えるほどの美しい顔、それが凛として立っている訳で。
まぁないだろうけれどエルティアかな?話したことあるって言っていたし、
まあエルティアも確かに年上のお姉さんから可愛がられそうな可愛いその見た目、加えておっとりとしたその話し方と癒される笑顔、
エルティアと言われても不思議ではない。・・・・・というか美形率高くない?この屋敷。
まあそれはさておき、彼女の話しぶりからして、魔法に関してはなんかすごそうな気はしてきている。
魔力が屋敷の中ですぐわかるだなんて。それってなんだか強そう。
判断に迷っていると、ノック音が聞こえて来て、エルティアとリカルドが部屋の中に入ってきた。
2人の姿を見てボンッ!!と幼女の顔が赤くなる。
ま、まさかリカルドなの!?確かにジュードに似てるから凄く格好いいけど!!でもでもあのキャピキャピした感じはすごく女の子みたいで可愛いよ!?
女の子なんだけどね!!リカルドもちゃんと女の子なんだけどね!!
思った通り幼女は2人のどちらかに好意を抱いてるっぽかった。
どちらだ?どっちなの?幼女と2人を交互に見比べていると、エルティアが幼女に気が付いて幼女の方に近寄った。
幼女の顔がさらに赤くなっていく。
エルティアか!!そうなのね!!
幼女が好きになったのはエルティアだった。誰が見てもわかる彼女の好意をエルティアは気が付いていないのか、いつもの通りにへらりと笑う。
「ありゃあ、お嬢ちゃん本当に来てくれたんじゃなぁ。儂は結構このカオリ様を気にいっちょってのう。助けに来てくれてありがとうなぁ。なんじゃ、急に来たらしいのぅ。儂に言ってくれりゃあ、口利きするつもりじゃったんぞ?」
そう言って今日も泥だらけの袖で幼女の頭を撫でた。
あぁ、やめてあげて、幼女のキャパが!!幼女がキャパオーバーしそうになってる!!
真っ赤だった顔に加えてなんか頭から湯気みたいなのが出てる!!なんか目が回ってません!?
気が付いてあげて!!
そう思ってもエルティアはそのまま撫で続ける。幼女の頭は軽く泥で汚れる。
リカルドは肩を震わせている。ジュードは理解できないと言わんばかりに眉間に皺が寄っていた。
「や、やめんかこの馬鹿者!!ひ、人が見ている前でそんな、破廉恥な・・・・!庭師の貴様にそのような立場があるわけないだろうが!それくらい我が行けば大丈夫なのだ!!い、今先ほど師事の約束を取り付けたからな!!な!!我が弟子よ!!」
「あはは・・・。」
助けを求める様な表情でこちらを見ているので、もうこの際教えてくれるのなら彼女でもいい気がしてきた。
なんて思っていたからか、肯定したと思われて小さな手が私の手を握った。
「では今から教えてやろう。こい、弟子よ。」
幼女に手を引かれ、そのまま部屋を出ていくかと思ったけれど、ジュードが扉の前に立ちそれを阻んだ。
「な、なんだ。我を阻もうと言うのか・・・・?我はそなたの主の師匠ぞ!!」
私の師匠になったからか、ジュードに強気に出ているものの、震えている幼女様。でもジュードは怯まない。
「それは貴様が勝手に言っているだけだろう。カオリ様は何もおっしゃっていない。それをいいことに勝手に連れ出そうとするな。もうカオリ様に教える人材は確保してある。さっさと去れ。
遊び感覚で聖女様に近寄られては困る。」
師匠の手を掴み、放しにかかる。
「い、いたっ!」
掴んだ力が強かったのか、師匠は痛そうに顔をゆがめた。しっかりと否定も肯定もしていなかった事と彼の仕事の熱心さが一人の女の子を追い詰めている。
彼女にも申し訳ないと思うけれど、それ以上に私を守らんと悪役みたいに振舞っているジュードを見ていたくなかった。
「ジュードやめて。まだ彼女がどこの誰かもわかっていない。勝手に追い払うのはそれを知ってからでも遅くないはずでしょ?」
私としてはなるべく穏便にことを済ませたい。無理やり追い払うなんてこと勿論したくないし、エルティアにただ好意を持っているだけなら無下にしなくたっていい。
これ以上どちらも悪く無いのに険悪であってほしくない。
「・・・・ですが、」
何か言いたそうだったけれど、リカルドがそれを目で止めた。その後ジュードは不服そうに掴んだ手を放した。
「ごめんねぇ。君、お名前は??カオリ様の師匠なら、僕のお師匠様ってことでしょ??僕の師匠の名前を知らないなんて、弟子の名が廃っちゃう。だから僕に名前を教えてよ。」
リカルドは幼女の目線までかがみ、優しく声を掛ける。
幼女は掴まれた腕を擦りながら、顔の似ているリカルドに少し怯えながら小さくリリイと名乗った。
「じゃあリリイししょーだ!!ねえねえリリイししょー、魔導士ってことはししょーは魔族なの??」
リカルドはさりげなく幼女ことリリイちゃんの種族を確認する。魔導士がどういう職なのかはわからないけれど、魔族と呼ばれる種族の魔法職みたいなものかと勝手に納得する。
リカルドの急なテンションで一度びくっとびくついたものの、その明るさにジュードが与えた恐怖は消えてくれたようだった。
「我は、半端者だ。魔導士の名は師匠から受け継いだ。半端者でも、実力は師匠から信頼されている!!我は師となっても問題はないのだ!」
半端者が一体何を指すのか、会話の流れでは理解できない。まだこの世界の常識の何もない私には何の話かすら理解が追い付いてくれない。
「・・・ジュードはいつも嫌な役を任せてしまうわね。ごめんね。
えっと、私はもう師匠だと思っていますよ。
けれどジュードはちょっと心配性で、私の安全のためにこうして敵対してくれているのです。
許してほしいとも思っていますし、これから教えていただきたいとも思っています。
・・・・お願いしてもよろしいでしょうか?」
私もしゃがみこんで師匠に目線を合わせて頭を下げた。
ジュードも無言で見ている。リカルドは師匠に合わせてかがんだまま。
気が付けばエルティアはどこかへ消えていた。
「う、うぅ・・・。よいのか?半端者だぞ?」
先程ジュードに責められているのが尾を引いているのか、不安そうにこちらを見ている。
「はい。貴方がいいのです。」
「我以外にも師ができるのだろう?いいのか?」
「はい。いつ来るかも知らされていません。会ってもいません。そんな方より、今会って大丈夫だと思った貴女にお願いしたいのです。」
「よいのか?本当か?」
ちょっと追い詰めすぎてしまっただろうか、それとも圧をかけすぎてしまっただろうか、何度肯定しても不安そうに何度も何度も似たような質問を繰り返し、私はそれに何度も答えた。
何度も何度も答えた言葉がちょっとずつ彼女の不安を取っていった。
最後は小さな声で
「じゃあ、我が今日から師匠じゃぞ。」
と、私に聞こえるくらいの声で笑って答えてくれた。
この世界に来て1週間ちょっと、可愛い女の子な魔法の先生が出来ました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
まだあらすじのようにはなりませんが、もう少し待っていただければそのようになると思います。
まだまだ拙い文章ですが、読んでいただければ幸いです。




