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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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6/30

【6話】鑑定の勇者

四月某日、午前九時十分。

総務が封筒を配る。

「今期の自己評価シートです。金曜までに提出してください」

営業部がざわつく。

正義の机にも、一枚。

《自己評価シート》

・目標達成度(1〜5)

・業務貢献度(1〜5)

・将来性(1〜5)

・自己の市場価値

最後の項目で、ペンが止まる。

市場価値。

そのとき、背後から甘ったるい声。

「正義ちゃ〜ん、ちゃんと強気に書きなさいよぉ」

振り向かなくても分かる。

課長だ。

完璧なメイク。 艶のある唇。 書類をひらひらさせている。

「遠慮なんかしてたら、そのまんまの評価になるわよ?」

正義は静かに言う。

「自己申告ですよね」

「そうよぉ。でもねぇ――」

課長は身をかがめ、耳元で囁く。

「会社はね、謙虚な子より“売れる子”を買うの」

軽く指で机を叩く。

「自分の値段くらい、自分でつけなさい」

香水の匂いが残る。

足音が遠ざかる。

正義は紙を見る。

市場価値。

営業成績は悪くない。 だがエースでもない。

“無難”

3。

静かに書く。

隣の同僚が笑う。

「俺5にするわ。盛ったもん勝ちだろ」

正義は小さく息を吐く。

人は、自分に値段をつける。

ボーナス。 昇進。 序列。

数字で並ぶ。

「正義ちゃん、いくつにしたの?」

「……三です」

立ち上がる。

「ちょっと外出ます」

「また城南? ほんっと忙しい子ねぇ」

正義は鞄を持つ。

「いえ――」

一瞬だけ、口角が上がる。

「査定です」


そのとき。

パソコンが、静かに光る。

【抹殺指令】

場所:サマース王国

対象:鑑定の勇者

罪状:大規模人身売買幇助

執行:抹殺

正義は目を細める。


黒い裂け目が閉じる。

乾いた風。

石畳の匂い。

サマース王国。

正義は目立たぬ路地へと降り立つ。

王都は活気に満ちていた。

露店。

呼び込み。

笑い声。

そして、やたらと耳に入る言葉。

「鑑定済みだってよ」

「勇者様のお墨付きだ」

「将来有望株だな」

値札はない。

だが“評価”は流通している。

正義は歩く。

酒場。

市場。

鍛冶屋。

どこへ行っても、名は出る。

鑑定の勇者。

国の宝。

未来を見る者。

「最近は騎士団の選抜も勇者様頼みさ」

店主が誇らしげに言う。

「無駄がなくなった。優秀なやつが上に行く。いい時代だよ」

正義は何も言わない。

そのとき。

路地裏で、木剣を振る少年がいた。

まだ十歳ほど。

汗だくで、何度も素振りを繰り返す。

「はぁっ……はぁっ……!」

剣はぎこちない。

だが目は、燃えている。

正義は立ち止まる。

少年が気づく。

「あっ、旅の人?」

「……鍛錬か」

「うん!」

胸を張る。

「俺、勇者様に鑑定してもらったんだ!」

誇らしげだ。

「騎士の素質、B+だって!」

嬉しさが溢れている。

「だから頑張れば騎士団に入れるんだ!」

木剣を握る手が震える。

恐れではない。

希望だ。

「母ちゃんも泣いて喜んでさ。

 “あんたは才能あるんだね”って」

少年は笑う。

「俺、絶対に国を守る騎士になる!」

正義は少年を見る。

鑑定。

それは、この子に“未来”を与えた。

少年が聞く。

「おじさんも鑑定してもらったことある?」

正義は一瞬だけ、考える。

自己評価シート。

市場価値。

3。

「いや」

静かに答える。

「必要ない」

少年は首をかしげる。

「でもさ、自分の才能分かると安心するよ?」

まっすぐな目。

正義は視線を外す。

王城の方角を見た。

鑑定の勇者。

光を与える男。

だが――

影はどこに落ちている?

正義は歩き出す。

「まあ、頑張んな。」

それだけ残す。

背後で少年の声。

「うん!」

木剣の音が響く。

乾いた、希望の音。

――

正義は路地を曲がる。

王都の喧騒が、少しずつ遠ざかる。

石畳はひび割れ、壁は湿っている。

光が届かない場所。

そのとき。

布が口に押し当てられる音。

くぐもった悲鳴。

正義は足を止める。

角の向こう。

粗末な荷馬車。

男が三人。

手際がいい。

子どもを縛り、袋をかぶせ、荷台へ放り込む。

「静かにしろ」

「鑑定前に傷つけるなよ」

鑑定。

その単語が、やけに軽い。

正義は動かない。

ただ、距離を保つ。

奴隷商人たちは裏通りを抜け、表通りへ出る。

王都の人間は誰も止めない。

見ていない。

いや――見えていない。

やがて、馬車は大きな門の前で止まる。

白い石造りの屋敷。

紋章。

天秤と剣。

サマース王国、勇者の私邸。

門番が無言で通す。

慣れている。

正義は影の中を滑る。

庭を越え、窓の外へ。

中庭の奥。

広いホール。

子どもたちが並ばされる。

袋が外される。

怯えた目。

泣き声。

やがて、足音。

白い法衣。

柔らかな微笑。

鑑定の勇者。

「今日の仕入れは?」

商人が頭を下げる。

「五名です。年齢は八から十二」

勇者は頷く。

手をかざす。

淡い光。

一人目の頭上に、数字が浮かぶ。

「魔力適性C。身体能力D。……三十枚」

商人が即座に書き留める。

二人目。

「筋力B−。忠誠傾向高。五十枚」

三人目。

「……F。使えないな。十枚でいい」

淡々と。

感情はない。

だが声は優しい。

「怖がらなくていい。君たちの価値を正しく見てあげるだけだよ」

子どもが震える。

「か、帰りたい……」

勇者は微笑む。

「安心しなさい。価値のある子は、ちゃんとした場所に行ける」

最後の一人。

まだ小さい。

光が揺れる。

勇者の目が細くなる。

「……A」

空気が変わる。

「これは当たりだ」

商人が息を呑む。

「金貨百五十枚出そう。王城推薦枠だ」

金袋が投げられる。

重い音。

子どもは何が起きているのか分からない。

ただ、震えている。

正義は窓の外で、それを見ている。

昼間に会った少年の声が、よぎる。

「騎士の素質、B+だって!」

勇者は言う。

「才能は国の資源だ。適切に配分する。それが平和だ」

商人が笑う。

「勇者様がいるから、無駄がありませんな」

勇者は静かに答える。

「全員は救えない。だから、価値の高い者を優先する」

その言葉。

理屈。

正義の目が、わずかに細くなる。

屋敷の中では、金が数えられている。

正義は窓から離れる。

窓枠に置いた指が、わずかに白くなる。

「裏は取れたな。」


数日後。

勇者の屋敷・謁見の間。

高い天井。白い石壁。

光が差し込む、清潔な空間。

少年は呼び出されていた。

胸を張っている。

緊張しているが、嬉しさが勝っている。

今日、騎士団の正式推薦が出ると聞いたからだ。

扉が開く。

白い法衣。

鑑定の勇者。

穏やかな微笑。

「久しぶりだね」

少年は深く頭を下げる。

「はい! あの、鍛錬も続けてます! 騎士団の試験も――」

勇者は手を軽く上げる。

遮る仕草。

「その件だが」

空気が、わずかに変わる。

勇者は書類に目を落とす。

「騎士適性B+。努力値上昇傾向あり。忠誠心良好」

少年の目が輝く。

「はい!」

勇者は静かに言う。

「だが――不要となった」

言葉は柔らかい。

内容は硬い。

少年の笑顔が止まる。

「……え?」

勇者は続ける。

「先日、Aランクの騎士適性が発見された」

淡々と。

「枠は有限だ。資源は効率的に使うべきだ」

少年の喉が鳴る。

「で、でも……俺、B+で……がんばればAに――」

「ならない」

即答。

感情はない。

「才能は伸びる。だが“上限”はある」

勇者は優しく微笑む。

「君は優秀だ。だが“最優”ではない」

少年の拳が震える。

「俺、毎日、素振りして……」

「努力は尊い」

勇者は頷く。

「だが、努力は才能の代替にはならない」

沈黙。

少年の呼吸が荒くなる。

「……俺、いらないんですか」

勇者は少しだけ目を細める。

「騎士団には不要だ」

まるで配置転換の話をするように。

「別の道を探すといい。君の価値はゼロではない」

ゼロではない。

だが一番でもない。

それだけで、切り捨てられる。

少年の目に涙が溜まる。

「勇者様が……才能あるって言ったのに……」

勇者は静かに答える。

「私は“事実”を告げただけだ」

光が差し込む。

白い床。

影が、少年の足元に落ちる。

「事実は変わる。より優れた事実が現れればな」

少年は一歩前に出る。

「俺、証明します! いらないなんて――」

その瞬間。

左右から騎士が腕を掴む。

少年が驚く。

「え……?」

勇者は視線を逸らす。

「秩序を乱すな」

静かに。

「君は“選ばれなかった”」

少年の声が震える。

「待って……待ってください……!」

扉へ引きずられる。

勇者は最後に言う。

「君の人生を否定しているわけではない」

穏やかな声。

「ただ、騎士としては不要だ」

扉が閉まる。

音が、やけに重い。

静寂。

勇者は次の書類をめくる。

「次」

外では。

少年のすすり泣きが、石壁に吸い込まれていく。


夜。

王都南区。

灯りは少ない。

騎士団詰所。

鎧を外した男が、書類に目を通す。

赤い封蝋。

勇者の紋章。

天秤と剣。

「対象、騎士適性B+。推薦取消。再配置不可」

隣の騎士が鼻で笑う。

「またか」

「最近多いな」

紙の下段。

短い一文。

――秩序維持のため、適切に処理せよ。

鎧を着直す音。

剣を腰に差す音。

誰も顔色を変えない。

任務。

それだけだ。

路地裏。

少年は走っている。

息が荒い。

涙が乾いて、頬が痛い。

木剣を握っている。

「証明、する……」

自分に言い聞かせるように。

後ろで足音。

規則正しい。

重い。

振り向く。

騎士が二人。

無言。

少年は後ずさる。

「な、なんで……」

答えはない。

一人が言う。

「命令だ」

それだけ。

少年は首を振る。

「俺、何もしてない……!」

「そうだな」

もう一人が淡々と返す。

「だから早く終わる」

剣が抜かれる。

月明かりが刃に映る。

少年は木剣を構える。

震えている。

それでも、下げない。

「俺は……騎士になる……!」

騎士の目は揺れない。

「お前の代わりはいる」

踏み込む。

金属の音。

木が折れる音。

短い。

あまりにも短い。

血が石畳に広がる。

騎士が息を吐く。

「……B+だったか」

「Aが見つかってな」

頷く。

「仕方ない」

布で剣を拭う。

少年は動かない。

手だけが、何かを探すように地面を掴む。

空。

騎士の一人が視線を落とす。

一瞬だけ。

ほんの一瞬。

だが、すぐに背を向ける。

「報告は“逃走中に抵抗”でいいな」

「ああ」

足音が遠ざかる。

路地に残るのは、折れた木剣と、まだ温かい血。

月だけが、静かに見ている。


冷たい石壁の影。

血の匂い。

正義は足を止める。

倒れている。

昼間の少年。

胸が裂けている。

騎士団の紋章入りの剣傷。

まだ、息がある。

「……おじ、さん……」

目が合う。

昼間と同じ目。

だが、光は消えかけている。

正義は膝をつく。

少年の指が震える。

握っているのは――

折れた木剣。

素振りをしていた、あの剣。

血で濡れている。

「俺……いらないって……」

呼吸が途切れる。

「Aが……いるから……」

夜風が吹く。

遠くで鐘が鳴る。

少年は笑おうとする。

うまく笑えない。

「勇者様……才能……あるって……」

喉から血が溢れる。

それでも。

必死に。

正義の服を掴む。

「……俺の……価値……」

視界が滲む。

「……はらして……」

木剣を差し出す。

正義は受け取る。

軽い。

昼間はあんなに力強く振っていたのに。

今は、ただの木。

少年の手が落ちる。

静寂。

風だけが動く。

正義は目を閉じる。


価値の高い者を優先する。

全員は救えない。

――救えないことと、切り捨てることは違う。

正義は立ち上がる。

木剣を静かに持つ。

折れた先端を見つめる。

「査定、完了だ」

夜が、深くなる。


勇者の屋敷。

白い外壁に、月光が落ちる。

門番が二人。

次の瞬間。

音もなく崩れ落ちる。

急所だけを正確に断たれている。

正義は門を押す。

軋む音。

中庭。

すぐに気配が集まる。

鎧の擦れる音。

騎士団。

十名。

胸元には王城直属の紋章。

「侵入者だ!」

剣が抜かれる。

月光が反射する。

隊長格が前へ出る。

「ここは勇者様の私邸だ。名を名乗れ」

正義は答えない。

木剣を持っている。

折れた、子どもの木剣。

騎士の一人が失笑する。

「舐められたものだな」

その瞬間。

踏み込む。

見えない。

剣戟。

火花。

金属音が連続する。

騎士はAランク。

身体能力、技量、反応。

王国最高峰。

だが――

速さが違う。

間合いが違う。

読みが違う。

正義は殺さない。

だが、全てを断つ。

腱。

神経。

鎧の隙間。

一撃。

二撃。

三撃。

十秒。

最後の騎士が膝をつく。

剣が石畳に落ちる。

中庭に立っているのは、正義だけ。

静か。

血が流れる音だけがある。

奥の扉が開く。

白い法衣。

鑑定の勇者。

目を見開いている。

「……あり得ない」

倒れ伏すAランク騎士たち。

勇者の喉が鳴る。

「君は、何者だ」

正義は木剣を下げたまま。

何も言わない。

勇者は手をかざす。

光が走る。

鑑定。

いつも通り。

頭上に数字が浮かぶはずだった。

だが。

――何も出ない。

光が揺らぐ。

ノイズのように散る。

勇者の瞳が震える。

「……解析不能?」

もう一度。

強く光らせる。

魔力が渦巻く。

だが結果は同じ。

空白。

表示不可。

勇者の顔色が変わる。

「そんなはずはない……全ての人間は数値化できる……!」

正義は一歩、前へ出る。

「出来ない例もある」

低い声。

初めて口を開く。

「査定不能だ」

勇者が後退する。

「君の才能は何だ……?」

静寂。

正義は木剣を見せる。

折れた先端。

血の跡。

「不要とされたB+だ」

空気が凍る。

勇者の瞳に、初めて“恐れ”が浮かぶ。

数値化できない存在。

序列に置けない存在。

効率で測れない存在。

それが、目の前にいる。

月が雲に隠れる。

闇が深くなる。


「……待て」


声が、かすれる。

正義は歩く。

一定の速度。

止まらない。

勇者は手をかざす。

もう一度、鑑定。

光が走る。

だが――表示されない。

空白。

勇者の呼吸が荒くなる。

「そんな……あり得ない……」

目の前の存在は数値化できない。

優劣が付けられない。

管理できない。

勇者の世界が、崩れる。

正義は木剣を握る。

折れた先端。

血の跡。

勇者の視線がそれに落ちる。

「あの子、か……」

一瞬の沈黙。

勇者は早口になる。

「誤解だ。私は殺せとは言っていない」

後ずさる。

「騎士団が過剰に解釈しただけだ」

足がもつれる。

「私は“不要”と言っただけだ……!」

昼間の言葉。

そのまま。

声が裏返る。

「彼の人生を否定しているわけではない!」

必死だ。

汗が額を伝う。

「ただ、騎士としては不要だっただけだ!」

月明かりが戻る。

勇者の顔は蒼白。

「才能は国の資源だ! 効率は必要だ! 全員は救えない!」

叫ぶ。

理屈を盾にする。

だが目は揺れている。

正義は止まる。

数歩の距離。

「……全員は救えない」

低く、繰り返す。

勇者が頷く。

「そうだ! だから私は最善を――」

正義の声が重なる。

「救えないことと」

一歩、近づく。

「切り捨てることは違う」

勇者の喉が鳴る。

「ま、待て……」

初めて。

完全な恐怖。

「私は国の宝だ……! 私がいなければ選抜は混乱する……戦力が落ちる……!」

視線が泳ぐ。

「君にも価値を見出してやる! 今ならA以上を――いや、Sにしてもいい!」

震える手を差し出す。

「だから――」

息が詰まる。

涙が滲む。

「ただ……ただ……私の敵としては、不要だ……!」

沈黙。

正義は木剣を見る。

軽い。

折れている。

数値はつかない。

それでも――

確かに重い。

「世の中には査定出来ねえ事もあるんだ」

静かな声。

勇者の瞳が見開かれる。

次の瞬間。

踏み込み。

一閃。

白い法衣に、赤が走る。

勇者は崩れ落ちる。

血が石畳に広がる。

月がそれを照らす。

勇者の目は、最後まで理解できなかった。

なぜ数値が出なかったのか。

なぜ効率が通じなかったのか。

正義は立っている。

木剣の先が、静かに地面に触れる。


「罪は世界を選ばねえ」


夜風が吹く。

サマース王国の空は、何も変わらない。

だが。

一つだけ。

査定は、終わった。


……

石畳の感触。

同じ路地。

同じ角度で差し込む朝日。

俺は換金所の扉を押す。

軋む音。

薄暗い室内。

鉄格子越しの窓口。

「……換金ですね」

俺は懐から出す。

折れた木剣。

血は拭いた。

だが亀裂は残っている。

「……これは?」

「依頼品だ」

受け取る。

重さを確かめる。

軽い。

鼻で息を鳴らす。

「安物ですね。乾燥も甘い」

秤に乗せる。

針が、わずかに震える。

カチ、と止まる。

「……五十円になります」

まるで釘一本の値段でも告げるように。

五十円。

騎士の夢。

母親の涙。

B+の未来。

「それだけか」

「ただの木ですから」

当然の声。

価値は素材で決まる。

俺は一瞬だけ木剣を見る。

折れた先端。

あの夜の温度は、もうない。

「……そうか」

五十円玉がカウンターに置かれる。

硬貨が触れ合う音。

俺は受け取る。

ポケットに入れる。


四月某日。

午後三時四十分。

営業部。

課長が手を叩く。

「はいはい、ちょっと聞いて〜」

甘ったるい声。

「自己評価シートね、中止になったから」

ざわつく。

「数字だけじゃ人は測れない、ですって」

肩をすくめる。

「やっぱりねぇ、人はちゃんと見て査定するものよ」

周囲が安堵する。

「よかったー、5って盛ったのバレるとこだったわ」

笑い声。

課長が続ける。

「今期は上長評価のみ。私たちが総合的に判断するわ」

指で机をとんとん叩く。

「安心して。ちゃんと見てるから」

正義は何も言わない。

数日後。

封筒が配られる。

今度は上長評価結果。

正義は開ける。

紙は一枚。

・総合評価 3

隣の同僚が身を乗り出す。

「どうだった?」

「三です」

「あー、俺も四止まり。課長、厳しいよな」

笑い声。

オフィスはいつも通り。

コピー機の音。

キーボードの打鍵。

正義は紙を見つめる。

市場価値、三。

自己申告でも。

上長評価でも。

変わらない。

引き出しを開ける。

五十円玉がひとつ。

指で弾く。

乾いた音。

Aランク。

B+。

不要。

五十円。


課長が後ろから声をかける。

「正義ちゃん」

振り向く。

「まあ、妥当よね」

微笑み。

悪意はない。

純粋な評価。

「これからも頑張りましょ」

正義は封筒を閉じ小さく肩を落とした。

昨夜の仕事より、こっちの方が堪える。

窓の外。

春の陽射し。

査定は、終わらない。








そろそろ査定の時期ですね、……なえる

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