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「シシュカ、どうしたんだ?」
「お義父様、執務の手を止めてしまいごめんなさい。今、カインディッド公爵家から私宛に手紙を直接渡されたのです。私だけ読んであとは手紙を戻して欲しいと。どんな内容なのか不安で……」
「カインディッド公爵? なぜあそこから? まあいい、開いてくれ」
私は机に置いてあるペーパーナイフを受け取り、開封すると二枚の手紙があった。
一枚目に目を通し、急いで二枚目も見る。二枚目には彼女からの言葉が一言綴られていた。
……まさか。
私は手紙の内容を見て手が震える。
「シシュカ、何が書いてあったんだ?」
「えっと、私をカインディッド家に呼び出せと……」
私の言葉に義父は眉を顰めた。
「どういうことだ?」
私は震える手で義父に手紙を渡し、すぐに義父は手紙を読んだ。その後、部屋の隅で待機していたファーティに手紙の内容を写し取らせた。
「王女も形振り構わず、か」
一枚目の手紙はモア様からで「リアーヌ王女に領民を人質に取られた。協力しなければ領民の命はないと脅されている。
抗議をしたが、陛下は全く聞く耳を持たない。反対に陛下から『シシュカ・ベルロア伯爵夫人の呼び出しだろう? それくらい王女の願いを叶えてやれ』と言われた。気を付けて欲しい」と書かれてあった。
モア様同様、第二王子派の人たちも王女から似たような手紙が送られてきているらしい。
多くの貴族が蜂の巣を突いたように警戒態勢を取り始めているとも書かれていたわ。
二枚目の手紙には「シシュカを王宮に呼び出しなさい。でないと今年、災害に合っても救済はしない」と書かれ、サインと共に印が押されている。
……これはリアーヌ王女の直筆の手紙だわ。
モア様はこの手紙を私に見せたかったのね。
だからカインディッド家の従者はこの手紙を必ず回収するために待っているのだろう。
「シシュカ、王女はもうすぐ隣国へ向かう。こうして揺さぶりをかけているだけだ。放置しておけばいい」
「ですが、第二王子派の貴族たちに迷惑が掛かってしまっています」
残念ながらこういう時に側妃の実家の爵位が物を言ってしまう。
王妃様の実家は公爵家。側妃様の実家は子爵家。側妃様が諌めようにも、王家と公爵家の力を盾にして側妃様を黙らせる。
リアーヌ王女は権力を盾に最後の最後まで我儘を通す気なのね。
義父はふうとため息を吐き、頭に手を当てている。
貴族院に訴えようにもただの呼び出しでは動けない。だが、これが罠なのは目に見えている。
それにリアーヌ王女が直接私に手紙を寄こさない理由も姑息だ。直接証拠が残らないように公爵家を使っているつもりなのよね。爪が甘いわよね。
「なんとか写し終えました」
「ファーティ、よくやった」
公爵家から手渡された手紙は詳しく言えば、写しだ。ファーティが今取ったのは湿らせた薄紙で圧をかけて写した写しの写し。
特殊な液体を使ってインクを写し取るみたいなんだけど、写しをさらに写すと精度が一気に落ちる。写し取った紙は滲んだインクで文字全体がぼやけているけれど、十分読み取れたわ。
「……全く。シシュカ、ジルベールをすぐに呼び戻す。それまで部屋で安静にしていてくれ」
「わかりました」
義父は従者にジルを呼び戻す指示をし、義父自身は直接玄関まで行き、公爵家の従者に直接手紙を戻したようだ。
昼過ぎにはジルが邸に血相を変えて戻ってきた。
どうやら王宮にまた留め置かれていたみたいだけど、シャル殿下のおかげで戻ってこれたらしい。
「シシュカ、怪我していないかい?」
ジルにぎゅっと抱きしめられた。
「ジル、私は大丈夫よ。お義父様が呼んでいるわ。執務室へ向かいましょうか」
「シシュカが転ばないように抱きかかえていこうか」
「ジルったら。執務室まですぐそこよ」
私はジルの重い愛に笑いながら執務室へと向かった。
「親父、突然どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ああ、それについてだが、王女から公爵家にシシュカを公爵家に呼び出せと脅したらしいんだ」
「そんなことか。無視でいいよ。どうせリアーヌ王女が周りに泣きついて、周りの男どもが王女に入れ知恵でもしたんだろう。僕のシシュカを泣かせるために」
義父が先ほどの写し取った紙をジルに見せた。みるみるうちに彼の眉間に皺が寄っていく。
「はあ、碌なことをしないな」
「ジル……」
「シシュカ。君はどんな命令があっても身重の体だし、行かなくていいよ」
「でも、領民を盾にされたらみんな黙っていられないわよ」
「目的は僕とシシュカを引き離すことだからね。シシュカは何にも悪くない」
「シシュカ、何があっても君はこの家から出てはいけない。どんなことがあっても」
「でも、王女は貴族に命令してでも私を従わせたいんでしょう?心配だわ」
「……大丈夫だって言ってはいられないな。どうするか」
私たちはこのままでいくのか、何らかの対応をすべきか話し合っていた。
ーー……す!
ーー……から……せ……。
執務室の外が何やら騒がしい気がする。
今度は一体何かしら……?
先ほどまでとは違い、何か緊迫したような、大声も聞こえてくる。
私たちは会話を止め、扉の方に視線を向けた。




