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「おい、王女様がお呼びだ」
いつものように私は騎士達に連れられ、中庭へとやってきた。
相変わらず王女様は私を見ると眉を顰め、憎悪の感情を向けてくる。
「ああ、苛々する。この醜い豚! お前なんか邪魔よ。ジルと私の邪魔者でしかないのよ!」
私はお腹をそっと庇うように地面に頭をつけて土下座してやり過ごしている。
彼女はいつものように罵詈雑言を私に浴びせながら蹴り始めた。
「リアーヌ王女様、もうこんな醜い者は放っておきませんか? 来週には隣国へ旅立つのですから。こんな者に構っていては時間が勿体ない」
「フェル。そうよね! 貴方は連れていけないけれど、今から準備しないといけないわよね! この醜い豚はもういらないわ。そこの騎士、お前よ。この醜い豚はもう用済みだから王都の街の外で処分してきて。このままこの豚がここに居ても私のジルはごねて隣国へ付いてきてくれなくなるもの」
「畏まりました」
「なら私が騎士たちと一緒に行って最後まで見届けてきます」
「フェル、そこまでしなくていいわよ。でも、そうね。貴方がそこまで言うならお願いするわ」
「助けて……下さい」
私は声を絞り出し、懇願するとリアーヌ王女はこれ以上ないほどの侮蔑の笑みを浮かべ喜んでいる。
「ああ、面白い。やっと懇願してきたわ。ふふっ、豚が懇願するなんて。クスクス。可笑しいわ。でもこれ以上、醜い豚なんて見たくもないわ。さっさと連れて行って」
「畏まりました」
騎士は私を引っ張り立たせた後、フェルという男の人は私を連れてこの場をあとにした。
私は怖くて震えが止まらない。
私はこのまま殺されてしまうの?
ここまでずっと我慢していたのに。
この子を守るためにずっと我慢していたのに。
騎士は無表情のまま、庭を出た後、私の手首に手錠をかけ、手錠に付いた縄を引きながら再び歩き始めた。
「……お願い、します。助けて下さい……」
私は懇願するように何度も何度も言うけれど、彼らは無言のまま幌馬車に私を乗せ、王宮を出た。
ガタガタと馬車は街の大通りを抜け、やがて王都の出入り口にやってきたようだ。馬車は一旦停まり、フェルという人が馬車から降りて衛兵と何かを喋っている。
……処分ということは、私は彼らに殺されてしまうの?
私は死にたくない。
怖い。
ジル、助けてっ。
怖くて、怖くて体の震えが止まらない。
なんで、なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの。
しばらくすると、フェルという人が馬車に戻ってきてまた馬車が動き出した。騎士たちがフェルという人と話を始めた。
どうやらここで降ろして殺しましょうと言っているのが聞こえてくる。
だけど、フェルという人は街道のど真ん中で殺すのはまずい。少し街道からそれた場所に連れていくんだと言っている。
涙が止まらない。
恐怖で指先や足先が冷たくなっているのが分かる。
馬の足音と車輪の音が幌馬車内に響き渡る。
誰も口を開かない。
私は恐怖で今にも吐いてしまいそう。
どれくらい道を進んだのか分からない。
「おい、出ろ」
ついに馬車は停車してしまった。
震えが止まらず動けないでいると、騎士は縄を強く引き、無理やり馬車から降ろされてしまった。
「いやっ、助けてっ。助けて下さいっ」
私はそう大声を上げて抵抗してみるものの、ひと月も牢屋で過ごしていたせいか体力も落ち、抵抗空しく騎士に引きずられていく。
街を出て街道の両脇は森になっているのだけど、少し外れた場所には森が開けているように見えた。
王都からは結構離れているようだ。
「フェル様、ここなら問題ないでしょう」
「……ああ、そうだな。ベルロア夫人、後ろを向け」
一人の騎士が私の腕を強く引き、私は後ろを向かされた。カチャカチャと金属音が後ろの方でしている。
「フェル様が手を下さなくとも、私が処分します」
「いや、俺がする」
「いえ、ここは私が命令されましたから」
騎士がそう言った瞬間、背中が一気に熱を持った。
衝撃で私は地面に倒れ込む。
「手錠を外せ」
「フェル様。ですが、この女はまだ死んでいません」
「王女は処分と言っていたはずだ。殺せとまでは言われていない。それにこれだけ深く背中を斬られたまま放置していればいずれ死ぬだろう」
フェルという人は地面に倒れた私と目が合った。
一瞬だけ、何かを伝えようとしているのを感じた。
けれど、じわじわと背中が痛み、声を上げることもできない。
彼は腰に付けていた小型のナイフで私の髪をざっくりと切り取った。
「この血が付いた髪でリアーヌ王女は納得するさ」
「ですがっ」
騎士の一人が食って掛かろうとしているが、もう一人の騎士が止めに入った。
「お前、無実の夫人を自らの手で殺そうとして罪の意識もないのか?」
「だが、命令は、命令だ」
「なら、お前の家族全員死刑だぞ?」
「なぜだ?」
「リアーヌ王女は来週には国を離れる。お前は王女に付いて行かないんだろう? つまりはもう俺たちを守ってくれる盾はないってことだからな」
「だがっ!!」
「王女は罪もない人々を牢屋に入れている。その家族たちから王家に憎悪が向けられているのをお前だって感じているだろ」
「ああ、だが」
「二人とも言い争うのはそこまでだ。それ以上、王女の話題を外で口にするな。夫人はこのまま放っておいても死ぬ。右手前方に村が見える近いな。だが、俺たちは村へ寄らず、王女様の元へ戻るぞ。命令はこの通り、遂行した。分かったか」
「「はい」」
「なら行くぞ」
騎士たちは私を残して馬車に乗り込み、王都へと走り去った。
背中の傷が息を詰まらせ、私は細く途切れる呼吸のまま、遠ざかる車輪の音を見送るしかなかった。
あの人はわざと私に村の場所を教えていた。
彼は一体何を考えているのだろうか。
だが、悠長に考えている余裕なんてない。
痛みで上手く声も出ない。意識が遠のきそうになる。
その時、ピクリとお腹が動いた。
お腹の子供が、頑張れって、負けないでって言っている。
苦しくて、痛くて上手く動けない。
でも、それでも私が動かなければ。
この子を守るって決めたもの。
私は痛みと戦いながらも必死で地面を這いながら村を目指した。
あと少し、あと少し。
村の入り口を入ったところで一人の老婆が家から出てきた。彼女と目が合った。
「……た、すけてっ」
私は声を出した時、意識を手放した。




