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「なあ、シシュカ。辛い話かもしれないが、俺はジルベールが無事に戻ってこられるとは限らない。お前はこのままの状態で身を隠し、ずっと我が家にいる方がいいんじゃないか?」
「でも、私が死んだと思っていたらジルは壊れてしまうわ」
「お前はまだ狙われていてもおかしくない。全ての決着がつくまでこのままの方がいいと俺は思う。もう子供もいつ生まれてもおかしくないんだ。ジルベールも隣国に渡ったまま戻ってきていないしな」
「お父様はなんて言っているの?」
「親父も俺と同じ意見だ。ただ、ベルロア伯爵には現在の状況を手紙で伝えておいてもいいとは思うが。あちらもシシュカのことを娘のように大事にしてくれていたし、心配しているだろうしな」
兄の言うことはもっともだ。
リアーヌ王女が国を出たと言っても、彼女の我儘をずっと許していた陛下も第一王子もいまだ健在だもの。
私が生きて証言したことで王女が罰せられ、恨みを買うかもしれない。
なら、貴族院がどう動くのか、全てが決まった後に生きていたと言ってもいいと思う。
でも私が死んだとなったらジルはどうなるの?
きっとジルは私を追って死んでしまうかもしれない。
どうにかジルに私が生きているということを知らせる手段はないの……?
「……お兄様、私のことを死んだままにするのは構わないの。でも、ジルは、ジルベールは失望して後を追うわ。どうしよう。ジルが、ジルが死んじゃったら」
ジルの悲しむ姿を想像するだけで怖くなる。
きっと彼は耐えられないんじゃないか。
私が動くことができていれば。
動けない状況にやるせなさが涙と共に込み上げてくる。
「落ち着くんだ。時間はかかるが、ベルロア伯爵からジルベールに連絡を取ってもらうことは可能だろう。大丈夫だ。シシュカ、お前がしっかりしていないと腹の子にも差支えがでる」
「うっ、ううっ……。そう、よね。何があっても、私が、しっかりしないと……。お腹の子はこんなにも頑張ってくれているんだもの」
兄は私を落ち着かせるように頭を撫でている。
「シシュカ様、便箋をお持ち致しました」
「ありがとう」
私は涙を拭いながら従者が用意した便箋を受け取り、伯爵宛てに手紙を書いた。
それとジル宛ての手紙も。
ジル宛てには私の名前は書かず、短い文に留めた。王女の手によって邪魔が入るかもしれないと思ったから。
これなら誰か分からない。
でも、ジルはきっと私だと分かってくれる。
私は一筋の希望に縋りながら手紙を書いて兄に渡した。
私の手紙はきちっと子爵家の印を押し、直接信頼のおける従者が伯爵家に送り届けてくれたの。
二週間経たない間に伯爵の手紙を持った従者が子爵家に戻ってきた。
義父からの手紙は、私が連れていかれたことを深く悔やんでいることや、現在のジルのことが書かれていた。
彼はリアーヌ王女から私が死んだということを告げられ、暴れて取り押さえられて一時貴族牢に入ったのだとか。
貴族牢に入って拘束を解かれた時に自殺しようとして止められ、「シシュカ夫人は大怪我をしているが、生きている」と耳元で囁かれたそう。
そこからのジルは出国までの間、人が変わったように大人しくなり、貴族牢から出ることを許されたのだとか。
伯爵は貴族牢からジルを引き取り、伯爵家に戻ってきた時、ジルから「シシュカが生きていることを聞いた」と書かれていた。
……よかった。
本当に良かった。
私は涙を拭きながら義父からの手紙を読んだ。
ジルは生きている。
そして私の元に戻ってくるために今、頑張っている。
「シシュカ様、大丈夫ですか?」
「心配をかけてごめんね。私は大丈夫よ。ジルが生きていると分かって嬉しくって涙が出ただけ」
「そうでしたか。ジルベール様も無事で何よりです」
従者はそう言いながら部屋の隅に待機してくれている。
私は安堵の気持ちで胸がいっぱいになった。
こんなにも胸が詰まるなんて今までなかった。
もう一生分泣いたかもしれない。
もう泣かないわ。
何があってもジルは私の元へ帰ってきてくれる。
私はそれを信じて待つだけ。
もうすぐ生まれてくる我が子と一緒に。




