1-8 風我雷蔵はダンジョンの奥へと進み、やがてハリーに過去の自分との面影を重ねる
俺たちはどれほど奥へと進んだのだろうか。ダンジョン・コアと思わしき物体はまだ見つからない。
ハリーの話を信じるのならば、そのダンジョン・コアとやらを抜き取るとこの洞穴は消滅し、同時に洞穴から出現した魔物…つまりゴブリンたちも消えて無くなるそうだが……正直、にわかには信じがたい。
(しかし、この面妖な世界ではそんな荒唐無稽なことも起こり得るということか…?)
面妖なことといえばもうひとつ。とある場所を境に洞穴の中が妙に明るくなった。
光源を探ってみたところ、誰がいつ吊るしたのか、そこの天井には髑髏を模した提灯のような物が等間隔で吊るされており、その中にある蝋燭に灯された火が、洞穴の中の暗闇を照らしていた。
「いつの間にこんな物が……ゴブリンたちの仕業か?」
「いいえ、多分これもダンジョン・コアが近づいている証拠です。ダンジョンの内部ってのは人工物のような物体が度々形成されるそうなんですが、それら殆どはダンジョン・コアの魔力によって勝手に生成された物なんです」
「……つくづく面妖な…まあこれで、どちらか一方が松明を持つ必要は無くなった。ハリー、次からはお前も俺と共にゴブリンと戦え」
「はい!俺と雷蔵さんとなら、ゴブリンの群れが相手だろうがきっと勝てますよね!」
「…………」
威勢の良さから感じる。コイツの浮き足立ちっぷりが。
自分の手でゴブリンを倒したという成功体験が、ハリーに必要以上の自信を与えたのだ。
しかし、今のハリーの情緒には俺にも覚えがある。初めて真剣を握ったあのとき、俺はまるで天下一の剣豪にでもなれたような気持ちだった。
しかし、そんな万能感は現実を知らない若造の幻想なのだと、その後に身を持って思い知ったのだ。
(……先生…)
人には、後悔してもしきれない過去というものがいくつもある。
俺にとってそれは、真剣を始めて握ったそのときの出来事がそうだった。
今になって、俺がどうしてハリーにここまで肩入れしたくなったのか、その気持ちの正体が何となく分かった。
俺は、あの現実を知らない若造だった頃の俺と、冒険者を志すハリーを重ねて見ていたのだ。
だから放ってはおけなかった。たかが若気の至りのために、大切なものを失う苦しみを、異界の地で出会ったこの若造に味わせたくないからだ。
「……ハリー!」
「は、はい!」
「……気を抜くなよ」
「えっ?……あっ、はい!」
多くは語らない。所詮年長者からの説教や忠告など、若造の耳に届く筈がないと分かっているからだ。
ハリーが真にそれを理解するのは、実際に経験する他ない。己が無能故の失敗を。
その失敗を、せめて取り返しの利く範疇に収めてやることこそが、ハリーに剣の振り方を教えその気にさせてしまった俺の、せめてもの責任の取り方なのだから。




