23 リアーヌ視点
「リアーヌ様、夫人を処分してきました」
フェルリットはそう言って血の付いた髪を私の前に差し出してきた。
後ろにいた騎士たちにも返り血が飛んでいるのを確認し、私は胸がすく思いがしたの。
「ふふっ! ありがとうフェル。これでジルベールは私のものね」
「ジルベールを呼んでちょうだい」
「畏まりました」
従者は一礼し、ジルベールを呼びに部屋を出て行った。
これで彼は私のもの。
彼を隣国に連れていくためににどれだけ苦労したか。
愛おしい彼らに相談したら「彼を連れて行くには周りを脅して伯爵や夫人を抑えないといけない」とみんな言っていたわ。
あの豚を捕まえて正解だったわね。
私はみんなに愛されているのね。
豚を捕まえた時は、隣国行きがなくなりかけたと聞いたわ。少し焦ったのよね。だって、せっかく隣国へ連れて行く恋人を悩んで決めたのが水の泡になるところだったんだもの。
いつも父は私に甘いからすぐに言うことを聞いてくれるけれど、ジルを連れて行くのは最後まで駄目だっていっていたの。
宰相も兄もみんなで止めてくるのよ?
おかしいわよね?
あの豚を捕まえてから母なんて王宮から去るような準備をはじめていたわ。
家族はこんなに可愛い私の言うことを聞こうとしないなんておかしいし。
幼い頃からずっと私はみんなに愛されていたのよ。
私のお願いを聞いてくれる人たちばかりで私は何一つ苦労なんてしなかったわ。父も母も私には甘いし、カイル兄様も私が甘えた声を出せば喜んで聞いてくれた。
でもシャル兄様やリモンド兄様は違ったの。あいつらって側妃と同じで私にいつも厳しい。すぐに私に文句を言ってくるし。おかしいわ。いつかあいつらもあの豚と同じように処分してあげないとね!
「リアーヌ王女殿下、お呼びでしょうか」
ジルベールはいつものようにそっけない態度でやってきた。
でもそこがまたいいのよね。ツンとした表情。誰にも笑顔を見せないその姿がいいの。でも私だけに笑顔を見せてくれれば最高よね!
豚を処分したのだから、彼は心置きなく私のものになるわね。
フェルリットと二人の騎士は壁際に下がり、私たちの様子を静かに見守ってくれている。
「ジルベール、待っていたわ! 今日はね、とってもいい話があるの」
私がそう言うと、ジルベールの眉間に皺が寄った。
その姿も素敵よね。
ああ、最高。早く私のものにしたいわ。
「いかがしましたか?」
「もうすぐマードル国へ一緒に行くでしょう? だからね、貴方にとって足かせでしかない夫人をちゃんと貴方の元に戻らないように処分してあげたわ。あの醜い女は死んだのよ。これから私たちは一緒になるんだもの。愛する貴方にこのことを一番に教えてあげないと、って思って」
私は彼の喜ぶ表情が見れると思い、一緒になるって言っちゃった。
少し気恥ずかしいけれどいいわよね。
「夫人を処分……?」
「そうよ! ほらっ、この髪の毛、見覚えがあるでしょう? 喜んでくれるわよね?」
フェルリットが持っていた髪の毛をジルベールに見せた。
すると、彼はフェルリットから髪の毛を奪い取り、肩を震わせている。嬉しいわ。
こんなに感動してくれているなんて。
これで彼は私の中に落ちてくるわね。と思っていたのも束の間。
「シシュカーーーーー!!!!」
彼は今まで聞いたこともない大声で叫び、顔を真っ赤にしている。
「殺す! 殺す!!! 殺すっ!」
彼は常軌を逸したように目が血走り、私に飛び掛かろうとしたけれど、フェルリットと騎士に取り押さえられた。
「な、なんで? ジルベールは嬉しいでしょう? あの醜い豚みたいな女がいつまでも貴方の傍にいるなんてありえないわ。私みたいな美姫がいてこそジルベールは輝くのよ?」
「シシュカーーー! シシュカを返せっっ!!! 殺す! 殺す! お前ら、俺の邪魔をするなーーーー!」
ジルベールは私の話なんて一つも耳に入っていないみたい。
あんな目が血走って取り乱したジルベールはなんだか格好悪いわ。でもいいわ。
あの女が悔しがる姿を想像するだけで楽しいもの。
「リアーヌ王女様、ジルベールをどうしますか?」
「んー。そうね、このまま暴れるのなら。落ち着くまで貴族牢にでも入れておいて。ジルベールは私と一緒に隣国へ行くって決まっているもの」
「畏まりました。ジルベールを下げます」
「フェル、あとはお願いね」
フェルリットはジルベールを連れて私の部屋を出て行った。
ジルベールは喜んでくれると思ったのに。
残念だわ。
でも壊れたジルベールもいいわね。
ふふっ、これでまた一つ私だけを愛してくれる人形が増えるのね。
「エイル、こっちへ来て一緒に遊びましょう?」
「リアーヌ王女様、ジルベールをあのままにしてよかったのですか? あれほど気に入っていたのに」
「いいの。時間が経てばあの豚より私がいいと思えるわ。ジルベールこそ私に相応しいもの。誰もが羨む国一番の恋人になるのよ」
「俺はリアーヌ王女様の一番になりたいです」
「私こそリアーヌ王女様に相応しい男です。どうか私を選んでください」
そういってエイルや他の男たちは私の傍にきて、私に愛を囁いてくれている。
そうよね! 私はこんなに愛されている。
私は誰よりも美しくて、愛されて当然だわ。
隣国の王子との結婚は面倒だけど、彼の見た目は私の好みなのよね。
結婚まであと少し。勉強は面倒だけど、王子はきっと私に夢中になるわ。
ジルベールは恋人として後宮に住まわせるの。彼がやきもちを焼くように他の恋人も作らなくっちゃ。やることはいっぱいね。
隣国へ行くのが今から楽しみだわ。




