旅の始まり
「じゃあ街まで歩こうか、ここからなら明日の夜明けまでには着くよ」
「歩くったって、こんな砂漠のど真ん中、それになんの目印もないのにどう進むの?」
「ふっふっふ、私にかかればそんなの問題ないさ!」
メグルは得意げに片手を上げた。
手のひらの上に淡い光の線が浮かび、半透明の地図が広がっていく。
「こ、これは?」
「これはね、私が行ったことのある場所を記録して、いつでも地図として見られる魔法だよ」
「おお! この魔法、僕にも教えてよ!」
「ごめんね、これは教えたくても教えることができないんだ」
「というと?」
「生き物の中には、生まれつき固有魔法を持っているものがいるんだ。持ち主にしか使えない特別な魔法でね。私のは『万里図』っていうんだ」
「固有魔法はその人しか使えないってこと?」
「そうだね」
「ならしょうがないか」
「固有魔法以外の魔法なら沢山わかるから、それなら教えられるよ。じゃあ、ついてきて」
メグルは片手に映っている万里図を少し見ると、万里図を解除して、歩き出した。
僕はメグルの後を追った。
一歩踏み出すたびに靴が砂へ沈み、思うように足が前へ出ない。
マントのおかげで暑くはないけれど、歩きにくさまで消えるわけではないらしい。
「万里図を見ながら歩かないの?」
「目の前と万里図を交互に見ながら歩くと目が疲れるからね。時々、万里図を発動して位置を確認するくらいがちょうどいいんだよ」
「そういえば、ここにはさっきみたいな魔物はいないの? 全然何もいないけど」
辺りを見渡しても砂しかない。
「いいや、いるよ。さっきの魔物はサイレント・ワームと言ってね、ここら一帯が縄張りなんだ」
「え!? じゃあまたいつ襲われてもおかしくないんじゃ……」
「大丈夫だよ、あいつらは目が見えない代わりに周囲の魔力感知が得意なんだ。そして自分より魔力が多い相手を襲うことはまずないよ。ただ最初の奴は別だね、私が攻撃したときに興奮しちゃって私にまで襲いかかってきたよ」
「最初の雷ってメグルの魔法だったんだね」
「そうだよ」
「自分より魔力の多い相手を襲わないってことは、メグルはあの魔物よりは魔力が多いってことなんだね。僕とそんなに歳が変わらなさそうなのにすごいよ」
「えへへー、そんなに若く見える?」
「なんかおばさんみたいな反応するんだね」
「おばさんとは失礼な! これでも一族の中では若い方なんだぞ!」
「はいはい」
「な!? 信じてないな!!」
それからもしばらく、僕たちは歩き続けた。
いつの間にか、メグルについていくだけで精いっぱいになっていた。
「てか……箒で空を飛んで……街まで移動しないの?」
「箒を使わない理由が二つあってね、まず私が歩くのが好きだから、次に歩きながらマルに魔法を教えられるからだね。箒を使うのは、かなり長い距離を移動するときか、早く目的地に着きたいときくらいかな」
「僕は……もう……歩くの結構疲れたよ……」
「あ、ちょうどいいや。今から身体強化魔法を教えてあげる。使えるようになったら、かなり楽にこの砂漠を歩けるよ」
「やっと教えてくれるんだね」
「ほんとは歩き始めた時くらいに教えるつもりだったんだけどね、マルと話すのが楽しくてつい、うっかり忘れてたよ。じゃあすこし休憩しよっか」
「うん」
ようやく、魔法を教えてもらえる。
疲れているはずなのに、胸が高鳴った。




