【15話】髑髏の勇者(前編)
お久しぶりです、今回は強敵です。
午前九時。
営業部。
蛍光灯。
キーボードの音。
紙をめくる音。
いつも通りの朝。
だが――
「正義くん」
呼ばれる。
顔を上げる。
上司が立っている。
ニコニコ顔。
柔らかい笑み。
手には書類。
「ちょっといいかしら?」
正義は立ち上がる。
会議スペース。
簡単なテーブル。
ホワイトボード。
すでに数人が集まっている。
山城もいる。
椅子に座る。
視線が自然と集まる。
上司が軽く手を叩く。
「はい、注目」
場の空気が少しだけ緩む。
「今回ね、新しい案件が来てるの」
資料が配られる。
机に置かれる音。
「ちょ〜っと規模が大きいわ」
一拍。
「これ、一人でやるとか無理。倒れるわ」
軽く肩をすくめる。
誰かが小さく笑う。
上司が続ける。
「だから――チームでやるの」
ホワイトボードに書かれる。
・データ整理
・資料作成
・外部対応
「得意なところでいいわ」
視線を回す。
「遠慮はナシよ?遠慮して潰れるのが一番ダメなんだから」
山城が手を挙げる。
「じゃあ、俺データやります」
「あら、助かるわ〜」
別の社員も続く。
「資料、自分やります」
「よろしく、頼んだわよ」
空気が、動く。
自然に。
正義は、少しだけ周囲を見る。
それぞれが、自分の意思で動いている。
上司が正義を見る。
「で、正義くんはどうする?」
沈黙。
ほんのわずか。
そして――
「外部対応、やります」
短く。
上司が微笑む。
「あら、いつもの外回りね」
会議中。
会話が進む。
声が重なる。
意見が出る。
形が出来ていく。
正義は資料を見る。
指が、止まらない。
だが――
少しだけ、違う。
周囲にも音がある。
同じ方向を向く人間がいる。
キーボードの音が重なる。
仕事が進む。
静かに。
確実に。
その時――
画面の隅。
黒い通知。
一瞬だけ、点滅。
正義の指が止まる。
視線だけ、動く。
クリック。
開く。
――画面が切り替わる。
業務画面が消える。
表れる無機質な文字。
【指令】
沈黙。
【対象世界:同時接続】
【対象数:3】
【罪状:人間の人体実験多数】
一拍。
【特徴】
スクロール。
【対象①】
【名称:不明】
【通称:髑髏の勇者】
【能力:特級魔法/空間干渉】
【所持:ワールドアイテム(制限確認)】
【危険度:測定不能】
【備考】
現時点での最上位個体。
単独交戦は非推奨。
【対象②】
【名称:不明】
【通称:双子の勇者】
【能力:遠距離射撃/近接体術(連携特化)】
【危険度:A】
【備考】
二体一組。
連携時、戦闘力大幅上昇。
分断推奨。
【対象③】
【名称:不明】
【通称:悪魔の勇者】
【能力:高位魔法/精神干渉】
【危険度:A+】
【備考】
複数対象への同時干渉を確認。
精神防御必須。
一瞬。
沈黙。
さらに下へ。
【任務】
【対象3名の排除】
画面が、わずかに歪む。
最後の一文。
【補足】
対象は同一領域にて確認。
交戦は同時発生の可能性あり。
黒が消える。
元の業務画面。
数字。
資料。
何も変わらない。
正義は、しばらく画面を見る。
沈黙。
そして――
小さく、呟く。
「……三対三か」
指が止まる。
一瞬だけ。
そして、再び動き出す。
規則正しく。
その時。
後ろから声。
「正義くんどうしたの?」
上司。
振り向かない。
「外回り?」
正義は短く答える。
「はい」
一拍。
上司が軽く笑う。
「いってらっしゃい」
それだけ。
止めない。
命令もしない。
正義は立ち上がる。
椅子が引かれる音。
周囲は変わらない。
誰も見ない。
だが――
確かに、ここは“普通の世界”。
正義は歩き出す。
出口へ。
ポケットの中。
指が、わずかに動く。
何かを確かめるように。
そして――
ビルを出る。
昼の光。
人の流れ。
雑踏。
その中で。
正義はスマホを取り出す。
短く打つ。
【来い】
送信。
ビルの裏手。
路地。
日陰。
人の気配は、少ない。
ゴミ袋。
古い看板。
薄汚れた壁。
足音。
一つ。
琥珀が立っている。
フードを深く被る。
サングラス。
周囲を確認する。
誰もいない。
小さく息を吐く。
「……こういうとこ、慣れないな」
その時――
反対側。
ゆっくりと歩いてくる影。
だるそうな足取り。
肩に、ギターケース。
竜美。
壁に軽くもたれかかる。
「人目、気にするタイプか」
軽く言う。
琥珀が少し睨む。
「そっちと一緒にしないで」
短く。
その時。
路地の入口。
影が一つ。
正義。
止まる。
三人。
静かに揃う。
沈黙。
正義が言う。
「今回は、転生者が三人だ」
一拍。
空気が変わる。
竜美の目が細くなる。
「へえ」
琥珀が小さく呟く。
「……チーム戦」
正義は頷く。
「行くぞ」
その時――
空気が、揺れる。
違和感。
視界が歪む。
路地が崩れる。
音が遠のく。
足元が消える。
落ちる感覚。
地面。
乾いた土。
風。
匂いが違う。
空。
濁っている。
静かすぎる。
三人が立っている。
周囲には。
崩れた遺跡。
石の柱。
割れた床。
「――敵の気配が、濃い」
奥へ続く通路。
暗い。
光は、ほとんど届かない。
正義が先頭。
琥珀と竜美が続く。
鉄格子。
牢屋。
錆びている。
中で何かが、転がっている。
形は――崩れている。
人だったもの。
皮膚は裂け。
骨が露出し。
原型は、ほとんど残っていない。
乾いている。
だが――
完全には、朽ちていない。
琥珀の足が止まる。
「……これ」
声が、わずかに揺れる。
そして、すぐに視線を外す。
竜美が一瞥する
「長くないな」
短く。
さらに奥。
石畳の部屋。
広い。
中央に、台。
血の跡。
黒く、こびりついている。
周囲には――
器具。
見たことのない形。
だが、用途は分かる。
拘束。
切開。
記録。
床には、引きずった跡。
複数。
乾いている。
沈黙。
琥珀がマイクを握る手に力を込める。
「……最低」
小さく。
吐き捨てるように。
竜美が壁にもたれる。
「趣味が悪いな」
軽く言う。
だが、目は笑っていない。
正義は、台を見る。
一瞬。
それだけ。
「先に進む」
通路。
さらに奥。
空気が変わる。
重い。
湿っている。
匂い。
腐敗。
混ざっている。
何かが。
琥珀が顔をしかめる。
「……なに、この匂い」
竜美は何も言わない。
ただ、前を見る。
部屋。
扉は、壊れている。
中は暗い。
だが――
かすかに見える影。
複数。
吊るされているもの。
人だったもの。
腕が、異様に長い。
脚の形が違う。
皮膚の一部が、毛に変わっている。
顔。
半分が、人。
半分が、獣。
目は、開いたまま。
動かない。
だが――
完全には、死んでいない。
かすかに。
呼吸。
音。
「……っ」
琥珀が息を詰まらせる。
後ずさる。
竜美の指が、わずかに動く。
やがて――
行き止まり。
壁ではない。
巨大な扉。
石造り。
ひび割れ。
だが――
壊れていない。
紋様は歪んでいる。
何かを、封じていたような形。
琥珀が小さく呟く。
「……ここだね」
竜美が視線を上げる。
「分かりやすいな」
軽く言う。
だが、手はケースに触れたまま。
正義は扉の前に立つ。
手をかける。
ギィ……
扉が、ゆっくりと開く。
暗闇。
奥は見えない。
だが――
いる。
三つの影。
動かない。
待っている。
沈黙。
数秒。
――声。
「……来るとは思っていましたよ」
柔らかい。
落ち着いた声。
紳士的。
だが、どこか歪んでいる。
闇の中。
赤い瞳が、細くなる。
悪魔。
口元が、わずかに笑う。
次の瞬間。
左右。
二つの影が、同時に動く。
揃った動き。
一歩、前へ。
双子。
同時に口を開く。
「大して強そうには見えないね」
声が、重なる。
完全に同時。
ズレはない。
同じ表情。
同じ目。
同じ軽さ。
だが――
視線は鋭い。
値踏みしている。
そして――
中央。
一つ。
動かない影。
ゆっくりと、頭が上がる。
カタ……
骨が鳴る。
髑髏。
空洞の奥。
赤い光。
こちらを――見ている。
何も言わない。
ただ、見つめる。
圧だけが、増す。
視線が、外せない。
沈黙。
三対三。
距離。
静止。
空気が張り詰める。
正義が一歩、前へ出る。
止まる。
「対象確認」
短く。
その一言で――
戦場が、完成した。
次回は戦闘です。




