↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴走転生勇者を最強監視者が必殺しちゃいます。〜罪は世界を選ばねえ〜  作者: がお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/30

【10話】スライムの勇者(後編)

前回の後半です。

森の奥。夜風が木々を揺らす。

倒れた戦士の胸の傷跡が、月明かりにわずかに光った。

正義は静かに息を整える。

手の中の宝珠が小さく震え、冷たい空気をほんのり温めていた。

「……行くぞ、琥珀」

正義の声は低く、確実に決意を帯びていた。

琥珀はマイクケースを握りしめる。

手が少し震えるが、目は鋭く前を見据えている。

「はい……準備はできてます」

青い粘液の塊――スライムの勇者は、静かに二人を見据えていた。

月明かりに照らされた体が、薄く波打つ。

「……面白い。新しい相手か」

冷たい声が森に響く。

正義はわずかに前に出る。

「試す。まずは斬る」

銀色の刀身が夜の闇に一瞬光る。

斬撃はスライムの体を正確に狙う――

しかし、刀は予想通り、すり抜ける。

琥珀が息を飲む。

「……私も行きます、ソニックランサー!」

琥珀はマイクを構え、高周波のソニックランサーを放つ。

空気が震え、音の波が森の中に炸裂する。

だが――

スライムの外皮は波を受け止めず、薄く揺れるだけで形を崩さない。

音波はそのまま粘液の中を通り抜け、無力感だけが残った。

「……効かない」

琥珀は驚きの声を漏らす。

その瞬間、正義の目がスライムの動きを捉える。

波の中で、スライムはわずかに体を捻り、中心にある核を避けるような微細な動きをしていた。

まるで、自らの急所を感知しているかのように――

核の位置を守るために、外皮が巧みに音波を逸らしている。

正義は一歩前に出て低く呟く。

「……狡いな。奴、自分の核を守ってる」

琥珀が不安げに視線を送る。

「え……でも、どうやって……」

正義は冷静に答える。

「奴の再生力の源は核だ。外皮はただの防御。核を狙わせない動きをしている」

その目の前で、分散した音波が核に届かず、空間だけが震える。

「なるほど……俺たちだけじゃ一撃じゃ倒せない」

正義はスライムの動きをじっと見つめた。

核を守るように外皮が微妙に動く――その動きが、戦闘の鍵だと理解している。

「琥珀」

低く呼びかけ、正義は指示を出す。

「次は……拡散型の衝撃波だ。核に届くように、外皮ごと揺さぶれ」

琥珀が眉をひそめる。

「外皮ごと……?」

「そうだ。音を一点に集中させるんじゃなく、全方向に拡散させる。奴が核を隠しても、外皮を揺らせば、核が顔を出す」

正義の声には迷いがない。

「わかった……やってみる」

琥珀はマイクを握り直し、息を整える。

深く吸い込み、琥珀が声を張る。

マイクから放たれる音の波は、一点集中ではなく、森の空間全体に広がった。

青いスライムの外皮が、まるで風に揺れる水面のように波打つ。

それは確かに、核を守ろうとするスライムの動きを狂わせる――

正義の目が光る。

「そうだ……その調子だ。琥珀、続けろ!」

波打つ外皮の奥で、核がわずかに姿を現す。

琥珀が声を上げる。

マイクから放たれる高周波の波動が、森の空気を震わせる。

波打つように揺れ、粘液が弾ける音が微かに響いた。

外皮がまるで自分の意思で逃げるかのように、核から少しずつ離れ始める。

「……見えたか?」

正義の声が低く森に響く。

琥珀は頷き、音の波をさらに広げた。

外皮は徐々に雫状になり、核を取り囲む薄い膜のようにちぎれていく。

ぽたぽた、と青い雫が重力に従い、少しずつ核から離れて落ちる。

核の輪郭が、今まで以上に鮮明に露出する。

正義は目を細めた。

すかさず、正義は護符を取り出す。

掌に握られた符が熱を帯び、淡い炎の色が揺れる。

「行くぞ」

低くつぶやき、護符を前に掲げる。

火炎が放たれる。

青い雫状の外皮に直撃する瞬間、熱風が森を揺らす。

外皮は炎に触れると、じりじりと音を立てて焦げ、蒸気を上げて弾ける。

ぽたぽたと落ちていた雫は一瞬で煙と化し、核から完全に分離した。

琥珀の声が森に響く。

「……すごい……!」

正義は護符を前に構え続ける。

核だけが残り、青く輝きながらも、もう動くことはできない。

外皮があった痕には焦げた蒸気の匂いだけが漂う。

「……これで終わりだ」

正義の目が、動かぬ核を鋭く見据える。

スライムの防御は完全に剥がれ、もはや反撃の余地はない。

正義は護符を握ったまま、琥珀を見据える。

「……琥珀、止めだ。」

琥珀の指がマイクに触れる。

高鳴る鼓動。胸の奥で覚悟が燃える。

だが、スライムの核はかすかに揺れ、声を絞り出す。

「……ま、待ってくれ……!」

青く輝く核から、低く、しかし必死の声が響く。

「俺……俺は、元の世界では……太った冴えないオタクだった……!」

「転生して……こんな形に……でも、人を殺せば、経験値が……入るんだ!」

声がだんだん荒くなる。

「そ、それで……強くなるために……努力して……! だから、仕方なかったんだ!」

琥珀は一瞬躊躇する。指が止まりかける。

だが正義は冷静に声をかける。

「理由なんて関係ない。ここで命を奪われた人間は戻らない」

スライムの核は必死に震え、さらに言い訳を重ねる。

「俺は……俺は……転生して、もっと強くなりたかっただけなんだ! 誰も傷つけたくなかった……でも……でも……!」

正義は護符の炎を核に向ける。

炎が揺らめき、青い核を包み込む準備をする。

琥珀も覚悟を決め、マイクを構え直す。

スライムの言葉は空を切り、森に重く沈む。

「……罪は世界を選ばねえ」


琥珀は深呼吸を一つ。

その手にあるマイクの仕込み刀が、微かに光を反射する。

「……終わらせる」

静かに、しかし迷いなく、琥珀は核に向かって一歩踏み出す。

スライムの核が微かに震え、青い光が揺れる。

必死の命乞いも、もう届かない。

琥珀の手が動く。

仕込み刀がスルリと核に刺さる瞬間、空気が張り詰める。

核が微かに光を跳ね返す。

「……や、やめ……!」

スライムの声は最後の力で掠れ、森に吸い込まれていく。

刹那、核の青い光が一瞬強く輝き、そして消えた。

核は静かに沈む。

もう動かない。息もしていない。

琥珀は刀を抜き、ゆっくりと深く息を吐いた。

「……終わった……」

正義も静かに頷き、青く揺れていた森の中に、重い静寂だけが残る。


異界の換金所。薄暗く、空気が少しひんやりとしている。

店の扉を押すと、闇の奥から淡い光が揺らめく。

「……ここ、本当に大丈夫?」

琥珀が小声で呟く。正義も少し眉をひそめる。

宝珠をカウンターに置くと、静寂の中から、まるで幽霊のような手がひゅっと現れた。

淡い青白い光に照らされた手が、宝珠を優しく持ち上げ、空中でくるくると回す。

「……査定、開始」

かすかな声がどこからともなく響く。

手は宝珠を覗き込み、時折、指先で微かに触れる。

その動きはまるで生き物のようで、見る者を少しぞくっとさせる。

やがて、手が宝珠をカウンターに戻すと金額を言う。

「換金額――15万円」

正義はすっと紙幣を取り出し、半分を琥珀に差し出す。

「半分はお前の分だ」

琥珀は幽霊の手に触れた感覚を思い返し、紙幣を握りしめながら戸惑う。

「……でも、これは死んだ人の……」

正義は静かに言った。

「……ああ。でも、戦いの後にお前の手元に残るものくらい、あってもいいだろう」

「俺達は、こうして心の折り合いを取るんだ。」

幽霊の手は一度ひらりと揺れ、闇の中にすっと消える。

二人は換金所を後にし、異界の街の通り元の世界へ戻る。


翌日、営業部。蛍光灯の光が白く、机の上に書類がちらつく。

「おはよう、正義さん」

課長が笑顔でやってきた。手には透明なケースが光っている。

「差し入れよ。ちょっと涼しげな水菓子、疲れた頭にどうかしら?」

色とりどりのゼリーや寒天、見た目はまるで宝石のよう。

正義は一瞬、目をそらす。昨日の事が脳裏に浮かぶ。

ぬるぬると動くあの姿

思わず顔がひきつる。

「……あ、ああ、いただきます」

ぎこちなく手を伸ばし、一口パクリ。口当たりは涼やかで甘いが……

課長はにこにこしながら書類を片付ける。

「……お味はどう?」

「……あ、ああ、美味しいです……」

正義の声は小さく、どこか引きつっている。

机に置かれた水菓子を見つめる正義。心の中で小さく呟く。

(……スライム……次は食べ物に化けて襲ってこないだろうな……)

蛍光灯の下、営業部はいつも通り平和。









最近はこっちの執筆にハマって他のがおざなり気味です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。