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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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【28話】自衛隊の勇者

自衛隊の号令と共に、礼拝堂の空気が一気に張り詰めた。

「撃て!」

乾いた発砲音が重なる。

ダダダダッ――!

銃弾がステンドグラスを貫き、色の破片が雨のように降り注いだ。

光が割れ、礼拝堂の中が一瞬で戦場へ変わる。

その瞬間。

正義たちは一斉に動いた。

椅子の影へ。柱の裏へ。

最初からそこに“そう動く前提”で配置されていたかのように、最小限の動きで散る。

弾が通路を削る音だけが響く。

キンッ……!

石床に火花が散る。

「固定しろ!逃がすな!」

指揮官の声が飛ぶ。




正義は椅子の影から短く息を吐いた。

「お前は戦闘向きじゃねえ。隠れていろ」

視線の先は虎。

虎は一瞬だけ間を置いて、静かにうなずいた。

「了解しました」

だが立ち去る直前、礼拝堂を見上げて言う。

「一つだけ」

正義が視線を向ける。

虎はろうそくの灯りが揺れる天井を見たまま続けた。

「あの照明だけ。消してください」

正義の眉がわずかに動く。

ロウソクの光。

「……分かった」

短く返す。

正義は椅子の影から一歩だけ踏み出す。

銃弾が飛ぶ。

ダダッ――!

バキッ。

木製の椅子が砕ける。

その欠片を一つ拾う。

正義はそれを握ったまま、ロウソクの列へと踏み込んだ。

次の瞬間。

正義は欠片を鋭く投げた。

ロウソクの火が一つ消える。

さらにもう一投。

シュウ

また一つ。

銃弾の中を縫いながら、正義は淡々と火を落としていく。


暗闇の大聖堂。

ロウソクの火が消え、視界は完全に黒へと沈んだ。

しかし自衛隊は臆することなく動きを止めない。

一拍の迷いもなく、隊員たちは装備を切り替える。

暗視ゴーグルへ。

そして――

不気味な赤い眼光だけが、闇に浮かんだ。

暗闇での狩り。

だが視界を確保しているのは、自衛隊だけだった。

暗闇の中で、虎が小声で言った。

「合図をしたら、敵の懐へ飛び込んでください」

わずかな静寂

「今です」

虎の声が闇に落ちた。

次の瞬間。

パチッ。

左右からLEDの光が交互に走る。

白い閃光が、礼拝堂の闇を裂いた。

「っ……!」

暗視ゴーグル越しに、自衛隊の一人がわずかに目を細める。

視界が揺れる。

距離が確定しない。

その一瞬の“ズレ”。

正義はそこに踏み込んでいた。

銃声が遅れて響く。

ダダッ――!

弾は空を切る。

正義は影の切れ目をなぞるように、隊列の内側へ滑り込んだ。

一人目。

光に意識を奪われ、反応がわずかに遅れた隊員。

その喉元に、正義の手が伸びる。

抵抗する間もなく、姿勢が崩れる。

次の瞬間。

刃が走った。

短い一閃。

赤が闇に散る。

音はほとんどない。

一人目は、そのまま膝をつき、崩れ落ちた。

虎は静かに息を吐いた。

「次です」

闇の中、声だけが冷たく落ちる。

パチッ。

LEDが再び切り替わる。

今度は間隔が変わっていた。

光が“揺れる”。

視界が固定されない。

自衛隊の二人目が一瞬、暗視ゴーグル越しに戸惑う。

「何だ……これ……!」

影が増えたように見える。

距離感が崩れる。

その“ズレ”を、正義は逃さない。

床を蹴る。

ダンッ。

音より先に、身体が前に出ていた。

二人目が気づいた時には、もう目の前。

「っ!」

銃を上げる動作が遅い。

正義はその腕を外へ押し流すようにずらす。

同時に、体勢を崩す。

重心が浮いた瞬間。

短い一撃。

鈍い音が響いた。

二人目の身体が後ろへ倒れかける。

膝が折れる。

武器が手から落ちる。

そのまま、動かなくなった。

「最後です」

虎の声が、闇の奥で静かに落ちた。

パチッ。

LEDが切り替わる。

最後の一人。

その姿だけが、はっきりと浮かび上がった。

自衛隊の隊員は暗視ゴーグル越しに周囲を探る。

だが、もう遅い。

影は整理されている。

逃げ場はない。

正義は一歩、踏み込んだ。

ダンッ。

床を蹴る音。

距離が消える。

その瞬間だった。

――パンッ!

銃声。

正義の“先”を撃ち抜くように、弾が空を裂いた。

一拍早い。

踏み込みの軌道を読まれていた。

正義の目がわずかに細くなる。

(……読んでる)

身体をひねる。

弾はわずかに肩先をかすめ、礼拝堂の柱へと突き刺さった。

石が砕ける音。

最後の一人が、静かに構え直す。

「……読める」

低い声。

次の瞬間。

正義が踏み込んだ。

ダンッ。

床を蹴る音。

だが、その軌道の“先”を、隊員は見ていた。

――パンッ!

銃声が、踏み込みより一拍早く鳴る。

弾は正義の進行線を正確に撃ち抜く。

「っ……!」

正義は身体をひねり、紙一重で回避する。

だが、今までのようにはいかない。

最後の一人は、動かない。

LEDの揺れにも、影の変化にも引っ張られない。

「対策済みか……」

正義が小さく呟く。

隊員は淡々と銃を構え直す。

「甘いな」

暗闇の中でも、確信の声。

「同じ手は二度通じない」

銃口が、正義へと固定される。

その瞬間だった。

――「そこまでです」

女の声。

冷たくもなく、焦りもない。ただ静かに切り分けるような声。

次の瞬間。

世界が反転した。

礼拝堂全体が、一気に光に包まれる。


光の部屋。

先ほどまでの暗闇が嘘のように、礼拝堂は白く満たされていた。

ロウソクの影も、LEDの揺らぎもない。

すべてが均一に照らされている。

その中央に、一人の女性が立っていた。

自衛隊員は、その姿を見た瞬間、動きを止める。

次の瞬間――

カチャリ、と静かな音。

ただ一人、残った自衛隊員が、彼女へ向けて敬礼をした。

女性は静かに正義へ視線を向けた。

「あなたも、こちら側に来ませんか?」

声は穏やかだった。

命令でも、挑発でもない。

ただ事実を提示するような響き。

礼拝堂の光の中で、その言葉だけが妙に浮いている。

正義は一歩も動かない。

銃口も下げないまま、女性を見返す。

「……こちら側、か」

短く呟いた。

「そうです」

女性は静かに続けた。

「理想の世界を、一緒に作りましょう」

その声には揺らぎがない。

本気の確信だけがあった。

礼拝堂の光が、やけに静かに感じられる。

正義は数秒、黙っていた。

そして――

首を横に振る。

「断る」

短く、迷いのない言葉だった。

「そうですか」

女性は静かに目を細めた。

次の瞬間。

ゆっくりと、正義へ手をかざす。

その指先から――

強い光が放たれた。

一瞬で、礼拝堂のすべてを塗りつぶすような白。

正義の視界が焼かれる。

まばゆい光が正義を包み込む。

視界が真っ白に染まった。

「ぐっ……!」

思わず腕で顔をかばう。

だが――。

痛みはない。

熱もない。

身体にも傷一つ付いていなかった。

正義はゆっくりと目を開く。

「……?」

攻撃ではない。

そう気付いた瞬間だった。

虎の表情が険しくなる。

「まずい……!」

正義が振り返る。

「どうした」

虎は女性を見つめたまま言った。

「あの人は聖女の勇者です」

女性は静かに微笑んでいる。

虎は続けた。

「聖女の能力は浄化」

「傷や病だけではありません」

「能力、呪い、罪、あらゆる異常を浄化します」

正義は黙って聞いている。

虎の声がさらに低くなる。

「正義さんの力は業によって成立しています」

礼拝堂が静まり返る。

「つまり――」

虎は息を飲んだ。

「業を浄化されれば、能力も消える」

正義の目が細くなる。

女性は穏やかにうなずいた。

「その通りです」

虎は静かに告げた。

「もう、あなたの能力は失われています」

虎の言葉が礼拝堂に響く。

正義は自分の手を見た。

身体の奥にあった感覚は消えている。

だが――。

「そうか」

それだけだった。

慌てることもない。

怒ることもない。

正義は静かに刀を構える。

その姿を見て、聖女はわずかに眉を動かした。

次の瞬間。

隊長が一歩前へ出る。

銃口が正義へ向けられる。

「残念だったな」

低い声。

「能力を失ったお前は、ただの人間だ」

安全装置が外される音が響く。

隊長は油断なく照準を合わせた。

「そして、ただの人間が自衛隊に勝てるほど――」

口元が歪む。

「現実は甘くない」

礼拝堂の空気が張り詰める。

正義は何も答えない。

ただ静かに刀を構えたまま、隊長を見据えていた。


隊長が引き金を引く。

――パンッ!

銃声が礼拝堂に響く。

だが正義は、すでにそこにいなかった。

半歩。

わずか半歩だけ身体をずらす。

弾丸が頬の横をかすめた。

隊長の目が細くなる。

再び発砲。

――パンッ!

――パンッ!

正義は前へ出る。

避けるためではない。

距離を詰めるために。

最小限の動きで射線から外れる。

一歩。

また一歩。

隊長は撃ち続ける。

だが正義は止まらない。

まるで弾道を読んでいるかのように。

「なに……?」

隊長の表情が初めて揺らいだ。

能力を失ったはずだ。

なのに近づいてくる。

確実に。

そして――

正義が間合いへ入った。

刀が閃く。

ズバッ――!

乾いた音。

隊長の手ではない。

首でもない。

小銃が真っ二つになった。

切断された銃身が床へ転がる。

隊長の目が見開かれた。

正義は刀を下ろす。

「さて」

静かな声だった。

「ここからだな」

隊長は砕けた小銃を捨てた。

迷いはない。

腰のナイフを引き抜く。

ギラリ、と刃が光を反射する。

「なるほど」

低い声。

「能力なしでここまで来るか」

正義は刀を構えたまま動かない。

隊長は床を蹴った。

一気に距離を潰す。

狙いは接近戦。

刀の間合いを殺すつもりだった。

ナイフが鋭く走る。

だが――。

正義は慌てない。

身体を半歩だけずらす。

刃が服をかすめる。

その瞬間。

正義の左手が隊長の手首を掴んだ。

「っ!」

隊長の目が見開かれる。

次の瞬間には、重心が崩されていた。

足が浮く。

視界が回転する。

ドォン!

鈍い音と共に、隊長の身体が床へ叩きつけられた。

礼拝堂の石床が揺れる。

隊長はすぐに起き上がろうとする。

だが、その喉元へ。

正義の刀が静かに突きつけられていた。

「悪くない動きだ」

正義が淡々と言う。

「だが、近づけば勝てると思ったのが失敗だ」

隊長の額に汗が浮かぶ。

能力は消えている。

それでも――。

目の前の男は、まだ化け物だった。


隊長は喉元の刀を見ても動じなかった。

むしろ小さく笑う。

「一つ聞かせてやる」

正義は黙っている。

隊長は天井を見上げた。

「神は転生者に力を与える」

「勇者を生み出す」

「だがな――」

その目に怒りが宿る。

「人間の適性も調べず、力だけを与えるんだ」

礼拝堂に静かな声が響く。

「力を制御できずに壊れる者もいる」

「力に溺れる者もいる」

「世界を滅ぼそうとする者もいる」

隊長は鼻で笑った。

「そして、そいつらが失敗すればどうなる?」

正義は答えない。

隊長は続ける。

「後始末だ」

「俺たち監視者が尻拭いをする」

声が低くなる。

「何度もだ」

「何度も何度も何度もな」

拳が震える。

「そんな神を許せると思うか?」

隊長は正義を見上げた。

礼拝堂に静寂が落ちる。

正義はしばらく何も言わなかった。

やがて小さく息を吐く。

「……そうかもしれんな」

隊長の目がわずかに開かれる。

正義は刀を握り直した。

「力だけ与えて放り出す」

「その結果を他人に押し付ける」

「気に入らんという気持ちは分かる」

隊長は黙って聞いている。

正義は静かに続けた。

「だが」

その声に迷いはなかった。

「だからといって、罪のない人間を巻き込んでいい理由にはならねえ」

刀身がゆっくりと持ち上がる。

「俺たちは裁く側じゃない」

「世界を作り変える側でもない」

正義の目が細くなる。

「俺の仕事は一つだ」

短く言い切った。

「暴走した奴を止めること」

隊長は苦く笑った。

「どこまでも監視者か」

正義は答えない。

ただ静かに刀を振るった。

銀の軌跡が走る。

そして――。

隊長は静かに目を閉じた。

聖女は倒れた隊長へ一瞥を向ける。

だが悲しむ様子はない。

ただ静かに正義を見つめていた。

「争いは終わるべきです」

穏やかな声だった。

「憎しみも、苦しみも、悲しみも」

「私はそれをなくしたいだけなのです」

礼拝堂に静寂が落ちる。

聖女はゆっくりと歩き出した。

「神は間違えました」

「人に力を与えた」

「勇者を生み出した」

「その結果、多くの世界が傷ついた」

正義は黙って聞いている。

「だから私は浄化するのです」

「能力も」

「罪も」

「争いの原因そのものを」

虎が警戒したように目を細めた。

「それで全て解決すると?」

聖女は迷いなくうなずく。

「ええ」

「誰も苦しまない世界になります」

その言葉だけを聞けば、理想論だった。

だが正義は違和感を覚える。

「一つ聞く」

聖女が視線を向けた。

「能力を与えられた悪人はどうする」

わずかな沈黙。

だが聖女はあっさり答えた。

「出ますよ」

虎の表情が変わる。

聖女は続けた。

「人ですから」

「どんな世界でも一定数の悪人は生まれます」

「それは仕方のないことです」

正義は何も言わない。

聖女は静かに微笑んだ。

「だから神は失敗したのです」

「人間の適性も調べず、力だけを与える」

「そして暴走すれば監視者に始末させる」

「そんな世界が正しいはずがありません」

その声は穏やかだった。

だが、その穏やかさが逆に不気味だった。

「ならば――」

聖女は両手を広げる。

まるで祝福を与えるかのように。

「私たちで新しい世界を作ればいい」

礼拝堂の空気が凍り付く。

「私たちが管理し」

「私たちが導き」

「私たちが正しく運営する」

聖女の瞳が光を帯びた。

「そうすれば、もう誰も苦しまない」

「誰も悲しまない」

「誰も間違えない」

虎は思わず息を呑んだ。

それは理想ではない。

支配だ。

だが聖女自身は本気で人々を救うつもりなのだろう。

だからこそ危険だった。

正義は静かに刀を構えた。

「そして――」

ダンッ。

床を蹴る。

聖女の目が見開かれた。

「え――」

銀の一閃。

聖女の言葉はそこで途切れた。

正義は血を払い、刀を納める。

「十分聞いた」

倒れる聖女を見下ろす。


「罪は世界を選ばねえ」


礼拝堂に静寂が戻る。

正義は刀を納めると、祭壇へ視線を向けた。

「琥珀……!」

祭壇の奥。

そこには琥珀が横たわっていた。

意識を失っているが、呼吸はある。

正義は駆け寄り、その身体を支える。

「無事か……」

そのときだった。

ドンッ!

礼拝堂の扉が勢いよく開く。

「終わったか?」

聞き慣れた声。

竜美だった。

ギターを肩に担ぎながら、不敵な笑みを浮かべている。

「ずいぶん待たせやがって」

正義は小さく息を吐く。

「そっちは?」

竜美は親指で後ろを指した。

「片付けてきた」

そして祭壇の奥の琥珀を見る。

「おっ、ちゃんと助け出せたみてえだな」

礼拝堂にいた仲間たちが、ようやく一か所に集まった。

琥珀の無事を確認すると、虎が静かに口を開いた。

「正義さん」

正義が振り返る。

「能力を失ってしまいましたが……大丈夫ですか?」

礼拝堂に静寂が落ちる。

正義は自分の手を見た。

かつて身体の奥に渦巻いていた業の力。

その感覚は、もうない。

だが――。

正義は小さく笑った。

「そうだな」

肩を回す。

そして、いつもの調子で言った。

「少し肩が軽くなったな」

虎が目を瞬かせる。

竜美は思わず吹き出した。

「普通そこは落ち込むところだろ」

正義は肩をすくめる。

「元々、好きで背負ってたもんじゃねえしな」

礼拝堂の重苦しい空気が、少しだけ和らいだ。

しばしの沈黙。

正義は祭壇にもたれかかる琥珀を見た。

そして虎と竜美へ視線を向ける。

「……さあ、戻るぞ」

短い一言。

だが、それで十分だった。

虎は静かにうなずく。

「はい」

竜美はギターを肩に担いだ。

「やっと帰れるな」

正義は意識を失ったままの琥珀を抱き上げる。

そのまま三人は歩き出した。

礼拝堂の出口へ。

長かった戦いは終わった。

後ろに残るのは、静まり返った大聖堂だけ。

やがて四人の姿は光の中へ消えていった。

それぞれの日常へ戻るために。


営業部。

「よくやったじゃない!」

フロアに明るい声が響く。

「今回の修正、完璧よ」

課長は満足そうにうなずく。

「ちゃんと挽回できたじゃない」

部下は照れくさそうに頭をかいた。

すると課長が近づいてきた。

「正義くん」

「はい」

課長は少しだけ苦笑した。

「昨日は、言い過ぎちゃったかもね」

正義は黙って聞いている。

課長は部下の方を見る。

「でもね」

「怒る時はちゃんと怒る」

「褒める時はちゃんと褒める」

そして小さく笑う。

「上司は部下を見捨てたりしないものよ」

正義はしは小さくうなずく。

「そうですね」

すると課長が何かを思い出したように正義を見る。

「でも正義さんは褒めるところがないから――」

正義の眉がぴくりと動く。

課長はにっこり笑った。

「見捨てちゃうかもね♪」

営業部に笑いが広がる。

正義は黙ってコーヒーを飲んだ。

今日も世界は平和だった。

クーデター編終わりました、ありがとうございました。

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