どうやらこの屋敷、キャラの濃さが尋常じゃないらしい2
着替えを済ませて用意された高いヒールを履く。
今あるドレスもそうだが、靴までサイズがぴったり。
昨日の今日でどうやって用意したのか、軽く恐怖すら感じていた。
慣れない高いヒールとふわふわのロングドレス、時折裾を踏んで転びそうになってしまう。
「やだ聖女様ったら躓いちゃってかわいー♪今日の僕は騎士だからね。リードしてあげちゃうねん。」
リカルドさんは私の手を取って優しく引いてくれた。
その手を取らないでいたいけれど、今はそれを許さない程バランスが悪く、格好いいことにリカルドさんのリードは完璧すぎた。
腕を組む形になって、ちょっとした恋人気分なのだけれど、気にせず勝手に歩いてこけかけてもそのフォローを忘れない。慣れない靴にバランスを崩してしまっても一緒に崩れることなく支え気遣ってくれる。
そのおかげもあって、バランスを崩すことはあっても、こけたりはしない。ジュードさんと合流してからも私をリードしてくれた。
ちょっともたつく私の足取りをただただ笑顔で、他愛もない話なんかをしながら案内してくれた。
案内された先には、大きなテーブルに白いテーブルクロスが掛かり、真ん中にポツンと椅子が置いてある。
椅子に向かい合う様に立っているのは、白い調理服を身にまとい、帽子を持った茶髪でガタイの良い少し年上のお兄さん。
この人が朝食を作ってくれた人なのかな。営業スマイルが爽やかで眩しい。私の中のまともな人枠に勝手に入れてしまった。
案内されるままに席に座り、メイド服のジュードさんが次々と料理を運んでくる。
その品10品。サラダにパン、主菜のチキンに副菜が3品デザートが2品にスープ一皿。パンに至っては2種類もあり、それぞれが少量ずつで合わせると丁度1人前くらいの量だった。
朝食は大事だと言われているけれど、これは多い。私は少し人よりも食事を食べる方だからいいけれど、普通の女の子なら、いくら少量でも引くレベルだよね。
どれから手を付ければいいやら迷った挙句、手前に置いてあるスープを飲んだ。
あっさりとした味。するすると飲めてしまう。
スープのおかげで少し食欲が出てきたので、パンを手に取りちぎって一口。ほのかな甘みと柔らかな触感。中にレーズンが入っていた。香りが強いのでラムレーズンなのかな、凄く美味しい。
あんな量食べれるか、と思っていたけれど案外全部食べ切れた。
腹八分といったところかな、朝食には十分だった。
「大変美味しかったです。ありがとうございました。」
恐らくあの爽やかお兄さんが作っただろうと思ってちゃんと顔を見てお礼を言う。
すると、お兄さんは顔を真っ赤にした。
「な、なななな!!!何たる事だ!!聖女様が私めに!!!私めに話しかけてくださった!!!はああんっ!おいっ、美味しいだなんてっ・・・・!!愛情込めて作ってよかったぁあああ!!!」
いきなり号泣した。地面に手をつき、何度もその床を殴る。そのたびに木霊する地面が揺れる音。
感動の仕方がダイナミックすぎる。
いきなりの事で硬直していると、
「なんだこの料理人は。頭がおかしいんじゃないのか。」
ジュードさんが辛辣なことを言って号泣し続けているその人から距離を取った。
「あ、ああ、ああああの!!よよっよろしければ!!マッテオと!!マッテオとお呼びください!!!!」
急に立ち上がって今度は膝を打ち付けたんじゃないかと心配する程立ち上がったまま足をまげて土下座した。
滑り込んでないからスライディング土下座ではないけれど、これはこれで面白いと思ってしまった。
「じ、じゃあマッテオさん・・・?」
「ンノオオオオオオオオオオオオ!!!!ノンノン!!!マッテオとお呼びください!!さんだなんてそんなっ・・・・!!距離を置かれたようで寂しゅうございますうううううう!!!」
おいおいと男泣きし始めたので、小声で「マッテオ」と呼ぶと、さっきまでの涙が嘘のように無邪気な子供の笑顔で喜んだ。
リカルドさんはお腹を抱えて爆笑している。
「王家には腕利きの料理人しか雇わないと聞いていたのですが、不都合がありました。これより王に掛け合い、至急調理師を腕利きのものに変えてまいります。」
背後に黒い何かを漂わせながらその場を去ろうとしている。変えられると察したのか、笑顔が消えて嘆きだした。
「私はなんて使えない奴なんだっ!!こうも筋肉しかないとは・・・・!数年前は国王様に腕を認められて王宮へとやって来たというのに、気が付けば見知らぬ屋敷に追いやられ、
なんとこの屋敷で聖女様にお仕えできると思っていたが、私の思いが足らない故!!愛が足らない故!!!解雇されようとは・・・・。私はもう命など要らん!!ここで一思いにっ!!」
「待って待って!!味は大変美味でした!!!敵意がないのは一番信頼できますし!!私はマッテオで文句はありません!!むしろマッテオがいいな!!凄く美味しかったもの!!マッテオだったら嬉しいな!!」
ジュードさんが小声で正気ですか?と聞いてきたが、なんかもう一思いにやられるくらいなら、腕は確かなわけだしこのままでいい気がしてきた。
「まままっマッテオがいいと!!!このマッテオを選んでいただけるのですか!!!私はもう天にも昇る思いにございますぅ!!!ありがとうございます!!ありが、ぐはっ・・・!」
興奮で息を荒げてこちらに駆け寄ろうとしてジュードさんに顔面を蹴られた。
マッテオはジュードさんよりも大きいから、そのひらりとしたスカートの中が見えそうでハラハラしたものの、即座に体制を戻したので、見えそうで見えなかった。
このハラハラ感、パンチラを望む男の人の気持ちが少しだけは分かったつもりになった。
「は、ははは・・・。」
分かると思うが、苦笑しか出なかった。
食事所から離れる時、見送ろうとゾンビの様に這いずって来たけれど、それもジュードさんに止められていた。
そこからまたリカルドさんにリードしてもらい、自室へと戻った。
あー、なんだろう。朝からなんか疲れてしまった・・・・。そのまま椅子に座って積み上げられている本を手に取ろうとしたときにリカルドさんから声を掛けられた。
「あ、聖女様、そう言えば庭師の人と会ってないですよねぇ??庭師の人、マッテオみたいにちょっと変わっているけど、すんごくいい人なの!!確か、この屋敷に勤めている人はその庭師で最後だし、会ってみません??」
にっこにこと笑いながら更に恐ろしい提案をしてきた。
「ち、朝食を食べたばかりですし、それに仕事の邪魔をするんじゃあ。」
やんわりと断りたかったのだけれど、
「それなら私が連れて行きましょう。」
そう言ってジュードさんが私を横抱き、所謂お姫様抱っこをした。
「え!?」
驚いたままではいられない。
「姉さん、早く案内しろ。聖女様に安心していただくためにこの屋敷に勤める者を知らなければならない。」
せめて騎士のかっこいい男の人に、なんて思ったけれど、ジュードさんを見上げたその顔があまりにも格好よく見えてしまって、イケメンの恐ろしさを覚えてしまう。
「んじゃあ、いっちょ行きますか!!ジュードォ、僕に付いてきなっ!!」
「ふん、粋がるな馬鹿者。余計なことを言わず早く案内しろ。」
変わった人というくらいだ。きっとあの調理師の人よりも変わっている可能性が高い。
アレみたいに変わっているっていったい何なんだ。
みたいにって聖女ってだけであんなテンションなのに、またあんなテンションに付き合わなければらないのか!!
それなら安心とかそんなことは良い!!早く!!早く休みたい所存です!!!!
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