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……ズキズキと背中が痛む。
私は痛みで目を覚ますと、どこか知らない部屋で寝かされていた。
「こ、ここは、どこかしら」
「お前さん、気が付いたかい?」
私の声に気づいた白髪の老婆が声を掛けてきた。
「ここはキックル村さ。王都から一番近い村だよ。お前さん、大けがをして村の入り口で倒れていたのを覚えていないのかい?」
おばあさんがそう言うと、倒れるまでの記憶が思い出され、恐怖で身体がガタガタと震え始めた。
「怖い思いをしたんだね。もう大丈夫さ。怪我もそう深くはなかったし、子供も無事だよ」
子供は、無事なの、ね……。
私はお腹に手を当てた。
涙が滲んでくる。
良かった。
本当に良かった。
助かったんだって。
じわじわと実感が湧いてくる。
「おばあさん、助けてくれてありがとうございます。なんてお礼を言っていいのか」
「怪我が軽いっていっても大きく斬られているんだから当分は安静にしていないといけないよ。それにしてもお前さん、帰る宛てはあるのかい?」
「はい。家族は心配していると思います」
「帰る場所があるならよかった。家族に知らせを出して迎えに来てもらうといい。ここは王都に近いから手紙はすぐに届くからね」
「そうなんですね」
「まあ、もう少し休んだ方がいい。お前さん、倒れてから丸二日は眠っていたし、本調子じゃないんじゃないかい?」
「えっ。丸二日寝ていた……?」
「ああ、そうさ。この村には医者がいないから見せてはいないけど、お前さんよほど過酷な環境にいたんじゃないのかい? 見るからに服は泥だらけ、手も足もボロボロじゃないか。今にも死にそうに見えたしね」
「……」
「まあ、今はとにかく休みんだほうがいい。今日はもう遅いし明日、手紙を書けばいいさ」
「ありがとうございます」
私はおばあさんの好意に甘えてまた眠りについた。
久々のベッド。
家のベッドとは違い、ふかふかの柔らかい布団ではないけれど、しっかりと洗われてお日様の匂いがする。
あの暗くてジメジメした冷たい床ではないところだと思えるだけで私は安心して眠りにつくことができた。
翌朝、おばあさんは朝早くから畑仕事をしてから朝食を作ってくれた。
私も手伝おうとしたけれど、怪我人は動いてはいけないと言われてベッドの住人になったままなの。確かに痛みも強くて今は起き上がるのがやっとという程度。
本当ならずっと横になっていたい。
「お前さん、名前は何て言うんだい?」
「私の名前はシシュカって言います。改めておばあさん、助けてくれてありがとうございます」
「シシュカっていうのかい。私はヘレナって言うんだ。村のやつらはみんなヘレナばあさんって呼んでる。シシュカ、お前さん、家族は王都にいるのかい?」
「普段は領地にいるんですけど、今はちょうど王都に来ていて……」
「そうかい。ならすぐに向かえに来てもらえるね。王都なら二日で連絡がつく。ちょうど午後の便がもうすぐ出るから今から手紙を書くといい。といってもお前さん、文字が書けるのかい?」
「はい。書けます」
「いいとこのお嬢さんなんだね。なんでそんなところの娘がこんな大怪我をしなきゃなんないんだ」
「それは……」
私が言い淀んでいると、ヘレナさんは便箋を渡しながら話す。
「無理に言う必要はないさ」
「ごめんなさい」
背中が痛み、字を書こうにも手が震えて時間が掛かる。
「そこは気にするところじゃないさ。色々事情ってもんがあるんだろう。さて、手紙は書けたかい?」
「はい」
いつもより字が歪んでいるけれど、読むことは出来ると思う。
「なら今から持って行ってあげるよ」
「ヘレナさん、ありがとうございます。料金は後で支払いますから」
「そうしておくれ」
ヘレナさんはすぐに手紙を配達員に渡しに向かった。
私はまたベッドに入り、体力を回復するようにまた深い眠りについた。
ぐっすりと眠っていると、何やら騒がしい音がする。
重い瞼を擦りながら目を開けてみて驚いた。
目の前にいたのはお兄様だったんだもの。
「お、お兄様!」
「シシュカっ!! シシュカ! よかった! 本当によかったっ! こんなに痩せてしまって……」
兄は私に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「痛っ。お兄様、痛いわっ」
「ああ、すまない。ってどうしたんだ、その傷は……」
「……お兄様」
「まだ朝も開けていないほど早いんだ。近所迷惑になるから少し静かにしてもらえないかね」
「ヘレナさん、すみません」
私がヘレナさんに謝ると、兄も我に返ってヘレナさんに謝罪している。
「それにしても早かったのね……?」
「シシュカ、こんなに朝早くにすまない。詳しい話は後にしよう。このまま馬車に乗って領地に戻る」
「ですが、こんなに暗くて大丈夫なのですか?」
「もうすぐ日が昇るから大丈夫だ。それに人の往来がないうちに領地に戻った方が色々と都合がいい」
「わかったわ。ヘレナさん、助けていただき本当にありがとうございました。その上、バタバタとご迷惑をおかけしてすみません」
「お前さん、お貴族様だったんだね」
兄はヘレナさんに金貨の入った小袋をそっとテーブルの上に置いた。
「ヘレナさん、妹を介抱してもらい、感謝する。それに突然押しかけ、すぐに出ていくのはとても失礼なことなんだが、シシュカは命を狙われているため、理解をしてもらいたい」
「私は全く構わないよ。それより、シシュカ様、お腹のこともあるんだ。無理せず、自分のことを一番に考えるんだよ」
「……はい」
「シシュカ、痛むだろうが、少し我慢してくれ」
私はお兄様にぐっと抱え上げられた。怪我を負ってから三日は経っているけれど、まだまだ痛みは引いていない。
必死に痛みを堪え、子爵家の馬車があるところへと移動する。ジルが用意してくれていた特注の馬車が子爵家の馬車の後ろに繋がれていた。
「お兄様、この特注の馬車は……」
「詳しい話は後だ。今は急いで王都から離れないといけない」
「……わかったわ」
馬車は静かに村を後にする。
ジルが用意してくれていた馬車は、座席を外し、私が横になれるような広さがあり、ふかふかのベッドが設置されている。
寝台馬車といった感じかしら。近場なら妊婦の私が移動するのはリターが一番だけどね。
まだ夜明け前だけど、辺りは白み始めている。
窓から覗く景色は懐かしい。
私は今までの疲れや体力のなさに加え、身体が傷を回復させるためなのかずっと眠気がしていて、ほとんど寝て移動することになった。




