1-9 風我雷蔵はゴブリンの巣穴の最奥へと到着し、やがてダンジョン・コアと思しき黒い魔石を発見する
ゴブリンを倒しながら奥へと進み、やがて俺たちは巣穴の最奥へとたどり着いた。
巣穴の奥はそれなりに広い空間だった。剣術道場とほぼ同じくらいの広さだろうか。
そこにはざっと数えてニ十匹ほどのゴブリンが屯していた。棍棒や石斧などの武器を持つゴブリンも少なくない。
そして、そのゴブリンたちが屯する広間の奥の壁面に、二の腕ほどの大きさのある黒光りする宝石のような物体が突き刺さっていた。
「……あの奥にある黒い宝石のような物が」
「はい、ダンジョン・コアです!……多分…」
「多分?」
「あの、俺も実物を見るのは初めてなもので…」
「……まあいい。とりあえず、あの黒い宝石を引き抜いてみるとするか。もしそれで何も起こらなかったら、そのときは…」
「そのときは…?」
「ここに居るゴブリンを全て狩り尽くす。簡単な話だ」
「……えっ?あっ、な、なるほど…!」
「あの黒い宝石は俺が取りに行く。お前は俺から離れたところで、少しの数でもいいからゴブリンたちをできるだけ引きつけておけ」
「はっ…はい!」
「……ハリー、身の危険を感じたら直ぐに逃げろ。いいな?」
「えっ!……でも、俺が逃げたら雷蔵さんに負担が…」
「行くぞッ!」
俺はハリーの返事も待たずにゴブリンの群れの只中へと躍り出た。
俺たちの存在に気付いたゴブリンは、醜い面からこれまた醜い奇声を上げて、俺の方へと向かってきた。
「今回ばかりは、お前たちに構っている暇はない!」
俺は最小限の動きでゴブリンの攻撃を交わしながら、ダンジョン・コアと思われる黒い宝石目掛けて一直線に突き進んだ。
どうしてもかわしきれないと判断したゴブリンの攻撃のみ、刀で対処する。
回避か攻撃か、それを瞬時に見極めるのは至難の技だ。
だが、用心棒稼業の中でときには一対多数を経験することもあった俺にとっては、そういった瞬時の判断を正確に下すのも慣れたものだ。
「やあ!だあーっ!」
後ろで奮戦するハリーも、どうやら上手くやっているらしい。
いちいち振り向いて様子を見たりはしないが、本人のやる気に満ちた声とゴブリンの悲鳴で、おおよその状況は把握できる。
ハリーの剣術の筋が良いことは、昨日の剣術指南のときから何となく感じてはいたが、こと多数のゴブリンを相手に立ち回れている現状から、ハリーの才能は俺の予想以上のものであると感じずにはいられなかった。
(最も、その才能の高さが奢りに繋がらなければいいが…)
一抹の不安を感じながらも、俺はついにダンジョン・コアと思われる黒い宝石まであと一歩のところへと近づくことができた。
(これがダンジョン・コアとやらであってくれよ!)
俺は黒い宝石へと手を伸ばす。あと少し、もう少しで届く……
だが、俺の手は黒い宝石に触れることができなかった。
「なにっ!?」
突然、黒い宝石から眩い輝きがほとばしる。
俺は思わず伸ばした手を引っ込め、その手で目を覆った。
光は直ぐに収まった。俺は塞いだ目を見開き、改めて前を見遣る。
「なっ……!?」
信じられない光景が目に飛び込んだ。
目の前に、それまでそこに居なかった筈の巨漢の鬼のような化け物が現れた。ゴブリンと比べてはるかにデカい。俺よりも背丈は上だ。
「コイツ…!まさか、あの黒い宝石が呼び出したとでも言うのか!?」
『グオォーッ!!』
巨漢の鬼は、棘付きの鉄球を先端に備えた槌のような武器を右手に持っていた。
鬼は咆哮と共にそれを俺の脳天目掛けて振り下ろしてきた。
間一髪で俺はその攻撃を回避したが、振り下ろされた槌は俺の後ろで光に目が眩み突っ立っていたゴブリンに直撃し、ゴブリンは頭蓋どころか全身を粉々にされ弾け飛んだ。
「気をつけてください雷蔵さん!」
ゴブリンたちと対峙しながら、ハリーが俺にこの巨漢の鬼の説明を始めた。
「そいつは恐らく、オーガです!ゴブリンなんかとは比べ物にならない力を持っています!無理に戦おうとはしないで、その黒い宝石…ダンジョン・コアを抜き取ることに専念しましょう!」
「なるほど、だがそう言われてもな…」
巨漢の鬼……オーガは今、黒い宝石を守るようにその場から動こうとしない。隙をついて黒い宝石を壁面から抜き取るなど、俺の足運びを持ってしてもできるかどうか…
(……だが、これで分かったことがある。あの黒い宝石は、間違いなくダンジョン・コアだ!)
オーガは黒い宝石の輝きと共に現れた。恐らく、ハリーの言っていたダンジョンの最奥に居るという強力な魔物こそが、このオーガなのだろう。
目の前のオーガを倒し、ダンジョン・コアである黒い宝石を抜き取れば、全ては終わる。




