天間明の三日目 その1
たっぷりと寝たはずなのに、まだ眠いと身体がうなっているように思えた。
重い体を動かし携帯電話を見ると時刻は午前四時半になっている。
十時間ほど眠ったのに疲れは取れているように感じなかった。
寝ている姿勢を変えるだけで身体のあらゆる筋肉から悲鳴が上がる。
明は気合を入れて、立ち上がると頭だけはスッキリしていることに気が着いた。
「いつつ」と声をもらしながらトイレに行き、台所で顔を洗う。
動き出すと途端にお腹が減っていることに気が付いたので、昨日五十鈴が用意してくれたご飯を食べることにした。
いい味を作れるようになったなあと五十鈴の料理に感心しながら、味噌汁とから揚げでどんぶり飯を一杯平らげる。
食べてからケイがアシュタンガヨガの前はあまりご飯を食べないほうが良いといっていたのを思い出した。
今日は無事にアシュタンガヨガを出来るだろうか。
アシュタンガヨガのことを思うとちょっと憂鬱になったが、ケイが軽々とやっているのに、筋肉痛だからと見学するのは情けない気がするのでやるしかない。
たっぷり寝て寝汗もかいてるのでシャワーを浴びてスッキリすると、部屋の隅で陣取っている服たちを眺めた。
それにしても凄い数だ。
Tシャツだけで三十枚は超えているだろう。
パンツの裾直しが面倒だったなあと思い出した後に、何を着るべきだろうと考えた。
しかし、日ごろから着る服を考えるのが面倒なため、Tシャツ以外はいつも同じ服を着ている明からすれば、選択肢がありすぎて頭がショートしそうだ。
結局、一番上に置いてある服を組み合わせていけばいいかという、適当な感じになり、白色のサマージャケットに黄緑色のシャツとベージュ色のパンツといった服装になった。
そう言えば銀のブレスレットも買っていたので付けてみる。
ちょっと気恥ずかしいけどすべて新しいものを身につけるというのは、やはり気分が良かった。
シルバーのスニーカーを履いて、ゆっくりとケイのマンションに向かう。
筋肉痛のためか身体の神経が敏感になり、歩くだけで今どこの筋肉が使われているのか、感じ取ることが出来た。
もう少し太ももの内転筋を使えば歩く姿が綺麗になるかな、何て考えてしまう。
これもヨガの体に意識をする効果が出ている証拠だろう。
ケイのマンションに着くと、ケイはもう玄関ホールで待っていた。
ケイは格好良くなったと言ってくれたので、安心する。
まあ、服を選んでくれた本人なので「趣味が悪いよ」なんて言われたら女性不審に陥ってしまいそうだけど。
今日も昨日と同じく、中央線で吉祥寺から荻窪に移動した。
そして昨日と同じスタジオでアシュタンガヨガを始める。
筋肉痛が猛威を振るっている中でのヨガはもちろん痛い。
でも身体が温まってくるうちにだんだんと痛いような気持ちいいような感じになってきた。
それにしてもアシュタンガヨガは身体を凄くひねるポーズがある。
内蔵が動き、絞られるのでゲップとおならが出そうになった。
また昨日より内臓の収まりが悪く、身体がひねり辛い。
たぶん、胃に食べ物が入って膨らんでいるためだろう。ケイがヨガの前ではあまりご飯を食べないと言っていた意味がわかった気がした。
アシュタンガヨガが終わると、疲労感が半端なかった。
ケイは慣れてくると終わった後の方が元気になると言っていたがとても信じられない。
でもここまでハードな内容を続けていくと、身体は確実に変わるだろう。
ヨガを終えると明はケイと一緒に日高屋に入った。
明は二度目の朝食になるが、お腹はそこそこ減っている。
ヨガでカロリーがかなり消費された気がする。
日高屋でお腹が膨れると、中央線に乗って一駅隣の阿佐ヶ谷に移動した。
午前中はケイがヨガライク阿佐ヶ谷店で仕事だからだ。
二時間ほどで吉祥寺店に移動するので、どうやって時間を潰そうかなと明は考えていた。
この疲れ切った身体でホットヨガを受けようなんて気持ちは微塵も湧かない。
明は吉祥寺店以外のヨガライクに来るのは初めてだった。
ケイにサクラというインストラクターを紹介される。
背が小さいく、童顔でとても可愛らしいインストラクターだ。
外見からはまったく年齢がわからない。
ヨガをやっている人の特長として、年齢不詳の人が多い。
ヨガには若返りの効果もあるためかも知れないが、サクラはその代表例のようだ。
話の流れでなぜか明もホットヨガをするはめになった。
インストラクターがケイなので、疲れているとはいえあまり自分の不甲斐ない姿を見せたくない。
常温のヨガでも水を飲む時間をくれるクラスも多い。
ホットヨガでは全身から汗が常に噴出してくるので、水を飲む時間は常温の倍以上あった。
一リットルの水のペットボトルが見る見るうちになくなっていく。
常温でもけっこう汗をかける明としてはホットヨガは汗が出すぎて気持ち悪かった。
スポーツタオルが絞れそうなほど汗を含んでいる。
ご飯を腹いっぱい食べたのも災いしているのか、レッスンが半分を過ぎると気分が悪くなった。




