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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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24/29

【24話】農業の勇者

今回から、新シリーズになります。

午後六時三十二分。

営業部。

カタカタカタ……。

パソコンのキーを叩く音。

そして――

「……送信」

正義が、 本日最後の報告メールを送った。

終業。

「っしゃあ~!」

田中が両手を上げる。

「終わったぁ! 今週長ぇ!」

「まだ水曜だけど?」 女子社員。

「うそだろ……」

「現実見なさぁい」課長が艶っぽく笑う。

営業部に、 いつもの空気が流れる。

「お疲れ様でーす」

「先に失礼します」

「資料そこ置いといてー」

帰宅準備。

一日の終わり。

正義も、 静かにデスクを片付ける。

「正義くん、直帰?」 課長。

「はい」

正義は一礼し、 営業部を後にした。

――会社前でスマホが鳴る。

ブブッ。

「……?」

スマホが震えた。

歩きながら、 画面を見る。

メール一件。

差出人: 不明

「……」

正義の足が、 ほんの少しだけ止まる。

件名: 【お疲れ様です】

本文を開く。

【虎です、お仕事終わりでしょうか?少しだけ、お時間をいただけませんか?】

【駅前を少し過ぎた先の河川敷の遊歩道で待っています】

「……」

数秒。

その一文だけで、 ほんの少し眉が動く。

だが、 そのままスマホを閉じた。


――十分後。

街明かりが少し遠のく。

夜風が、 少しだけ冷たい。

河川敷の遊歩道の先、街灯の下に、 一人の男が佇んでる。

「こんばんは」

虎だった。

黒いジャケット。

落ち着いた表情。

いつもの柔らかな笑顔。

「……よく、俺のメールが分かったな」 正義。

「能力をちょっと使いまして」

虎は、 少しだけ笑った。

「缶コーヒー、飲みます?」

見ると、 手には自販機の温かい缶。

「ブラックです」

「……気が利くな」

一本受け取る。

プシュッ。

少しの沈黙。

正義が先に言う。

「で?」 「用件は」

虎は、 缶を見ながら答えた。

「監視者の中で、少し動きがあります」

「……監視者?」

正義の声は低い。

「ええ。私達と同じ監視者ですよ。」

虎は一拍置いて続ける。

「その中で、クーデターのようなものが起きています」

「クーデター?」

正義が眉をひそめる。

「はい」

虎の声は淡々としていた。

「中心にいる人物がいます」

「そいつが?」

「監視者たちをまとめている、リーダー格です」

「何をしてる」

虎は缶を軽く揺らした。

「監視者達を意図的に刺激して取り込んでいます」

一拍。

「世界の“混乱”を増やすために」

虎は缶を見ながら続けた。

「そしてもう一つ」

正義が視線を向ける。

「“光の勇者”の《LUX》という、システムから抜き取ったチップがあるのですが。」

「チップ?」

「ええ」

虎は静かに言う。

「監視者のクーデター関与リストが入ってました。」

一拍。

虎は、缶コーヒーを静かに置いた。

「こちらが、その関与者リストです」

スマホ画面が正義へ向けられる。

そこに並ぶ、複数のコードネーム。

正義は無言で視線を流し―― その中の一つで止まった。

【農業の勇者】

「……農業?」

思わず眉が動く。

もっと危険な名を想像していた。

だが虎は真顔だった。

「現在、この人物の動きを優先的に追っています」

「理由は?」

「地方の監視者達との接触が、異常に多い」

夜風が吹く。

虎は続けた。

「表向きは、地域支援活動家です」

「ですが――」

一拍。

虎はそっと、誰にも聞かれない様に正義に耳打ちする。

虎の耳打ちを聞いた瞬間――

正義の表情が、わずかに変わった。

「……なるほどな」

低く呟く。

さっきまで半信半疑だった視線が、静かに消えていた。

缶コーヒーを飲み干す。

「つまり、その農業の勇者を調べればいいんだな?」

虎は小さく頷いた。

「ええ。まずは接触理由を探ります」

数秒の沈黙。

やがて正義は、軽く肩を鳴らした。

「分かった」

夜風が、二人の間を抜ける。

「その依頼、引き受ける」

正義は、空になった缶を軽く握り潰し虎は静かに頷く。

「助かります」

河川敷の空気が、ふっと揺れた。

――グニャリ。

何の前触れもなく、空間に歪みが生まれる。

そこに黒い裂け目が開く。

夜風が吸い込まれるように消えた。

「それでは、行きましょうか」

虎が淡々と言う。

正義は一度だけゲートを見て、すぐに歩を進める。

「ああ、」

二人はそのまま、歪んだ裂け目の中へ消えた。

視界が戻ると、そこは一面の田園だった。

夕暮れの光に染まった水田が静かに広がっている。

風が稲を揺らし、遠くで鳥が鳴いていた。

「……普通に農村だな」

正義は短く呟く。

虎は周囲を一瞥して頷いた。

「ここが目的地です」

正義が辺りを見回す。

その時だった。

――ザク、ザク。

一定のリズムで土を起こす音。

視線の先、田んぼの中で一人の男が鍬を振るっていた。

泥にまみれた手。無駄のない動き。

ただの農民にしか見えない。

「……あれが?」

正義の視線が止まる。

虎は静かに答えた。

「はい。監視者の一人です」

虎が一歩前に出る。

「少し、いいですか」

声は穏やかだった。

男の動きが止まる。

ゆっくりと顔を上げる。

「……何だい?」

汗を拭いながら、軽く笑う。

虎は同じ調子のまま続けた。

「この辺りの監視をされている方ですか」

男は一瞬だけ間を置き、また笑った。

「監視?」

泥のついた手を払いながら、気の抜けた調子だ。

その時、虎が静かに言った。

「同業者です」

一拍。

男の動きが止まる。

田んぼの風だけが通り抜けた。

「……へぇ」

男は目を細める。

さっきまでの農民の顔が、わずかに薄れる。

田んぼの風が、少しだけ冷たくなる。

男は鍬を地面に立てかけ、腕を組んだ。

「同業者、ねぇ……」

軽く笑いながらも、目だけは笑っていない。

虎は表情を変えずに続ける。

「最近、他の監視者と接触はありましたか」

一拍。

男の視線が、虎と正義を順に見る。

「……なんでそんなことを?」

土のついた手が、わずかに動く。

正義は黙ったまま、そのやり取りを見ていた。

男は鍬の柄を軽く握り直した。

「上からの指令以外では、他の監視者には会っていないな」

あっさりとした口調。

だが、その一言には妙な確信があった。

虎は小さく頷く。

「そうですか」

正義は、男の顔から視線を外さなかった。

虎は視線を変えずに続けた。

「もう一つ伺います」

男が眉を上げる。

「この世界で、禁制作物の栽培と、それを現世側へ流通させる動きがあると聞いています」

一拍。

「あなたは、それに関わっていますか」

静かな声だった。

正義の視線が、男に固定される。

空気がわずかに重くなる。

男は、虎の言葉に一瞬だけ眉をひそめた。

「……それを、なぜ知ってる」

視線が鋭くなる。

次の瞬間だった。

男の目線が、ふっと田んぼへ落ちる。

――ザッ。

地面が沈むように崩れた。

泥ではない。土そのものが波打つように動く。

「っ」

正義の足元が取られる。

ぬかるみではなく、“引きずり込むような土”。

「地面が……!」

一歩踏み出した瞬間、さらに沈む。

虎が低く言う。

「来ます」

その一言と同時に、男は田んぼの奥へと跳ねるように走った。

さっきまでの農民の動きではない。

無駄のない、逃走の動き。

「逃げるぞ!」

正義が地面を蹴る。

しかし足元はまだ重い。

泥のようでいて、意思を持つように絡みついていた。

正義の足元が、さらに沈む。

泥ではない。

“掴まれている”感覚があった。

「っ……!」

一瞬、膝まで取られる。

その瞬間だった。

正義は腰の位置を低く落とす。

「邪魔だ」

短く吐き捨てる。

――抜刀。

空気が鳴った。

正義の一閃が、足元の“周囲の土”をなぎ払うように走る。

ザッ。

泥が裂けた……ように見えた。

しかし切断されたのは土そのものではない。

“拘束している力の輪郭”だった。

一瞬、足が軽くなる。

「今だ!」

正義はその隙に地面を蹴る。

ねじるように体重を逃がし、一気に引き抜く。

ぬちゃ、と音を立てて足が抜けた。

正義は地面を蹴り、体勢を立て直した。

「追うぞ」

短く言う。

虎も迷いなく頷いた。

二人は逃げた監視者の気配を追って、田んぼを抜けた。

風景が切り替わる。

水田から、整えられた畑へ。

そこには、規則正しく並んだ作物が植えられていた。

土は乾き、手入れも行き届いている。

まるで“管理された農場”そのものだ。

正義は足を止める。

「……さっきと違うな」

虎は周囲を見渡しながら答える。

「こちらが本体の栽培区画でしょう」

その時だった。

畑の中央に、逃げた監視者の姿があった。

男は立ち止まり、こちらを一瞥する。

そして、指を軽く鳴らした。

――パチン。

瞬間。

地面から植物が跳ねるように伸びる。

蔓が、茎が、異常な速度で膨れ上がり、正義達へと襲いかかる。

「来るぞ!」

虎が低く声を上げた。

蔓が空気を裂くように迫る。

正義は一歩も退かない。

「邪魔だ」

短く吐き捨てる。

――抜刀。

光が走った。

一閃、二閃。

迫る植物が次々と断ち切られていく。

ズバッ。

緑の破片が宙に散り、畑の土へ落ちた。

だが、攻撃は止まらない。

左右、前方、足元。

別の蔓が次々と地面を突き破り、正義へ殺到する。

「数で来るタイプか」

正義は舌打ちし、刃を構え直した。

虎が静かに言う。

「囲まれますね」

蔓が四方から迫る。

正義は一度だけ周囲を見回し、小さく息を吐いた。

「……らちが上がらねえな」

短く言うと、懐から護符を取り出す。

それを刀へと軽く当てた。

――刹那。

空気が変わる。

刀身が、音もなく炎に包まれた。

揺らめく火は静かで、だが確かな熱を持っている。

正義は構え直した。

「まとめて焼く」

次の瞬間、炎の刃が走り。

炎をまとった刃が振るわれる。

一閃。

二閃。

三閃。

赤い軌跡が走るたびに、迫っていた蔓が次々と焼き切られていく。

バチッ、と乾いた音を立てて炎が広がり、畑の上を舐めるように燃え上がった。

みるみるうちに、植物は炎に包まれていく。

緑だった世界が、橙と赤に染まっていく。

熱風が吹き抜け、残っていた蔓も力を失って崩れ落ちた。

「……ふん」

正義は刀を軽く振り、炎を払うように構えを戻す。

静けさが戻る畑の中、焼け跡だけが残っていた。

正義は刀を軽く下ろし、呼吸を整える。

「……終わりか」

その言葉に、虎が小さく視線を落とした。

そして、静かに息を吐く。

「流石ですね」

正義が横目で見る。

虎は続けた。

「監視者の中でも、トップクラスの実力です」

畑の残骸を見渡しながら、淡々とした声だった。

焦げた畑の静寂の中。

正義は刀を下ろし、呼吸を整えていた。

そのとき――

監視者の男が、ゆっくりと鍬を拾い上げる。

「……やるじゃねぇか」

低く呟き、柄を握る。

次の瞬間だった。

――ギギッ。

鍬の形が歪む。

木と金属が軋む音とともに、その姿が変質していく。

刃が伸び、柄が延びる。

やがてそれは、一本の槍へと姿を変えた。

「……っ」

正義が目を細める。

虎が静かに呟いた。

「……その鍬、神具ですか」

男は槍を軽く回し、笑う。

「農具だよ。昔からな」

空気が、再び張り詰めた。

監視者が、槍を構える。

次の瞬間――

「っ!」

鋭い踏み込みと同時に、槍が投げ放たれた。

空気を裂き、一直線に正義へ迫る。

正義は横へ一歩、最小限の動きでそれを避けた。

ズバンッ、と背後の地面に突き刺さる。

だが――

「……!」

槍はそこで止まらない。

突き刺さった瞬間、地面を弾くように抜け、空中で軌道を変える。

まるで意思を持つように、持ち主の手元へ戻っていく。

正義が目を細める。

「戻る武器か」

監視者は、戻ってきた槍を軽く受け取り、肩に担いだ。

「これならどうだ!」

また、槍を正義目掛けて投げる。

槍が再び唸りを上げて迫る。

正義は一歩も引かない。

「……ふん」

短く息を吐くと、刀をわずかに横へ傾けた。

受けるためではない。

“ずらすため”の角度。

カンッ。

刃が槍の矛先の横に触れた瞬間――

正義はそのまま、力を抜かずに滑らせた。

軌道が、わずかに横へ逸れる。

だが止めない。

むしろ“流れた勢い”をそのまま利用するように、刀を回転に沿って返す。

ギィン、と槍の軸が揺れた。

回転の中心が崩れる。

一瞬、空中で制御が外れたように槍がぶれる。

その“空白”を、正義は見逃さない。

踏み込み。

刃の腹でさらに回転を押し崩し――

次の瞬間、空中で浮いた槍をそのまま掴み取った。

「……もらうぞ」

正義の手に、投げられた槍が静かに収まる。

槍を奪われた瞬間、監視者の動きが止まる。

さっきまでの余裕は消え、わずかに目が揺れた。

「……っ」

畑の風だけが通り抜ける。

無力化された監視者には、もう手札がない。

正義は槍を軽く地面へ突き立てると、視線だけを向けた。

「終わりだな」

静かな声。

その横で、虎が一歩前に出る。

「捕縛します」

懐から取り出したのは、小さな核のような結晶。

以前の“蜘蛛の勇者”から回収されたものだった。

それが軽く弾かれる。

――パキン。

瞬間、空中に細い糸が走った。

しかしただの糸ではない。

意思を持つように伸び、監視者へと絡みついていく。

「……っ、何だこれ!」

監視者が動こうとするが、糸は逃がさない。

関節、体幹、動きの起点そのものを封じていく。

対“勇者”用の拘束術式。

一度絡めば、自力ではほどけない。

虎は淡々と告げる。

「以前の個体から回収した対処素材です」

糸は収束し、監視者の動きを完全に止めた。

「捕縛完了です」

畑に静けさが戻る。

拘束された監視者は、糸に縛られたまま地面に膝をついていた。

正義は槍を肩に担ぎ、淡々と視線を落とす。

「話せ」

短い一言。

監視者は一度だけ顔を歪めたが、やがて諦めたように息を吐いた。

「……別に、大した話じゃねぇよ」

虎が無言のまま立つ。

監視者は続けた。

「このクワ……いや、神具だな」

視線が、変形した農具へ向く。

「これで耕すと、作物の成長が異常に早くなる」

正義の目が細くなる。

監視者は自嘲気味に笑った。

「普通の数倍どころじゃない。土が“育てる環境”になる」

一拍。

「だから、価値が出る」

静かな風が畑を抜ける。

「現世側に流せば金になる。単純だろ」

虎が低く言う。

「それが目的ですか」

監視者は肩をすくめた。

「監視者の仕事なんて報酬が安いんだよ」

「だったら、こうやって稼ぐしかない」

正義は一歩だけ近づく。

「……だから歪めていい理由にはならない」

監視者は何も言わなかった。

ただ、地面を見ていた。

正義は槍を肩に担いだまま、淡々と視線を落とす。

虎が一歩前に出る。

「もう一つだけ」

静かな声だった。

「それを指示したのは誰ですか」

一拍。

監視者の目がわずかに揺れる。

「……それは――」

口を開きかけた、その瞬間。

――ピクリ。

正義の手元に立てかけられていた神具の槍が、わずかに震えた。

次の瞬間。

ギィン、と空気が鳴る。

槍が自らの意思を持ったかのように浮き上がり――

一直線に走った。

「っ!?」

誰も反応できない速度。

――ズドッ。

監視者の胸を、貫く。

糸で拘束されたまま、体が大きく跳ねる。

「……な……」

目を見開いたまま、言葉にならない声。

槍はそのまま静かに抜け、再び宙で止まると、何事もなかったように地面へ落ちた。

畑に、重い沈黙が落ちる。

虎は目を細めたまま、動かなかった。

畑に、重い沈黙が落ちる。

風だけが、焼けた土の上を通り抜けていった。

虎はしばらく動かず、倒れた監視者を見下ろしていた。

やがて静かに息を吐く。

「……首謀者の情報は、聞けずじまいですね」

淡々とした声。

正義は槍を一瞥し、軽く舌打ちした。

「口封じか」

虎は何も答えない。

ただ、遠くの畑を見渡すだけだった。

畑に残ったのは、焼けた土と静けさだけだった。

虎はしばらくその場に立っていたが、やがて小さく息を吐く。

「……まだ、クーデターの関与者は残っています」

正義を見ることなく、淡々と言う。

「追って、また連絡します」

そう言って、軽く手を上げる。

空間に歪みが生まれ、ゲートが開く。

「では」

虎はそのまま、迷いなく中へ消えた。

畑には再び風だけが残る。

正義は槍を肩に担ぎ、焼け跡を一度だけ見回した。

「……面倒な話だな」

小さく呟く。

しばらくして、正義もまた踵を返す。

静かな田園を背に、元の世界へと戻っていった。


会社の昼休み。

営業部の休憩スペースに、どん、と大皿が並べられていた。

「今日はね、近くの農家さんからお裾分けもらってきたのよ」

課長が楽しそうに笑いながら、取り分け用の箸を置く。

サラダ、煮物、炒め物。

どれもこれも、やたらと量が多い。

「ほら、遠慮しないで食べなさい」

社員たちが次々と皿に手を伸ばす。

「うまっ、これすごいですね」

「野菜甘いな……」

正義は、その光景を見て固まった。

(……農家)

(……大量)

一瞬、畑の光景がよぎる。

正義は無言で箸を持ち上げて――

深く息を吐く。

「……新鮮で美味しそうですね。」

うなだれるように、箸を皿に伸ばした。

いつもと傾向違いますがよろしくお願いします。

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