【16話】髑髏の勇者(中編)
監視者の実力を楽しんでください。
沈黙。
張り詰めた空気。
その時――
悪魔が、口を開く。
「ひざまずけ」
低く静かに。
抗えない圧。
――身体が、止まる。
膝が、沈む。
「……っ!」
動かない。
力が、入らない。
視界が揺れる。
その時――
「――あああああ!!」
琥珀の雄叫び。
音が、空間を震わせる。
縛りが、軋み砕ける。
正義の指が、わずかに動く。
竜美が歯を食いしばる。
拘束が、ほどける。
一瞬。
双子の片方が、眉をひそめる。
「……何で?」
もう片方が同時に、口を開く。
「効かないの?」
声が、重なる。
次の瞬間――
双子が消える。
左右同時。
距離が、消える。
「っ!」
琥珀が反応する。
竜美が前に出る。
だが速い。
双子の一人が、弓を放つ。
風を裂く音。
一直線に正義を狙う。
次の瞬間――
正義が刀を抜く。
――弾く。
金属音。
火花。
矢が、軌道を逸らす。
壁に突き刺さる。
――その瞬間。
もう一人の双子はすでに間合い。
「遅い」
踏み込み拳を正義に打つ。
だが。
「させるかよ」
竜美が割り込む。
ギターを振る。
鈍い音。
衝突。
拳と木。
空気が弾ける。
竜美の足が、わずかに滑る。
「っ……重いな」
双子は止まらない。
そのまま、回し蹴りの連撃。
一切の無駄がない。
竜美が受け流す。
だが――
押される。
重い。
「ちっ……!」
その時。
琥珀が小さく。
マイクを握る。
一音。
震える。
空気が、揺れる。
双子の動きが、わずかに乱れる。
ほんの一瞬。
「そこ」
竜美が踏み込む。
ギターを振り抜く。
叩きつける。
直撃。
一人。
吹き飛び石床を転がる。
だが――
「まだだよ」
もう一人は無傷。
距離を取る。
弓を構える。
今度は二本。
同時に射る。
「避けられる?」
矢を放つ。
二方向。
挟み撃ち。
正義は動かない。
視線だけ追う。
次の瞬間――
前へ踏み込み。
矢の間を抜ける。
紙一重。
風が頬を裂く。
血が、わずかに滲む。
――その時。
視線。
正義が、わずかに横を見る。
中央。
髑髏。
動かない。
一歩も。
ただ、立っている。
空洞の奥。
赤い光。
こちらを見ている。
正義が、踏み込む。
刀が――髑髏へ振り下ろされる。
だが――
止まる。
見えない圧。
刃が、髑髏の前で止められる。
触れていない。
それでも、進まない。
「……っ」
腕が、軋む。
押し返される。
一歩。
また一歩。
正義の足が、後ろへ滑る。
床が削れる。
「無駄だ」
髑髏の声。
低い。
感情がない。
「届かない」
その瞬間――
横から衝撃。
「横がお留守だよ!」
双子の一撃。
正義の身体が弾かれる。
後方へ。
転がる。
すぐに起き上がるが――
「チッ……!」
竜美も、押されている。
双子の連携。
一人が攻め。
一人が狙う。
隙が、ない。
「……このままじゃ」
息が、荒い。
竜美が、低く吐き出す。
「らちがあかねえな」
その時。
正義が、静かに立ち上がる。
血を拭うこともなく。
ただ――前を見る。
一瞬。
三人の視線が交わる。
理解は、早い。
正義が口を開く。
「分けるぞ」
短く。
迷いがない。
「双子と――あの骨」
視線が、髑髏へ向く。
「それぞれでやる」
空気が、張り詰める。
決断。
竜美が、ニヤリと笑う。
「やっと言ったかよ」
琥珀が、小さく頷く。
マイクを握る手が、強くなる。
戦場が――分かれる。
次の瞬間。
琥珀が、一歩前に出る。
静かに。
けれど、はっきりと。
「――こっちよ」
小さく。
誘うような響き。
悪魔の視線が琥珀へ動く。
「……ほう」
初めての興味。
赤い光が、わずかに揺れる。
琥珀は、ふっと息を吐く。
振り返らずに走り出す。
足音だけが、響く。
カツ、カツ、と。
わざと。
音を残す。
誘導。
「逃げるのか?」
悪魔の声。
琥珀は、答えない。
ただ――
もう一度。
一音。
今度は、強く。
「ァァ――ッ!」
響く。
空間を裂くような音。
挑発。
「……いいだろう」
次の瞬間。
気配が、消える。
そして――
現れる。
琥珀の背後。
だが。
琥珀は止まらない。
分かっている。
それでも走る。
誘う。
奥へ。
暗い通路。
回廊。
光が、細くなる。
音が、反響する。
閉じた空間。
戦うには――十分。
琥珀が、立ち止まる。
ゆっくりと、振り返る。
マイクを、握り直す。
「……ここなら」
目が、真っ直ぐに悪魔を捉える。
「遠慮、いらないよね」
回廊に――静寂が走る。
次の瞬間――
悪魔の腕が、振り下ろされる。
空間が裂ける。
裂け目の奥から――
炎。
黒い。
赤ではない。
光を喰うような、闇の炎。
「――奈落獄炎」
放たれる。
一直線。
逃げ場は、ない。
回廊を埋め尽くす。
焼く、ではない。
“喰う”。
存在ごと。
琥珀へ。
「……っ」
熱が来る前に。
圧が、来る。
空気が、焼ける。
その中で――
琥珀は、動かない。
マイクを、強く握る。
息を、吸う。
そして――
「――ハァッ!!」
音。
爆ぜる。
前方に、叩きつける。
見えない壁。
音の層。
重なり合う振動。
盾になる。
奈落の炎が――
ぶつかる。
衝突。
轟音。
火と音が、ぶつかり合う。
回廊が、震える。
床が、軋む。
「……ぐっ!」
押される。
熱が、迫る。
だが。
崩れない。
音の壁が――耐える。
「……やるじゃん」
琥珀が、小さく笑う。
マイクを、さらに前へ。
「でもさ」
目が、鋭くなる。
「それ――効かないよ」
音が――
さらに重なる。
その圧に。
炎が、わずかに揺らぐ。
「……ほう」
悪魔の声。
興味。
わずかに。
だが、確実に。
腕が、ゆっくりと下りる。
炎が、霧散する。
残った熱だけが、空間に残る。
赤い光が――細くなる。
琥珀を、見ている。
「防ぐか」
低く。
静かに。
そして――
わずかに、首を傾ける。
「……では」
間。
ほんの、一瞬。
空気が、張り詰める。
「これなら――どうですか?」
次の瞬間。
視線が、突き刺さる。
見えない圧が――落ちる。
言葉が、放たれる。
「――ひざまずけ」
世界が、沈む。
音が、消える。
空気が、止まる。
見えない何かが――
琥珀の全身を、押さえつける。
「……っ!」
膝が――
軋む。
「……っ!」
力が、入らない。
立っているだけで、限界。
音が――出せない。
喉が、締め付けられる。
「……く……っ」
マイクを握る手が、震える。
下がる。
わずかに。
膝が――沈む。
床に、触れる寸前。
「そうだ」
悪魔の声。
満足げに。
静かに。
「それでいい」
視線が、見下ろす。
完全な支配。
逃げ場は、ない。
その時――
悪魔の腕が、ゆっくりと上がる。
再び。
あの動き。
空間が、歪む。
熱が――集まる。
黒い揺らぎ。
裂け目が、開く。
「――奈落獄炎」
呟き。
低く。
確実に。
先ほどと、同じ。
いや――
それ以上の密度。
回廊が、焼ける前に震える。
逃げられない。
防げない。
動けない。
琥珀の目の前で――
炎が、形を成す。
振り下ろされる、その瞬間。
「――やめて!!」
琥珀の声。
大きく。
鋭く。
絞り出すように。
音が――弾ける。
その瞬間。
ピタリと。
炎が――止まる。
「……」
落ちない。
振り下ろされない。
空中で。
静止。
悪魔の腕も。
動かない。
「……は?」
琥珀の目が、見開かれる。
理解が、追いつかない。
膝をついたまま。
ただ、見上げる。
目の前の異常。
「……何を」
悪魔の声。
初めて。
揺れる。
腕が――微かに震える。
「なぜ、止まる」
奈落の炎が、揺らぐ。
制御が、乱れる。
赤い光が、わずかに揺れる。
「……命令は」
低く。
困惑が、滲む。
「私のものだ」
沈黙。
張り詰める。
琥珀も。
悪魔も。
動けない。
ただ――
“何が起きたのか”
分からないまま。
琥珀の喉が、わずかに震える。
今の一言。
偶然じゃない。
「……あれ」
小さく。
自分の声を、確かめるように。
指先に、力が戻る。
ゆっくりと。
膝が、持ち上がる。
立てる。
「……効いた?」
信じられない、という顔。
だが――
確実に。
止まっている。
悪魔が。
「……貴様」
低い声。
だが、先ほどとは違う。
わずかな警戒。
赤い光が、細くなる。
「今のは……何だ」
琥珀は、息を整える。
マイクを、握り直す。
さっきと同じように――
いや、少しだけ意識して。
声に、乗せる。
「……止まれ」
小さく。
だが、はっきりと。
その瞬間。
悪魔の腕が――
ピクリと、止まる。
「――ッ」
今度は。
確信。
琥珀の目が、変わる。
「……やっぱり」
小さく、息を吐く。
「効くじゃん」
わずかに。
笑う。
「そっか」
理解が、繋がる。
自分の力。
“魅せる声”。
“惹きつける音”。
そして――
「……あたしの方が、上なんだ」
静かに。
言い切る。
空気が、変わる。
支配が――揺らぐ。
悪魔は、動けない。
腕を上げたまま。
奈落の炎を宿したまま。
止まっている。
「……効いてる」
琥珀が、一歩踏み出す。
ゆっくりと。
確かめるように。
悪魔の前へ。
距離が、縮まる。
一歩。
また一歩。
「……すごいじゃん、あたし」
小さく。
息を吐く。
だが、油断はない。
視線は、逸らさない。
「そのまま――動かないで」
静かに。
言葉を、重ねる。
念を押すように。
悪魔の指が、わずかに震える。
だが。
動けない。
「……っ」
拘束は、続いている。
完全に。
琥珀が、目の前に立つ。
至近距離。
赤い光を、真正面から見据える。
マイクを――構える。
「ごめんね」
ほんの少しだけ。
柔らかい声。
そして――
カチリ。
小さな音。
マイクの下部。
仕込み刀が、滑り出る。
細く。
鋭い。
光を反射する。
「これで――終わり」
次の瞬間。
踏み込み。
一閃。
迷いは、ない。
一直線に――
悪魔の額に。
「――ッ」
鈍い音。
抵抗。
だが、止まらない。
そのまま――押し込む。
深く。
確実に。
「……」
沈黙。
奈落の炎が――消える。
空間の熱が、引いていく。
悪魔の身体が――
ゆっくりと、崩れる。
光が、消える。
支配が、消える。
完全な静寂。
琥珀は、その場に立ったまま。
しばらく、動かない。
やがて。
小さく、息を吐く。
「……はぁ」
力が、抜ける。
だが――
マイクは、まだ握ったまま。
「……終わった?」
ぽつりと。
呟く。
場面は――大広間。
高い天井。
広い空間。
音が、よく響く。
その中央。
竜美が、立っている。
肩で息をする。
双子が、動く。
一人は――後方。
弓を構える。
もう一人は――前へ。
間合いを詰める。
「……役割分担かよ」
来る。
拳。
竜美が受ける。
その瞬間――
風。
「っ!」
矢。
背後から。
頬を掠める。
血。
止まらない。
双子の一人が、詰める。
連撃。
重い。
「チッ……!」
押される。
「終わり」
弓。
二本。
同時。
逃げ場を潰す。
「ふざけんな!」
竜美が――踏み込む。
前へ。
一気に。
矢の間を、抜ける。
一本、刺さる。
「ぐっ……!」
止まらない。
そのまま――
懐へ。
踏み込む。
だが。
「遅い」
スッと。
間合いを外される。
空振り。
「チッ……!」
次の瞬間――
拳。
竜美が受ける。
重い。
その隙に――
「終わり」
背から飛んで来る矢。
「っ!」
無理やり、捻る。
避ける。
だが。
もう一人は――離れる。
また、距離。
「……クソが」
踏み込む。
詰める。
だが――
外される。
その繰り返し。
「はっ……!」
竜美が、笑う。
息が荒い。
「やっとだ……!」
その時。
弓が、引かれる。
「……そこか」
竜美は、あえて動かない。
「終わり」
矢が――放たれる。
一直線。
その瞬間。
双子の一人の肩に、矢が突き刺さる。
「な……!」
動きが、止まる。
空気が――変わる。
双子の動きが、止まる。
竜美が、踏み込む。
一直線。
負傷した方へ。
「っ……!」
避けようとする。
だが。
動きが――引かれる。
「……な?」
肩が、わずかに後ろへ引く。
足が、ズレる。
意図しない動き。
その瞬間。
竜美が、口の端を吊り上げる。
「気づくの、遅えよ」
その時、初めて見える。
細い線。
弦。
負傷した双子の腕に――巻き付いている。
「いつの間に……!」
もう一人が、息を呑む。
「懐に入った時だ」
低く。
吐き捨てる。
「逃げるたびに、少しずつな」
弦が――張る。
引かれる。
身体が、勝手に動く。
「っ――やめ……!」
制御が、奪われる。
その瞬間――
後方の双子が、弓を引く。
だが。
「もう遅え」
竜美が、さらに引く。
弦が、鳴る。
操られる身体。
射線に――入る。
「――っ!?」
矢が、放たれる。
そして――
味方へ。
突き刺さる。
「ぐっ……!」
動きが、完全に止まる。
連携が――崩壊する。
ギターを、構える。
トドメの距離。
竜美が、口を開く。
「……俺の弦はな」
低く。
静かに。
「よく切れるんだよ」
次の瞬間。
指が、弾く。
軽やかに。
弦が――走る。
音もなく。
空気を裂くように。
双子の身体へ――巻き付く。
首。
腕。
胴。
逃げ場は、ない。
「っ……!」
動こうとする。
だが――遅い。
竜美が、握る。
そして――
引く。
一気に。
ジャリ、と。
乾いた音。
次の瞬間――
止まる。
世界が、一瞬だけ静まる。
そして――
ズレる。
線に沿って。
崩れる。
音もなく。
切断。
「……」
血が、遅れて落ちる。
竜美は、動かない。
ただ、弦を戻す。
指でなぞる。
何事もなかったように。
「終わりだ」
小さく。
吐き捨てる。
「――ッ!!」
残った一人。
逆上し弓を引く。
連続で、矢が――降る。
無差別。
八つ裂きのように。
空間を埋める。
だが。
竜美は――動かない。
立ったまま。
最小の動き。
首を傾ける。
肩をずらす。
それだけで――
すべて、外れる。
「……」
静かに。
一歩、前へ。
「矢だけだと楽だな」
低く。
吐き捨てる。
双子の目が、見開かれる。
その瞬間。
竜美の指が――動く。
ピック。
弾くように。
投げる。
小さな軌道。
だが――鋭い。
弧を描く。
空気を裂く。
「――っ!」
ピックが――
喉を、掠める。
一線。
次の瞬間。
血が、噴く。
弓が、落ちる。
膝が、崩れる。
声にならない。
そのまま――
倒れる。
動かない。
「……」
竜美が、ピックを拾う。
何事もなかったように。
指に戻す。
「終わりだ」
大広間に――
完全な静寂。
玉座の間。
静寂。
向かい合う、二人。
その時――
髑髏が、わずかに首を傾ける。
「……貴様が、監視者か」
低い声。
空洞の奥。
赤い光が、揺れる。
正義は、静かに答える。
「そうだ」
短く。
それだけ。
間。
ほんの一瞬。
そして――
空気が、変わる。
髑髏の周囲に。
歪み。
浮かぶ。
剣。
一本。
二本。
十。
増える。
無数。
空中に――展開される。
刃が、正義へ向く。
「挨拶代わりだ」
次の瞬間――
放たれる。
一斉に。
雨のように。
「……」
正義は、動く。
踏み込み。
最小限。
刀が、閃く。
弾く。
流す。
避ける。
一本が頬を掠める。
血。
だが――止まらない。
足を運ぶ。
間を抜ける。
紙一重。
剣が、床に突き刺さる。
石が砕ける。
音が響く。
それでも。
正義は――崩れない。
最後の一本を、弾く。
静止。
「……なるほど」
髑髏の声。
わずかに。
興味。
「ただの人間では、ないか」
正義は、刀を下ろさない。
視線も、逸らさない。
「まだだろ」
低く返す。
沈黙。
張り詰める空気。
玉座の間。
二人だけ。
動かない。
だが――
次の一手で、すべてが変わる。
戦いのシーンって結構疲れますね(笑)




