どうやら、少しは打ち解けられたらしい。
人生初のお姫様抱っこを経験した私はそのまま、声を掛けただけで発狂するマッテオと同じくらい変わっているという庭師に会いに行った。
「ほらほら!!あそこですよぅ!!僕あの人結構好きなんですよねぇー。僕らと同じ年なのに、近所のおじいちゃんみたいで!!
おーい!!エルティア―!!昨日からここに住むことになった僕らのご主人を案内しに来たよー!」
嬉しそうに話すリカルドさんですが、まずリカルドさんって何歳なの??私の世界で言う未成年だってことはわかっているんだけど、・・・・いくつなんだろう。
着いたから降ろしてくれてもいいんだけど、一向に降ろす気配のないジュードさん。
私はいつまでときめき★お姫様抱っこを経験し続けなければならないのだろうか。
リカルドさんも無邪気にエルティアさんと呼ばれる地面に座って泥をいじっている小さな背中をに駆け寄った。
「あんれぇ、リカルドちゃんじゃねぇけぇ。まーあええ格好しとるのう、なんじゃ、騎士けぇ?
・・・おんやリカルドちゃんいつの間に分身してたのぉ。分身の魔法はむんずかしいて言うとったがねぇ。これ、食用のお花食べるね?」
エルティアさんはしゃがんだままこちらを向いてへにゃりと笑ってどこから出したのかわからない小さな赤色の花を手に持ち差し出した。
後姿は小さく、小柄だとは思っていたけれど、振り返ると褐色の肌が目立っているドワーフだった。
ドワーフと言えば、職人気質で豪快、小さい見た目とは裏腹のがっちりとした体形、そんなイメージなんだけど、目の前にいるドワーフは細身でふわふわな黒髪の短髪、ほんわかとした印象の少年だった。
長袖の裾を曲げずに泥まみれに汚し、ズボンでさえ引きずっている。
丁度いい服を着ればいいのに、なぜそのぶかぶかを着続けているんだろう。
「なんだこの気の抜けるような話し方は。標準語で話せ、何を言っているかよくわからんぞ。」
ジュードさん、まず言う事はそこではなく、分身説から否定しないと・・・。リカルドさん!?なぜ得意げになっているんです!?
「最近習得しちった、てへ!!僕ってば優秀だからね!!弟のジュードに剣勝てちゃったしぃー?」
それを本人の前で言っていいの!?ほらほらジュードさんの雰囲気が!雰囲気が怖くなっていくよ!?私を抱えている手が一瞬力んでいたよ!?表情が変わらないから余計怖い。
「あんらまぁ、じゃあその子は分身じゃねくてジュードっちゅー弟さんだったんかぁ。似すぎててわからんやったぁ。」
さすがに分身説はリカルドさんが自ら弟の存在をぶっちゃけることで自分で違うことに気付けたようだ。よかった。それでもこの状況はつらい。
「あ、あの、そろっと降ろしてくれると・・・。」
ジュードさんが怖い。降ろすようにお願いすると、表情をそのままに私を優しく卸してくれた。
ようやく目の前に庭師のエルティアさんの前に出ることが出来た。
「おーよよ?そちらのお嬢様がその人かいね。ここの屋敷は人が入ることはないから存分に好きな花育てててええよぉ言われてここにおるんじゃが、
お嬢さんがここに着てしまったら、儂はここをさらにや行かんねぇ・・・。」
内容はとても悲しいのに、その声色は不思議と明るい。泥だらけの袖をそのままに頭を掻きながら作業を止めてこちらの方を見て立ち上がった。
そしてそのまま立ち去ろうとしたので、私は慌てて声を掛けた。
「ま、待ってください!!別に要望とかはないので、この屋敷の庭は全てお任せしますし!!今見ても綺麗なお庭です!!文句はないです!!」
自分で言って気が付いたけれど、本当に綺麗な庭なのだ。先程水をやり終えたのか、きらきらと朝日に照らされて緑と赤、黄色などの色が映えて視界に移る。
先程の会話で庭を見る心の余裕はなかったけれど、この庭を維持するのは、彼が一番な気がしたからだ。
私の言葉を聞くと、寂しそうな背中が勢いよくこちらを向くと、きらきらと目を輝かせてこちらに駆け寄ってきた。
「ほ、ほんとけぇ??わしはここにおってもいいんけぇ??お嬢さんは心が広かひとじゃねぇー。普通のお嬢さんは儂がこんな口調で見た目しとると、すーぐ居場所を取られてしまうけぇのぅ。
ええのうええのう。そうじゃ、お嬢さんの名前を聞いてもええかの?ええかのぅ?」
どんどんこちらに迫ってくるエルティアさん。徐々に距離を取ろうと後ろに下がりかけると、ジュードさんが私の前に立った。
「この無礼者が。この方が聖女様であるぞ。いくら知らんとはいえ、その様な態度は許されん。府警に値するぞ。」
ジュードさんは怒りの眼差しでエルティアさんを視線で射貫く。だがエルティアさんは笑顔で笑った。
「聖女様ぁ??聖女様ってあの聖女様けぇ!?あのあの!!どんなんびょーきでも直すとされる聖女様けぇ!?」
聖女の言葉を聞いて飛び跳ねながら喜んでいるエルティアさんを見て、ジュードさんの怒りはなくなっているように見えた。
「ふん。貴様も聖女様がいかにすごい方か、わかったようだな。ならば今後も聖女様に喜んでいただけるような庭を造るがよい。」
「うおおおお、聖女様聖女様ぁ!!」
エルティアさんのピュアな視線が私を射抜いた。
というか、聖女ってそんなに凄いものなの?確か聖女ってもう一人の方じゃなかったの?
確かに私はエルティアさんが言っていた能力は持っているらしいけれど、この世界に必要なのはもう一人の浄化の能力なのでしょう?
あの禿げが顔には出してないが私の能力を見て残念そうにしていたのは見てわかっていたし、国王様が私の扱いに困っていたのも分かっていたので、いまいち私自身の必要性がわからない。
「・・・確かに私は聖女として召喚されたらしいけれど、本来の聖女様はもう一人の方なんです。私には世界を救う浄化の力がありませんし。」
私を聖女としてピュアな感情を向けているエルティアさんとジュードさんのその気持ちを壊すようで申し訳ないけれど、その事実は変わらない。
私には、なんの力もないと2人に伝えた。これでもし嫌なら去ってくれてもいい。
そしてそれは発狂していたマッテオにも当てはまる。
この世界で聖女様がどれほど重要で大事にされているかは、この屋敷の皆の反応で分かっている。
もし、本当に聖女様に仕えたいのなら、それは私じゃない。もう一人の方、可愛くてまだ若い、あの子なのだから。
「もし、それを知った上でもう一人の聖女様のお付きになりたいのなら、私が直接お願いしますので、遠慮せずに言ってくださいね。」
もし私に浄化の力がないとわかってここを立ち去られる時に、悲しくなるほど仲良くなる前に私は告げた。
それが彼らにとっても最善な気がしたからだ。
「・・・・聖女様の存在そのものが凄ぇありがてぇ存在でさぁ。例え聖女様が聖女様じゃあねかったとしても、儂の居場所はここがいい。
儂が育てたこの庭に居れるんが一番いい。もし、聖女様がどっかの偉いご令嬢さんでも、儂をここに置いてくれているならそれでええですけぇ。」
エルティアさんは首をかしげながら不思議そうにこちらを見ていた。ジュードさんは眉間に皺を寄せていた。
「・・・聖女様が浄化の力がないことなど、わかっております。それはそこにいるリカルド、マッテオ同様です。それでも納得して皆ここに居ります。聖女様、何か問題でもございましたか?」
ジュードさんは私に傅いた。それにつられてリカルドさんもエルティアさんも傅いた。
こちらに来たばかりで、私の反応は微妙で、もう一人はずっといい反応。容姿も若さもある。
まだ21歳は若い部類に入ることは十分に分かっている。わかっていても、どこかであの子の方が何事も優先される、その事で勝手に壁を隔てていたのは自分の方だった。
「・・・・ない、です。」
問題なんてあるものか。この人たちは、少なくとも必要とされているあの子よりも私でいいと思ってここにいてくれているのだ。
今はそれだけでいいよね。それだけで十分だよね。
「でも、聖女様はちょっと嫌ですね。できればカオリと呼んでくれますか?あまり畏まられすぎるのも、私が嫌です。」
ようやく肩の力が抜けた気がした。
こんな単純な人間だと自分でも思っていなかったけれど。
今は引きつることなく笑えた。そしたら急にリカルドさんが私に抱き着いてきた。
思わずバランスを崩しそうになり、それをジュードさんが後ろから支えてくれてサンドイッチ状態になった。
エルティアさんが羨ましそうに見ていたので、目でおいでと合図すると、リカルドさん越しに抱き着いてきた。
見事に手を回した先の私のドレスに袖についた泥がべったりと付いて後でジュードさんにげんこつを貰って痛いと泣いていたのは、笑い話だ。
それから私を含めた5人の生活が始まる事となった。
そしてこの日から私が彼らにさん付けと敬語を使うこともなくなった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
ブックマークの数が徐々に増えていてとてもうれしいです。
励みに頑張らせたいただきます。




