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ジルベールは最近とっても忙しいみたい。
夜は私が眠った後に帰宅し、朝は私が起きる前に邸を出ていく生活を送っている。
ゆっくり会話する時間もなく、あっという間に数日が過ぎてしまった。
「どうしよう、まだ伝えられていないのよね」
今日は天気が良かったので中庭へ出て、いつものように花を愛でながら書類のチェックをしていると、一人の従者が私の元へとやってきた。
「奥様、王宮から手紙が届いております」
「王宮から……? なにかしら」
私は従者から手紙を受け取り、手紙を確認する。封蝋は王女の印になっている。
「王女様から一体何の用事かしら」
私は手紙をエドに渡すと、エドは手際よくペーパーナイフで開封し、中身を確認した後、手紙を渡してくれる。
「シシュカ様、お茶会の案内のようですね」
「そう、書いてあるわね。でもこの日付、明後日なのよね。不躾にもほどがあるわ。嫌な予感しかないわ。できるならお断りしたいんだけど」
「シシュカ様の体調もございますし、今しばらくは控えた方がよろしいかと存じますが、王女様から直々の手紙ですので参加しないわけにはいかないかと思います」
「やっぱりそうよね。仕方がないわよね」
私は参加する旨を手紙に書いて、従者に王宮へ届けてもらった。
「それにしてもジルは遅いわ。まだ帰ってこない。いっぱいお話したいのに」
いつまでも続く眠気と戦い、『今日こそは遅くまで起きて待っていよう』そう思っていたのに……。
「シシュカ様、ジルベール様から『今日は泊まり込みになるので先に休んでいて欲しい』と伝言を預かりました」
「……そう」
ジルと話をしたかったのに……。
ジル。
私はジルのいない広いベッドにゆっくりと横になった。
翌日も結局ジルは帰ってこなかった。
私はマティたちと明日のドレスを選び、お茶会の準備を進めていく。ジルに相談できないまま、いたずらに時間だけが過ぎていく。
――そうして迎えたお茶会の日。
「お嬢様、顔色がよくありません。今日のお茶会はお休みなさった方がよいのではないですか?」
「マティ、休みたいけれど、王女様の逆鱗に触れたら何されるかわからないわ。ジルだって出世に響くかもしれないもの。そうだ、お願いしていた彼を連れていくわ」
「畏まりました」
私はいつもよりゆったりめのドレスを着て伯爵家のリターに乗り込み、王宮へと向かった。
今日は天気も良いし、こういう日はゆっくりと中庭でお茶と料理長が作ってくれるケーキを食べたいわ。
リターは私の体調を気遣うように大きな道をゆっくりと通り、揺れないように進んでくれている。
「ベルロア伯爵令息夫人ですね。どうぞこちらに」
私がリターを降りると、すぐに一人の若い騎士が声をかけてきた。
とても顔立ちのいい男の人ね。
彼も王女の好みで選ばれたということかしら?
従者はしっかりと私の後を付いてきてくれている。
私は騎士にエスコートされ、王宮内を歩いていく。王宮って結構広いのね。私は様々なところに視線を飛ばしながらゆっくりと歩いていく。
「シシュカ様、珍しそうに周りを見ていますね」
エスコートをしている騎士がふっと微笑みながら聞いてきた。
「ええ、王宮にくることなんて舞踏会くらいだもの。でも舞踏会の会場は隣の建物でしょう? こちらの建物にくるのは初めてなの。王宮って素晴らしいのね。私、初めて来たけれど、綺麗でびっくりしちゃったわ」
「フッ、そうですね。私も勤め始めた頃は建物の素晴らしさに圧倒されていました」
「そうよね。きっとこんな建物の中にずっといたら緊張してすぐにお腹が減っちゃうわね。今日のお茶会ではどんな美味しいお菓子が出るのかしら」
私がお菓子の話を出すと、騎士はぴたりと立ち止まり、私の方を見た。
「ベルロア伯爵子息夫人、これを口に含んでいてください」
彼がポケットから取り出したのはとても小さな葉っぱだった。
これはシャロの葉かしら?
疑問に思っていると、彼は私に渡してすぐまた歩き始めた。
「これは?」
「舌下に忍ばせておいてください。何があるかわかりませんから」
「……ありがとう」
私は彼の気づかいに感謝してシャロの葉を口に含んだ。
このシャロの葉は食事をする前に噛むと苦みが口や胃の中に広がり、保護する役割を持っている葉なの。
常に暗殺の危険がある王族や上位貴族は持ち歩いている。私は普段から狙われることなんてなかったから何も持っていなかったわ。ということは王女が私に毒を盛る可能性があるということかしら。
……怖い。
なるべく出される物は食べない方がよさそうね。
せっかく王宮の料理人が作ってくれるという機会なのに。残念だわ!
そうしてエスコートされて来たのは小さな庭だった。
「うわぁ! 綺麗。とっても素敵ね」
私はその庭の美しさについ声が漏れてしまった。だってとても素敵な庭だったんだもの。
でもね、その中でも一つ気になったの。
綺麗な庭に小さな丸テーブルと椅子が一脚しかないの。
「えっと、本当にここで合っているの?」
「はい。王女様からここで待つようにと指示が出ております」
私は一気に不安になった。私は「ずっと立っていろ」ってことよね?
それにお茶会というから他の人もいるものだと思っていたけれど、まさか呼ばれたのは私だけだったなんて。
もう帰りたいわ。




