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暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


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【17話】髑髏の勇者(後編)

今回は熱量冷めないうちに、書きました

玉座の間。

剣は床に突き刺さったまま、微かに揺れていた。

空気が重い。

正義は、その中心に立っている。

髑髏は動かない。

ただ、赤い光だけが正義を見据えていた。

「……なるほど」

髑髏の声が落ちる。

「流石は監視者、勇者を狩るだけの事はある」

正義は答えない。

刀を構えたまま、視線だけを返す。

「これは、まだ序章だ」

髑髏の赤い光が、わずかに強くなる。

「……では」

低い声。

次の瞬間――

空間の奥に、火が生まれる。

それは最初、小さな点だった。

だが――

すぐに膨張する。

渦を巻くように。

熱が“形”になる。

空気がねじれる。

圧が変わる。

「レベル50――」

髑髏の声が落ちる。

「ファイヤーボール」

瞬間。

巨大な炎の塊が、玉座の間を照らした。

ただの火ではない。

空間そのものを焼きながら進む、圧縮された災厄。

床の石が黒く焦げる。

浮かんでいた剣が、熱で軋む。

正義は動かない。

ただ――刀を抜く。

一歩。

それだけ。

そして。

振るう。

一閃。

音は、遅れて来た。

ヒュン、という風の切断音のあとに――

世界が割れるような衝撃。

ファイヤーボールは、中心から真っ二つに裂けた。

炎が左右に分かれ、そのまま空間ごと流れ落ちるように霧散していく。

熱が消える。

光が消える。

静寂。

残ったのは、ただの切断線。

空間に“線”だけが残っていた。

髑髏の赤い光が、わずかに揺れる。

「……ほう」

低い声。

だが、そこに明確な変化がある。

興味。

そして、理解。

「炎を斬ったのではない」

「空間ごと、分けたか」

正義は答えない。

刀を軽く払う。

何も付いていない。

だが、床の空気が遅れて裂けるように歪む。

髑髏は、静かに続ける。

「……大気ごと、か」

その声には、わずかな感情が混じっていた。

「面白い」

空中に浮いた剣が、再び揺れる。

玉座の間の空気が、さらに重くなる。

正義の刃が、振り下ろされる。

――届く。

そのはずだった。

その瞬間。

カチリ。

音。

小さく。

だが、確実に。

「……?」

正義の視界が、歪む。

次の瞬間――

身体が、重くなる。

遅い。

刀が、落ちない。

振り下ろしたはずの刃が、空中で止まったように見える。

いや――

“遅くなっている”。

極端に。

「……っ」

力を込める。

だが、進まない。

空気が粘つく。

筋肉が、思うように動かない。

髑髏の赤い光が、わずかに揺れる。

「遅いな」

声は、はっきりと届く。

遅れていない。

髑髏は――通常のまま。

いや。

それ以上に滑らかに動いている。

「ワールドアイテムだ」

低く。

静かに。

腕が上がる。

何の負荷もないように。

正義の目の前で。

「時間の流れを、選別する」

指先が、わずかに動く。

それだけで。

空気が震える。

「私には影響しない」

一歩。

髑髏が、踏み出す。

速い。

正義から見れば――“消えた”ように見える。

次の瞬間。

横。

「っ……!」

衝撃。

身体が、弾かれる。

遅い。

受け身が、間に合わない。

床に叩きつけられる。

だが――

痛みすら、遅れて来る。

「ぐっ……!」

声が、ずれる。

自分のものなのに、タイミングが合わない。

髑髏は、ゆっくりと歩く。

正義に近づく。

余裕。

完全な支配。

「先ほどは、見事だった」

足を止める。

見下ろす。

「だが――」

わずかに首を傾ける。

「ここでは、私の方が上だ」

浮いていた剣が、一斉に震える。

今度は遅くない。

髑髏と同じ速度。

正義だけが――遅い。

「避けられるか?」

次の瞬間――

剣が、放たれる。

一斉に。

雨のように。

だが正義には――

“ゆっくりと迫ってくる死”にしか見えない。

動けない。

間に合わない。

それでも――

目だけは、死んでいない。

「……まだだ」

正義の腕が――わずかに動く。

ギギ……と。

無理やり、前へ。

骨が軋む。

筋肉が悲鳴を上げる。

それでも――止まらない。

髑髏の赤い光が、細くなる。

「……動くか」

低い声。

わずかな興味。

その瞬間。

正義が、小さく息を吐く。

「……こいつは」

遅い世界の中で。

言葉が、引き伸ばされる。

それでも――はっきりと。

「使いたくなかったんだがな」

空気が、変わる。

ドクン。

心臓が、一度だけ大きく鳴る。

次の瞬間――

さっきまでの“軋み”が消える。

剣が、当たらない。

いや――

触れる前に、位置がズレる。

完全に、別の層に入ったように。

髑髏の目が、わずかに見開かれる。

「……ほう」

今度は明確な反応。

正義は、一歩踏み出す。

床に足が触れた瞬間。

その場所には、もういない。

残像すら、遅れる。

「……これは」

髑髏が、低く呟く。

「時間への適応か」

正義は答えない。

すでに――間合いの中。

刀を、振るう。

一閃。

空気ごと、裂ける。

時間の壁を、越えて。

髑髏の前へ――届く。

止まらない。

時間の壁も。

圧も。

すべてを越えて。

一直線に。

髑髏へ。

「――ッ」

初めて。

明確な反応。

髑髏の身体が、わずかに揺れる。

だが――遅い。

正義の一閃の方が、速い。

斬。

音は、遅れて来た。

空間ごと裂けるような、重い響き。

刃が――通る。

抵抗はあった。

だが、止まらない。

そのまま――抜ける。

髑髏の身体が、縦に割れる。

赤い光が、揺れる。

大きく。

歪むように。

「……なるほど」

声。

だが、途切れている。

半分に分かれたまま。

それでも、喋る。

「そこまで……届くか」

空気が、揺らぐ。

ワールドアイテムの圧が、乱れる。

時間の歪みが――崩れる。

止まっていた世界が、戻る。

一気に。

音が、流れ込む。

空気が、動く。

正義は、その場に立っている。

刀を、ゆっくりと下ろす。

呼吸は、わずかに荒い。

だが――目は、死んでいない。

髑髏の身体が、崩れ始める。

砂のように。

粒子となって。

空間へ溶けていく。

赤い光が、最後に強く輝く。

「……見事だ」

低く。

確かに。

その言葉だけが、残る。

次の瞬間――

完全に、消える。

静寂。

玉座の間に、音はない。

剣が、カラン……と床に落ちる。

遅れて。

戦いの終わりを、告げるように。

正義は、一言だけ。


「罪は世界を選ばねえ」


剣が、床に転がる。

カラン……と。

遅れて響く音。

それだけが、残る。

正義は、動かない。

刀を持ったまま。

ただ、そこに立っている。

呼吸だけが、わずかに乱れている。

――その時。

足音。

遠くから。

コツ、コツ、と。

一つじゃない。

二つ。

少しずつ、近づいてくる。

正義は、振り向かない。

気配で、分かる。

「……終わった?」

先に声が届く。

琥珀。

少しだけ、息が上がっている。

だが声は、いつも通り。

軽い。

その後ろから――

「……派手にやったな」

竜美の声。

低く。

だが、どこか安心したような響き。

二人が、玉座の間に入ってくる。

その足が、止まる。

目の前の光景。

崩れた空間。

焼けた跡。

そして――

消えた敵の痕跡。

「……マジかよ」

竜美が、小さく呟く。

琥珀は、何も言わない。

ただ――正義を見る。

少しだけ、目を細めて。

「……勝ったんだ」

確認するように。

正義は、ゆっくりと刀を納める。

カチリ、と音が鳴る。

それだけで、答えになる。

沈黙。

ほんの一瞬。

そして――

竜美が、ふっと笑う。

「遅えよ」

軽く。

いつもの調子で。

「こっちも終わってんだよ」

琥珀も、小さく息を吐く。

マイクを肩に担ぐ。

「ね、ちゃんと戻ってきたでしょ」

少しだけ、誇るように。

正義は、ようやく振り向く。

二人を見る。

無事を、確かめるように。

「……ああ」

短く。

それだけ。

だが――

それで、十分だった。

三人が、同じ場所に立つ。

戦場だった場所で。

ようやく、終わる。

と思った時――


「――見事でしたね」

声。

静かに。

だが、はっきりと。

玉座の奥から。

三人の視線が、一斉に向く。

空気が張り詰める。

竜美の指が、わずかに弦に触れる。

琥珀が、マイクを構える。

正義も、刀に手をかける。

だが――

男が、片手を軽く上げる。

制するように。

「ちょっと待ってください」

落ち着いた声。

一切の動揺がない。

「敵ではありません」

一拍。

視線が、三人を順に捉える。

そして――

「同業者です」

静かに、言い切る。

男が、ゆっくりと口を開く。

「一度」

間。

視線が、正義へ向く。

「この世界で最強と言われる正義さんの戦いを」

ほんのわずかに、口元が緩む。

「見てみたいと思いまして」

空気が、わずかに変わる。

竜美が、小さく舌打ちする。

「……趣味悪ぃな」

琥珀は、黙って男を見ている。

探るように。

正義は――何も言わない。

ただ、その男を見据える。

沈黙。

だが――

先ほどまでの戦いとは、別の緊張が生まれていた。

沈黙。

誰も、すぐには動かない。

男は、ゆっくりと視線を外す。

それ以上、何もする気はないというように。

「……ああ、そうだ」

ふと思い出したように、足を止める。

わずかに振り返る。

「名乗りがまだでしたね」

静かに。

無駄のない動きで。

三人を一度、見渡す。

そして――

「虎、と言います」

短く。

それだけ。

間。

ほんの一瞬の沈黙。

そして、続ける。

「では――これにて失礼します」

次の瞬間。

気配が、消える。

音もなく。

まるで最初からいなかったかのように。

竜美が、低く呟く。

「……何だ、あいつ」

琥珀は、視線を落とさない。

「……ただの見物人、じゃないよね」

正義は、何も言わない。

ただ――

消えた場所を、じっと見ている。

戦いは、終わったはずなのに。

まだ、終わっていない。

そんな感覚だけが――

静かに、残っていた。


竜美が、肩を回す。

「……変なのに絡まれたな」

軽く吐き捨てる。

琥珀は、小さく息を吐く。

「でも、あれ……絶対また会うよね」

少しだけ、嫌そうに。

正義は、何も言わない。

ただ一度だけ、玉座の奥を見て――

視線を戻す。

そして。

「……じゃあ」

「もとの世界に戻ろうか」

二人が、小さく頷く。

三人の足が、同時に動く。

玉座の間を、後にする。

戦いは、終わった。

だが――

新たな何かが、確実に始まっている。

その予感だけを残して。


――翌日。

いつも通りの朝。

「……早いな」

正義は、画面を見たまま呟く。

数字が、揃っている。

昨日まで詰めきれていなかった箇所が、もう埋まっている。

「どう?」

後ろから声。

振り返る。

上司が立っている。

ニコニコ顔。

手には資料。

「プロジェクトの進捗」

少しだけ、得意げに。

正義は、もう一度画面を見る。

「……思ったより速いですね」

上司は、満足そうに頷く。

「でしょ?」

軽く胸を張る。

「やっぱりね」

一拍。

「チームワークは重要よ」

正義は、小さく頷く。

「……そうですね」

短く。

それだけ。

キーボードに手を置く。

カタカタ、と音が響く。

上司が続ける。

「この調子なら――」

ほんの少し、間を置いて。

にっこりと笑う。

「前倒し、いけそうね」

その瞬間。

ゆっくりと。

肩が――落ちる。

「……はぁ」

小さく、息を吐く。

誰にも聞こえないくらいの声で。

「マジか……」

上司は気づいていない。

満足そうに資料をめくっている。

キーボードの音が、また戻る。

日常が、続いていく。

――ほんの少しだけ。

遠くで、何かが動いている気がした。



新たな敵の匂いを残しつつ終わります。

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