19
馬車は王宮の出入り口である門の前に停まり、私は引っ張りだされた。
行き交う人々は私のことを見ている。
人々は私を見て何かを話しているのが見えた。
騎士は手を縛られた私を引きながら人通りの多い通路をわざわざ通っていく。
そのまま建物の中には入らず、大勢の騎士がいる訓練場を抜け、石造りの建物の前までやってきた。
石造りの建物は鉄格子の門が嵌められてある。
ここはもしかして牢屋?
私の周りにいる騎士たちは誰も口を開かない。
――ガシャン。
建物の入り口の鉄格子の扉が開かれ、騎士は中に入っていく。
「こっちだ」
騎士は黙々と通路を歩いていく。
通路の両側は鉄格子がはめ込まれ、中には人が座っている様子が見える。
やっぱりここは牢屋なんだわ。
怖くてまた涙が出てくる。
私の歩みがゆっくりになると、騎士は後ろから私を押し、無理やり歩かせる。
そして一番奥までやってきた。
「ほら、入れっ」
そう言われて私は鉄格子のはまった小さな部屋へ押し込まれた。
牢はとても暗く、隙間から辛うじて光が漏れている。部屋には壺が一つだけ置かれているだけだった。
「ここから出して! 私は何もしていないわ」
「ああ、夫人は何もしていない。その結果がこれだ」
一人の騎士がそう言って私の拘束を外した後、さっさと出て行ってしまった。
私は怖くて部屋の隅に足を抱えて座った。
しばらくすると、どこからか声が聞こえてきた。
「おい、さっき女がここに入ってきたな!」
「ありゃ、貴族様じゃねえか?」
「おいおい、貴族の女がこんな平民の牢にくるのか?」
「あれじゃねえか。王女様のお怒りに触れたってやつだろ!」
「ガハハハッ。違いねえ!」
最初は怖くて震えが止まらず、ぎゅっと体に力を入れて縮こまっていた。
通路からは絶えず会話が聞こえてくる。
どうやらここは平民用の牢みたい。
貴族牢とはまた違うのね。
「王女様は隣国へもうすぐ嫁ぐんだろう? それまでにあと何人ここへ来るだろうな。俺はあと五人はここに来ると思っている」
「あと十人は下らないんじゃないか?」
「王女様は一昨日も癇癪を起して暴れ回っているらしいな!」
「おお、そりゃ凄かったぜ! 俺なんてその場に居たからってだけでここに放り込まれたんだからな!」
会話をしているのは元使用人たちなのかしら。会話の内容からして顔見知りのようだ。
「俺なんて醜いって言われてここに放り込まれたんだぜ?」
「ぎゃははは」
「お前たち! ちょっとは静かになんないのかい!」
「メーナ、そりゃ無理ってもんだろ」
私は時間が経つごとに徐々に震えも止まってきた。
元使用人たちの元気な会話のおかげもある。
通路には明り取りの窓があるが、日も沈んできたようで松明が灯された。
暗く冷たい床に絶望感が広がるけれど、通路から聞こえてくる明るい声で救われている。
私は鉄格子の前へ行き、勇気を出して声を出してみた。
「あ、あのっ」
「おや、新人の声だね。あんたの名前は?」
「シシュカっていいます」
「いい名前じゃないか。で、ここになんで来たんだい?」
「分からないんです。急に王女の出頭要請に対し、無視をしたって――」
「シッ。それ以上口にすんじゃないよ!」
女の人の声が私の言葉を制止する。
「どうせまた王女の我儘だろ!」
「おい、新人。お前にここのルールを話しておく。誰が聞いているか分からない。馬鹿正直に答えるな、だ。出来ないなら黙っておけ。でないと死ぬぞ」
「わ、わかりました」
すると、向かいの男の人が私の姿に気づいたみたい。
「おい、新人。おまえさん、その服。もしかして妊娠してるのか……?」
「……」
「なんてこった。血も涙もねえな!」
「……シシュカ。ここは暗くて環境も最悪だ。辛いだろうが、子供は諦めな。まだ若いんだろう? 王女はあと二ヶ月で隣国行きだ。私たちはその後、恩赦だとかなんとか言って解放されるんだ。そうすればまた元に戻る。それから子供はまた作ればいいさ」
……メーナと呼ばれている女の人から残酷な言葉が聞こえてくる。
「……」
向き合いたくない現実に嫌でも向き合わされる。
こんな何にもない場所でこれから何があるのかも分からない。
たとえ牢屋で生まれても何もしてあげられない。
でも、それでも、諦めたくない。
王女はあと少しで居なくなる。
わずかな望みに掛けるしかない。
もう外は日も暮れ始めている。温暖な気候とはいえ、夜はまだ肌寒い。
すると、どこからかいい匂いが漂いはじめた。
「夕食だ!」
「腹減った!」
「早くくれよ!」
牢屋のいたるところで声が聞こえてくる。どうやら食事の時間みたい。
あとで知ったんだけど、一日二食、パンとスープは出されるらしい。
本来、犯罪者がいる牢屋では一日一食なのだとか。ここは主に王宮で何らかの罪を犯した者たちが入る牢屋らしいけれど、今はリアーヌ王女の我儘で投獄されている人がほとんどのため、誰かからの温情として食事は出されているらしい。
騎士たちが各部屋に食事を運んでいる音がしている。
最後に私の所にもやってきた。薄いスープの中に小さな固形物がいくつか見える。
いったいこれは何かしら。
あとはとても硬いパンだ。私は不安で食欲は全くなかったけれど、「子供のため」と思い、パンをちぎり、スープに浸してゆっくりと食べていく。
こうして私は何もない暗い部屋で一夜を明かした。




