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天間明の三日目 その2

何とか一時間のレッスンが終わって、ホッと息をつく。

ホットヨガだと常温に比べて、三倍ほど汗が出た気がする。

ヨガをやっている間は汗をかきすぎて少し気分が悪かったが、シャワーを浴びた後の爽快感は素晴らしかった。

まるで身体を洗濯して悪いところをすべて洗い流したような気分だ。

体質的にはあまり合ってない気もするけど、もっと元気なときにもう一度受けてみたいかなと思った。

 

ケイの阿佐ヶ谷での仕事が終わったので、電車に乗り吉祥寺に戻ることにする。

外に出ると、ホットヨガの効果か、真夏の日差しさえ爽やかに感じた。

小学校の頃にプール帰りで感じたような爽やかさがある。

それと共に身体が鉄でコーティングされたように重く感じた。

ガソリンが切れかけで速度が安定しない車のような気分だ。気力だけで持っている気がする。

ちょっとこの二日間はヨガを頑張り過ぎたかも知れない。


吉祥寺に着くと大戸屋で昼ご飯を取ることにした。

もう三食目なので、あんまりお腹が減ってないかなと思ったが、ロースかつ定食をぺろりと食べられてしまう。

隣でケイが大盛りのご飯を楽々と食べていた。

食べた分だけ動けば太らないという、そんな単純なことをケイが証明しているように見えた。

筋肉のあるしなやかな身体なので、食べずに痩せている人たちより、健康的で美しい。

惚れている欲目もあるだろうがどこを見ても美しいなと、大盛りご飯をパクパク食べるケイを見て明は思った。


ご飯を食べ終えると、ヨガライク吉祥寺店に行き、今日のケイを送ると言う役目は終了である。

後はケイをストーカーしそうな男がいるかを薫子に聞くだけだ。

ヨガの疲れで睡魔が襲ってきていたので、明はもう帰りたかった。


薫子は可愛らしいお弁当をもぐもぐと食べていた。

一年ほど伸ばしたような長い爪で箸を上手に使っている。


「ケイさんに惚れているお客さんっているかな?」


食べている途中だったけど薫子は嬉しそうに話し始めた。


「私の見たところ何人もいるね。大体ケイちゃんってスタイルはモデル並だし、顔はそこら辺のアイドルも真青な美人じゃん。明さんももっとちゃんと見たほうがいいよ。今日なんてスッピンなのにあの美貌だよ」

 

そう言われて明は振り向いてケイの顔を見てしまう。

口角が上がっていつも笑顔に見える口元と、顔のバランスにちょうどいいスッとした鼻。

それに切れ長のやや大きな目は好奇心が満ち溢れたような少女のような、でも細めると大人の優しい色気が漂い、明の心臓を締め付ける凶器のような美しさを持っていた。

どこが良いかと聞かれると、明はケイの眼が一番好きだが、全体のバランスがとてもすてきだった。

顔が赤くなりそうなので、すぐに視線を前に戻す。

薫子に言われなくても、ケイの美しさは明の本能が良く感じていた。

ただいつもケイは薄化粧のようなので、今日がスッピンだとは言われるまで気が着かなかったけど。


「良かったら教えてもらえる? ケイさんがストーカーされているかも知れないんだよね」


「ストーカーをするタイプかは別にして、優さんと弘一さんがケイにハートの視線を送っているね。もう他の人を見る目とケイを見る目がまるで違うもの。二人とも夕方のレッスンが多いから、明さんは会ったことないかな? 優さんはちょっと痩せ型の眼鏡をかけている人で、弘一さんは筋肉質で背は明さんより低いね。他にはちょっとおじいちゃんの敏郎って人もケイを気に入っているね。ケイのレッスンしか受けないし。優さんと弘一さんはやらしい目で見ているというよりは完全に憧れのアイドルを見るような感じだけどね」

 

薫子の話を聞いて、どうもヨガ教室に来ている男が襲ってきた犯人ではないような気がしてきた。

ナイフでケイを襲った犯人の姿ははっきりと覚えている。

明より少し背が高く、がっしりとした体格だった。

走り方も年を取っているような感じはしなかったので、薫子の言っている三人には該当者はいなさそうだ。

まだ可能性があるとしたら弘一という男か。

上げ底の靴を履けば身長はごまかせる。

ただよほど履きなれないと上げ底の靴であそこまで速く走れないと思う。

容疑者として一応覚えておくが、違うだろうなと明は思った。


「それで明さんはケイちゃんのことどう思っているの?」


「え?」


「あんなに可愛くて今フリーだなんて奇跡に近いと思うよ。私が男なら狙っちゃうな。もういろいろ貢いじゃうでしょう」


「みつぐ?」


「そりゃそうよ。ケイちゃんみたいにいい女を捕まえようと思ったら、夜景の綺麗なホテルのレストランで高いワインあけるくらい普通よ。服とかじゃんじゃん買って上げないと。経済力があればだけどね」


薫子はそう言うと丸顔の右頬を上げてニヤリと笑った。


「ふうむ」


そんなものなのだろうかと明は考えてしまった。

ケイと行動を共にしていろいろな店で一緒に食べたけど高級な店にはまだ行ってないし、奢ってもいない。

服も自分のばっかり買って何もプレゼントしていない。

これって選択を間違えていたのだろうか。

どうなんのだろう?


「いろいろ助言をありがとう。ちょっと家に帰っていろいろ考えてみるよ」


「どういたしまして」


薫子との話を終えると、ケイに今日も迎えに来るからと告げて、明は家に帰ることにした。

眠気と筋肉痛のせいで、何だか足元がふらふらしている。

地味にホットヨガが効いている気がする。

アシュタンガヨガとはまた違う疲労感があった。汗をかき過ぎたのだろうか。

 

日ごろの半分くらいの速度で歩いて、何とか家に辿り着いた。

頭がもう眠っている感じがして、何も考えられない。服を脱ぎ捨てると、部屋着も着ずに引きっぱなしの布団に潜り込む。

携帯電話の目覚ましのセットだけをやり遂げると、明は気絶するように寝た。


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