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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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【25話】漫画家の勇者

謎のクーデター、その目的はいったい。

午前十時十二分。

営業部。

「だから、このインパクトが大事なんですよ!」

田中が力説する。

営業部の共有モニターには、会社PRポスターの試作品が映っていた。

【未来へ繋ぐ、信頼の技術】

――なのだが。

背景には謎の炎。 そして中央で腕組みする謎の作業員シルエット。

「……何これ」 女子社員が真顔で呟く。

「企業CM風」

「いや、RPGのラスボス登場みたいになってる」

営業部に笑いが起きた。

課長が深いため息を吐く。

「田中くん」 「はい」

「あなたにデザイン任せた私が悪かったわ」

「そんなぁ!?」

正義は缶コーヒーを飲みながら、静かにモニターを見ていた。

「やっぱりプロに頼みます?」 女子社員。

課長は頷いた。

「ええ。今回はちゃんと外部のイラストレーターに依頼する」 「会社案内にも使うから、下手にできないのよ」

そう言って、一枚の資料を机に置く。

「最近はSNS用もあるから、デザイン重要なんですね」 正義が言う。

「そうなの」 「第一印象って大事だから」

田中が資料を覗き込む。

「どんな人なんすか?」

「フリーのイラストレーターさん」 「企業案件中心でやってるみたい」

資料には、柔らかいタッチの広告イラストが並んでいた。

親しみやすく、清潔感のあるデザイン。

どこにでもありそうな、普通の仕事。

「じゃあ午後の打ち合わせまでに、資料まとめといてねー」

課長の声。

営業部が再び仕事モードへ戻っていく。

――ピコン。

画面の端に、小さな通知が表示される。

正義の手が止まった。

「……」

メールだ。

見慣れた黒いウィンドウ。

そこに、白文字が浮かんでいた。

【指令】

【対象:漫画家の勇者】

【罪状:作品閲覧者への精神干渉による暴力誘発】

【任務:抹殺】

正義は画面を見たまま、しばらく動かなかった。

「……漫画家、か」

小さく呟き、PCを閉じる。

「少し出ます」

「はーい」

軽い返事を背に、営業部を出た。

廊下、エレベーター。

いつものルート。

――だが。

扉が閉じた瞬間、空気がわずかに歪んだ。

グニャリ。

視界が反転した。

正義はその空間に入る。


気づけば、正義はそこに立っていた。

足元の感触が変わる。

コンクリートではない。石畳。

視線を上げると、そこは――町だった。

石造りの建物が並び、行き交う人々の笑顔。

だが、異常な静けさはない。むしろ普通に“生活している町”だった。

周囲を一度だけ見回し、歩き出す。


人々の視線の先には、教会がある。

尖塔の上に鐘が静かに揺れていた。

その入口の横――

木枠に張られた布告板。

教区掲示

数人の町人が立ち止まり、何かを読んでいる。

だが、その空気に違和感があった。

貼られているのは、一枚の絵。

人々はその絵を見ていた。

誰もが一瞬、言葉を失っている。

そのときだった。

「……っ」

一人の男の表情が、ふっと変わる。

目が虚ろになる。

次の瞬間――

持っていたナイフが抜かれた。

「お、おい……?」

誰かが気づくより早く。

ザッ。

鋭い一閃。

悲鳴が上がる。

「うわああっ!」

人混みの中で、男が暴れ出す。

理由もなく、止まらない。

まるで何かに突き動かされているように。

悲鳴が広がる中、人々が後退する。

暴れた男はなおもナイフを振り回していた。

だが――

「動くな!」

低い声と同時に、重い足音。

鎧を着た近衛兵が駆け込んできた。

一瞬で距離が詰まる。

男の腕が掴まれ、地面に叩き伏せられた。

「ぐっ……!」

抵抗はあったが、すぐに押さえ込まれる。

ナイフが石畳に転がった。

静けさが戻る。

しかし、その場に残った空気だけは重いままだった。

正義はその様子を見て、布告板へと視線を戻す。

「……これが能力か」

小さく呟いた。

近衛兵が男を連れて行くと、周囲のざわめきは徐々に落ち着いていった。

正義は布告板の前に残る。

「これは何だ?」

近くにいた町人へ、静かに問いかけた。

男は少し緊張した様子で答える。

「……勇者様の絵ですよ」

「勇者?」

正義の目が細くなる。

町人は頷いた。

「この町を救ってくださった方でね」 「時々、こうして絵や言葉を残していくんです」

別の町人が補足するように言う。

「見ると、心が落ち着くって言う人もいるし……元気になるって人もいる」

正義は布告板へ視線を戻した。

静かに貼られた一枚の絵。

――ただの絵のはずだった。

だが、その空気だけが、どこか引っかかる。


夜。 町の喧騒は静まり、石畳にはランタンの淡い光だけが落ちていた。

正義は昼間の教会前へ戻ってくる。

布告板。 あの絵は、まだ貼られたままだった。

――ガンッ。

鈍い音。

正義が視線を向ける。

小柄な影。 一人の少年が、木材を手に布告板を叩いていた。

「……っ、壊れろよ……!」

必死な声。 だが、絵は破れない。 まるで張り付いたように、そこに残っている。

少年が再び腕を振り上げた、その時。

「何をしている!」

怒声。

通りの奥から、鎧の音が響く。 警ら中の兵士が駆けてきた。

少年の顔が青ざめる。

「しまっ――」

兵士は剣に手を掛け、布告板の前へ立った。

「また貴様か」

「勇者様への冒涜行為、言い逃れはできんぞ!」

少年は息を荒げながら、なおも絵を睨む。

「違う……!」

「あれを残したら駄目なんだ!」

兵士が少年の腕を掴もうとした、その時。

「――待ってください」

静かな声。

正義が二人の間へ入る。

兵士が眉をひそめた。 「何者だ?」

正義は少年の肩を軽く掴み、ため息混じりに頭を下げる。

「すみません」 「うちの子です」

少年が目を見開く。

「最近ちょっと反抗期で」 「迷惑を掛けました」

兵士は訝しげに少年を見る。

「……お前の子にしては年が近くないか?」

「若く見られるんです」

真顔だった。

兵士はしばらく黙っていたが、やがて小さく鼻を鳴らす。

「次はないぞ」

「勇者様への侮辱行為は重罪だ」

「ええ。きつく言っておきます」

兵士は最後に少年を睨みつけると、そのまま夜道の奥へ去っていった。

静けさが戻る。

少年は呆然と正義を見上げた。

「……誰だよ、あんた」

正義は布告板へ視線を向けたまま、静かに聞く。

「……なぜ壊そうとした?」

少年は唇を噛む。

しばらく黙っていたが、やがて小さく口を開いた。

「昼間、暴れた人……いたろ」

「ああ」

「あれ、俺の父さんだ」

正義の目が細くなる。

少年は震える声で続けた。

「父さん、本当はあんな人じゃない」 「酒も飲まないし、怒鳴ったことだってほとんどないんだ」

拳を強く握る。

「でも、この絵を見た後……急に様子がおかしくなって」

「ぼーっとして、それから……」

少年は布告板を睨みつけた。

「絶対あの絵のせいだ」

正義は少年の言葉を黙って聞いていた。

そして、布告板の絵へ一度だけ視線を向ける。

「……今日はもう帰れ」

「でも――」

「兵士も戻ってくる」

「今騒げば、お前まで捕まるぞ」

少年は悔しそうに俯いた。

正義は静かな声で続ける。

「父親を助けたいなら、今は動くな」 「焦ると、余計に見失う」

少年はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷く。

「……分かった」

正義は背を向け、夜の石畳を歩き出す。


正義はそのまま、勇者の屋敷へ向かった。

石造りの道を抜け、丘の上の屋敷へ。

――ドン、ドン!

門の前で、誰かが必死に扉を叩いている。

さっきの少年だった。

「お父さんを元に戻してよ!!」

泣き叫ぶ声が夜に響く。

正義が近づくより早く、屋敷の扉が静かに開いた。

そこに立っていたのは、まだ若い女だった。

少年の叫びに、女はうっとうしそうに眉をひそめた。

「……子供って、ほんと嫌いなのよね」

ため息混じりにそう言うと、懐から紙を取り出す。

さらさらと、何かを描き始めた。

瞬間――。

布告板にあった“あの絵”が歪み、形を変える。

それは黒い異形の怪物へと変わり、少年へと牙を剥いた。

「え……」

少年が後ずさるより早く、怪物が飛びかかる。

正義は即座に駆け出した。

「やめろ!」

だが距離が足りない。

怪物の腕が振り下ろされる。

――ドンッ。

鈍い衝撃音。

少年の体が吹き飛び、石畳に叩きつけられた。

「……っ」

正義がようやく間に合い、少年の前に膝をつく。

しかし、もう遅かった。

少年はかすかに目を開けたまま、息を失っていく。

唇がわずかに動く。

「……お父さんを……助けて……」

正義は小さく息を吐いた。

「……分かった」

そう言って、ゆっくりと立ち上がる。

視線の先、屋敷の入口に立つ女――勇者を睨みつける。

夜の空気が一瞬だけ重くなる。

「てめえの引導は、俺が渡す」

女は薄く笑った。

「……引導?」

「あなたごときに、どうやって?」

さらさら、と。 再び紙の上をペンが走る。

描かれていくのは、鋭い牙を持つ異形。

最後の線が引かれた瞬間――

紙の中の怪物が、ぬるりと動いた。

次の瞬間、絵は立体へと変わる。

黒い怪物が石畳へ落ち、低い唸り声を上げた。

黒い怪物が地を蹴り、正義へ飛びかかる。

だが――。

「遅い」

一閃。

銀の軌跡が夜を走った。

次の瞬間、怪物の体が真っ二つに裂ける。

黒い霧となって崩れ落ちた。

勇者の眉がわずかに動く。

「……へぇ」

だが、すぐに新しい紙を取り出した。

さらさら、と線が走る。

描かれていくのは――巨大なロケット。

「これならどう?」

完成した瞬間、絵が実体化する。

轟音。

ロケットが火を噴き、正義へ一直線に突っ込んだ。

しかし正義は慌てない。

爆炎が迫る寸前――

一歩。

滑るように横へ動く。

直後、背後の石壁が爆音と共に吹き飛んだ。

爆煙の向こうで、女が口元を歪めた。

「……やるじゃない」

だが余裕は崩れない。

再び紙を取り出し、ペンを走らせようとする。

その瞬間――

パキン。

乾いた音。

女の持っていたペンが、真っ二つに折れた。

「……え?」

女の表情が止まる。

爆発を避けながら。 怪物を斬りながら。

その度に、少しずつ。

確実に間合いを詰めていた。

女の顔から、初めて笑みが消えた。

折れたペンを見つめ、後ずさる。

「うそ……」

正義は止まらない。

静かな足音だけが近づいてくる。

もう、紙は間に合わない。

もう、描けない。

――こうなった時点で。

漫画家の勇者は、ただの人間だった。

女は後ずさる。

折れたペンを握ったまま、顔を引きつらせていた。

正義はゆっくりと歩み寄る。

「質問だ」

低い声。

「……他の監視者から接触はあったか」

女は息を乱しながら首を振る。

「な、ない……」 「私は、何も――」

正義は短く頷いた。

「そうか」

その一言だけ。

そして、さらに一歩踏み込む。

女の肩が震える。

じり、じりと近づいてくる正義から目を逸らせない。

「ま、待って……!」

声が裏返る。

「私は……ただ、描きたかっただけなの……!」

正義は無言。

女は必死に言葉を続ける。

「元の世界じゃ、好きなものなんて描けなかった!」

「編集は売れる話ばっかり要求して、読者は好き勝手言って……!」

握った紙が震える。

「毎日、毎日描いて……壊れて……」 「最後は、自分で死んだ」

かすれた笑いが漏れた。

「……だから転生して、やっと自由になれたのよ」

「好きなものを描いて、好きなように世界を動かして……何が悪いの?」

女の言葉が途切れる。

正義は静かに息を吐いた。

「……人の人生は、画用紙じゃねえ」

次の瞬間。

一閃。

夜の空気ごと断ち切るような刃が走った。

女の体から力が抜け、手にしていた紙がふわりと落ちる。

描かれかけていた世界は、形になる前に崩れた。

「罪は世界を選ばねえ」

正義は一言いい、その場を後にした。


翌朝。

布告板の前には、昨日の喧騒が嘘のような静けさが戻っていた。

一人の男が立っている。

手にした紙には、拙い筆跡でこう書かれていた。

「男の子を探しています」

「見かけた方は、教えてください」

通り過ぎる人々は、どこかぼんやりとそれを見ているだけで、足を止めない。

正義はその横を通り過ぎた。

横目で一瞬だけ、紙を見る。

何も言わない。

そのまま歩く。

石畳の感触が薄れていく。

――視界が、いつもの色に戻る。


翌朝。

営業部はいつも通りのざわつきに戻っていた。

そこへ、外部から呼んだデザイナーがやってくる。

机の上に広げられたのは、社員達のポスター案。

「インパクトはあるけど、ちょっと怖いよね」

「会社のイメージとしては攻めすぎかも」

そんな空気の中、外部のデザイナーだけが目を輝かせる。

「いや、これ……かなり良いです」

周囲が一瞬黙る。

「普通の“良いデザイン”じゃない。見た人の記憶に残るやつです」

そのポスターは正義のだった。

周囲の社員も顔を見合わせる。

「え、田中さんのですか?」

正義は缶コーヒーを飲みながら、にやけた顔で画面を見ながらキーボードを叩いていた。

昨日、マンダロリアン見てきました、やっぱらいいですね。

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