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「襲撃されたのはジルベール君だ」
「えっ……」
私は頭の中が一瞬にして真っ白になった。
えっ、どういうこと?
ジルベール?
ジルベールってジルのことよ、ね?
嘘。
だってまだジルは王都で忙しくしていて……。
「今、我が家で襲撃者の捕縛を命令したからどういう状況だったかもうすぐわかるはずだ。シシュカ、大丈夫か!?」
「お、お父様。ジルは、ジルは無事なのですかっ!?」
「……それが。顔や背中を斬られ、大量に出血していて、意識がない状態だ」
「ジルに……会いに行かなくちゃ……」
私はソファからふらりと立ち上がり、ジルがいるであろう客室へと向かった。
ジル、ジル、ジル……。
いつもは居ない扉の前に立っている護衛に声を掛け、冷えた指先でゆっくりと扉を開けた。
扉を開けると、ツンと薬品の香りが漂っている。
母がちょうど医者と話をしていたところに私が入ってきたようだ。
「では、私はこれで失礼します。体調が変わればすぐにお呼びください」
「ええ、わかったわ」
医者は軽く会釈し、部屋を出て行った。
入れ替わるように私はジルのもとへ歩いていく。
テーブルの上には薬の入った瓶が置かれている。ベッドの方に視線を向けると、白い布で覆われた人の姿が見えた。
「ジル……? ジルなの?」
反応はない。
私はそっと彼の傍まで歩いていく。顔半分が包帯で覆われているが、口元を見るとやはり彼だ。
「ジルベール……。どうしてこんなことになったの」
弱弱しい息遣いが聞こえる。
「シシュカ……」
私が部屋を出た時に父も後から付いてきていたようだ。
「お父様。ジルは、ジルはどうしてこんなに大怪我を負ってしまったの」
私は涙ぐみながら彼の頬を撫でる。
「旦那様、少しよろしいでしょうか」
執事が父を呼んだ。そして私に配慮して小さな声で話をしていた。その後、父は言いにくそうにしながらも私に言った。
「シシュカ、今、ジルベール君を襲った犯人を捕らえ、我が家の牢に入れている」
「……どうしてジルを襲ったんですか?」
「リアーヌ王女にジルベールを襲えと言われたそうだ」
「なぜ……? あの王女様はジルに執着していたのに」
「詳しくはまだ分からない。これから犯人から聞き出す予定だ。伯爵家にも連絡を入れた。伯爵家からもすぐに人がくるだろう」
「そう、ですね。お義母様もすぐに来られますね」
「ああ、そうだな」
「お父様、ジルの介抱を私がしてもいいですか?」
「シシュカ、身重の体では大変だろう」
「ジルは私に会うために必死でここまで来たの。私も同じ。ひと時もジルと離れたくないの。お願い」
「ローゼフ、いいじゃない。ジルベール君だってシシュカと離れたくないわよ」
父はとても渋い顔をして悩んでいたが、母の言葉に折れてくれた。
「……マティと一緒に、だ。無理したらすぐにマティに止めさせるからな」
「お父様、大丈夫。無理はしないわ」
こうして私はマティと一緒にジルを支える生活が始まった。
彼の怪我が少しでも癒えてくれば私の部屋に移動できるけれど、当分の間はこの客室で動かせない。
私は毎日包帯を取り換え、濡らしたタオルで身体を拭いたり、時間をかけて食事を食べさせてあげる。
幸い、意識はないけれど、舌先にスプーンを入れると飲み込む反応があったため、マティと従者と一緒にジルを横向きに寝かせて、薬草の果汁を中心に、すりつぶした食べ物を飲ませた。
もちろん液体は誤嚥の可能性があるみたいなので医者の指示の元、半固形にして食べやすいような工夫がされてある。
三日ほど経った時、隣の領地からエティーナお義母様がお忍びという形でやってきた。
「シシュカちゃんっ! ジルベールのことを聞いたわ!」
「お久しぶりです。エティーナお義母様」
私がジルの横で赤ちゃん用の靴下を編んでいると、義母が部屋へと入ってきた。知らせを受け、領地から急いできたみたい。
「シシュカちゃん、顔を良く見せて……。辛かったでしょう」
義母は私のことを我が娘のように昔から可愛がってくれている。こうして今も私を心配し、涙を流している。
「私は大丈夫です。子供も無事ですから」
「でも、杖を使わないと厳しいのでしょう?」
「それは、そうですが。ジルに比べたら私は軽い方だわ」
「……ジルベールの容態も子爵から聞いたわ。今は落ち着いているようね。全く、この子ったらいつまで寝ているの。こんなに大怪我して……。もうすぐ父親になるというのに。シシュカちゃんが泣いているわ。早く起きなさい」
義母は悲しそうにそう言いながらジルベールの頬を撫でている。
私はその姿に声を掛けずにいた。
かけることができなかったの。
だってそうでしょう?
みんな、ジルが目を覚ますのをどんなに待っているか。こんなにジルを愛しているのに。
早く目覚めて欲しい。
またあの頃のようにいっぱい話がしたいの。
ずっと抱き合っていたあの頃のようにもっと近くで、温もりを感じながらお互いに笑い合って……。




