36番外編リアーヌ2
私はカルシュットの邸で過ごしていくうちに退屈で我慢が出来なくなっていた。
そんな中、いつもは静かな邸だけど、今日は騒がしい。サロンには街の商会の人間が荷物を運びこみ、商品を父に見せているようだ。
私は興味本位でサロンに入り、飾られている服や装飾品を見る。どうやら舞踏会用の物のようだ。
「お父様、私も舞踏会に参加したいわ!」
父は一代限りとはいえ、公爵のため、今度の王宮舞踏会に参加するようだ。
私も一緒に行きたい。
着飾りたいわ。
ここはつまらない。
貴族の恋人をまた作りたい。
「今は駄目だ。リアーヌ、お前は世間を騒がせすぎたからな」
「なら、静かになったら行けるの?」
父は難しそうな顔をしている。父ばかり王都に戻るなんてずるいわ。
「お願い、お父様。私も一緒に参加したい」
「……仕方がない。リアーヌが王都に戻ることは、しばらく許されないだろうが、手続きだけはしておくか」
「私は平民になっているんでしょう?どうやって舞踏会に行けるようにするの?」
「リアーヌが公爵令嬢になれば済む。平民から貴族になる手続き自体は簡単だ。爵位のある者は平民でも貴族でも養子に迎え入れることができる。養子にするのに何の条件もないからな」
「そっか。公爵が平民を養女にするのは問題ないのね!」
「ああ、そうだ。だが、リアーヌ。まだお前の顔を覚えている者たちはリアーヌを見れば騒ぎ出すから、あと数年は邸から出ることは許されないがな」
そうよね! 私のような美しい女性が突然舞踏会に参加したら男たちが目の色を変え、私を取り合うに決まっているものね。
「わかったわ。当分の間、邸からでないわ」
「……ならいい」
そう言って父は私を養子にして貴族令嬢にしてくれることを約束した。
楽しみ。
やっぱり私は煌びやかな世界が合ってるもの。
こんな邸に閉じ込めるなんておかしいわよね。
私は父との約束に上機嫌でお茶を飲んでいると、従者がサロンにやってきた。
「アディラード様、玄関に平民の姿をしている男が現れました。リアーヌ様にお会いしたいと言っております」
「なに? リアーヌに? だが、リアーヌに会いにきた平民? そんな男と接点はないはずだが」
「ですが、リアーヌ様の紋章を持っておりまして……」
私は従者と父のやり取りを横で聞いていたが、従者が取り出したハンカチに刺繍されている妖精の紋章を見て驚いた。
「これはアーロンにあげた物だわ!」
「アーロン?」
父は私に確認するように聞いてきた。
「ええ、商人の荷物持ちだった彼を私の恋人にしたの。まさか、アーロンがここまで来てくれるなんてっ。すぐに会うわ!! 連れてきなさい」
マードル国で無理やり引き離された私の恋人たちが、私の元へ戻ってきてくれるのを待っていたの!
やっぱり愛は偉大ね。
けれど、従者が連れてきたのアーロンただ一人だった。
「アーロン、久しぶりね」
「リアーヌ様、ただいま戻りました」
「戻ってきたのは貴方一人だけ?」
「……はい。ですが! 俺は、リアーヌ様に会いたい一心でここまで必死に戻ってきたんです」
「……そう。でも、よくここまでこれたわね。隣国からどうやって戻ってきたの?」
「マードル国王からわずかばかりの金を貰い、俺たちは街で解放されました。他の者たちは誰もリアーヌ様を追いかけることはせず、マードルで暮らすことを選んだものばかりでした」
アーロンは彼らのことを思い出したようで渋い顔をしていたわ。
きっと私のことを思って怒ってくれているのね。
「俺は、貰った金貨で馬車を乗り継ぎ、王都に向かったんです。王都の街でリアーヌ様はカルシュットに去ったと聞いて、いても経ってもおられず、馬を飛ばしてここまできたんです」
「そう。でもアーロンが来てくれて嬉しいわ。その格好……。疲れたでしょう? 着替えてきてちょうだい」
「す、すみませんっ。俺としたことがこんな汚い格好でリアーヌ様の前にでてしまいました」
「かまわないわ。ジュリアン、アーロンを使用人の部屋に案内してあげてちょうだい」
「畏まりました」
従者は彼を連れて部屋を後にした。
「リアーヌ……。あの者は一体。どう見てもあれは奴隷ではないか?」
「お父様も奴隷っていうの? 彼は私の恋人のうちの一人なの。ここは退屈だし、恋人もいなくて一人寂しかったけれど、アーロンが戻ってきてくれたなら少しは気がまぎれそうね」
父は驚いた様子だったけれど、私は構わず父に話をする。
「お父様、アーロンも戻ってきたし、私は部屋に戻るわ」
「リアーヌ、あの者は手元に置いておくのはよくない。しばらくしたら手放しなさい」
「えー。だってせっかく私を慕って隣国からここまで来てくれたのよ?」
「絶対お前はあの奴隷に後ろから刺されるぞ」
「? 大丈夫よ。アーロンは絶対そんなことはしないわ」
父は私に注意をするけれど、なんだか口煩くて、聞いているのが面倒になってきた。
「分かったわ。舞踏会で新しい恋人を見つけたら彼を手放すわ。じゃあお父様、またあとで」
私は話半分で手を振り、サロンを後にした。
あの時、父の言うことをもっと聞いていればよかった。




