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第9話 人間さん、さようなら

タヌキツネ洞窟。小さな笑劇場の楽屋。

「頑張るで。北太」

「頑張るやねん。又之介」

又之介と北太が、応援し合う。

勇気がわいてくる気分だった。

ゴンチャンとの大勝負。

一発ギャグ勝負は、即興漫才に慣れた大爆笑カルテットを、緊張させる。

考えてきてない。勢いで行く。

「よし。行くで」

「行くやねん」


小さな笑劇場。

一発ギャグ勝負スタート。

一番手。大爆笑カルテット。

ジャ~ン。

「一発ギャグ、行くで」

「一発ギャグやねん」

「ガオ!森のくまさんや」

「森のくまやねん」

くまのモノマネをして、舞台を行ったり来たり。

あはは。

あはは。

あはは。

本物の森のくまにもウケている。

ぱちぱちぱちぱち…。


二番手。キツネの大御所、ゴンチャン。

ジャ~ン。

「一発ギャグじゃい」

手慣れた、ひとり舞台。

腰に両手を置いて…。

「人間さんの偉人。西郷どん」

ふんぞり返る。ただ、それだけ。

あはは。

あはは。

あはは。

単純にウケている。

ぱちぱちぱちぱち…。


第9話 人間さん、さようなら


小さな笑劇場の楽屋。

「なかなかじゃな」

ゴンチャンが、大笑いしている。

「オレの方が上やで」

「ボクも上やねん」

又之介も北太も、笑っている。

一発ギャグとは言ったが、双方ともにモノマネであった。

森のくまと西郷どん。

双方は、絶対の自信を持って笑い合っている。

「引き分けじゃな」

「引き分けでいいわ」

「そうやねん。引き分けでいいやねん」

お笑いを認め合う又之介たち。


その後の、森の動物たちの審査も、どっちも優勝でいいという話で決まった。

ゆるゆるなのが、オオワライの森の主流だ。


勝負は、引き分け。

人間さんの女の娘のぽんずは、自由と決定した。

しかし、それが伝えられることは無い。

笑福社長たち、大人の動物たちの決定で、女の娘ぽんずの記憶が消されてしまったからだ。

オオワライの森に平穏が戻るのだ。


本当に、それでいいのか?


そう思ったのは、又之介だった。

人間さんの女の娘と、さようなら。

昔は、テレビの人間さんと、さようなら。

お笑いだけが、残った。

オオワライの森は、人間さんと別れるしかないのか。


気がつくと、不思議な空間に、又之介はいた。

『忘れるのだ。又之介』

いつも、フワフワのあじぽこ様。

美しい漆黒色の長い髪の美女の姿になっていた。

瞳は美しい紅い色だった。

『人間さんの女の娘にお別れを言うのだ』

あじぽこ様は、真剣な眼差しで又之介を見つめる。

「オレより、北太や」

人間さんの女の娘に惚れた相方。

絶対、お別れさせるのは、嫌だった。

北太は、この場にいない。

『又之介。お前は、あの人間さんの女の娘に惚れたんじゃないのか』

「オレは、関係ないわ。まだ、女の娘を好きになる気持ちがわからん」

『そうか。では、私を好きになってくれる可能性もあるのだな。良かった』

見つめ続ける。

「?」

『可愛い弟子。又之介。お前は、幼少の頃から、テレビの中のお笑い喜劇に夢中だったな』

幼い頃の又之介。

輝く瞳で、夢を見ていた。叶えたかった。

お笑いの舞台に立って、皆んなを笑わせること。

今は、洞窟の小さな笑劇場で夢を叶えている。

「人間さんとは、別れるしかないんか?」

又之介は、北太がせっかく仲良くなった、女の娘ぽんずとのお別れが悲しかった。

『森は、人間さんを拒絶する。あきらめろ』

オオワライの森で、又之介と北太は、これからも舞台の上で自分の面白いと思ったことを続けられる。

忘れる。

忘れよう。人間さんと出会ったことを。

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