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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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【5話】盾の勇者

四月某日、午前九時二十分。

「課長、城南の取引先、行ってきます」

「はいはい。見積もりちゃんと詰めてきてね」

「了解です」

「昼までには戻れる?」

「その予定です」

「じゃあお土産よろしく」

軽い笑い。

いつも通りの朝。

誰も、何も知らない。

俺は席を立つ。

パソコンの画面に映る自分の顔。

営業用の笑顔。

悪くない。

廊下を歩く。


城南の裏通り。

古い商店街の一角。

『松金物店』

色褪せた暖簾。

引き戸を開ける。

カラン、と鈴が鳴る。

「……いらっしゃい」

奥から声。

低い。

落ち着いた声。

店内は工具と刃物の匂い。

鉄と油の混じった空気。

奥の作業台に、男が立っている。

男の名前は松、金物屋の主人だ。

正義は一言、

「頼む」

松は

「またか……どれ見せてみろ。」

正義は鞄から、布に包んだものを出す。

刀身。

「少し欠けた」

松は受け取る。

親指で刃を撫でる。

血の跡などない。

だが、何を斬ったかは分かる目だ。

「随分斬ったな、刃が疲れてる」

作業台に置く。

砥石に水を落とす。

静かな音。

松は淡々と刃を走らせる。

シュ、シュ、と音が響く。

研ぎのリズムは一定。

無駄がない。

松は言った。

「上からの、神具は使わねえのか?」

正義は

「やっぱり、ご先祖様の獲物が一番しっくりくるんでな、また、あとで来る」

正義は店を出る。


会社に戻ったのは十一時過ぎだった。

午後は何事もなく過ぎた。

電話。

資料作成。

上司の小言。

いつも通り。

そして。

午後六時、

パソコンの電源を落とそうとした瞬間、メールが受信された。

内容は――


【抹殺指令】

場所:リトルク王国

対象:盾の勇者

罪状:勇者殺し

執行:即時


隣では同僚が帰り支度をしている。

誰も気づかない。

正義は鞄を持つ。

「お先に失礼します」

いつも通りの声。

だが、向かう先は違う。

松金物店。

シャッターは半分閉まっている。

正義が近づくと、

内側から灯りが漏れている。

「来ると思ってた」

松の声。

研ぎ上がった刀が作業台に置かれている。

正義は刃を確かめる。

「仕事だ」

松は工具を片付けながら言う。

「指令が来たか」

「ああ」

「面倒そうか」

正義は一瞬だけ視線を落とす。

「……少しな」

松は頷く。

「今回は、俺も行く」

正義は松を見る。

「何でだ」

「お前が、どんな刀の使い方してるのか見てみたい」

沈黙。

正義の頭の中に浮かぶ文字。

――盾の勇者。

だが口には出さない。

「好きにしろ。ただし」

「邪魔はしねえ」

松が先に言う。

正義は扉に向かう。

「盾持ちだ」

松の足が止まる。

「……ほう」

それ以上は聞かない。

二人は夜に出る。


王国の門を抜ける。

人気がない。

異様に静かだ。

正義が足を止める。

石畳に、三つの影。

剣の勇者は動かない。

槍の勇者も同じ。

胸を正確に断たれている。

迷いのない一撃。

松が低く言う。

「盾で防ぎながら、刺したか」

正義は答えない。

そのとき。

かすかな息。

瓦礫の陰。

杖の勇者が横たわっている。

胸から血が滲んでいる。

まだ、生きている。

松がしゃがむ。

「おい」

杖の勇者は目を開ける。

焦点が合わない。

「……うう、」

掠れた声。

正義が近づく。

「盾はどこだ」

杖の勇者は笑う。

血を吐く。

「くそ、……裏切りやがった」

正義の目が細まる。

「どこだ!」

「王都の……地下……聖堂……」

咳き込む。

「やつを……止めて、く……」

言葉が途切れる。

手から杖が落ちる。

静寂。

松が立ち上がる。

「地下か」

正義は振り返らない。

「行くぞ」


地下聖堂。

石の階段を降りる。

空気が冷たい。

血の匂い。

広間に出た瞬間。

鈍い音。

盾が振り下ろされる。

弓の勇者の身体が崩れる。

正義と松が立ち止まる。

盾の勇者はゆっくり振り向く。

巨大な盾。

血が滴っている。

足元。

弓の勇者が倒れている。

まだ、息がある。

正義は駆け寄る。

弓の勇者は震える手で弓を握っている。

「……くっ」

かすれた声。

正義は何も言わない。

弓の勇者は弓を差し出す。

「……頼む仇を」

血を吐く。

「俺の……代わりに……」

正義は受け取る。

「頼んだ……」

その手が落ちる。

静寂。

松が低く言う。

「これで、四人か」

盾の勇者が一歩、踏み出す。

「お前ら、何者だ?」

正義は答えない。

刀を構える。

踏み込む。

一閃。

火花。

金属を斬った感触。

だが――

刃は弾かれる。

盾の表面に傷一つない。

二撃目。

低く、速く。

横薙ぎ。

盾が滑るように角度を変える。

受け流される。

三撃目。

踏み込み、突き。

盾が真正面で受け止める。

鈍い衝撃。

正義の腕が痺れる。

「無駄だ」

盾の勇者の声は落ち着いている。

「この盾はあらゆる攻撃を拒む」

正義は無言。

距離を詰める。

斬る。

斬る。

斬る。

全て、防がれる。

隙がない。

死角がない。

盾が、そこに“ある”だけで道が閉じる。

松が後ろで言う。

「塞がれてるな」

正義は息を整える。

「……ああ」

盾の勇者が踏み込む。

盾の縁で打撃。

正義が弾き飛ばされる。

石床を滑る。

松が横目で見る。

「俺も手伝うか?」

正義は立ち上がる。

視線は盾から外さない。

「好きにしろ」

松が前に出る。

手には金づち。

盾の勇者が眉をひそめる。

「それで戦う気か?」

松は答えない。

盾の前に立つ。

距離、半歩。

金づちを振り上げる。

振り下ろす。

ガンッ。

重い音。

聖堂の空気が震える。

盾が、わずかに揺れる。

盾の勇者の目が動く。

「……?」

松はもう一度振る。

ガンッ。

今度は、はっきりと。

細い亀裂が走る。

盾の勇者が一歩退く。

「あり得ない……」

三撃目。

ガンッ。

亀裂が広がる。

蜘蛛の巣のように。

盾の勇者が叫ぶ。

「この盾は! 神具だぞ!」

松が静かに言う。

「知ってる」

四撃目。

振り抜く。

「攻撃じゃねえ」

叩きつける。

「加工だ」

粉砕。

轟音。

盾が砕け散る。

光の破片が宙に舞う。

静寂。

盾の勇者が立ち尽くす。

腕に、何もない。

初めて、無防備な姿。

松が金づちを肩に乗せる。

「後は任せた」

正義が歩き出す。

刀を構える。


粉砕された盾の光が消える。

静寂。

盾の勇者は、自分の腕を見る。

何もない。

何も、ない。

息が荒くなる。

「……まて」

一歩、下がる。

足が震えている。

さっきまでの威圧は消えている。

「待ってくれ」

声が変わる。

「俺は……俺は戦えない」

正義は止まらない。

刀を下げない。

盾の勇者が叫ぶ。

「分かるだろ!?」

「俺は守りだけなんだ!」

石床に膝をつく。

「火力もねえ! 攻撃もできねえ!」

拳を握る。

「剣の勇者は俺を笑った!」

「槍の勇者もだ!」

「弓も!」

声が割れる。

「“壁役だけやってろ”って!」

「“寄生虫”って!」

息が乱れる。

「俺がいなきゃ死んでたくせに!」

「なのに最後は俺を置いて前に出る!」

「守られて当然みたいな顔して!」

涙が滲む。

「だから……だから先にやった」

「どうせ俺は最後まで馬鹿にされる」

「だったら……」

言葉が途切れる。

正義は目を細める。

「それで、殺したか」

盾の勇者が顔を上げる。

「俺だって勇者だ!」

「俺だって選ばれたんだ!」

声が震える。

「なのに……誰も、俺を見なかった」

沈黙。

松は何も言わない。

正義が一歩、近づく。

盾の勇者が後ずさる。

「助けてくれ……」

「俺はもう、何も持ってない」

「普通の人間なんだ」

正義は刀を構える。

「最初からだ」

盾の勇者の目が揺れる。

「勇者も、人も、変わらん」

一瞬。

迷いはない。

正義は静かに近づく。

刀は下げない。

「勇者だとか」

一歩。

「選ばれただとか」

もう一歩。

盾の勇者の呼吸が乱れる。

「そんなのは関係ない」

正義の目は揺れない。

踏み込む。

刃が走る。

「お前がどこで選ばれようが」

一閃。

「何を与えられようが」

血が弧を描く。

「やったことは変わらねえ」

身体が崩れる。

最後に、正義は言う。


「罪は世界を選ばねえ」


静寂。

松が金づちを肩に担ぐ。

「重いな、」

正義は刀の血を払う。

「だから俺がいる」

地下聖堂に風が通る。


地面に転がってる弓を松が覗き込み、低い声で言う。

「……これ、もらっていいか?」

正義は少しだけ視線を返す。

「好きにしろ」

松は頷く。金づちは作業用だが、素材を加工する腕は抜群だ。

「よし……素材としていただく」

松は弓を持つ、二人はサッと撤収する。

王都の夜は静まり返っている。

誰にも気づかれず、何事もなかったかのように――


翌日、会社。

午前九時二十分。

「……正義くん、城南の取引先から連絡あったけど!」

上司の声はいつもより少し厳しい。

正義は机の前で肩をすくめる。

「……えっと、昨日は……行ってません」

上司は溜息をつき、書類をバンと置く。

「行ってない? 見積もりは?」

正義は苦笑い。

「すみません……ちょっと……諸事情で」

同僚たちはクスクス笑う。

正義は目を伏せる。

「……トホホ」

外では春の陽射しが、何事もなかったかのように降り注いでいる。





















最近は、ラストのトドメでラッパの名曲を聴いて上げて書いてます。(笑)

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