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崩れ去る家長の威厳と、メイドたちの受難

 一瞬の静寂の後。


 あまりの衝撃に少し声を震わせながら、カレンがその沈黙を破った。


「パ、パパ……?」


 カレンはオウム返しに呟き、手の中の写真と、羞恥心で顔を真っ赤にしている私の顔を交互に見比べた。


「じゃあ……さっきベッドで私を押し倒した変な男は……本当にパパなの?」


 カレンの頭から、架空の湯気が噴き出した。


 数分前の『ベッドでの床ドン』事件を思い出し、青ざめていた彼女の顔は再び首の根元まで真っ赤に染まった。


 彼女はまるでそれが熱い鉄であるかのように、写真をテーブルに投げ捨てた。


「あ、あれは事故だ! ズボンがずり落ちたんだよ!」


 私は椅子の上でもがきながら必死に弁明した。


「頼むからまずはこの紐を解いてくれ! ちゃんと話し合おう。私の体に……その、ある事故の後、異変が起きたんだ」


 ロスヴァイセは私を上から下まで値踏みするように見た。


 いつもの見下すような視線に、困惑の色が混じっている。


 彼女は少し耳の先を赤くしながら、プイッと顔を背けて腕を組んだ。


「まあ、時間遡行の呪いや古代魔法だと言われれば筋は通りますわね。アカデミーでもそういう希少な事例は学びましたし」


 ロスヴァイセはブツブツと呟いた。


「で、でも! そんな姿のあなたを『パパ』なんて絶対に呼びませんからね!」


「どこからどう見ても、生意気な上級生にしか見えませんわ!」


「だいたい、あの写真のポーズ……うっ、本当に気持ち悪いです」


 ――グサァッ!


(かつての『イキり青年』としての私のプライドは、粉々に砕け散った)


 一方、キレーネは極めて冷静な動作でテーブルから私の黒歴史写真を拾い上げ、数秒じっと見つめると……。


 そのまま自分の制服のスカートのポケットにスッと滑り込ませた。


「おい! なぜ君がそれをポケットに入れるんだ、キレーネ!?」


 私はパニックになって抗議した。


「証拠品として」


 彼女は悪びれもせず淡々と答えた。


「これより、これは私の厳重な管理下に置かれる」


 横では、アリーネがクスクスと小さな笑い声を漏らしていた。


 彼女は私に近づき、体に巻き付いたカーテンの紐を解き始めた。


「ふふっ……こっちのパパの方が可愛いかも」


「体が硬直してないし、顔もずっと赤くなってる。いつも書斎に引きこもってるパパとは大違いだね」


 戒めが解かれると同時に、私は乱れた服を急いで直した。


 マイナスに振り切った威厳の欠片をかき集めようと、コホンと咳払いをして、家長としての最も真剣な表情を作る。


「ええと。聞いてくれ、お前たち。これが驚くべき事態だというのはパパも分かっている」


「パパ自身、なぜ過去に戻ってこんな姿になったのか分からない。だが……」


 私は彼女たち一人一人の顔を優しく見つめ、死の直前に立てた誓いを思い出した。


「……約束するよ。今日からパパは変わる」


「もうあの忌々しい書類を優先したりはしない。これからは、いつでもお前たちのためにここにいる」


「パパを頼ってくれていいんだ」


 私は心からの笑顔を向けた。


 おそらく何年も彼女たちに見せたことがなかったような、純粋な笑顔を。


 その言葉と、18歳の美少年の顔に浮かんだ眩しい笑顔を見て、四人の娘たちはハッと息を呑んだ。


 カレンは赤くなった頬を隠すようにサッと顔を背けた。


 ロスヴァイセは下唇を噛み、居心地悪そうにしている。


 キレーネは瞬き一つせずに私を見つめ、アリーネは意味深な笑みを浮かべていた。


「そ、その姿になったからって、そう簡単に私たちの機嫌を取れると思わないでよね!」


 カレンが私の顔を指差して冷たく言い放つ。


「当面の間、あなたを監視対象とします!」


「肉体年齢が私たちと同じになった以上、家の外で怪しまれないように、あなたも私たちと一緒にアカデミーに通いなさい!」


「ま、待ってくれ、カレン。アカデミーだと?」


 私は痒くもない頬を掻きながら、戸惑い気味に尋ねた。


「その提案は本当に嬉しいよ、心からね!」


「でも……領地の仕事をこのまま放置するわけにはいかないだろう? 税の書類とか、収穫の報告とか……」


「あ、いや、つまり、アカデミーのことを考える前に、まずは家と領地の問題を片付けなければならないんだ」


「まずはこの家で、パパの過ちを償わせてほしい」


 カレンは鼻を鳴らした。


 だが、その目には少しの安堵(そして奇妙な失望?)が入り混じっているように見えた。


「ふんっ。勝手にすれば」


「それなら、私たちがアカデミーに行っている間、あなたは『軟禁状態』よ」


「そんな顔で絶対に屋敷の外に出ないで。分かったわね!?」


「イエス、プリンセス!」


 私は満面の笑みで答え、反射的に敬礼した。


 私の笑顔を見たカレンは慌てて顔を背けた。


 彼女は学生カバンをひったくると、妹たちを引き連れて逃げるようにリビングから出て行った。


 玄関の重い扉が閉まり、彼女たちの馬車が出発した音を聞いて、私は深く安堵の息を吐いた。


 第一段階はクリアだ。追い出されずに済んだ。


 さて、次は体を洗って着替えよう。この大きすぎるパジャマは本当に居心地が悪い。


 私はリビングを出て、屋敷のメインの廊下へと足を踏み出した。


 シェローナンハルト家の当主として、私はこの巨大な屋敷を維持するために何十人もの使用人を雇っている。


 その多くは、近隣の村から働き口を求めてやってきた若い娘たちだ。


 普段なら、私が通り過ぎると彼女たちは硬直して頭を下げた。


 私の疲労した顔と暗いオーラに怯えながら小さな声で挨拶をするだけだった。


 だが今日は……話が全く違っていた。


 廊下の角を曲がった直後、洗濯カゴと羽ばたき(はたき)を持った三人の若いメイドと鉢合わせた。


 彼女たちの足がピタリと止まる。


 そのうちの一人が抱えていた洗濯カゴが、あわや床に落ちそうになった。


「コホン。おはよう、マリー、アンナ、リリー。今日もご苦労様」


 私はできる限り気さくな声で挨拶した。


 温かく、堅苦しくない主人になるという誓いを、早速実践しようと思ったのだ!


 三人のメイドは石像のように固まった。


 目を限界まで見開き、私を真っ直ぐに見つめている。


 ごく普通だった彼女たちの頬が、白黒のメイド服とは対照的に、瞬く間に真っ赤に染め上げられていく。


「ア、ア、アシェン様……?」


 茶髪のメイド、マリーが激しく震える声で小鳥のように囀った。


 彼女の視線が、私の若々しい顔、少し乱れた青銀色の髪、そして忌々しいパジャマが再びずり落ちて露出した鎖骨を上下にスキャンしている。


「ああ、私だよ」


 私はパジャマの襟を引っ張り上げながら、少し気まずそうに微笑んだ。


「昨夜、ちょっとした……小さな奇跡が起きてね。心配しなくていい、私はいつもの君たちの主人だよ」


「キ、奇跡……」


 アンナが熱を持った自分の頬に触れながら呆然と呟く。彼女の足は微かに震えていた。


「アシェン様が……こんなにも……」


「と、とてつもなく……美しい……」


 無意識のうちにリリーがそう囁き、ヒステリックな悲鳴をこらえるように瞳を潤ませていた。


 彼女は気絶しないよう、手に持ったはたきを力強く握りしめている。


 私は不思議に思って瞬きをした。


 美しい? ああ、目の下のクマやストレスによるシワがない私の顔を見慣れていないだけだろう。無理もない。


 私の『おじさんフィルター』が自動的に再起動した。


 私にとって、彼女たちは主人が突然縮んでしまったことに驚いている、娘と同年代の若い女の子たちに過ぎないのだ。


「すまないが、お風呂のお湯を準備してくれないか?」


「それから、倉庫から私がカレンと同年代だった頃の古い服を探してきてほしい。今の服はどれも大きすぎてね」


 私は父親のような包容力のある笑みを浮かべ、できるだけ優しく頼んだ。


 ――ドサァッ!


 三人の中で一番年下のリリーは、早朝からのホルモンの猛攻撃に耐えきれなかった。


 彼女は顔から架空の煙を出しながら、床にへたり込んでしまった。


 残りの二人が短い悲鳴を上げながら、慌てて彼女の体を支える。


「す、すぐにご用意いたします、若様――いえ、アシェン様!!」


 マリーとアンナが声を揃えて叫んだ。


 茹でダコのように顔を真っ赤にしたまま深くお辞儀をすると、リリーを引きずって逃げるように走り去って行った。


 私は痒くもない後頭部をポリポリと掻いた。


「最近のメイドは……気絶しそうになるほど勤労意欲が高いんだな」


「よし、私も負けずに書類整理を頑張らないと!」

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