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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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19/22

【19話】ハーレムの勇者(前編)

昼前の営業部。

ドアが開く。

「失礼します」

入ってきた男に、何人かが顔を上げる。

すらりとした体格。

整った顔立ち。

落ち着いた雰囲気。

スーツもきちんと着こなしている。

「あら、来たわね」

上司が椅子を引きながら立ち上がる。

声が明るい。

「待ってたのよ、経理の人」

男が軽く会釈する。

「田中です」

柔らかい声で名乗る。

「今回は予算の件でお時間いただきありがとうございます」

「いいのよいいのよ、助かるわぁ」

上司が笑う。

「こっちだけじゃ限界あったのよね」

肩をすくめる。

「いえ、数字を少し整理しただけですので」

田中は控えめに答える。

「その“少し”が大事なのよ」

上司がうなずく。

「ね、正義くん?」

「はい」

正義は短く返事をする。

手元の資料をめくる。

「修正内容、確認しました。問題ありません」

「早いわねぇ」

上司が感心したように笑う。

「この調子なら、来月からの運用も大丈夫そうね」

「はい、その想定で調整しています」

田中が淡々と答える。

話はそのまま、実務の確認へと移る。

予算配分。

工程。

スケジュール。

大きな詰まりもなく、話は進んでいく。

「じゃあ、この条件で進めましょうか」

「はい、問題ありません」

軽く頭を下げる。

ひと通りの確認が終わる。

「ありがとう、ほんと助かったわ」

上司が笑顔で言う。

「いえ、こちらこそ」

田中も軽く頭を下げる。

「では、私はこれで」

「ええ、また何かあったらお願いね」

「はい」

田中が部屋を出ていく。

ドアが閉まる。

「ふぅ」

上司が一息つく。

「やっぱり経理入ると違うわねぇ」

「そうですね」

正義は資料をまとめながら答える。

「だいぶ整理されました」

「でしょ?」

上司が満足そうに笑う。

「こういうのはプロに任せるのが一番よ」

正義は小さくうなずく。

手元の資料を整える。


その時、正義のパソコンのメールが暗転する。

黒い画面。

白い文字がゆっくりと浮かび上がる。

【対象】:ハーレムの勇者

【罪状】:女性の拉致・拘束

【任務】:抹殺

正義は、無言で画面を見つめる。

「すみません、本日は定時で上がらせてもらいます」

正義は上司に言いオフィスのドアを出る。

廊下。

エレベーター。

一階。

すべて、いつも通り。

だが。

建物を出た瞬間、正義の表情が変わる。

ポケットから、小さな端末を取り出す。

――呼び出し。

「来い、琥珀」

それだけ。

数秒。

背後。

「……呼んだ?」

気配もなく、声。

振り返る。

そこには、琥珀。

「仕事だ」

正義が言う。

「対象は?」

「ハーレムの勇者。罪状は拉致」

琥珀の目が、わずかに細くなる。

「行くぞ」

正義は歩き出す。

向かう先は、人通りの少ない裏通り。

ビルとビルの隙間。

薄暗い路地裏。

足を止める。

空気が、軋む。

空間が、裂けるように歪む。

淡い光が、闇の中に滲む。

異世界への扉。

「――任務開始」

二人は、迷いなく踏み込んだ。


光が弾ける。

次の瞬間。

足元に、土の感触。

「……村か」

正義が周囲を見渡す。

古びた家屋。

ひび割れた地面。

人の気配はあるのに、妙に静かだ。

「……ねえ」

琥珀が小さく言う。

そのとき。

――やめてっ!

女の叫び声。

一軒の小屋の方から、はっきりと聞こえた。

だが――

「戻れ! 勝手なことするな!」

別の声が重なる。

男の怒声。

そして。

「いや……村に……戻されたくない……!」

女の、必死な声。

正義の目が細くなる。

「……拉致、か?」

「でも、ちょっと変だよ」

琥珀が眉をひそめる。

「“連れ戻された”って言ってた」

正義は答えない。

ただ、小屋の方へ歩き出す。

「確認する」

正義は小屋の前に立つ。

中からは、まだ揉める声。

「離せって言ってるだろ!」

男の声。

必死だ。

「嫌っ……! 勇者様のところに戻るの!」

女の声。

涙混じり。

だが――

どこか、おかしい。

「……行くぞ」

正義は扉に手をかける。

開ける。

中。

一人の男が、女の腕を掴んでいた。

必死に、引き止めている。

「やめろ……目を覚ませって……!」

「離してよ! あの人が待ってるの!」

女の瞳は――

どこか虚ろで、熱に浮かされたようだった。

琥珀が、息を呑む。

「……これ」

小さく呟く。

「洗脳、されてる」

正義は黙って女を見る。


次の瞬間。

女が、正義に向かって踏み出した。

「邪魔しないで……!」

その目は、完全に正気じゃない。

「琥珀」

短く呼ぶ。

「うん」

一瞬。

風が揺れる。

次の瞬間。

トン、と軽い音。

琥珀の手刀が、女の首筋に入っていた。

力は最小限。

だが正確。

女の体から力が抜ける。

「……あ」

そのまま、崩れ落ちる。

男が慌てて受け止めた。

「大丈夫。ただの気絶」

琥珀が静かに言う。

男は、呆然としたまま女を抱える。

そして――

「……助かった」

絞り出すように言った。

肩が震えている。

「頼む……聞いてくれ」

顔を上げる。

必死な目。

「アイツは……勇者は……最初は、村を救ったんだ」

言葉が、重い。

「魔物を倒して、みんなに感謝されて……」

拳を握る。

「でも……いつからか、おかしくなった」

沈黙。

「女だけを、集め始めたんだ」

琥珀の表情が曇る。

「拒めば……力で従わせる」

「……」

「そして……あいつも」

腕の中の女を見る。

優しく。

苦しそうに。

「俺の……婚約者だった」

声が、震えた。


「……場所は分かるな?」

正義が問う。

男は小さく頷く。

「……ああ。村の外れだ」

「案内してくれ」

短く。

だが、その前に。

「その前に……今日は、もう夜だ」

男が言う。

外は、いつの間にか暗くなっていた。

「頼む……礼もさせてくれ」

腕の中の女を見て。

「ここに……泊まってくれ」

正義は一瞬だけ考える。

そして。

「……分かった」

夜。

静かな家。

簡素な寝床。

「……嫌な予感する」

琥珀が小さく呟く。

「いつもだろ」

正義は目を閉じる。

「……それもそうだね」

小さく笑う気配。

やがて。

眠りに落ちる。

――ギャアアアッ!!

悲鳴。

鋭く、夜を裂く。

正義の目が開く。

「……!」

すぐに起き上がる。

「下だ!」

琥珀も同時に動く。

階段を駆け下りる。

足音。

息。

そして。

血の匂い。

「……っ」

そこにあったのは。

倒れた男。

胸を押さえ、血を流している。

「ぐ……っ……」

まだ、息はある。

その前に――

女。

昼間、気絶させたはずの。

婚約者。

手には、血のついた刃物。

「いや……いやいやいや……!」

目は見開かれ。

焦点は合っていない。

半狂乱。

「なんで……なんで邪魔するの……!」

震える声。

だが、感情は歪んでいる。

「勇者様のところに……戻らなきゃ……!」

琥珀の顔が強張る。

「……完全に、持ってかれてる」

正義は、ゆっくりと前に出る。

視線は、女へ。

冷たく。

「――排除する」

正義は、一歩踏み出す。

だが。

足が、止まる。

女の顔。

涙。

歪んだ笑み。

壊れた目。

「……っ」

ほんの一瞬。

ためらい。

「正義……」

琥珀の声。

静かに揺れる。

だが。

次の瞬間。

迷いは、消えた。

「……任務だ」

低く。

踏み込む。

一閃。

音は、小さい。

女の体が、崩れる。

そのまま、動かない。

沈黙。

重い空気。

「……」

琥珀は何も言わない。

ただ、目を伏せる。

正義は振り返らない。

すぐに、男のもとへ向かう。

「……おい」

しゃがみ込む。

男は、血に濡れながら。

かろうじて息をしていた。

「……あ……あんた……」

かすれた声。

震える手。

何かを握っている。

それを、差し出す。

小さな――指輪。

「……これ……」

息が、途切れそうになる。

「……婚約……指輪だ……」

正義は黙って受け取る。

温もりは、まだ残っている。

「……頼む……」

男の目が、正義を捉える。

必死に。

「……勇者を……」

言葉が、途切れる。

「……止めてくれ……」

最後の力で、絞り出す。

そして。

そのまま――

動かなくなった。

沈黙。

静寂。

血の匂いだけが残る。

琥珀が、小さく呟く。

「……最悪」

ぽつり。

だが、その声にははっきりとした感情が乗っている。

「女を……おもちゃみたいに壊して……」

握った拳が、わずかに震える。

視線は、倒れた女へ。

「……許さない」

低く。

はっきりと。

「絶対に、あいつだけは……」

正義は答えない。

ただ。

手の中の指輪を、強く握った。

「……行くぞ」

その声は。

さっきより、わずかに低かった。


後半へ続きます。

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